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交流部って何なんだ!

仮入部したその日。

「では、改めて自己紹介をどうぞ!」

そしてにこばっと瑛斗は微笑み、嬉しそうに、

「泉瑛斗です!趣味は手品です!アマチュアで大会出た経験もあるので一番の特技です!よろしくです!」

それを聞いて、琴葉はおお!と驚く。

「あの去年ニュースになってた…!?」

「はい!あの、泉です!」

「えー!全然気づかなかった!たしかに髪型と服装違うから分からなかったけど、泉瑛斗って名前だもんね!うわぁ!有名人じゃないの!」

「いやぁ、それほどでも〜」

するとジトっとした目で陽が返す。

「なーにデレデレしてるの。アンタこういうの慣れてるでしょ」

「まあ、そうなんだけどさ、でもやっぱ知ってもらえてるって嬉しいじゃん!」

純粋無垢に喜ぶ彼の姿を見て陽は呆れたため息をつくも、風花とともに小さく笑んだ。

「なにか簡単にできる手品はあったりするの?」

琴葉の問いに瑛斗は周りを見渡し、

「そうですね。じゃあたとえばこれ!」

黒板の方へと駆け寄り、チョークを一本取り、左手の人差し指と中指で持った。

「このチョークを右手で覆うと…」

サッとかざし、手をどけた次の瞬間、そのチョークはボールペンへと姿を変える。

「えぇー!?何で!?」

陽が声に出して驚き、他の二人も目を丸くした。

「実はね…」

瑛斗が人差し指と中指で摘んでいるボールペンをどけると、その手のひらにはまだ、チョークが残っていた。それを見て風花が驚く。

「え!?手のひらに残ってたの!?全然気づかなかった!」

「角度を変えるだけで、まだ手にあるけど見えないようにすることはできるんだ!変化したように見えたボールペンは右手で元々持っているのを隠してて、手を覆い被せるのと同時にチョークを手のひらに落っことす。そうすれば自然と変わったように見せられるんだ」

「うおぉ〜!」

3人が納得の声を上げる。琴葉と陽は満足そうに、

「うん、気に入った!君を正式に部員に任命しよう!」

「うむ!よくやったね瑛斗!」

「え!?任命!?」

琴葉と陽の、えへんと胸を張るその姿に風花はため息を付き、

「先輩、そんな制度はないですし、彼は仮入部ですよ?入るかどうかは彼が決めるんですから」

「あら?泉くんには入ってほしいわ」

急に決断を迫られ、苦笑いをしながらも、

「ま、まあ皆さん楽しそうだからわりかしありかなーと…まあでもそもそも何をするところかよくわかってないのもまだ正直なところですし…」

「そんなの入ってから決めちゃえばいいじゃん!ビビリだなぁ」

「ちょっと陽、勘弁してよ…俺もまだ悩み途中だし!」

「甘いわねぇ。まずは当たって砕けろスタイルが一番だわ!何事も挑戦よ!」

「それもそうだけどさー!」

二人が言い合う姿を見て、風花は静かに笑い、隣の琴葉に話しかけた。

「琴葉先輩、こういうのを楽しみにされてましたよね」

「うん。陽が生き生きとしてる姿、もしかしたら久々に見たかも」

「それにしてもまさかです。私が今日仲良くなった子が、前に陽が話してた子だったなんて」

「本当にまさかのこと?前に陽がここで言ってた、帰国子女の知り合いが転入してくるって話、私と一緒にあなたも聞いてたし。敢えて連れてきたんでしょ?ここに」

「あはは!やっぱり琴葉先輩にはお見通しでしたか。絶対に陽ちゃんが喜んでくれると思ったんです。あんなに社交的な陽ちゃんでも意外と攻めの一手は弱いから、多分『交流部に仮入部しにおいで!』の一言が言えないんじゃないかと思って。そしたら案の定でした」

