序幕
処女作です。
誤字脱字ご報告いただけるとありがたいです。
お手柔らかに。
――激しい雨が屋根に当たる。
雨音はうるさいはずなのに、何処か寂しげだ。花木豊かな庭園は濡れて緑が深まっている。普段は好んで雨音を聞く翠燕も、今日ばかりは気が滅入った。
何の気なしに窓から外を見ると、庭の中央にちょうど空から何か落ちてきた。
真っ黒なそれははじめ、布の塊のようだった。風に煽られてどこから飛んできたのだろうか。布に打ち付ける雨が薄赤く色付いて流れる。それが血だと悟った瞬間、翠燕は部屋を飛び出していた。
「翠燕様…!」
慌てた侍女の声が後から追ってくる。
庭に出ると着物が雨を吸い、あっという間に重たくなったが、それに構わず駆け寄った。黒い布のように思えたのは一羽の烏だ。翠燕が近づいてもぐったりと動かない。怪我を負っているようで、羽の付け根からじわじわと滲む血が痛々しい。驚かさないようにゆっくりと丁寧に抱き上げる。着物に赤い色が染みた。烏の瞼がかすかに開き、また閉じる。抵抗する余力もなさそうだ。
「深李、清潔な布と湯の用意を」
傘を持って追いついた侍女にそう告げると、翠燕は烏を抱いたまま踵を返した。