運命剣パーシヴァル
皆さんどうもガクーンです。
皆さんは過去に戻れるとしたら戻りたいですか? 大多数の方が戻りたいと思うのではないでしょうか?
そんな夢をこんな世界で遂げたらどうなるんだろうという思いつきから始まったのがこの作品です。
是非マイン君がどのように行動し、何を成し遂げるのか見ていってもらえると嬉しいです。
男たちの荒い息遣いと、轟く怒声。それらが奏でる演奏に合わせるよう、周囲に数々の剣戟が鳴り響く。
その場所はまさしく戦場。血気盛んな戦士たちが目の前にいる敵と、横に居る敵と、自分の周りにいる敵と次々に剣を交える。そして弱者は地に伏せ、強者だけが生き残る。そんな者達が交戦で負った傷から溢れだす血を地面に振りまき、辺り一面を真っ赤なカーペットで埋め尽くすという壮絶な有様を創り出していた。
何故、この世界で戦争が始まったかという話は数十年、数百年前に遡る。簡単であるが説明すると自国を繫栄させたい国々が隣国などに略奪目的で攻め入った事が根本的な原因であるが、それからは小競り合いはもちろん、大規模な侵攻等も世界各地で起こっているのが今の現状だ。
つまり何が言いたいかというと、今回の戦争もその延長線上に過ぎないという事だ。
そんな戦場の中で特段異質なオーラを放つ場所が存在した。その場所を形容するのなら、常人には立ち入れない極度の緊張を持った空間……と言えばいいのだろうか。この戦場には技量やポテンシャル等が卓越した者たちが集まっているが、そんな彼らでも立ち入れないほどの場所が戦場の中央部に存在した。
そこには片腕を無くした隻眼の男と、白銀の鎧を纏った男が対面していた。
片方は1メートルを超える得物を片腕に持ち、もう片方は優に一般男性の身長を超えるほどの大きさを持つ大剣を片手に携えて。
一見、どちらとも同じぐらいに、いや、白銀の鎧を纏った男の方が負傷しているようにも思える。しかし、ある発言で隻眼の男が劣勢……いや、もう勝負がついている事が分かった。
「もう終わりか……死神よ」
隻眼の死神と呼ばれた男は地面に剣を突き刺し、片膝を地面につきながらその声の主へと目を向ける。
「まだまだこれから、と言いたい所だが……」
死神は自身の両足に目を向ける。そこには傷だらけの両足がフルフルと震え、まったくといっていいほど力が入っていなかった。
「……」
黒いローブを纏った男は無言で死神へと近づき、優に一般男性を超えるほどの大きさを持つ大剣今一度握りなおす。
「お前は強い戦士だった……。私にここまでの傷を残すほどにな」
白銀の鎧には肩から腰に掛けて左斜めに大きく剣痕が入っており、その傷からは血が滲み出るように真っ赤に染めていた。普通ならば死んでいてもおかしくない程の負傷であったが、これで死んでいないのは本人の肉体の強さか鎧の凄さかのどちらかであろう。
「ははっ、ローグフッド王国の総騎士団長様にそう言ってもらえて光栄だよ」
ぎこちない笑みを浮かべる死神。
一方死神も全身に大小関わらず数十もの傷を負っており、騎士団長程の致命傷を負っていないようにも思えた。ただし、流した血の量を抜いては。
「しかし……戦闘はいずれ決着がつくものだ。このようにな」
「そうだな」
二人の間に沈黙が訪れる。
「死神よ。次があれば今度は仲間として戦いたいものだ」
「あぁ、次があればな……」
騎士団長は大剣を宙に持ち上げ、死神を一瞥し、高くまで上げた大剣を振り落とす。
「……」
死神は自身に迫る大剣を最後に目を閉じ、乾いた目じりから一筋の涙を零しながらこれまでの出来事が脳裏をよぎる。
あれから8年か……。大切な人たちを失って何度自身の不甲斐なさを怒り、悔やんだことだろう。その日からの一年は何をしていたのか記憶にも無いが、ろくでもない日々を過ごしていたのは確かだ。
そんな死んだも同然だった俺を助けてくれたのがあの人だったな。あの人がいなければ俺はこの戦場に立つことはおろか、2年も過ぎる前に自殺をして大切な人たちの下へ行っていただろう。
あの人は俺に衣食住はもちろん、過剰なまでの愛情。戦闘に関する知識やノウハウまで教えてくれて、更には自身の深くに眠る悲しみや怒りをぶつけるための相手にまでなってくれた。
それから俺はその人に恩返しのつもりで傭兵の道へと進み、金を稼ぐようになってからは様々な戦場で暴れまわっていたらいつの間にか死神と呼ばれるようになって、天狗になっていたが……上には上がいるものだな。
死神はこれまでの出来事を走馬灯のように思い出していたが、その思い出も尽き、自身の首に死神の鎌が引かれようとする。
