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翡翠姫の恋煩い  作者: 八百原有希
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翌日から始まった蓮珠(れんじゅ)によるヴィエレト国の講義は、とても翠燕(すいえん)の興味を引いた。もともと知的好奇心旺盛な翠燕にとって自国との習慣の違いや、国の成り立ち、宗教観などはじめて知ることは新鮮で面白かった。また蓮珠は例え話や実体験などをもとに、史書(ししょ)を読むだけではない生きた知識をたくさん与えてくれる。


日に二時間ほど、三日に一回の休みを挟んで講義は行われ、ニ週間も経つ頃には各々打ち解けて態度も幾分砕けるようになってきた。



「お茶の準備ができました。本日は高李屋(こうりや)月餅(げっぺい)です」



「では、休憩しましょうか。ここの月餅は評判だと聞いています。是非翠燕にも食べていただきたくて、周桜(すおう)に買ってきてもらいました」



深李(しんり)が茶器を持って部屋にくると、蓮珠はさっさと開いていた書を閉じて、翠燕も(つくえ)を片付ける。蓮珠は毎回講義の際、必ず菓子を持参してくる。翠燕に、というが一緒食べる蓮珠を見る限り、自身も甘いものが好きらしい。講義の合間の休憩に、薔牙(そうが)や周桜も伴って皆でお茶をするのが翠燕の新しい日課になりつつあった。




「開店前から並ばされたんだよ、俺は使いっ走りじゃないんだけどね」



このニ週間であちこちへお使いに出されている周桜は、やさぐれたように肩をすくめる。初日に比べて周囲への口調がだいぶ雑になってきた周桜だったが、不思議と違和感なく馴染(なじ)んでしまっている。



「さあ、どうぞ」



「え、ええ、ありがとう。いただきます」



毎回楽しそうに菓子を勧めてくる蓮珠に気圧(けお)されながらも、翠燕は月餅をひと口食べる。薄皮が香ばしく香り、もったりとした餡に胡桃(くるみ)の風味が広がって、びっくりする程美味しい。王宮の敷地外に出ることのない翠燕には城下のお菓子の流行など知る由もなく、また食べる機会も無かった。たまに食べるお上品な王宮菓子とはまた違う素朴な味がとても好みだ。



「いかがですか?」



「とても美味しいです!」



「それはよかった」



翠燕がふた口目を食べ進める様子をみて、蓮珠は満足気な様子で自分の分を口にした。薔牙はひと口で豪快に口に入れてしまうと無言でもぐもぐと咀嚼(そしゃく)する。せっかく苦労して手に入れたのだから、もっと味わってくれてもいいのでは、と周桜が横で悪態(あくたい)をつくと、ごくんと飲み込んでから低い声で一言「うまかった」と返ってきた。薔牙は表情があまり変わらないうえにたくさん喋るわけでもないが、それが元々の気質らしいことがこのニ週間でわかってきた。そう思えば最初に感じた威圧感はさほど感じない。深李は細やかに気を配りながら、茶器に新しいお茶を注いでいく。


これが輿入れのための勉強ということを(のぞ)けば、翠燕にとっては楽しい時間だった。和やかな休憩を過ごし、講義が再開される。後半は、ヴィエレト国の産業についての話になった。



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