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この部活を守りたい!

泉家。


「幸心、晩ごはんまだ?」

「お兄ちゃん、旦那さん失格だよ。今の世の中はね、夫婦で協力するものなの」

「だって幸心は奥さんじゃないじゃん、妹じゃん」

「分かってないねぇ。身内の一人優しくできないようなろくでもない男には誰も寄ってくることはありませんって話。文句言ってないでお皿とお箸くらい並べて」

「はぁい」

両親共働きの泉家では、幸心が基本的に料理を兄に振る舞う。瑛斗は渋々料理のお手伝いをするというのがいつものお約束のようなもので、重い腰を何とか上げて、盛り付ける皿と箸を取り出す。

「お兄ちゃんは軽い料理くらい出来るようになったほうがまだ需要あると思うよ。ただでさえ脳内お花畑なんだからさ」

「だって、炒め物とかアレじゃん」

「分かってるよ。火が嫌なんでしょ」

「そ。だからそれ以外なら、やれと言われたらやるよ」

瑛斗はそう言いながら、ちゃっちゃと用意を済ませた後、また寝転ぶ。

「はあ…うちのお兄はほんとこれだから…」

呆れてため息をつく幸心に対し、瑛斗は浮かんだ素朴な疑問をぶつける。

「そう言えばさ、あの青い髪の女の子、どういう繋がり?」

「あー、堀田るりちゃん?幼稚園が一緒だった子。それ以来でクラスもまた高校で一緒になってさ、地元での知り合いでギリ分かるのあの子くらいだからまた仲良くなったの。ここすけって昔呼ばれてたんだけど、そん時のこと覚えててくれてたみたいでさ。まあ、見てわかった通り変わってる子だから、まともにコミュニケーションとるのも大変よ」

「にしては手慣れてるように見えたけどな」

「ま、あの子友達少ないから私が味方になってあげないとね」

「ほー。あの子と一緒に交流部くればいいじゃん」

「そうは言ってもねぇ、あの子はあの子でオカルト部を成功させるんだって勢いづいてるから」

「オカルト部か。今度行ってみようかな」

そんな、どこに所属するかを決めかねているような兄の姿に、同じく決まってない自分も揺らぐ。

「ねね、お兄ちゃん結局入るの?その交流部」

「うん。そのつもり。明日、最後の仮入部期間だからさ、でもまあそのオカルト部ってのも面白そうだし」

「それがねぇ…」

浮かない顔を心は浮かべ、

「るりちゃん、正式認定受けてないのよ、あの部活そのものが」

「え、そうなの?」

「そ。だからちょっと心配でさ、私が今引き止めてる感じなのさ」

「なんかそれ、平気なのか?」

「さあ?でももうじき生徒会からの部活活動報告があるらしくてさ、そことかも突っ込まれそう」

「へぇ、え、俺聞いてないそんな話」

「お兄ちゃんは2年生だもん。同い年の人たちはもうみんな去年に聞いてるだろうし、新入生の私達はオリエンテーションでそういう話があったわけ」

「ふーん。じゃあ正式認定受けていれば大丈夫なわけか」

「なんかそういうわけでもなくてさ、部員が4名に達していないところも無くなっちゃいそう」

それを聞いて、瑛斗は飛び上がる。

「え!?マジで!?交流部、今3人だよ!?」

「え!?そうなの!?」

「うん、え、ヤバいじゃん…じゃ、じゃあ俺入らないとマズいじゃんか」

焦りを見せる兄を見て、

これまで色んなことに巻き込まれた兄を見て、

幸心の胸は騒ぐ。

「たしかにマズいし、いい人達だってお兄ちゃん言うからさ、それは間違いないんだろうけど、お兄ちゃん、ちゃんと自分の意志で入るんだよ?」

「う、うん」

「あの時もそう。スポンサーさんの言うこと全部聞いてがんじがらめになってお兄ちゃんつまらなそうだったし」

「それはまあ、そうだったけど」

幸心が指すのは、マジシャンとして活動していた頃の兄のこと。





アメリカ、ニューヨーク。

「瑛斗くん、次、うちの商品、デパートで売ってくれよ」

「あ、はい…わかりました」

昨年、メディア出演が落ち着いた頃。マジックショップから自社製品を売ってほしいと依頼を受け、親元を離れてニューヨークでしばらくデパートでのマジックショーを行っていた瑛斗。

「すごいねぇ、また売れたよ、ありがとう」

「いえいえ、お役に立てたのなら嬉しいです」

そうは言ったものの、気持ちは相反していた。


(俺のしたかったことって、こんなことだったっけ…)


その場で結果を出して、商品が売れて、また次を求められて。

いつしか、自分のやりたかった単独ライブであるステージショーの出演はスケジュール的に叶わなくなり、その隙に次から次へと新しいマジシャンが続出した。


(俺は…自分の考えたショーを、自分の思うままにやりたかった…)