この生活に不満があった訳じゃなかったんだ。尊敬するあの人や仲間たちもいて、傭兵稼業で得た金だって余るほどあったし、生活だって何不自由なく暮らしていた。そんな……俺がこれ以上を望んで……何になる。
これは……俺が望んでいた……結末。本望……だろう。
段々と意識が薄れていく死神。
あぁ……これで……これで……いい。
永い眠りに入ろうとする死神。その瞬間、奥底に眠っていたある強い思いが全身を駆け巡る。
ただ……もう一度。
『……ン』
もう一度だけでいいから……
『……イン』
あの人たちに……
『マイン』
会いたかった……
『その願い……我が承った』
「はっ!?」
少年は呼吸を荒げながら目を開け、ゆっくりと体を起こし周囲を確認する。
周囲には生活感を感じさせる雑貨等が並んでおり、左奥にはドアが、右の手前には両開きの窓が付いていた。
ここは……俺の家? それにさっきまで見ていたのは夢か? それにしてはリアルすぎるな……。まるで自分が未来から遡ってきたみたいな……
マインには何故か夢での自分らしき人物の断片的な記憶。23年分が残っていた。正確に言うと、現在が12歳であるため、これからの11年分の記憶であるが。
俺はこのままいくと15歳の時に家族を失う……? そんな馬鹿な。
一瞬、その考えが頭をよぎるが、首を左右に大きく振り考えを追いやる。
そんな訳あるか! そんな事があっていい訳が……
考えれば考えるほど先ほど見た夢が現実で起きた事としか思えなくなり、一旦考えることを止め、再びベットへ寝ころぶ。すると、ベットの脇に何かが立てかけてあることに気づく。
「うん? これは……剣か?」
剣だと思われるモノは古びており、装備を扱う店舗の前に置いてあっても誰も見向きもしない、そんな残念そうな外見をしていた。
マインは不思議そうにその剣を触れる。
「っ! うわぁ!」
その時、全身に電流が走ったかのような衝撃がマインを襲う。
思わず剣を放り投げ、ベットの下に落ちる。
「いててて……全く。何だったんだ一体……」
腰から落ちたマインは、痛めた個所をさすりながら剣へと近づく。
「くっ!」
剣を拾い上げようとした瞬間、今度は頭痛が走る。
今度は何だ!
突然の頭痛で頭を抑えるマイン。床に座り込むよう態勢を楽にしていると、徐々にではあるが前世に関する記憶が脳内へとあふれ出してくるのを感じ取った。
これは俺の記憶? 俺……いや、僕の名前はマイン。フーデル村に住む何の変哲もない村人だ。歳は今年で12になる。親は……そうだ! 母さんと父さんは!?
マインは即座にベットから飛び起き部屋から出ていくと、廊下を抜け、リビングルームへと走っていく。
「母さん! 父さん!」
リビングルームの部屋へと繋がるドアを勢いよく開け、部屋中に響き渡るほどの声量で両親を呼ぶ。
…………。返事がない? 何かあったのか!?
夢で失った大切な人……両親が家にいない事に気が動転したマインは慌てて家から出て、近所に探しに行こうとしたその時。
「どうしたのマイン? そんなに焦って」
丁度玄関から籠を持ち、黒髪を腰まで伸ばし、きりっとした二重の黒目に大和撫子と言っても遜色のない清らかさと美しさを兼ね備えた容姿を持つ女性、エルナが現れた。
「母さん……」
マインは自身の母を見つけると、その場で立ち尽くし呆然とした。
生きてた……。生きてた! あの時守れなかった母さんが生きてた! っ、違う! あれは夢だったんだ。あれは……
マインは先ほどまで見ていたモノがどうしても夢だと思えず、己の中で自問自答し始める。
その様子を見ていたエルナが。
「こっちへいらっしゃい」
マインの違和感に気づき近づくと、左手を掴み自身の豊満な胸へ抱き寄せ、そっと頭を撫で始める。
突然の行為にも関わらず、驚きすらも見せないマインはその行為を当たり前のように受け入れ、されるがままに体を預ける。
「何か怖い夢でも見たの?」
「うん」
あぁ、あの夢は怖かった。自分が死ぬのが怖かった訳では無い。僕の大切な……大切な人たちがもういない、という事実を受け入れるのが怖かったんだ。
「そう。じゃあ、好きなだけお母さんに甘えなさい」
大切なモノを守るようにより一層力を入れ抱きしめる。
それから数分。温もりを確かめるように放心した状態で抱きしめられていると、徐々に恥ずかしさが込み上げてきたのか、エルナの両手を振りほどく。
そして、テーブルに置いてあった飲み物を飲んで一息つくと、先ほどまで見ていた夢と現在とを繋げるように必要な情報を聞き出していく。
「そう……じゃあ、今は143年なんだね?」
「そうよ? 改まってそんなことを聞いてくるなんて……どうしちゃったの? お母さん相談に乗るわよ?」
「大丈夫! じゃあ僕、自分の部屋に戻って勉強してくるね」
「ちょっ、マイン!」
