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2.仕組まれた儀式

 守護水晶は天に向かって地面から生えており、真上の天井はガラス張りの丸屋根になっていた。


 ティティアはゆっくりと守護水晶の前まで歩く。


 目の前には紫色のクッションを持った大神官と、20代前半の美しい女がこちらをじっと見据えていた。濡れ羽色の長く艶のある髪に豊満な身体は、そこにいる男性の大半を魅了し、隣にいる女性を苛立たせた。


 そして壁に沿って神官達がずらりと立っている。その中にベルタがおり、目が合うと目配せしてきた。


「ダニエラ。本日にて貴女の役目は終わりとなります。本日からこちらのティティアが聖女となります。聖なる首飾りをティティアへ」


 聖女の首飾りは大事な首飾りだ。これが無ければ守護結界を張ることが出来ない。


 ダニエラは嫌そうに溜息を吐いて、大神官が持っていたクッションの上にある首飾りを雑に取り、ティティアは足を曲げた。


「いい気になっているのも今のうちよ」


 耳元で囁き、ティティアに首飾りを掛けた。更にはスカートの裾で見えないように足を踏む。痛みで顔が歪みそうになったが我慢した。


 ダニエラはまだ聖女でいたいらしく、彼女の指示で彼女を支持する神官と信者から嫌がらせを受けた。アチェロとベルタは守ってくれ、迷惑をかけてしまった。


(我慢、我慢、もう少しで終わるから……)


「これよりティティアが聖女となります。では守護結界を張ってください。アールヴ連合王国に平和の光を」

 

 大神官がそう言うと、ティティアは大神官の後ろにある守護水晶の前に移動する。そして両手を守護水晶に触れ、目を閉じる。


「太陽神リオスよ、月神セーネよ、エシュリオムにいる大勢の神々よ、聖なる力を我に与え給え。天空を司る神、竜王よ、天に守りの壁を張ることをお許し下さい。天の壁、スジルファルムーロ」


 呪文を唱えると、体から何かを吸い取られるような感覚と共に、どっと疲れが押し寄せる。


 守護水晶は光り、点滅する。次第に点滅は早くなり、それが収まると無数の光の粒が現れた。そしてその粒は守護水晶の頂点から飛び出し、ガラスの丸屋根からも飛び出す。窓の外を見れば、その光は四方八方へとこの王都を包み込むように飛び散って行く――はずだった。


 守護水晶の中に宿った光は飛び散らず、そのまま消えてしまった。


「守護結界は?」

「失敗かしら?」


 周りの貴族達がざわつく。


(失敗?)


 光が消えてしまうなど有り得ない。これでは守護結界は張られていない。


「ティティア、もう1度」


 大神官にそう言われ、もう一度呪文を唱えると、やはり光は飛び散ることはなく疲れただけだった。


(どうして? ……何が起きて――)


「これはこれは……ああ、非常に残念だよ。君はまだ聖女ではないらしい」


 大神官が声を上げ、振り向くとニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。


「どういう意味ですか?」

「魔力が足りないのだよ。これはまだ聖女見習いとしてこの大神殿にいる必要があるな」

「え!?」


 聖女になるには、選定の石に選ばれる必要がある。

 満月の日に18歳以上の純潔の乙女が、選定石に触れる権利があった。


 選定の石に触れ、それが光れば選ばれた存在――聖女となれる。だが直ぐに聖女になれる訳では無い。先ずは聖女見習いとして次の新年の儀までに祈り方を学び、魔法障壁の張り方を学ぶ。


 ティティアは18歳で石に選ばれ、今に至る。


「大神官様。私は選定の石が反応したから、今ここにいるのです。選定の石は現聖女より強い魔力の持ち主に反応します。魔力が足りないなど有り得ません」


 そう言うとダニエラはティティアを睨み付けた。


「それは大神官様が1番ご存知なのでは? 何故こうなったのかは分かりませんが何かしら理由が――」

「ティティア。君は祈りが足りなかったんだ! そう! 足りなかったんだ!」


 ホワイトブロンドの髪をした男が立ち上がり、この部屋全体に響くような大きな声で叫んだ。


(リッカルド殿下!?)