「風花も何だかんだ、陽が大事なのね」

「まあ、陽ちゃんとはご存知の通り、色々ありましたからね。あ、でも、まさか陽ちゃんから話だけしか聞いてなかった瑛斗くんと同じクラスになるとは思ってなかったので、そこは本当にまさかですよ。こうやってこの部活に誘うきっかけが作れたわけですから、これは運命です」

そんな二人が話している間も、陽と瑛斗はまだ言い合っていた。

「アンタすぐそうやって私の好みにケチつけるわね!そういうとこ、結構お子様よ!」

「別にケチつけたわけじゃないさ!それにお子様ってなんだ!」

何だかその光景は風花にとって。


「眩しいなぁ…」





***************






特にこれと言った活動をしたわけではなく、改めて今後の方針が伝えられて部活は終わった。

放課後、陽と二人で家路を歩く。

「瑛斗、さっきのことだけど、私はカレーには絶対にたくあんだから!」

「いいや!福神漬けの方がいい!そりゃたくあんも美味しいけど絶対に絶対に福神漬け!」

「あんた結構、見かけによらず頑固なのね!もっとジェントルマンだと勘違いしてた」

「人それぞれ好みがあるんだから認められてもいいと思うだけ!」

「じゃあ私の好きなものも認めてもらわないと!」

お互い薄々超どうでもいいことで言い合っているのは気づいているけれど、何だかその掛け合いが、呼吸が、リズムが心地よくて、異論だろうが弾んでしまう。

「あーもうなんでもいいや、私も別に福神漬け嫌いじゃないし」

「いえーい、折れた、俺の勝ち」

「子供ねぇ、ほんと」

ソラマチタウンが見えてくる。そこを更に突き進んでいく。

「ねーね、瑛斗。部活さ、実際のところどーだった?」

「うーん、実際のところかあ。まあ、楽しそうだなって感想がほとんどなんだけど」

眉をハの字にし、夕暮れの天に本音を吐いた。

「あの部活が何であるのか、何が楽しみであそこに集まってるのか、今日の話だけじゃイメージが沸かないのが正直なところかな。陽は何で入ったの?」

「うーん、私は色々訳アリでさ」

「え、どういうこと?」

「私、琴葉先輩と中学校が一緒でさ。あの人と一緒に茶道部に入ってたの。でも私、体動かすのが好きで、途中で茶道部辞めちゃって」

「へぇ、そうだったのか」

「うん。高校生になって、たまたま琴葉先輩と同じ学校に入れたから、色んな学校の情報を教えてもらったの。せっかくだから今度こそ一緒に同じ部活で頑張りたいなって思ってたんだけどさ、琴葉先輩、部活に入ってなくて」

「え、交流部は?」

「なかったよ。というか、あれは琴葉先輩が1年生の秋に作った部活」

「まじか」

「その後、琴葉先輩が2年生になって、私が1年生だったからさ、夏までは私、女バレに入ってたんだよね」

「じょばれ…?」

「あ、ああ、そっか、あんた略語とかわからないよね」

「ごめん、日本語は専門的なものはわからない」

「別に専門的でもないけど、女子バレーボール部のこと」

「おお、なるほどなるほど」

染まる夕暮れに合わせ、暗がりを身体に伝わすように、陽の足取りがゆったりになる。

「でも、私、また部活辞めちゃったの。たった4ヶ月で」

「え、辛かったの…?忙しくてついていくのがしんどかったとか…?」

「ううん、こないださ、男友達いないって言ったじゃん。私さ、女友達も部活でできなかったんだよね」

悲しげな言葉を、目一杯明るく振る舞う彼女の姿に、瑛斗はハッとしてしまう。

「私、自分のキャラクターのせいなのかわかんないけど、そこそこ明るくて、打ち解けやすいタイプだったからみんな気軽に話してくれて。気づいたら全員そんな感じで、誰も深く親しくなれなくてさ。固定のグループ作った子達はみんな遊びに行ったりしてて、私はいつも全体の集まりのときにしか誘われなくて。変に要領いいように見えるだけの子なんて、あんま需要ないのかなって」