バンクーバーでの世界大会で成果を出し、その配信が日本で流れたことで一定層の知名度を高めることができた瑛斗は、それからメディアに出ること自体なくなった。





幸心はそんな兄の様子を見ていたからこそ、人に言われるがまま物事を引き受けてしまう彼の行動に懸念があった。

「あんな感じでお兄ちゃん大変だったからさ、また今回も部員の数が足りないから部活に入るっていうのも、どうなのかなって」

その心配はもっともだった。

事実、もうあんな思いはしたくない。

掴めるチャンスを掴めなかったから。

それに来年は受験生。部活に新たに入るにはあまりに遅すぎる。

それでも。

瑛斗はたしかに、ワクワクしていた。

「たぶん大丈夫。なんか、あそこにいる人達を知りたくなったんだと思う。何であの部活があるのか、きっと、俺なりに正解を見つけられるはずだから」

頼まれ事はつい引き受けてしまう兄だけれど。

マジックショーを離れた理由はきっとその忙しさだけじゃなくて。

きっとそれはきっかけでしかなくて。

本当はちゃんと、逃げなきゃいけない事情があったことを幸心は知っているから。

だからそれ以上のことは言わなかった。

それに、今、お兄ちゃんはキラキラしていたから。





***************





いつも通り、として瑛斗にすっかり染み付いた墨田高校のチャイム。

そして向かう先は同じ。

後ろからついてくる二人も同じ。

「瑛斗、行こっか!」

「瑛斗くん、今日で仮入部最終日だね」

陽と風花のそんな声に、明るく返す。

「おう!」

別棟へ移動し、奥にある部室の扉を開ける。

するとそこには、いつものように琴葉と、もう一人、瑛斗の見たことのない、3年生のピンバッジをした男が立っている。

メガネをかけた優秀そうなその男は、ため息をついて、琴葉に用紙を突きつけた。

「まったく。交流部なんて無くしてしまえと昨年の学期末で伝えたはずですよね、新山さん。なぜ今学期に入っても続けてるんですか?」

「あのね李川くん。部員が4名を切っていなくて、月時報告も毎月してる。それの何が問題なのよ」

「まーた基準値だけクリアしていればまかり通ると思っているあたりが甘いですね。いいですか?これだけ成果という成果を何も出していない上、この半年、我々生徒会にも大して貢献できていないあなた方がこれ以上続ける筋合いはありません。それに新入生も仮入部最終日で決定者がゼロ、おまけに一人幽霊部員がいるそうじゃないですか」

「レオのことでしょ。アイツのことは放っといて」

「ま、いいでしょう、あと3日待ちます。それまでに部員を一人でも集められるような企画を作り、宣伝がてら行動に起こしてください。それが不履行、もしくはやったとしても実にならなかった場合、即刻この部活は解体して頂きます」

そう言い放ち、彼は瑛斗たちの間をズカズカと通り、本棟へと歩いていった。

「なーにあのひと!感じ悪っ!」

むくれて怒る陽。実際、瑛斗としてはよくわからないレオという人の名もあがり、混乱状態だった。

「色々よくわかんないんですけど、あの人誰ですか?」

瑛斗が尋ねると、琴葉がそれに答えた。

「あいつは李川才馬(りかわさいば)。正義感だけで動いている頭でっかちの生徒会長よ」

「え、あの人生徒会長なんですか」

「うん。部活で生徒会の利益になる行動が出ていない人たちに、その部活そのものを解体しろって追い詰めてくるの」

「なんだか…嫌ですね」

はあとため息をついた琴葉は、瑛斗の肩にぽんと手を乗せる。

「君しかいないのよ泉くん!部活に入って助けて!」

「ま、まあ良いんですけど…」

言葉が続かなくなった瑛斗に、風花が促す。

「他の部活とかで何か迷ってるの…?」

「ううん、そうじゃなくて、たしかに俺が入れば部員数は確保できるけど、やっぱりビラを配った新入生から一人でも入れることは大事なんじゃないかな」

琴葉に続いて陽もため息を入れ、

「それなのよねぇ。結局どうすればいいのやら」

アイデアが行き詰まる空気の中で、風花が口を開く。

「思ったんだけどさ、私達のやったことって結局ビラ配りだけでしょ?友達を作るなんてこと自体は他の部活でもできるわけだし。だったらなんか派手なことやろーよ!うちの強みってさ、どんなことをやっても交流部がプロデュースしたってことにできるから!」