 第一王子リッカルドは、ファサッと長い前髪をかきあげる。その姿に鳥肌が立つが、他の令嬢達は違ったようで、彼のその行動にときめいて、桃色の溜息を吐いた。


「殿下。それはどういう意味でしょうか」


 大神官はリッカルドの話に興味があるように声を掛けた。


 リッカルドは華やかに甘ったるい顔をティティアに向けた後、水晶の傍まで寄ると、マントを翻し大袈裟に振り向いて貴族達のいる方を向いた。


「説明しよう!」

 

 白くて眩い歯を見せ付けるようにニカッと笑い、熱心な支持者令嬢達へ見せ付けた。

 

「ティティアは魔力が高かったのは間違いないでしょう……では何故守護結界が張られなかったのか。それは選定の石に選ばれた後、毎日祈りを捧げていなかったからだ!」


 得意気にリッカルドは言う。ティティアはぽかんと口を開けた。


「聖女に選ばれ、選ばれたことに慢心し、祈りを捧げるのをやめ、魔力はどんどん衰え、少なくなり、守護結界が張れなくなった。それだけだよ」


 そんな訳がない。毎日しっかり祈りを捧げていた。


「私は毎日祈りを捧げていました!」


 そう言うと大神官が「おかしいな」と声を上げた。


「私はティティアが祈りを捧げているのを見たことがない」

「ええっ!?」

「同じ神殿にいる者同士、普通は祈りを1度くらいは見ていたりするのだがね、見たことがないのだよ」

「あるはずです! 大神官様とは何度かお会いしています!」

「なら私が嘘を吐いていると?」


 大神官はジロっとティティアを睨み付ける。


「嘘というか……お忘れになっているのでは?」

「ほぉ……では、君が毎日祈りを捧げていたと他に知っている者は?」

「リッカルド殿下も、何回か祈りを捧げている時に会っています」


 リッカルドはよく邪魔をしに来た。来ては口説かれ、のらりくらりとかわしていた。


「ティティア、私も君が祈りを捧げているのを見たことがないよ」


 リッカルドの言葉に唖然とした。何故こうも堂々と嘘を吐くのだろう。


「他に誰か居ないのかね?」

「ア、アチェロ神官長が見ています!」


 再び大神官はニヤリと笑う。


「残念だがアチェロ神官長はここには居ない。本来なら確認すべきだが確認出来ない。だが、このように魔力が無くなっているのが答えではないか?」

「そんな……」


「お待ち下さい! 私はティティアが祈る姿を見ています!」


 ベルタが声をあげる。だがそんなベルタを大神官は鼻で笑った。


「ティティアの友人か。友人ならそう庇うだろうね」

「真実です!」

「何度も言うが私は見ていないのだよ。それなのにいち神官の君が見たと言うのはおかしな話だね。皆さんもそう思いませんか?」


 周りはざわめく。だが大神官と神官ではどちらに説得力があるかと言えば大神官だ。誰もが大神官を信じていた。


 ベルタは怒りに任せ、大神官の元へと歩き出し、彼の胸倉を掴んだ。


「いい加減にしろよハゲ野郎!」


 そう言うや否や、ベルタは大神官の側近に取り押さえられた。


「ハッ、ハゲ!?」


 大神官は今帽子を被っている。パッと見は禿げているように見えないが、ベルタは大神官の帽子を取った姿を知っている。そして大神官がそれを気にしていることも知っている。大神官の顔は茹で蛸のように赤い。