「そんなもん…なのか…」

彼女の言葉はずっと明るかった。もう過去と割り切って話しているのは伝わった。でも、どこか今も、その性格的な部分は心に引っかかってるんじゃないかと。

だから瑛斗は言葉をかけた。

「でも今は、風花がいるじゃん…?交流部もある。あの琴葉さんっていう先輩もいる。それは楽しいんでしょ?」

自分なりに言葉を選んだつもり。だから彼女の反応が怖くなった。

でも、陽は元気よく答えた。

「うん!だからもう前のことなんてチャラみたいなもんよ!風ちゃんがいてくれたから、今の私があるんだし。まあでもその辺りの話は風ちゃんの許可とってないから内緒〜」

「ええ、めっちゃ肝心なところじゃんか」

「まあ私達お姉さん達は色々あったのさ。お子様にはわからないようなことよ」

「またすぐそうやってバカにして」

陽の話を聞きながら瑛斗としても少しずつ腑に落ちるものがあった。きっとそこにいる人達は、何かに打ち込むべくして集まったのではなく、きっと、何かしらの存在証明がしたくて、そこにいるような気がすると。

「風ちゃんさ、多分私に気を遣ってアンタを連れてきてくれたんだと思う」

「え!?そうなの!?」

それまでお姉さん気取りだった陽の表情は和らぎ、照れくさそうに言う。

「実際さ、私、アンタの話、部活でしてたの」

微笑んだ彼女の姿に、言葉に、瑛斗の頬が染まる。

二人は、同じ景色を思い出す。





昨年。バンクーバーの駅。

「おいおい姉ちゃん、遊ぼうぜ」

と英語で絡んでくる複数のチンピラ。ガタイの良さは日本人とは比べ物にならないくらいの筋肉質で、陽は泣きながら震えていた。

手を捕まれ、声に出して叫ぶ。

「やだっ!離して!」

そしてその手を払いのける一人の男子。


パンッ!


力いっぱい、その男の手を払った。囲まれた男たちから彼女の手を引いて、一気に走り出す。

「あなたは…?」

「泉瑛斗。大丈夫、安心して。君と同じ日本人だから」

もう既に。

この時に。


陽は全力で手を引いてくれる彼に、心が動いていた。





あれから半年。

こうして今日という日を二人で並んで歩く。

「何で、俺の話、してくれたの?」

すると、それまで横に並んで歩いていた陽がとててっと前に走り、振り返って瑛斗に顔を近づけた。


「私の王子様だからって理由じゃダメかな?」


「え…?」


夕暮れに染まるその肌の光耀に、瑛斗は時間が止まったような感覚だった。


しかし、すぐに陽は吹き出した。

「あっはは!ばっかね。単に知り合いが転入してくるって話、あの二人にしただけだよ。真に受けないで」

「びっくりした…」

「なに?本気にしちゃった?アンタ意外と単純なのね」

そうからかう彼女の笑みに、何らかの意図がある気がする。不透明な彼女のその感情を知りたくて、これまでの経緯を尋ねる。

「でも陽なんでしょ?お父さんに頼んで、俺をこの高校に入りやすくしてくれたのって。帰国子女の枠が設けられてるこの高校の制度を利用すれば俺は高校の編入試験を受けずとも入ることができる。それが分かってたから、俺があの駅で名乗ったから、お父さんの会社の同期に同じ苗字の人がいたから、それが俺の親父だったから…だから陽は…」

言葉の途中で、照れ隠しなのか陽は言葉を遮る。

「そこを突き詰めてどーするの?私は、ただ私がしたかったからそうしただけだよ。でも失敗したかも。私の大切な思い出の王子様が、こんな福神漬けにこだわる頑固くんだなんて」