「なるほど!風ちゃん頭いい!」

陽がパタパタと拍手している中、瑛斗は疑問を突っ込む。

「たしかにいいと思うんだけど、この3日で何ができるかな?」

すると風花は胸を張り、自信ありげに、

「任せて!私に作戦があるの!」





***************





翌日。錦糸町駅。

学校はお休み。そして昨日で瑛斗の仮入部は終了。だから本当に今日は連れ添いだ。

集合した4人…瑛斗、陽、琴葉、そして風花。

駅からすぐそばにある大きなコミュニティセンターに向かう。

「で、こないだ言ってたのって結局何なんだ?」

全容を得ない状況に瑛斗が切り込む。風花は楽しげにスキップしながら、

「ま、着いてのお楽しみ!」

墨田区が誇る大きなコミュニティセンター。そこの掲示板には、有名な音楽家のコンサート予定がズラズラと並んでいる。

「ここすごいとこだね!もしかして風花、超有名人とか?」

興味津々の陽に風花は、

「ううん、そんな人前で歌えるような度胸ないよ。私たちが行くのはこっち!」

風花が指をさすのは、メインの音楽ホールではなく、一般の人が使える小ホール。

琴葉は、小ホールのそばにあった、先程の掲示板に堂々と貼り出されている有名人の広告とは違う、手作りのA4用紙が壁にテープで貼られているのを見つけた。

「これって…風花!?」

そこに書かれていたのは、『ピアノ演奏会 出演:羽村風花』の文字。それに瑛斗と陽も驚く。

「え!?何で!」

「風ちゃんこれどゆこと!?」

すると満足気に風花は胸を張り、

「ふっふっふっ。すごいでしょ。ではでは、音楽ホールの中へどうぞ。小さい方だけどね」

そうは言っていても、キャパは200人ほど。そのスケールに陽と琴葉は圧倒される。陽がチラッと瑛斗を見遣れば、彼は誰よりも目をキラキラさせていた。

「あら、こういうのは場数を踏みまくってるアンタからしてみれば大したことないのかと思ってた」

「そんなことないよ!俺、テレビスタジオの中とか、販売員としてパフォーマンスはしたことあったけど、こんな規模でやること、ほんとに数回あったくらい」

琴葉はそれに苦笑いをし、

「数回は経験してるのね…さすがだわ」

「それでも俺…こんな場所でマジックできたら、どんなに楽しいだろうな…」

キラキラとしたその眼差しに風花は素直に嬉しかった。そしてみんなに話す。

「私ね、子供の頃からピアノ習っててさ、明後日披露するの。お客さんはホントに私の地元の葛飾区の人達ばっかりなんだけどね、昔からの幼なじみとか、親戚の人とか。でもさ、この発表会の主催を、交流部にしちゃおうよ!実際に交流部が部員の活動を応援する部活っていうのもアピールすることができるし!」

その発想に一同が「お〜!」と納得し、瑛斗は喜ぶ。

「なるほど!あのビラにも『友達作りませんか』の文言以外に、『ピアノ演奏会やります!』を入れて、部活の周知をさせる作戦か!」

「うん!ピアノ演奏会の演者にもなれるし、一緒に観客者になることもできる。やっぱり交流部って無敵だと思うんだ!」

優しいその笑顔と声音は、やはり瑛斗の中に残るものがある。ちらと目を向ければ、少し安心した雰囲気の陽。交流部がちゃんと今年に入って動き出すということへの安堵なのだろうと。シンプルに友達がほしいと願う陽にとって、このきっかけは嬉しかったのだと、瑛斗は同じく安堵した。

ただ、もう1つ目を向ければ、そこにはどことなく不安そうな琴葉。なぜなのかを瑛斗が考える間もなく、琴葉は風花のそばに寄る。

「風花、あなたはそれでいいの?」

「え?」

「あなたがこれまで頑張ってきたピアノの発表日が明後日なんでしょう?それを私達がプロデュースしただなんて、とてもじゃないけど言えないわ。もちろん交流部はメンバーの活動を応援することにあると思うけど、あなたのステージに、交流部の名前を含ませるなんて、申し訳ないよ」


(やっぱり。琴葉先輩はそういうと思った)


風花はちゃんと分かっていた。


琴葉先輩は"あの出来事"以降から、

もう交流部として誰かを巻き込ませるのが嫌なんだ。

分かっているから。

痛いほどわかるから。


だから、私は提案したんだ。


「琴葉さんが作った交流部が、陽ちゃんが誘ってくれた交流部が、それに…こうやって瑛斗くんが興味を持って来てくれた、そんな交流部が、私は大好きなんです」

「風花…」

「無くしちゃダメです。私達はここまでこの部活を守ってきたんですから」

彼女たちの間に何があったのか、瑛斗には分からない。

けれど。

少なくとも風花にとって、絶対に欠けてはならないということは十二分に伝わった。

だから瑛斗は背中を押す。

「守りましょう。というか俺はここまでの交流部のことなんか何もわからないですけど、それでも、風花が守りたいものを守りましょう。それがきっと、あの李川さんとかいう人が言う、この部活を続けられる条件に繋がるんでしょ」

瑛斗が風花のことを理解してくれたから。

陽もその背中を一緒に押せる。

「琴葉先輩!せっかくなら足掻きましょー!」

2年生たちがいつの間にかたくましくなっていて。

ここまでのこと、これからのことなんて、杞憂だった。

「うん。じゃあ明日ビラを撒こう。この会場を満席にしよう。何人が部活に興味を持ってくれるかはわからないし、入部に繋がるなんてほとんど希望はないかもしれない。それでも、活動の理由にはちゃんとなる」

