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翡翠姫の恋煩い  作者: 八百原有希
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03




「龍蒼国第三姫、翠燕(すいえん)様におかれましてはご機嫌麗しく。この度は拝謁(はいえつ)賜り感謝申し上げます」



膝をついて下げた頭の前で両手を構える。お手本のような綺麗な礼を取るのは、隣国ヴィエレト国の使者である。黒髪の男性が二人。うち一人は腰に剣を携えていることから護衛なのだろう。さらにその背後ではこちらまで案内をしてきたらしい我が国の文官服を着た男が(かしこ)まっている。翠燕は大国でありながら、龍蒼国の礼にあわせて挨拶をしてくれたところに好感を持った。



「こちらこそ。遠い所からよくいらしてくださいました。どうぞ、楽にしてください」



そう言って着座を促す。顔を上げた彼らが翠燕の姿見たのは三秒程。(いぶか)しげな視線がくると構えた翠燕は、にっこりと笑った一人に拍子抜けした。もう一人は表情が変わらず。ついてきた文官に至っては、興味深げに繁々(しげしげ)とこちらを観察していた。三者三様の反応だが、少なくとも翠燕の容姿に忌避感(きひかん)は無いようだ。身構えていた分、肩透かしを食らったような気分になった翠燕は、深李の煎れたお茶を飲んで気を取り直す。



「今後、畏まった挨拶は不要です。私の老師(せんせい)になっていただけるのでしょう?弟子は老師(せんせい)を敬うものです。名前も敬称はいりません」



「承知致しました。では公の場以外では翠燕とお呼びします。私のことは蓮珠(れんじゅ)と。この者は護衛の薔牙(そうが)と申します」



翠燕をみて笑った男は蓮珠と名乗り、予想通り護衛だった男は紹介されて音もなく頭を下げた。



「はい。蓮珠様、薔牙様これからよろしくお願いします」



二人の紹介が終わると控えていた文官が進みでる。



「本日よりヴィエレト国の使者様付きとなりました。こちらにも頻繁に伺います。周桜(すおう)とお呼び下さい」



周桜と名乗った文官に面識はなかった。と言ってもほとんど外部と関わりのないよう生きてきた翠燕にとっても顔見知りの文官など数えるほどしかいないのだが。同じく周桜にも気楽に接してもらえるように願うと、不思議そうな顔をされたが意外にも一番順応が早かった。



「では早速、翠燕の現在の学習状況について伺いたいのですが」



「わかりました、深李(しんり)



「はい」



呼び掛けた深李は持ってきた書物を卓に並べ翠燕に代わって説明を始める。翠燕のこれまでの老師(せんせい)は深李だった。師から師への引き継ぎの方が効率がいいだろうと考えてのことだ。もともと深李は翠燕の母である雪英(せつえい)に付いていた女官だ。本来なら翠燕についてこなくても仕事先には困らない有能な人物だったが、雪英への恩を翠燕に返したいと願っていまもそばにいてくれている。翠燕が姉のように慕う存在だった。

引き継ぎを続ける深李を横目にしながら翠燕は改めて三人の風貌を眺めてみた。それにしても見事に系統の違う美男子が来たものである。

周桜は龍蒼国の人間にしては珍しく赤みがかった茶色い髪に、垂れ目がちな目をしており、左目の下には泣き黒子があった。その顔に緊張の色はなく、どちらかというと気だるげ。かと言ってこちらを軽んじているわけでもない。至って自然体という感じで、妙に警戒心を解かれる男だ。

薔牙は短い黒髪に日焼けした肌という、ヴィエレト国の特徴的な人相をしていた。精悍(せいかん)な顔に朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気を纏っており、立っているだけで少し威圧感がある。

そして一番特筆すべきは蓮珠だった。女性と見まごうような綺麗な顔立ちをしている。髪は濡れたように黒く、艶々としていて、きめの整った肌に、均整のとれた涼しげな目元。瞳の色は深い藍色をしていてこちらも濡れたように艶っぽい。この中性的な美貌を前にしたら男だろうが女だろうがいくらでも手玉に取られてしまうだろう。

いつもは他人を観察するのことない翠燕でさえも、ほうと感心してしまう見た目である。ヴィエレト国は我が国を篭絡(ろうらく)にでも来たのだろうか。

そんなことを考えていたら蓮珠とはちりと目があってしまう。やはりにっこりと笑みを返されて翠燕はバツが悪くなった。


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