「悪かったね…福神漬け好きで…」

「あはは!やっぱり変な人!」

そう陽はおかしそうに笑った。

スカイツリーの色は多様に変化しながら。

日が沈んで到着した社宅の空気は、どこかまだ温かくて。

「じゃあね、また明日!」

手を振る彼女が、可愛らしくて。


"あの出来事"からもう封印すると決意した感情が、瑛斗の中で少しだけ揺らいだ。






***************






今日もいつものようにチャイムが鳴る。

陽と風花が、ぴょこぴょこと瑛斗の方に近づいてくる。風花が近付きながら言う。

「瑛斗、今日部活行く?」

「今日は何をするの?」

「それがまだ決まってないんだよね。琴葉先輩が多分色々教えてくれると思う」

「ほー。そんなもんか。まあ特に予定もないし、行くよ」

「そっか!」

嬉しそうに顔色を明るくする陽を見て、風花はニヤける。

「もー風ちゃん!何でニヤニヤしてるの!」

「んーん?陽ちゃん可愛いなぁって」 

「もー!からわないでよ」

特に行きたい部活もなかったし、知り合いもこうしてできた。だから瑛斗は彼女たちに連れられあの別棟へ行く。

前を歩いていく女子二人。

ショートヘアでありながら後ろに小さく結ってある陽。セミロングの髪をおだやかに纏めた風花。

さっぱり明るい、まさに陽の光のような存在である陽と、同じく元気で、けれどズボラな陽とは異なるしっかり者の風花。

似て非なる明るさの対比は、二人の温度からも伝わってきた。

「こないだね、なんかすっごい美味しいケーキ屋さんあってさ!風ちゃんに紹介してあげるー!」

「いいね!一緒に行こ!太りたくないけど」

「気にしなくていいの!風ちゃんは普通に生きてるだけでも可愛いんだから!」

「陽ちゃんは元々スタイル良いけど私はそうじゃないの」

普段から誰にでも気さくでフレンドリーな陽は、一見すると誰もが親しみやすい人柄である。だが本人の懸念している信頼関係は生まれにくくて友達が作れないということも、きっと風花は受け止めてくれるのだと分かった。


何より、陽の自然な笑顔を見れて、瑛斗は嬉しかった。





***************





その扉を開けると、琴葉は昨日座っていた席と同じ場所で待っていた。

「こんにちは」

「お疲れ様です!琴葉先輩!また瑛斗誘拐してきました!」

「お!いいねぇ。でもできれば合法で連れてきてほしかったなぁ」

「ま、瑛斗に遠慮なんていらないですから!」

おいおいと思いながら二人の会話を聞く。陽の無邪気な声に優しく笑む琴葉は、やはり年上らしい余裕を思わせるもので、瑛斗はただそんな二人のやり取りを微笑ましく思った。

その気持ちを察したのは、瑛斗だけではなく。

「あの二人、仲良いよね」

「うん、そうだね」

風花が静かに優しく、息を吐くようにそんな言葉を口にした。

陽のあんな気持ちを聞いたから。

尚更、風花以外の人とも自然に話せていることが、より安心できた。

琴葉はチラシを束ね、瑛斗の方へ持ってくる。

「今日もありがとね、泉くん。交流部の宣伝も兼ねて、ビラを配ろうと思うの」

「あ、はい!わかりました!」

そのビラに書かれていたのは、


『気の合う友達、作りませんか…?』


そのど直球過ぎるメッセージに、思わずクスリと笑えてしまった。

「琴葉さん、まんまですね」

「ま、書くこと特になかったからね。何とも伝わりにくい部活だし、こう言って部員を集めるしかないよ。1年生の体験希望者も今のところゼロだしね」

たしかに思い返せば、部活の見学に行き、身を固め始めているであろう1年生はこの時期にチラホラ出ていてもおかしくはないはず。

そんな瑛斗の感覚は、妹の幸心が仮入部をいくつかしていることを思い返して生まれたものだった。

「でもこの別棟静かですし絶対居心地は良さそうですね。ぜひ体験に来てもらいましょう!」

チラシを100枚ほど、まとめて紙袋に詰めて外に赴く。まだ仮入部の段階の瑛斗が積極的に動く様子を見て琴葉は素直に嬉しかった。


(この子が部員になってくれたら…きっと交流部は、何か変わるかもしれないなぁ)