4人で今はやるしかない。

そのことだけは、分かっているから。

心のことを思い出して、瑛斗は言葉にする。

「俺、改めて入ります。交流部。そのビラを撒きたいです。俺は風花に声をかけてもらってこの部活に来たんだし、その縁を大事にしたいです」

そう言われて頬が染まる風花。

先に入っていた二人の女の子よりも、風花はこの部活が大事だという気持ちが人一倍強かった。

その姿勢が何となく分かったから、瑛斗はその理由が知りたかった。

その日の帰り。

電車の方向が異なる琴葉以外は同じ方面へ。

押上駅までは半蔵門線で一駅。錦糸町からメトロに乗ろうとした時、陽が気付く。

「あ、ごめん、錦糸町にお父さんがいるらしいから車で帰るね。なんかお父さん寄り道したいらしいし」

「了解。じゃあ風花、帰ろっか」

「うん、そうだね」

すると陽が瑛斗の耳元で囁く。

「瑛斗、変な気起こして風ちゃんになんかしたら許さないから」

「しないよ!何でそんなこと!」 

ジトーっとした目を向けられ、瑛斗は顔を赤くして背を向けた。

「か、帰ろ!風花行こ!」

「あ、うん」

二人がメトロの階段を降りていく姿を見て、陽は小さくため息をつき、二人が見えなくなってから一人呟いた。

「風ちゃんから言ってあげたほうがいいよね…」





少し時間をさかのぼって、錦糸町駅での集合時。

琴葉と瑛斗はまだ未到着。風花と二人きり。

「ねえ、風ちゃん」

「なに?」

「きっとあいつ、風ちゃんのことを知ったら、安心して交流部に居られると思う。今日は琴葉先輩もいるからさ、帰りは先輩とは方面逆だし、私はお父さんの迎えがあるし、ちょうど瑛斗と二人で帰れるタイミングだと思うんだよね」

