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見て?

3年生が待ち合わせをした時刻のおよそ30分後。

瑛斗とるりは、陽と風花を待っていた。

「あの2人、遅いね」

「くっくっくっ。エイティーの闇の魔力により2人は魂を吸収されてしまった。ここに現るのも不可能に等しいだろう…」

浴衣ではなく、ロリータの世界観が強く強調されたファッションにるりは身を纏う。

「いつから俺は魔力を宿すようになったの…」

そう独自の世界観に浸り、街の賑やかさに触れて大層ご機嫌なるりの様子を見て、瑛斗は頬が緩んだ。

それを見て、るりが照れながら、

「な、何がおかしい!」

「いや、久しぶりにみんなとこうしてゆっくり一緒にいられるのがシンプルに嬉しいなぁって。学校行かないと何だかんだ会わないからね」

「ところでエイティーの魔法は回復しつつあるのか?」

「ああ、お陰様でね。マジックの世界大会に行くまでの力はまだないけど、いつか。あのステージに返り咲きたい。そう思えるくらいにはなってきたよ」

きっと。あの時、みんなの顔を見なければ。

とっくに心が折れていたのかもしれない。

わざわざ北海道に駆けつけてくれたこの子のお陰だと、本当に思える。

「るり、ありがとね」

そう瑛斗に微笑まれて、顔をつい赤くしてしまう。

「瑛斗がへなちょこ魔法使いだから、この邪悪な根源主の生まれ変わりであるワレが仕方なく魔力を貸してあげてるのだ」

そう言ってぷいと向こうを向いてしまうるりが愛おしくて仕方ない。思えば、時間はそれほど経っていないのに、師匠を助ける為の戦いは恐ろしいほど長く感じた。そして仲間とのコミュニケーションが確実に減っていたのも感じていた。素敵な仲間に恵まれていることは、すごくよく実感している。でも。いつも少しだけ達観してしまって、みんなが幸せになってほしいと後ろから見てしまう。自分が普通の部員の一人であるだなんてやはり思えないくらい、純粋に真っ直ぐ生きてきた心地がしなかった。

「お待たせ〜!」

陽の元気な声が聴こえ、一緒に風花も小さく手を振る。

「瑛斗くん、るりちゃん、待った?」

「ううん、平気平気!るりとお話してました」

そう言われると、るりはふんっとまた向こうを向く。

「あ〜、照れてる、るりちゃん」

そう陽が茶化すとるりは顔を真っ赤にし、

「て、照れてなんかないぞ!ハルもフーカーも、待たせ過ぎなのだ」

そうツンツンするるりを見て、風花も頬が緩む。

「あははっ、可愛い」

2人が浴衣姿であることに、瑛斗は気付いていた。でも。わざわざ言うとそれはそれで照れくさい。


それに。それを言うのは。


「さて、楽しもう!」

瑛斗はすぐに目をそらして、歩き出す。

二人の表情は敢えて見なかった。きっとこれは恐れだ。

ビビっているのだ。

自分の言葉がいつか。誰かを傷付けてしまうのなら。

スタスタと歩いていく。前を見て。

気持ちを切り替えて歩きながら、ふと本当に思う言葉で埋める。よくよく思い返せば、陽から聞いていたことと違う光景に、疑問を持ったからだった。

「そう言えば、今日は城島先生も一緒なんだよね」

「うん。ほら、そこ」

わたあめコーナー。上手く絡め取ることができず、不格好な形のわたあめを作っている城島先生がいた。

「うぅ…難しい…」

悩む彼女がチラッとこちらを見ると、ぱあっと明るい表情になる。

「みんなー!」

愛くるしい顧問の先生に、一同も笑顔になる。

「先生、わたあめ作ってたんですね」

そう風花が問いかけると、城島先生は、

「まあねぇ。私、達人だから。達人」

持ち手の棒の部分までわたあめが侵食し、全然理想のかたちを保てていない姿を見て、陽が笑った。

「全然うまくないじゃん!」

「えぇ、そうかなぁ」

「相変わらずだね、美月ちゃんは」

陽のその言葉に、一同が心の中でおおっと驚いた。


瑛斗は心の中で思う。


(笑顔だ。陽が、城島先生に向けて笑ってる)