薄っすらと生まれたその期待は、琴葉の目に映る陽の姿。


(陽は風花とベッタリだから、ここで友達作れるチャンスだし。泉くん、陽を何とかしてあげて)


あんなに苦しかったから。

もうあんな想いをしたくないから。

部員たちの大切な時間を、もう奪ってしまいたくないから。


琴葉はこれまで、そんな想いを抱えながら今日を迎えてきたことなんて、瑛斗は知る由もない。






***************






教室周り、そして廊下。

一通りポスターを貼って、外に出る。

「こっちは私と琴葉先輩で貼っておくね」

風花がそう手を振ると、瑛斗は振り返し、

「わかった!陽とこっち貼ってる」

外に出ると、下校中の新入生で賑わっている。中には部活のジャージを着用する男女もちらほら見受けられ、おそらくまだ部活を決めかねている複数の1年生へ向けて、ビラを配る。

「陽は正門でよろしく。俺は裏門に行くよ」

「うん!わかった!」

瑛斗は裏の正門へまわるも、人はほとんどいない。

とりあえず1年生のピンバッジを付けている、部活に入っているのかどうか不確定な子へ声をかけていく。

笑顔で振る舞えば、ある程度は部数をはくことができる。次第に無くなる中で、一人、影にコソコソと隠れている女の子を見つけた。

「こんにちは」

「うぐぅっ!キサーマ、何者!」

「キサーマ!?あ、えぇっと…2年の泉です。1年生だよね?よかったら部活に…」

「暗黒を纏いし者よ…邪悪に身を委ね、我ら悪の下僕の祈りと化すほかの選択肢は与えぬ…」

「え!?」

突然の中二病全開キャラに戸惑う。たしかに他の子と違い、明らかに校則違反の悪魔を模したネックレス、スクールバッグからはみ出た謎のマントと仮面。どう考えても普通の子ではない。