「そんな準備するほどのこと?別にLINEでもいいんじゃないの」

「そうだけどさ、せっかくだから直接、風ちゃんが嫌じゃなければ、去年のあなたのこと伝えてあげても良いんじゃないかな」

「まあそうだよね、いつまでも隠しておくわけにはいかないし」

陽は明るくて、元気で、でもちょっとした気配りは人一倍長けていて。

風花は素直に尊敬していた。





時系列は戻り、電車での瑛斗と風花。

たった一駅で着いてしまうけれど。

風花が話すよりも先に瑛斗が口を開いた。

「風花は、何でそこまで交流部にこだわるんだ?」

「ん?そんなにこだわってるように見える?」

「なんか、琴葉さんより、陽より、一番交流部に対して積極的だなって思う」

「そうだねぇ。たしかに、今のメンバーなら一番かもね」

「どうして?」

風花はその言葉に、ほんのりと笑う。

改札を出て、押上駅の地上に出る。

「私ね、昔から友達なんていなかったの。作り方も分かんなくてさ。クラスではいっつも端っこで、目立たないように、愛想笑いして何となく生きてきたの」

夕陽が彼女を照らす。しっかり者の風花が、初めて弱々しく、瑛斗の瞳に映る。

「いつもイヤホンして、好きな音楽聞いて、図書室で読書して。そんな感じで人と関わることそのものを諦めちゃってたんだ。それが去年までの私」

「そうだったのか。今の風花じゃ、全然想像がつかないな…」

「ふふっ。そうでしょー。でもね、そんな引っ込み思案な私を連れ出してくれたのが陽ちゃんだったの」

「陽が…?」

「うん」





半年ほど前の10月。

入学してから半年の間に友達は誰一人としてできず、。ぼっちになってしまったけれど。

気にせずいつものように、読書をしていた風花。

子供の頃から歌うのが大好きで、音楽配信サービスに顔出し無しで歌をアップしてみたり。

その再生回数が良くて、一人で微笑んだり。

小説を読んで、物語に触れて、それを自分の言葉として作詞をして、大好きなピアノとともにメロディーを紡いで。

シンガーソングライターとしての夢は諦めきれなかった。でも、人前で歌うのは怖くて。


自分は何者でもない。


結局、直接会話ができなきゃ自己満足で終わっちゃう。

そんな自己否定が続いた。


いつものように、学校の図書室で本を読んでいた。

大好きな純文学を読んでいれば、他の世界とシャットアウトできる。

これでいい。もう、一生私はこれでいい。

諦めと悔しさと、自分の惨めさを噛み締めながら。

教室は怖いから。休み時間は全てここにいればいい。

部活なんかキラキラした場所は私には向かない。

だからもう、ずっとこれでいい…。


その時、そんな風花の気持ちを取り払ってくれた人が現れた。


「あ!その本私も読んでる!」

「え…?」

「羽村さんだよね?同じクラスの!」

「あ、はい…えっと…六嶋さん…?」

「そ!私、六嶋陽!その小説家の作品、私もいっぱい読んでるよ!」

突然ぐいと自分の世界に入ってきた陽に戸惑いながらも平然を装う。

「ふ、ふーん」

「ねね、いつもここにいるの?」

「うん」

「なんで?」

「なんでって…そのくらいなんとなくわかるでしょ、友達いないし、教室の女子たち怖いし」

こんな明るい女の子に、私の気持ちなんてわかってもらえないだろう。

そう諦めていた風花だったが、予想もしないことを陽は言ってくる。

「え!私と一緒じゃん!」

「え!?六嶋さん、クラスで友達いるじゃん、そんなわけないじゃん」

「あー、あのグループはね、付き合いでいるだけなの。そのメンバーがみんなで遊びに行くときは私誘われないしね。薄々みんなから除外されてるのは何となくわかる」

「え、そうだったんだ…」

「意外だった?」

「う、うん」

自分の弱さを素直に表現できるところも、風花にとっては優しさに見えた。その陽が、ぽんと閃いた表情で嬉しそうに言う。

「あ、そーだ!羽村さん、部活たしか入ってないよね?よかったら私が入ってる部活来ない?」

「ああ、バレー部でしょ。いいよ、私向いてないし」

「ううん!バレーはもう辞めたの。今は交流部!」

「こ、交流部?そんな部活あったっけ?」

「わりと最近できた部活なの!2年生が2人で、1年生は私だけ!先輩ふたりともすっごい良い人だからさ、おいでよ!」

「い、いきなりだなぁ…」

やや強引な陽の誘い。でも、その屈託のない笑顔があまりにも眩しくて、気付けば、本当に心から信頼できない友人がいないのにここまで眩しい笑顔を出せる彼女の素顔が知りたくて、その門を叩きたくなっていた自分がいた。


(たぶん、もう来ないチャンス…)


心でつぶやいたその声と共に、差し伸べられた陽の手を、無意識に、しっかり掴んでいた。





「二人に…そんなことが…」

「まあね。陽ちゃんには沢山振り回されたけどさ、あの子ほんとに良い子なんだよね。こんな何もない私にでさえ、優しくしてくれた。琴葉さんも良い人だったし。それに…」

「それに…?」

瑛斗が尋ねると、風花が何かを躊躇ったのは伝わった。

でも、交流部を共に過ごす人として、知っておいてほしくて。

「もう一人、素敵な先輩。レオ先輩」

「ああ、こないだ、名前のあがってた…」

「うん、今は抜けちゃってるんだけどね。でもいつか、またレオ先輩も一緒に、瑛斗くんも一緒に、楽しく交流部にいられたらって思ってる」

きっと、後から入ったから、

だからなのかもしれない。

そう瑛斗は感じた。


きっと風花は、陽や琴葉、それにそのレオ先輩とやらが作り、既に出来上がった交流部という場所に飛び込んで、初めて自分の知らない自分に出会えたから、こんなに瞳を輝かすことができるのだと思う、と。


「レオ先輩はね、普段はおちゃらけてるけど、でも本当はすごく琴葉先輩想いで、私達にもすごく人当たりがよくて、そんな素敵な人だから、それだから、いつか戻ってくるんじゃないかってつい思っちゃう」

居場所に足りなくなったピースを失くした少女を、瑛斗は選べる精一杯の気持ちで返す。

「じゃあ信じよ!風花が大切にしていた交流部のこと!存続させて、そのレオ先輩にも戻ってきてもらおう。きっと叶うよ、絶対!」

それまではいつもの凛々しい、芯の通った風花が、瑛斗の真剣な眼差しを見て、かつての臆病な自分の表情となる。

でも、次第に。


「うん、信じる。私の居場所、一緒に守ってほしいな」

「もちろん。明日、ビラを改訂してすぐ校門へ行こう」


そんな瑛斗の気持ちは、ちゃんと風花に届いていて。

自分事として考えてくれる彼が、陽と同じように眩しかった。

二人はそれからお互いの話も色々して。

特にやっぱり、音楽の波長が合った。


「そうだよね!やっぱ『恋のサーキュレーション』は俺も神曲だと思う!」

「瑛斗くん、いいね!私もWIN-WINがすごくあの曲を大事にしてたんだなって思う!」

「そうそう!そんな感じの言葉、楽曲紹介のところに書いてあったしね!」


胸がドキドキだった。

瑛斗と話しているだけで、熱が身体中に駆け巡る。

きっと今抱き始めている"この感情"が本当なのか、そもそも人と関わることを諦めた私にそんな気持ちが生まれるのか不安だったから、"この情報"を今伝えるのはなにか違う気がする。