風花も思う。


(初めてみんなの前で、美月ちゃんって呼んだね)


そう各々が感じている中、既にるりはわたあめ作りにチャレンジをしていた。

「ふっふっふっ。この邪悪なる根源種のワレにかかれば、こんな白煙の化身など造作もない…」

すると作成中に発生するわたあめの糸がるりの腕に絡まり、もうめちゃくちゃになる。

「うわぁ!べとべとする!」

そんな姿に一同笑いが絶えなかった。



*******



陽は、美月とるりと嬉しそうに楽しんでいる。その姿を後ろから眺める瑛斗と風花。

「陽、元気そうでよかったよね」

「あ、うん。瑛斗くんは結構夏休みの間は陽ちゃんとあってたんだっけ?」

事前に、日向のことは、風花には話していた。

「陽のお父さんの件があって、ここ最近はやるべきことも多かったからさ。でも、そんな直接陽と沢山話したわけじゃないよ」

「そうなんだ。陽ちゃんのお父さん、無事だったって陽ちゃんから聞いたよ」

「俺も本当に安心した」

「瑛斗くんが色々動いていたんでしょ?陽ちゃん、すごく嬉しそうに私に話してたよ」

「へえ〜、陽ったらそういうこと俺に何も言わないんだよな。まあでも俺はホントに何もしてないんだ。俺の父さんが治せるかもしれないっていうそのお医者さんを一生懸命引き受けてくれるよう説得したから今がある。だから俺はホントに何もしてない」

「瑛斗くんはいつも謙遜してて、すごいなって思うよ」

「謙遜ってわけじゃないよ。ただ…」

賑わうお祭りの喧騒の中で、聞こえにくいかもしれない。

だから言いやすいのかもしれない。

「大切なものをくれた人を大事にしたい。関われるのであれば関わっていたい。それは日向さんに限った話じゃない」

ふと思ったのだ。最近話せていなかった。それだけのことなのに。

「だから風花のことも…」

そこで留めた。誤解が生まれる前に。

いや、厳密に言うと難しい。誤解、ではない気もする。

何かを守ろうとしている。

でも。伝えなければ。

「え?」

「俺が幸せでいられているのは、風花がこの部活に誘ってくれたから。だから…そうだな…恩返しをしたい」

そう濁したけれど。

既に風花の顔は赤くなっていた。

「そっか…」

風花は心で思う。


(言葉を伝えるのが下手な人だなぁ…)