「聞こえなかったのか。キサーマは我が闇の守護神と共に超古代の文明を築きし開拓者となるのだ!」

「はい、これ、チラシ」

「きーけー!私の話ー!」

先程の戸惑いはどこへやら、ケロッとした顔でチラシを渡され調子を狂わされる彼女。

「君、面白い子だね!よかったらうちの部活おいでよ。と言っても俺はまだ部員じゃないんだけどね」

「ふっ。部活など光に身を落とした者共の戯れだ」

「まぁまぁそう言わないでよ。なんかメンバーすごく楽しそうだよ。少なくとも今いるメンバーは良い人だし」

「フフフッ。あまい。我は光に堕ちた輩と群れは作らず、我だけの領域を手にすることに成功した!それがオカルト部だ」

「オカルト部?オカルト研究部じゃなくて?」

「そこはなんでもいいのー!」

怒ると素に戻る彼女が、なんだか愛おしく見えた。

「ま、兼部ってのも考えてみてよ。はい、チラシ受け取ってほしいな」

「仕方ない。キサーマはパイセンだから、たまには大人しく従うのも闇の使者の流儀…」

すると、遠くから聞き覚えのあるある声が聞こえる。

「あー!るりちゃんこんなところに」

「こ、ここすけ!?天空より舞う光属性の天使!これはあってはならぬ再会…」

彼女があーだこーだ言っている視線の先にいたのは、瑛斗の妹、幸心だった。

「こ、幸心!?何でここに」

「お兄ちゃんこそ何してんの。私はるりちゃん取っ捕まえに来たの」

「お、お兄ちゃんだと!?キサマら、血縁を持つ光民か!それにキサマ…なぜ我の居場所を突き止めた…」

「だってるりちゃん、コソコソしてて逆に目立つんだもん」

「るりという名はこの世を偲ぶ仮物に過ぎない…。我が名は愛憎戦士ホタル・ダーク。おっと、簡単にこの世界の光民に名を告げてしまった…」

「お兄ちゃん、この子はね、堀田るりちゃん」

「なーぁっ!フルネームでバラされた!それは仮の名前!私はホタル!」

プンプンしているその子…堀田るりの名を聞いて、瑛斗は納得した。

「そうか!『ほったるり』の文字を部分的にとって、『ほたる』ってことか!」

「さらにバラされたァッ!しょぼん…」

一人しょぼくれているるりを放り、幸心が疑問符を浮かべる。

「お兄ちゃんは交流部だっけ?仮入部しただけなのに、何でビラ撒きなんかやってんの?」

「まあ、部員がほとんどいないから、駆り出されちゃって」

「ふーん。交流部ってさ、面白いの?」

「結構面白いよ。先輩も優しいし」

「私もまだ決めてないし次行ってみよっかな。ね、るりちゃんも行こ」

「わ、我はそんな集団に属すなんて…」

「いいからいいから!ほら、行くよ〜。じゃね、お兄ちゃん」

そのまま幸心は彼女を引っ張り、帰宅して行った。

「あいつ…めちゃめちゃ不思議な子と友達なんだな…」

彼女たちが去っていくのを眺め終えると、再びチラシを手にし配る。すると、そのチラシをひょいと誰かに取られた。

「ほー、交流部、気の合う友達、作りませんか…何だこの安直な謳い文句」

そうケラケラと笑うのは金髪でチャラい風貌をした、3年生のピンバッジを付ける男子生徒だった。服はユルユルに着崩し、ネクタイも締まらずだらんとしている。

「あ、はい、交流部です。僕は2年の泉です。と言っても部員ではありませんが…」

「君が泉か。あの手品すげー上手いって有名な奴だろ?校内で転校してくるって3年の間でも話題になってたしな」

「え!そうなんですか!僕なんてまだまだですし」

「なーにも謙遜しなくていい。あ、俺は柊って言うんでよろ〜。今年受験でさ、正直部活どころじゃないから申し訳ねぇんだけど入ってやれねぇんだ、すまんね」

「いえいえ。実際そうでしょうし。まあもし気が向いたらお越し下さい」

「んま、気が向きたらね。そんじゃ、また会ったらそんときはヨロシク!」

人差し指と中指を合わせ、うぃっすと挨拶を飛ばして彼は去っていった。

「不思議な人、パート2だったな…」

そんな感想を持ちつつ、瑛斗は残りを配っていった。







何で自分の部活でもないのに、あそこまで一緒になって積極的に動いてくれるんだろう。


ふと思ったそんな想いを陽は心に留め、目の前の子たちにビラを撒く。

「交流部でーす、宜しくお願いしまーす」

無情にも、陽のビラを無視して、彼ら彼女らは正門を後にしていく。

「宜しくお願いしまーす」

「あ、もう部活決めたんでー」

何人もが、彼女をすり抜けていく。

中にはビラを受け取ったあと、

「なに交流部って…変な部活…」

そう言ってビラを道端に捨てる者もいた。

そのビラを広い、一向に減らないその束を持って立ち尽くす。

だからなのか。

ふと、2ヶ月前のことを思い出した。





「琴葉先輩、このままでいいんですか?私は琴葉先輩も、レオ先輩も最後まで部活を全うしてほしいです!」

気持ちが走る陽を、風花が止める。

「やめよ、陽…お二人にしか分からないことがあるんだから」

「でも…!」

涙目の彼女を、琴葉は優しく諭した。

「まあ、私もいつかこうなる気はしてた。でも、引き止める権利は私にはないよ。レオは後輩が入って部活が安定したらやめるって決めてたんだと思う。私達3年生は、3人でいる時間が楽しかったから、もうそれが叶わない今は仕方ないことだよ」


(それだけじゃない…!レオ先輩がやめた理由は…!)