いや、きっと今、伝えてしまったほうが良いのかもしれない。

後から後悔するくらいなら。

きっと、彼だったら私を私として見てくれるはず。


そんな色んな気持ちが混じり合って、結局やめた。


「じゃあなー!また明日!」

「うん!気を付けてねー!」


また明日、の回数が底を迎える前に。


"この事"は伝えたい。


そう願う風花だった。





***************






翌日。交流部にて。

「でっきたー!」

ビラを嬉しそうに陽が掲げる。そこには『交流部主催 ピアノ演奏会』の文字が。

「へぇ〜、陽ってデザイン力あるんだな」

「ふっふっふっ。中々やるでしょ〜!瑛斗も私を見習いなさい!」

「すっかりいい気になってるし…」

その紙を琴葉が受け取り、

「じゃ、事務室でコピー機借りてくる。外に出る支度しといて!」

「はーい!」

部活に入っていない新入生のみをターゲットにするのではなく、今回はピアノ演奏会をシンプルに聞きに来るお客さんも含まれるので、誰彼構わず配ることができるという大きな利点がある。

「こんにちはー!交流部でーす!ピアノ演奏会やりまーす!」

目線を合わせ、受け取ってもらう空気を作る。そんな小さな工夫で、相手は受け取ってくれた。

「やった!」

小さく喜ぶ陽の姿に、瑛斗は嬉しかった。

風花も沢山のビラを撒く。今までは対象外だった2年生たちも立ち止まり、その内容を見て門を去りながら話題にしてくれる。

「ピアノ演奏会かぁ〜子供の頃やったなぁ」

「同じ2年生がやるんでしょ、この時間なら行けるかも!」

そんな声がちらほら聞こえて、瑛斗も風花も、不安と期待が入り交じる。

そしてすべてを配り終え、部室に戻る。

「おーわったぁ!」

陽がぐでーとしていると、琴葉は呆れながら、

「ったく、陽は呑気ね。交流部がピンチのときに」

瑛斗にとって思い入れはまだないけれど。

きっと、楽しい部活にしていけるはずだから。

何となく、この4人で笑い合える空間が気に入り始めてきたから。

そんな時、扉は開く。

「失礼。交流部の皆さん」

そう言ってやって来たのは、例の生徒会長、李川才馬。

「期日は明日。成果が出せなければ即撤退して頂きます」

その言葉に対し、琴葉が返す。

「待って。まず部員が増えた。その事実は伝えるわ」

それに続けて、才馬の方を見て、瑛斗が名乗る。

「泉瑛斗と言います。この度、交流部に正式に入ることとなりました」

「ほーう。泉瑛斗くん。あなたが噂のマジシャンですか」

「知って頂き光栄です」

「ただ正式な受領証が私のもとに届いていないんじゃあ、認められませんよ」

え、そうなの!?という顔で陽を見る。同じく焦って陽は風花を見る。同じく焦って風花は琴葉を見る。

すると琴葉だけは余裕の表情。

「さっき顧問に受領してもらったわ」

その言葉とともに、"彼女"が部室に入室してくる。

「はろ〜、交流部のみんな〜」

そう言って入ってきたのは、瑛斗、陽、風花の担任、城島先生。

「え!?城島先生が、交流部の顧問!?」

瑛斗の驚きに対し、城島先生は申し訳なさそうに、

「ごめんね泉くん、内緒にしてて。サプライズですっ!」

そう言われて、瑛斗は、

「いや、そこまで大したサプライズってほどでも…」

「えー!いいじゃん!サプライズじゃん!一応!」

子供のように拗ねる城島先生を見て、才馬はため息をつき、

「城島先生、この男が部員に加わったのですか」

「そ。ビラの印刷しに事務室に寄った琴葉がついでに出してくれたわ。とりあえず、人数はクリアね」

「ですが、中身のない活動をいつまでもしていては新入生も戸惑うだけ。学校としての利益は何も出ません」

「そうね。これまでの交流部の様子じゃそうかもね」

しかしそう言いながら、城島先生は優しげな笑みを浮かべる。

「でもね李川くん。明日のピアノ演奏会、あなたも来たら?羽村さんめちゃめちゃピアノ頑張ったんだって。私もこの子たちと一緒に観に行こうって思ってるし!」

その言葉を聞いて風花は嬉しそうに、

「え!?先生来てくれるんですか!?」

「もっちろーん。楽しみましょ。せっかくなら。だからみんな、交流部が人を感動させられる部活だってこと、証明してみてね」

「はい!」

全員が返事をしたのを嬉しく受け取って、城島先生はその場を後にした。

才馬は再びため息をつき、

「私はあなた方の邪魔をしたいわけではありません。ただ、学校にとって無駄な経費、時間、人材を取りたくありません。それだけです」

そう言って部室を後にした。

陽はあっかんべーをし、琴葉は座って紅茶を飲みだす。

そして風花は、ちょっと自信がなさそうに呟く。

「明日、お客さん来てくれるかな…」

その言葉に、瑛斗は震えた。