マインは必要な情報をあらかたエルナから聞き終えると、制止する声を無視し、現状を整理する為に自分の部屋へと戻っていった。
「やっぱり……あれは夢じゃない気がする」
マインは自分の部屋に戻り、机の上で紙に夢で見た情報を書き出していく。
先ほどまでの夢を仮に僕の前世としよう。僕の前世ではこれから3年後の15歳のある日に家族を失う。正確には隣国同士の戦争に巻き込まれてだけど。
マインの前世ではこれから3年後に隣国、ウィルビス国の侵略にマインの村、フーデル村が巻き込まれ村の住人が虐殺にあう。
それに僕の大切な人たちが……
マインの国はルーベルク国という、中規模の国土を擁する中立国であった。しかし、3年後のウィルビス国の侵攻を受け、それに反攻するようにドルボート国との同盟を結び、ウィルビス国との全面戦争に発展する事となる。
これがルーベルクの大きな過ちだったんだよな……
そう。実際にルーベルク国へ攻め込んだのはウィルビス国の兵に偽装したドルボート国だったのだ。その事実を知らないルーベルク国の重鎮たちはウィルビス国に攻め込まれたと都合の良い様に嵌められ、真の敵であるドルボート国と同盟を結びウィルビス国に宣戦する流れとなる。
これさえなければ僕の家族が死ぬことは無かった!
ウィルビス国との戦争が始まるきっかけとなる村人虐殺の標的がマインの家族が住むフーデル村の住人だったのだ。
今思えば不自然なことばっかだった。フーデル村はドルボートの国境寄りだし、金銭的余裕もあり親交も深かったウィルビスが突然侵略してくるなんてあるか? 冷静に判断すれば金銭的余裕が無かったドルボートの方が何かしてきてもおかしくないと考えるべきだった。
ここでドルボートが何故このような策を図ったかという問題だが、まずドルボートよりも格上のルーベルクを攻めるのは非常に困難。他にも数国隣接している国はあったはずだが、その中で財政に余裕があり戦力が低いのはウィルビスを除いては存在しなかった。ただ、一つだけ懸念があったとしたらウィルビスとルーベルクは良好な関係を築いていた事か。仮にウィルビスにドルボートが宣戦したとして、ルーベルクがウィルビスの援軍として参戦してきたらドルボートに勝ち目はない。そこで、ルーベルクの領の村を襲い、ウィルビスが攻めたように見せる偽装をしたと……
マインはかれこれ数時間部屋にこもり、状況を整理していた。その時ふと違和感に気づく。
あれ? これ以上の事が思い出せない……。何でだ?
何故か16歳前後までの国の情勢や出来事などは鮮明に覚えているのに、それからの事があまり思い出せないでいた。
だめだ! 思い出そうとしても霧がかかったように上手く思い出せない。
何度も思い出そうとするが思い出せず諦めかけていた時、ふとある事を思い出した。
そういえば……あの剣、床に落としたままだったな。
マインはベットを挟んで反対側の床に落としてある剣へと近づく。そして、マインの指先が剣に触れた瞬間。何者かの声が聞こえてきた。
『やっと我に触れたな、主よ』
「っ? 誰だ! 何処にいる?」
思わず古びた剣を拾い上げ、鞘から剣を抜くマイン。
『我だ。ここにいるだろう』
マインは剣を構えながら周囲を慎重に見て回る。
「いい加減出てきたらどうだ? 人の家に勝手に入るのは犯罪だぞ」
『だから……我は剣だと言っておるだろう!』
「はっ? 剣?」
マインは訝しみの目をしながら剣へと視線を映す。
『そうだ。我は剣だ。生憎私には声が出せなくてな。直接語りかけている』
「嘘じゃないらしいな……。それで、言葉を操る剣なんて聞いたことないぞ」
マインは周囲を隈なく探し、不審者らしき人物がいない事を再確認すると、剣の話す事に耳を傾け始める。
『我はただの剣では無い。聖剣だ』
「聖剣?」
『そうだ。我は12ある聖剣の一つ。運命剣、パーシヴァルだ』
「運命剣……パーシヴァル」
『主にはこう言った方がいいかもな。主をこの世、過去に戻らせたのが我であると』
「っ! やっぱりあの時見た夢は現実だったんだな」
『いかにも。あれは主が実際に歩んできた記憶だ』
これが運命剣パーシヴァルと死神と呼ばれた男マインの初めての邂逅。この出会いが世界に大きな波紋を広げることなるとは、ある一人を除いて誰も知る由もないだろう。
お読みいただきありがとうございました。
この作品は話が出来次第投稿という形となりますので、不定期投稿となります。
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最後にはなりましたがこれからも長いお付き合いをしてもらえると嬉しいです。
では……また次回でお会いしましょう。