レオ先輩の気持ちは、ちゃんと伝わるべきだった。

二人とも不器用だから、すれ違いを起こしてしまったんだ。





それからずっと陽の心の陰りが晴れることはなく。

けれど琴葉のことを責めることはできず。

結局先輩は琴葉一人だけになって、自分は平然と友達を作るだなんて、そんな気には中々なれなかった。


「先輩が幸せじゃないのに…私が友達作ってもいいのかな…」


そう一つ呟いた言葉はそこにいた下級生の誰にも届かなかったけれど。

ただひとりが、十分過ぎるくらいに聞き取った。


「いいんだよ、友達作って」

「え、瑛斗…!?もう配り終わったの!?てか聞いてた!?」

「聞こえるよ。そんな配り終えない大量のチラシ在庫抱えて背中丸まってるんだもん」

「だって…」

「ちょっと貸してみ」

3枚ほどチラシを手に取り、下校しようとする下級生にむけて瑛斗は配った。

「こんにちはー!交流部です!よろしくお願いしまーす!」

「あ、ありがとうございます」

そんなやり取りが連続で3連発。ものの見事に、帰宅をしようと門の前を通り過ぎる1年生3名に連続で渡すことができた。

「うおー!瑛斗すごい!」

「へっへー。実はね、よくニューヨークとかでビラ撒いてたんだ。認知度ゼロのアマチュアマジシャンのショーを見る人なんかそうそういないからね。だから毎日300枚配るようにしてた」

「ひぇーそんな苦労してたんだ…」

「うん。だからね、ある程度わかる。まずね、アイコンタクトから始めるんだ。通りすがる瞬間にチラシを差し出すんじゃなくて、かなり遠いところから『あ、今、私あの人にチラシ渡されるかも』的な空気を作るのがポイント。そのためにはアイコンタクトをして軽く会釈。これだけで渡すよっていう小さなコミュニケーションが成立するんだ」

瑛斗はチラシを優しめに持ち、遠くを見据える。

「で、あとは、通り過ぎるまでの数秒間で喋りたいことを喋り切る。『こんにちは』と、『交流部』だけが伝わればそれでいいのさ」

「瑛斗…アンタそこらへん器用にできるのね」

「初めはできなかったよ。でもね、ちゃんと魂込めて、この一枚に大きな感動を生むことができるって強く念じて渡せば、きっといつか。願い事を叶えてくれる」

瑛斗の語るその姿には、これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきたかのような、そんな貫禄さえ陽は感じ取れた。

「ねぇ、陽。陽は、友達ほしいんでしょ」

「う、うん…」

「俺も同じ。転校ばっかで友達ろくにできなかったからさ。だから、二人で撒こう。そしたら、いつかこの紙は種となって実を結ぶから。俺が入る前に何があったかは知らないけどさ、でも1つだけわかった」

「分かったって…何が…?」

「たぶん、入部したら楽しいんだろうなって。根拠はないけどそんな気がする。風花が楽しいって言ってたから、俺はそれを信じることにする」

真っ直ぐ前を向く世界的な有名人は、立ち止まっていた陽の足を動かすきっかけを与えてくれた。


「私がいる部活よ。楽しいに決まってるじゃん」

「な、なにその自信…」

「いいの!私が気分変わらないうちに配っちゃお!」

「う、うん、配ろ!」



ただ一緒に配っているだけで。


たしかに胸が高鳴るから。


陽は、この人が気になってしまう。






ちょっと天然な有名人、泉瑛斗。

明るいけれど色んなトラウマを抱えている陽。

しっかり者で瑛斗と趣味が合う風花。

そして頼もしい交流部の部長、琴葉。


この4人がこれから、どんな風に関わり合うのか、そしてそれ以外のキャラクターがどう物語に交わっていくのか、期待して頂けたら嬉しいです。

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