大学の学園祭で
3.大学の学園祭
ある秋の日、俺の大学の学園祭でばったりあの子に会ってしまった。
「あっ!」
俺たちは目が合ってお互い立ち止まって指をさした。
「君ってあの喫茶店の...。1人で来たの?」
「...お兄さんがここの大学に通ってるって聞いて」
そう言いながら彼女は俺を上目遣いで見てきた。
「お兄さん、って俺のこと?誰にって哲希しかいないか。もしかして俺のことはあいつから何か聞いた?」
俺はドキッとして顔が赤くなってきた。
「は、はい...」
「お、俺も君に話したいことがあるんだ...少し話をしてもいい?」
俺は目に付いたベンチを指さすと彼女は頷いたので並んで座った。
「ごめんっ!」
「ごめんなさいっ!」
俺たちは同時に謝り、お互い顔を上げて見合わせた。
「えっ?」
「お兄さんは牛乳が苦手だってこと知らなくて、それなのに無理に飲ませてしまってごめんなさい。あれからずっと喫茶店に来てくれなかったのは私がまた間違えてミルクティーを持ってくるかもしれないと思ったからですよね?」
「あ、いや...俺はあれから体調を崩していて」
哲希の奴...彼女にしっかり話しやがって。今度会ったら許さないからなと思いながらも俺は苦笑いした。
「でも体調を崩したのはミルクティーのせいなんですよね?」
「まぁ確かに...。でも俺は君が怒られずに済んで良かったと思ってるから。嘘をついたのは悪かったと思ってる。
紅茶は好きなんだけどね...ごめんね」
「今度また大好きな紅茶を飲みに来てくれますか?お兄さんの体調が良くなったら」
彼女は俺の顔を心配そうに覗き込んできた。
「ああ...牛乳が入った飲み物と間違えないって約束してくれるなら」
俺は彼女を見返して軽く微笑んだ。
「今度は絶対に間違えないって約束します。嫌いなものは誰にだってありますよね」
ホッとして微笑んだ彼女の笑顔に俺はドキッとしてしまった。
「そうだね。じゃ君にも嫌いなものがあるんだ?」
「私は目玉焼きが苦手なんです。黄身がダメなんですよ。卵焼きみたいに混ざってれば食べれますけど黄身単体じゃ辛いですね」
「君にも嫌いなものがあると知って何だかホッとした」
俺は髪をかき上げて微笑んだ。
「そういえば...お兄さんの名前を教えてもらってもいいですか?」
「そっか、自己紹介がまだだったね。俺は深水咲夜、ここの大学に通う2年生でもうすぐ二十歳になるんだ」
「私は月島なる(つきしまなる)、高校1年生です。よろしくお願いします」
「なるちゃん、か...可愛い名前だね」
俺は名前が分かっただけで何故かドキドキしていた。
「咲夜さんって言うんですね。カッコいい名前ですね」
「花が咲くの咲に夜で咲夜。なるちゃんはどういう漢字なの?」
「平仮名でなるって書きます」
「へぇ、平仮名か...珍しいね」
俺は月島さんと少し近づいた気がして嬉しかった。
「せっかくだから一緒に回らない?」
「私でいいんですか?」
月島さんは俺を見て目を丸くした。
「今さら何を言ってるんだよ、俺に会いに来てくれたんだろ?」
俺は月島さんを見て微笑んだ。
「そうですね!じゃお供させてもらいます」
俺は何も取り柄のない普通の大学生で、月島さんは純粋な高校生だった。初々しくてとても可愛らしかった。