風花一人に背負わせていないか。4人で、本当に力を合わせて乗り切るべき時なのではないか。

そんな焦りが、言葉になりそうになったその時。


「大丈夫」


その言葉に風花は振り向いた。

声の主、琴葉が窓を閉める。

まだ少し寒い春の風から、心を落ち着かせるために。

「風花が守りたいもの、私が生みの親なんだから、その責任はちゃんと持つよ。大丈夫。一緒に乗り越えよ」

そして陽も言葉にする。

「風ちゃんは演奏だけに集中して。たとえお客さんが何人でも、意味のある活動だったって証明するのは、私達がやる。絶対に守る」

瑛斗は少しだけ不安だった。

陽と琴葉はどこか心に空白が空いているようで。

諦めに近い、自分が入部する前にあったいろいろなことで気持ちを沈ませてしまっているから、これから大丈夫なのかなって。

でもそんなものは杞憂だった。

ちゃんと。前を向いていた。

その言葉たちに続いて、口にする。

「最悪俺たちが何とかするからさ、風花は自信持ってやれることやろ!身内の人とか、地元の友達のためにも、いいパフォーマンスしてあげよう」

3人の言葉を聞いて、これまで自分が抱えていたものが溢れ出した。

それは涙となって。

でも、まだ成果が出るまでは、それは心に留めて。

4人で初めて行う、最初の交流部の大きな活動。

瑛斗の心は弾んでいた。





***************




翌日。先日のホール。

「羽村風花の演奏会の会場はこちらでーす!」

瑛斗が案内をしていると、受付に彼女と同じ苗字が。

「あ、羽村様ですね。風花さんのご親族様ですか?」

「ええ。風花の母です」

「え!?お母さんですか!」

とても美人で、風花に似た、芯の通ったハキハキと話す女性だった。

「あなたが泉くんね。去年の春の大会優勝、テレビで見てたわ」

「ありがとうございます!」

「それにあなたが陽ちゃんね」

「はい!六嶋陽です!」

「いつも風花から聞いてるわ。とっても良い子で尊敬してるって言ってるわよ」

「え!?風ちゃんそんなこと言ってくれてるんですか!?」

「ええ。陽ちゃんのこと大好きみたい。部活が本当に楽しいんですって。泉くんもよく話を聞くわ。うちの子をよろしくね。引っ込み思案で面倒くさいところもあるけれど、人一倍真面目な子だから」

「そう言って頂き嬉しいです。僕は交流部に、風花さんのお陰で入部したと言っても過言じゃないので」

「あら、そうだったのね。そこまで言って頂けるなんて嬉しいわ、ありがとう」

「はい!今日は楽しんでいって下さい!」

ホール内へと入っていったお母さんの姿に、陽は嬉しそうにしていた。

「風ちゃん、お母さんに私達のこと話してくれてたんだね」

「うん。お母さんの期待を裏切らない最高の演奏会にしようぜ」

「そうだね!じゃ、あとの受付は任せるね。私、司会進行だから行ってくる。琴葉先輩は照明係だから一旦話し合っておきたいし」

「ラジャー」

その後もお客さんが続々と入る。

「はろー、泉くん」

「城島先生!」

「楽しみにしてるよ〜交流部の存続!私、この部活が潰れちゃったらアメフト部の副顧問になりそうだし、あんま出番無さそうなんだよね。だから、胸張って顧問やりたいのよ」

城島先生はさらりと受付を済ませ、入っていく。

こんなに学校生活を休日でも楽しめる彼女が素直にすごいと、そう瑛斗は思えた。

受付で一通りお客さんが入館していくのを見送る。

そんな中、ただ一人物陰で隠れている子が。

「君は…たしか…堀田さん?」

「ギクッ!キサーマパイセン!なぜ我の地上世界での名を憶えている!」

「いやだって会ったのついこないだじゃん」

会場に入りたそうにビラを握りしめている彼女に、ニヤケが止まらない。

「ありゃ、さては堀田さん、ピアノ演奏会を聞きに来たのかな?」

「そ、そんなわけないに決まっておる。我は天空より舞い降りし天性の闇の使者カルミナ・カミーナの生まれ変わり…。我こそが究極にして最初の音階の持ち主…今こそ!我に邪悪なる栄光を与え給え…!」

「あ、お兄ちゃん!」

るりがまた一人で悪魔と契約を交わす儀式を行っているのを放り、幸心がやって来る。

「おー!幸心!来てくれたのか!」

「へっへーん。お兄ちゃんが何かに目覚めるなんてホントに人生で数回だからね。マジシャンくらいだし。その貴重な目撃者になりに来たわけですよ。るりちゃんと一緒に!」

「俺の人生の目覚めはマジシャンだけか…まあそれも否めないんだけどね…まあいいや!二人とも!ほら入って入って!そろそろ始まるよ!」

「はあい!行こ!るりちゃん!」

「マイフレンド。待つのだ、これより闇の使者たちを召喚…」

「置いてくよー」

「もー!待てー!」

素の可愛らしいるりの声に、瑛斗はそっちでいけばいいのにと頭を抱えた。


(さて。受付はおしまい!楽しみますか!)






