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翡翠姫の恋煩い  作者: 八百原有希
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04




その夜、沐浴(もくよく)も済ませて寝る前の支度を整えていた翠燕の部屋に、コツンコツンと窓を突く音が響いた。

すかさず窓を開けると、今朝の(からす)がまた手紙を咥えて入ってきた。



「1日に何度もご苦労様ね」



どこからきているのか分からないが、伝書鳩(でんしょばと)ならぬ伝書烏(でんしょがらす)として役目を果たしている烏を(ねぎら)い首の下を撫でてみる。

烏は猫のように喉を鳴らして目を細めた。

今度の手紙には今朝翠燕が出した手紙の返事が綴られていた。山仙(さんぜん)は手紙の主人の通称であり、烏には特定の名前がないのでむしろつけてやってほしいとのこと。また翠燕の頼みは快諾(かいだく)され、隣国のヴィエレト国は勿論、そのさらに向こうの国や、北の連合国などへ旅したことを少しずつ教えてくれる(むね)が書かれていた。


手紙を読み終えた翠燕は烏を見つめる。先程まで部屋の中をぴょんぴょんと飛び回り、今は寝台の横にある畳んだ毛布の上に落ち着いていた。



「名前ねぇ…」



五年前に保護した時は、いずれ自然に返すものだからとあえて名前は付けなかったのだ。飼い主直々につけてやってほしいというからには適当な名前はよくないだろう。とはいえ、愛玩(あいがん)動物など飼ったことのない翠燕にはピンとくるような名前は浮かんでこない。



「"くろ()"はあまりにも安直よね、鳥なのだから、"(よく)"?うーん、手紙を咥えてくるから"伝書烏"、いややっぱり見た目の印象で…」



語彙力も発想もつたない翠燕が名前の候補を出すたび烏まるで気に入らないとばかりに首を振る。



「黒いもの…"(うるし)"、"黒曜石"、"(かんざし)"…"(すみ)"、…"(すみ)"。"(ぼく)"はどう?」



(ぼく)と口に出した瞬間、烏はパッと顔を上げた。鳥ゆえに表情は読みとれないが、翠燕をじぃっと見つめている感じから、嫌ではないのか。何より先程までの反応とは明らかに違う。翠燕は気に入ったのだろうと勝手に解釈することにした。



「あなたは今日から"(ぼく)"よ、よろしくね」



翠燕は寝る前にと、急いで返事をしたためた。烏に墨と名付けたこと、いまヴィエレト国に着いて老師(せんせい)について学んでいることなどを書いてまた墨に託した。


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