「貴様誰に――……ゴホンッ……いかんいかん。ふぅ……これだから孤児院卒の神官は……下品極まりない。儀式の邪魔だ。連れて行け」

「離して!」


 ベルタは大神官を罵倒しながら、そのまま連行されていく。ティティアは止めようとするが、他の側近に立ち塞がれた。大神官は襟を正して、こちらに向き直った。


「ではではこの騒動を終わらそう。ダニエラには聖女に戻って貰う。そしてティティア、君は聖女見習いに戻って修行して貰う」


「いえ! 話を聞い――」

「そう不安にならなくていい。リッカルド殿下は君を気にかけてくれているから、毎日勇気付けてくれるだろう」

「結構です!」

「遠慮するなティティアよ。私は君が素敵な聖女になるのを応援している。竜王城に行くのは、しっかりと修行をしてからにすればいい」


(何……何なの……まるでもう決まっていたような――)



『慰めてあげる』


 

 リッカルドから貰った手紙の1文が頭を過ぎる。意味のわからないことばかり言う人なので流してしまったが、あれは守護結界を張ることを失敗することが分かっていた1文だ。


 リッカルドと大神官は気味の悪い笑みを浮かべ、ダニエラはこちらを見てしたり顔をしている。『いい気になっているのも今のうちよ』という台詞もこうなる事が分かっていたからこんな台詞を言えたのだ。


 ――3人は共謀している。


 どうにかしなくては、再び聖女見習いになってしまう。混乱していると、リッカルドが腕を掴んできた。


「可哀想に。受け入れたくないだろうが仕方がないんだよ。まだここに居るんだティティア」


 そして耳元に口を寄せ「君は私の傍にいるべきだ」と小声で呟いて抱き締めた。


(まさか……私を竜王城に行かせたくないが為にこんなことを??)


「さぁ、子うさぎ。もう離さないよ」


 リッカルドは耳元で続けて囁いた。


「じっくり、じーっくり、慰めてあげよう。勿論、ベッドの上でね」


 リッカルドはよりいっそう強く腕を掴んだ。


「嫌です! 皆さん聞いて下さい! これはリッカルド殿下が私を竜王城に行かせない為に考えた罠なんです!」

「可哀想に、やはり混乱しているね。魔法も少ないながらに使ったし疲れているだろう。大神官殿、ティティアを休ませるから私達は退出する」


 魔法を使うと疲れるのはどの聖女も同じだった。2回守護結界を張らせるようにしたのは、これが目的なのかもしれない。


「かしこまりました」

「では行こうか」

「絶対嫌です! 誰か助けて!」

「ははっ! 皆心配しなくていい! 彼女は少し混乱しているだけだ!」

「違います!」


 力強く腕を引っ張られる。リッカルドはずっと欲しくて堪らなかったものを手に入れたような、満足気な笑みを浮かべていた。


(もう知らない!)


 ティティアはリッカルドの足を思いっきり踏み付けた。


「――痛っ!」


 リッカルドは腕を掴んでいた手を離し、顔を歪める。その隙に急いで扉へと駆け出した。


(逃げなきゃ!)


「捕らえよ!!」


 リッカルドは慌てて警備をしていた聖騎士に命令を出す。騎士が扉の前に立ちはだかった。鎧の男達に勝てる訳がない。立ち止まり、他に出口はないかと周りを探す。


「ティティア……私の子うさぎ。怒っていないからこっちにおいで。許してあげよう。私はとても優しいからね。心の広さに感謝するといい」


 リッカルドは笑顔だが目は笑っていない。ゆっくり1歩ずつ近付いて来る。


「誰か……助けて……」


 もう駄目だと目を閉じた時だった。


『……はぁ……守護結界が張られないので何があったかと覗けば、なんて愚かで安っぽい劇なんだ。僕は不愉快で仕方がないよ』


 突如、礼拝堂全体に響く声がした。そして部屋の中に白い靄が立ち込めた。そしてその靄が晴れた時、竜の頭をした男が立っていた。

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