***************





小ホールはそこそこに埋まった。

およそ50名。

元々呼んでいた風花のお客さんが30名ほど。つまり、交流部が絡んでの集客は20名ほどだった。

一番うしろで、瑛斗は扉を閉め、スタンバイする。

そこから見えるお客さんの楽しげな会話が、その光景が、何だか心地よかった。


(そっか。俺が普段見ていなかった幕の向こうの景色は、こうやって人が笑ってたんだ)


思い出す。

マジシャンとしての道を諦めたあの日を。

もう無理だと決めたあの日を。


きっとあの日も、お客さんはこうして楽しみにしてくれていたんだ。

なのに俺は、その期待を裏切ってしまったんだ。


そんな罪悪感が、瑛斗を襲った。


次第に会場は暗くなり、司会の挨拶が始まる。

親友の陽だ。

「これより、東京都立墨田高校 交流部主催 羽村風花ピアノ演奏会を始めます。司会は交流部2年、六嶋陽がお届けします!」

陽の声とともに静かな、上品な拍手の音が聞こえる。

更に一段と暗くなった会場に、一筋のスポットライトが当たる。

主役の登場だ。

その主役はゆっくりとお辞儀をし、ピアノの椅子に腰掛ける。

1つ、1つ、メロディーを紡いでいく。

その姿に。


心が完全に奪われた。


一番後ろで見ていたからこそ。


この光景を目に焼き付けることができているからこそ。


瑛斗は風花の姿に言葉を失くして聞き入ってしまった。

そして気付けば。

一筋の涙が。


「何で俺…泣いてるんだ…」


こうやって人の心を掴むことがきっと俺にもできたのに。

もう俺にはそんな資格なんてないと。

そんな気持ちが表に現れたのだろうか。

この時の瑛斗には分からなかった。

ただ、間違いなく感動していた。


全ての演奏が終わり、拍手が巻き起こる。

ステージの中央へと風花は歩いていき、客席へと手を伸ばした。


「掴める未来は!希望は!掴みたい!」


その言葉にお客さんはキョトンとする。

構わず風花は続けた。

「私は、何もない女の子でした。いつもクラスの隅っこで、ただ時間が過ぎるのを待ってた、そんな子でした。でも、私を変えてくれた出会いがありました。それが今日、私の演奏会を主催してくれた交流部のみんなです。こうやって私の長所を引き出してくれる、まだ見たことのない世界へ連れて行ってくれる、そんな、人生でこんなに素敵なものはないなって思えるくらいの出会いでした!琴葉先輩!瑛斗くん!陽ちゃん!それに皆さん!また私の演奏会に来てください!そして、こんな私でも輝ける、そんな交流部への入部お待ちしてます!別に入部じゃなくたって良いです!交流部は皆さんの叶えたい依頼を全力で叶えます!未来は!希望は!交流部で掴みたい!」


その言葉は、きっと、一人の少女の人生を表していて。

この半年間で何があったのかは直接見ていないけれど。

この光景を見られて良かったと、瑛斗は涙した。


一方の照明ルーム。演目が終わり、全てのお客さんの抜けを確認して、琴葉は一息ついた。

「そろそろかな…仲直り…んーでもどうだろ…」






***************





最後に退館しようとホールを4人で出る。

そこには幸心とるり、城島先生の姿。

「風花さん!私、瑛斗の妹の幸心と言います!」

「え!?妹ちゃん!?かわいい!」

「ありがとうございます!以後お見知り置きを!」

そしてるりも微笑む。

「ふっふっふっ。この闇の使者にも十二分に響き渡る魅惑のメロディー、しかと刻み込んだ」

「な、何なのこの子…」

陽がドン引きし、まあまあと瑛斗が顔を引きつらせる。

「カッコよかったよ羽村さん」

「ありがとうございます!城島先生!」

そして後ろには何だかんだで来ていた才馬。

「なんだ、アンタもいたんだ」

陽が挑発がてら煽る。それに特に乗ろうともせず、一言吐き捨てた。

「交流部存続の有無は別問題ですが、作品としては上出来と言えるでしょう。では」

それだけ言って、去っていった。

その姿に陽は、

「なんなのあいつ!ホントむかつくー!」

それを見て琴葉が笑った。

「あれがあの人なりの愛の伝え方なのよ。生き方が下手すぎて、人生苦労しそう」

一番、才馬のそんな言葉を聞いて嬉しかったのは、やはり風花。

「認めてもらえた…ってことでいいのかな?」

風花がそう言うと、琴葉がさあ?というポーズを取る。ただ、会場に来ている時点で興味を持たれていることに、何だか瑛斗は嬉しかった。

「帰ろっか!」

彼の言葉に、風花は笑って返す。

「うん!」






陽や琴葉以上に、「交流部は楽しい!」というきっかけを瑛斗にくれた風花。

そこには陽への尊敬と感謝が込められていたのでした。

そして琴葉が作ったその部活を守りたいと素直に願う、良い子だと思います。

ここまでで結構謎が出たんじゃないかな。

交流部って3年生は1人なの?2人なの?3人なの?問題。

風花、何を瑛斗に隠してるの問題。

というか瑛斗、何でマジシャン挫折したの問題。

そもそも何で交流部は誕生したの問題。

等など。

実は、今あげたもの以外にも重要なことをここまでで散りばめています。

今後、楽しみにしててください!

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