大事にしたい、と言ってくれる流れだった。

期待のしすぎだったかもしれない。

だったらせめて。聞いてみよう。

これを聞きたくてお母さんにお願いしたんだから。

「瑛斗くん、あのさ…」

そう口にした時に、陽が笑顔で駆け寄ってきた。

「風ちゃーん!見てみてー!射的だってー!やろやろ!」

「あ、うん」

陽に引っ張られる形で風花は射的へ向かう。瑛斗が取り残されたところにるりがやって来た。

「エイティー。クレープ食べたい。よろしく」

「何で奢るの前提なの…」

「エイティーはワレの忠実なしもべだからな!ふっふっふっ」

そう言われると、ふっと気持ちが軽くなる。

「はいはい、良いよ、一緒に食べよっか!」

すると、少しキョトンとするるり。

「え、どしたのるり」

「いや、エイティーに悪いし冗談のつもりだったのだが…」

「いや別にいいよ、るりにも迷惑かけたしね」

「迷惑っていうのはワレのテリトリーを荒らす新精力的な魔術のみだ。別にエイティーはのうのうと生きているだけの家臣に過ぎない」

「そうなの?」

「まあでも、どうしてもと言うのなら奢られてあげてもよい」

「なーにそれ!でもいいよ!何が食べたい?」

そう言われて、ぱあっと表情を明るくするるり。そんな姿を城島先生は温かい目で見ていた。



*******



瑛斗に奢られ、るりが満足そうに風花と陽の射的に合流して戦う。

良い勝負をしている中、城島先生が瑛斗に話しかける。

「色々ありがとね」

「城島先生こそ、姫乃先生を説得したそうじゃないですか」

「まああの人とは因縁があるからねぇ…。って、誰に聞いたの?」

「父です」

「やっぱりそうだよねぇ」

城島先生と姫乃の間にある因縁を、瑛斗に伝えられる身近な人物は零。分かっているのに、分かっていないフリをした城島先生に瑛斗は、

「俺、そういうの見抜いちゃいますよ。今のわざと聞きましたよね」

「あら〜、マジシャンってメンタリストとは違うよね?人の心を読めちゃうの?」

「人の心を読むことはできないけれど、常に他人の動きを追う癖があるんです。でも今回はそれってあんま関係ない」

「ほう?それはどういうことかな?」

「何となく。多分、立場は違うけれど。城島先生とは何か近いものを感じます」

「え〜、もしかして今口説かれてる?」

「違いますよ!何か、こう…近い何かとしか言えないけど…」

瑛斗とルナの一連の出来事は既に城島先生は聞いている。

でも、自分の父の死は瑛斗に言ってない。

不公平で、ズルい大人だ。

でも。それを共感と強引にカテゴライズするのであれば。

先生としてできることを。

「シンパシーを感じてくれてるのは嬉しいよ。その感覚、あってる。でも、君の問題は君の問題なんだ。だから、君は君の力で乗り越えなきゃいけない」

城島先生の声はずっと優しかった。なのにズシンと心臓に伸し掛かった気がした。確実に何かを覚悟して乗り越えてきた人であることは、瑛斗にとってもよく分かった。

「乗り越える…か…」

「さあほら、陽ちゃんが射的ボロボロに負けて脱落してるよ。こっちに来る。君が大切にしたい気持ちに従うんだよ」

城島美月はどこまでも強い人。

いつしか何となく思っていたその感覚は間違っていなくて、でも少し違うような気もした。

そうしているうち、陽がこちらへ来る。

「はあ…思ったより射的って難しいのね」

陽が暑そうに髪をかき分けた。それを見て、少しだけ心が騒いだ。

一瞬動いたその気持ちはすぐに落ち着かせて。いつも通りに笑う。

「まあ難しいよね、射的って」

その少しの瑛斗の戸惑うような表情に、少しばかり陽は疑問を感じるも、何のことかよくわからなかった。

「どしたの瑛斗」

「何が?」

「今ちょっと何か顔がブサイクだった」

「え!?酷くない!?」

「ふふふっ」

思わぬ言葉が陽から飛んできてびっくりする瑛斗を見て、思わず笑ってしまう。

「笑うのはおかしいでしょ!侮辱罪です!」

「へーえ、そうですか」

冷めた目をしてみたり、ケラケラと笑ってみたり。一通り瑛斗の反応で楽しんだ後、陽は少しだけかしこまった。

言わなきゃいけないのに。すぐ言えなかった。

今からでもしっかり伝えよう。

「ありがと。あらためて」

そう言われて。何だか照れくさかった。

動いてよかった。それだけは確か。

これが誰かの為に何かする事なんだなって、立ち止まって考えられた。

「大丈夫、って言ったでしょ。俺の言う通りになった」

何偉そうに言ってるんだといういつもの陽の表情が分かりやすく、そう言われるんだろうなと思っていたが、実際に言われた言葉は違かった。

「うん、そうだね」

きっと、止まった時が動き出した。

自分の為だけでは不完全だった。

人に深入りするだけでは未完成だった。

これがきっと。自分らしさ。

言い聞かせなのか、型を見つけて落ち着けたのかは分からないけれど。陽と多くの言葉を交わしたわけではないけれど。自分らしさみたいなものは何となくこのタイミングでようやく分かってきたかもしれない。

