花火大会のおまけ。
「ねぇ、トラ」
「なんだよ」
「トラって結構、琴姉のこと好きだよね」
「今に始まったことじゃねぇだろ」
「否定しないんだ」
「お前にこれを取り繕ったところでって感じだ」
「それは恋ですか?」
「んなわけないだろ。お前、分かってて聞いてんだろ」
「いや?年ごろの男の子は、あんな美女になった幼なじみのお姉さんにコロッといってしまうもんなんじゃないかなぁと」
「うるせぇ…」
花火大会が始まるまで、屋台をまわる2人。のちのち交流部のみんなと合流する予定だ。
「ねね、トラ」
「今度は何だよ」
「君はね、ちゃんと女子に対してですね、褒めるべきところがあるんじゃないかと」
「何を?女子ってお前のこと?」
「はぁー?今2人でいて私しかいないでしょー!?」
「いいから何を褒めるの」
「これだけ素敵な着付け、そしてこんなに可愛らしいいつもと違う髪型をセットしている私を褒めるべきなのです」
「あー、そういうことか。いいんじゃね」
「うわー、最悪。適当な男はモテないよ」
「モテるとかそんな興味ねぇんだよな…」
「ほんとにー?」
「お前はモテたいのかよ」
「もっちー!」
「うぜぇ…」
「うぜぇって言うなし。それなりに気合入れてきたんだから」
「気合いなんて入れなくたって、お前は可愛いだろ」
「え!?」
「お前、ビジュアルは良いんだから」
「そ、そんなこと言ったことなかったじゃん。て、てか努力したことを褒めてほしいのにー!」
「褒めるも何も…俺が良いって心で思ったらそれで終わりじゃダメなのかよ」
「ダーメ!ちゃんと伝えて」
「……可愛い」
「照れんなよ。こっちまで照れちゃうよ」
「うるせぇな…」
内心は思った。いつもと違うビジュアル。
そりゃあ、気付かないわけがない。
十河京妃のことは、誰よりも見てきたのだから。
でもすぐに訂正したくなって。
「いやでもお前に要らない誤解を生まないためにも言っておくが、俺は思ったことを言っただけだから受け取り方を誤るな。お前はバカだから」
「はー!?誰がバカだって?アンタみたいな気難しいヤツに変な気を起こしたら奇跡だわ」
そうポカポカ叩かれて、虎之介は終始面倒臭そうな顔をしている。
実際、本当に変な気を起こすかどうかはさておき。ストレートに見た目を褒めてくれたことは嬉しかった。
「ま、いつもの軽口がムカつくけど、珍しく私の可愛さに気づいてしまったので許してあげるとしましょうか☆」
ずっと京妃と一緒に育ってきたから。
普通の人が当たり前に思う恋心なんて、やっぱり抱けない。
むしろそれほど興味がない。
でも、きっと今日に向けて努力をしようとしてきたその姿勢を見ると、愛おしくて仕方がないと思える。
だからこそ。琴姉が羨ましいのかもしれない。
「もう言うのやめるわ…」
「なんでよー!」
「うぜぇから」
「もう最低!」
浮き足立っている奴が気持ち悪いから。
京妃とそういう距離感には、やはりなれない。
なろうとしてない。
本人がどう思っていようが、それが今の自分の気持ち。
言いたいことを言うにも、躊躇い始めている自分がいるのは、少し歳を取ってしまったのだと、何となくそう言い聞かせることにした。
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「こ、こ、幸心先輩!!」
「もう、呼び捨てでいいよー。廉くんは固いねぇ」
「そ、そ、そんな先輩のこと呼び捨てなんてできないっす!!!!」
勇気を出して幸心を誘った2人きりの花火大会。後々交流部と合流するその時間まで、このド緊張の時間は続く。
廉の気持ちを既に分かっている幸心は、
「ねぇ、なんか一緒に食べる?」
「え、ほ、ほ、ほんとですか!!!」
「そりゃあ、今2人でいるわけでしょ?お祭りに来て、何もしないのもねぇ〜」
「そ、そ、そうですよね!」
彼の緊張をほぐしてあげようとする。だが、廉は一生懸命エスコートをしようとしてさっきから雪崩のような人々に思い切りぶつかったり、足を踏まれたりと散々だ。
「もう俺…情けないっす…幸心先輩を楽しませたいと思ってたのに…」
その純粋な気持ちは、嫌ではなかった。
好意を持たれることなんて、日本人では何気に廉が初めて。
まあそれも、好きですって直接言われたわけでもないし、断定はできないけれど、もうそんな様な態度がさっきから滲み出ている。
「大丈夫だよ。そうだなー、ポテト食べたい」
そこにあったのは、普通のポテトより少し長めのロングポテト。
「お、じゃあわかりました!僕が買ってきますね!」
「いいよー。自分で買うから」
「そ、そんな!先輩に出させるわけにはいきません!」
「じゃあそうだな、はんぶんこしよっか」
「は、は、はんぶんこ!?い、いいんですか!?」
そのワードにドキッとしてしまう廉。
こういう、うぶなところを見ると、どこか俯瞰的な気持ちに入ってしまう。
(ときめかないなぁ…)
ドジで一生懸命。だけど、男の子として魅力を感じることがまだない。一緒にいて、気持ちがハッキリしてきた。
2人で食べるロングポテトは美味しかった。結局幸心はLサイズを3個買い、廉は驚きすぎて手が震えていた。
「めっちゃ食べますね…」
「そうなのよー。食欲止まらなくてね」
「そ、そんな幸心先輩!素敵です!」
「大食いなだけだよー。でも、食べるのは大好き。去年はあんまり食べられなかったんだ」
「そ、そうなんですか…?大丈夫ですか?」
「うん、全然気にしないで。今は大丈夫なんだ」
ルナの出来事を、廉は知らない。
意外な言葉に廉はびっくりしたが、すぐに穏やかに笑った。
「たしかに!今食べれてますね!それなら良かったです!」
ただ、優しく笑っていた。
ようやく、素直な彼を見た。
姉のような友達を失った、だなんてこの子には言えない。
でも。
私の今の喜びを受け入れてくれるのは、素直に嬉しかった。