自然に陽と笑い合って、この時間を共に過ごして、という特別さは"かつて"の感覚に少しだけ似ている。

全く違うものなのだろうけど、代償行為で得たものではないと思える。

瑛斗の中で、この時間をそう過ごしていける気がした。

そんな2人の並んで歩く柔らかな表情を見て、風花は何も声をかけられない。

そうなることは何となく分かっていた。

どこからだろう。

止める止めないとかじゃない。

入っていけない何かだ。

北海道から帰ってきて、知らないところで2人が会っていた。そして気付けば事は大きくなって、陽の父親の命が助かるかどうかに瑛斗が関わっていた。

こんな自分のちっぽけな感情では、太刀打ちできない、大きな宿命の中にいた2人だ。

もうそんな2人に私は何を言うこともできない。

絆が固まっていった2人に、横槍を投げたくたって難しい。

ここまで秘密にしていたサプライズが、腐ってしまっていくような気がした。

せっかく頑張ってこの夏に磨いてきたイラストの技術も、沼瀬月渚を追っていたようなだけに感じる。

努力だけでは、彼と運命で結ばれた彼女に勝てない。

そう思うしかないような気もしてきた。

ボーっとそんなことを巡らせていたら、るりが言う。

「ふーちゃん」

「はい、え?今、ふーちゃんって言った?」

「フーカー、今はふーちゃんという感じだ」

「ど、ど、どういうこと?」

突然のるりの言葉に困惑を隠せない。

「しっかり者のフーカーとふわふわのふーちゃん、とでも言えば良いか」

「つまり今の私は、ふわふわのふーちゃんってこと?」

「そうだ。天然気質な可愛らしさを持ち寄せるのは乙女の武器と言えるだろう」

「今の私がそう見えてたの?」

「いや、残念ながらそういうわけではない。今回のふわふわは、心ふわふわと言った感じだ。いわゆる、心ここにあらず。ふー先輩らしい」

「まあ、そうねぇ。考え事してた。いいね、ふー先輩呼び。ありがと」

表情が沈む風花に、るりが声色を変えて、素の言葉で返した。

「ふー先輩、はる先輩に嫉妬してるの?」

「し、嫉妬!?ま、まさか…」

「まだみんな、本音でぶつかりあってないでしょ。だからちゃんと言えばいいんじゃないの?」

「る、るりちゃん、もしかして…」

「わかる。そんくらい。バカにしないで」

「鋭いねぇ。というか、先輩の恋愛事情知られるの恥ずかしいねぇ」

「あたしは先輩3人には感謝してるから、あんまり喧嘩しないでくれたらそれでいい」

「喧嘩か…。そうならないように、ズルは上手にするね」

「ズルはするんだ、ふー先輩…」

「そうなのよー。私、陽ちゃんと違って、ズルはするタイプなのよ」

風花が努力する人だと分かっているから。本人はそれをズルだと思っているから。だからるりは何も言わなかった。

しばらく楽しむと一行は一足先についていた3年生組とトラミヤビ、そして幸心と廉のもとへ合流した。


全員で花火大会を見る。

真ん中の瑛斗から両サイドに陽と風花、そしてそれぞれみんながいたかった人のそばにいる。

本当に幸せな景色だ。

きっとここにいる誰もが、他人の幸せを願い、自分の目標を叶えたいと思っている。

上手くそれを言葉にできないまま、時の流れに後悔しながら、それでも。

前へ進めない日もありながら、それでも。

上手くいくことだけが幸せじゃない。


それでも。


高まる。

気持ちが高まってしまう。


瑛斗くんと陽ちゃんが笑い合っている。


それを見るとどうしてもこの気持ちは高まってしまう。


なぜだろう。いつからだろう。


いや、いつから、だなんて、もうずっと前から明確だ。


だから気付かれないように。

そっとタイミングを伺ってきた。

そしてこれからも、そのタイミングなんてやってこない。

だって。


陽ちゃんは瑛斗くんが好きなんだろう。


それは今までの会話で何となく分かってる。


じゃあ瑛斗くんは?


ルナさんの影はもうなくなったのかな。


ずっと。風花はそんなことばかり考えてしまった。


「こんな景色を見ながらフランクフルトを食べたいねぇ」

瑛斗がそう腑抜けて言うと、風花は笑う。

「今、花火始まったばかりでしょ?先に買えば良かったのに」

「あははっ。意外とこうやって始まってから気付くものなだなぁって。映画館で言うなら、ポップコーン。何かを見るときに、口は寂しくなるもんだなぁって」

そう言った今。また持ち前の"ズル"が動き出す。

「じゃあ瑛斗くん、一緒に買いに行く?すぐそこだし」

「え?風花はいいの?花火の途中なのに」

「何発も上がってるし、今ならお店空いてるし、すぐ戻ってくれば間に合うよ」

「え、あ、そうか、じゃあすぐ買いに行くか」

そう言って瑛斗も風花と共に歩き出す。みんなが花火に夢中になっている隙に。

何が自分にできるだろう。きっと何もできないのに。

陽ちゃんはこの夏、瑛斗くんに何を想ったのだろう。

薄々分かっていた。分かっていないフリをするにしては下手すぎて。むしろ陽ちゃんに見透かされていると思う。

親同士に絆があるなら、生まれた時から勝ち目がないじゃないか。

そう、ヤケになる気持ちは心の何処かで、ここまでずっと晴れなかった。



*******




屋台でフランクフルトを買った瑛斗。打ち上がる花火を見ながら、見ているみんなのところへ向かう。

瑛斗は花火を見ながら、

「これぞ、俺の描いていた夏って感じだねぇ」

「バンクーバーでは花火って見れるの?」

「ほとんどないかな。特別な催し物の時くらい。日本の花火は本当に魅力的だよ」

「そうだねぇ」

この景色を、ルナに見せたかった。

結局よぎるのはそんな気持ちだ。

前を向いて生きていても。考えるのはルナのこと。


本当に、大事だった。

好きだよなんて、やっぱり安い言葉だった。

それ以上の感情だった。でもそういうしかなかった。


「瑛斗くん?」

「ん?ああ、ごめん、考え事してた」

「そ、そうなんだ」

美術館の時と同じ顔。掴めなかった彼を、何だかようやく少し分かった気がした。


きっと。

今じゃない。

私。踏みとどまって。

よく考えてみればわかるよ風花。

瑛斗くんの何を知ってるの。


陽ちゃんや陽ちゃんのお父さんほどの絆もない。

杏樹先輩ほどの知り合いでもない。

平城くんほどぶつかってもない。


私には何もない。

泉瑛斗の何も知らない。

本当に悩んでいた彼のことを、表面的にしか見てこれてない。

それなのに、「あの彼を知ってる」ってだけで優位性をずっと保ってきた。

誰にも見せたことのない笑顔を、"誰も知らないあの日"、"私にだけ"見せてくれた。


それでも。

私は"あの日より向こう"で、彼を知る術をなくした。

そして彼はいつしか私の元から消えた。


美術館の時、私にだけルナさんのことを教えてくれたことに深い意味はないと思う。その場にたまたまいたのが私で、少しばかりか彼が心を許してくれたのだと思う。

そりゃあそうだ。私はそう思わせる心理を彼に持たせる力だけは、他のみんなより長けていると思う。

でも流石に美術館で声をかけて来た時はびっくりしたな。私の正体がバレるところだった。


でもバレるわけがなかった。

なぜなら彼はあの美術館の日も、そして今も、沼瀬月渚を景色に重ねて見ている。


陽ちゃんが仮に夏の間、どれくらい距離が縮んでいようとも、この人は今日もまだこうやって、ルナさんを思い出して勝手に反省している。


だからまだだ。体制が整うまで、私は私のペースを…


いや待って。


そういう風にしてきたから。


いつも夢を自分の手で掴めていなかったんだ。


タイミングを伺って、人の顔色を伺って、反応を伺って…


みんなが私のピアノの発表会に協力してくれた時、嬉しかったなぁ。あのくらい、心が躍る体験をしたいなぁ。


大好きなものを大好きって、この私が言えたんだ。


何者でもなかった、この私が言えたんだ。


でも…タイミングを…タイミングを…


「花火綺麗だね。風花」


そんな顔で言われては、タイミングが狂わされてしまう。


気付けば手を引いていた。


気付けば人気のいない茂みへ彼を連れて。


「ふ、風花!?どうしたんだよ!?」


高く上がる花火をバックに。



彼を、押し倒していた。





「見て?私のこと」







色んな想いが交差する花火大会。

まさかの風花が動き出しました。

果たして、これからどうなっていくのでしょうか…。

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