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奏臣

4章


 「何…でお前が…生きているんだ?一番最初に殺したはずっ!」


「…言ったでしょ、一番最強のやつがあんなあっさり殺されるなんてありえないって」


「そんな…ありえない…」


初めてキングが黒山たちの前で動揺する素振りを見せた。


それもそうだ、俺たちだって何が起きてるのかさっぱりわからない。会長は何か普通に異人とは全く違うタ

イプの異人、だとは聞いていた。だが、体を大きな釘のようなもので刺されても死なないというのはすでに

異人を超えている。



「…さて、私と牙忍を殺した分と黒山を傷つけた分、最後に異人をすべて殺そうとした分。全て返そう」


その時の会長の殺気は凄まじかった。牙忍のときも空気が張り詰め、動く=死。のような感じだったが、そんな生易しいものじゃない。


この殺気だけで人が死にそうな勢いでやばい。殺気を直で受けていない俺でも


ゾワッとする。あんなものを直に受けたらどうなるか想像もつかない。


そんな殺気を直に受けているキングは創神が歩みを進める度にビクビクと体を震わせている。


「くそ!何でこんな化け物を超えたやつがいるんだよ!聞いてないぞ俺は!」


キングが皮肉を叫ぶ。だがキングが黒山にやったのとと同じように創神は止まらない。


殺気を大量に受け精神の限界を超えたキングが力を込め思い切り叫ぶ。


「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!死ね!!死んじまえ!」


その呼びかけに呼応するように四方八方から槍が奏臣に向けて発射される。さらにその後ろからも第2射第3

射が続いてくる。


しかし奏臣はそれを見ても歩みを止めることもなく、ただ手を宙に凪ぎ、呟く。


「変換」


たったそれだけの動作で全ての槍が砂に変わっていき、ボロボロと下に落ちていく。まるで槍の物質が強制

的に砂の物質に変えられたように。


今度は両手に大きな釘のようなものを装備したキングが叫びながら奏臣に向かって突撃してくる。それを創

神はただ見ていた。


グチュリ、と妙にみずみずしい音が生徒会室に響いた。


大きな釘のようなものが奏臣の腹に刺さっていた。だが、奏臣は表情を変えることなく立っている。


キングが涙でぐちゃぐちゃになった顔でわけがわからないという風に奏臣を見る。そんな彼に奏臣は笑顔と

優しい口調で話しかける。


「おつかれさま」


そこでキングの意識はとてつもない痛みによって消えた。




俺が気がつくとキングは生徒会室の壁にめり込んでいた。


見た感じ骨は何本か絶対に逝っているだろう(既に手がありえない方向に曲がっている。しかも両手)。


そんな怪我をさせた会長はというと、磔にされた牙忍の死体の前に立っていた。


さすがに牙忍は蘇らないだろう。


あいつは会長みたいに特別な能力を持っているわけではない。ただ身体能力が高いだけだ。もうあいつの声

を聞けないと思うと涙が出そうになるがここではこらえる。


「会長…せめてこの状態から直してあげてちゃんと埋葬してあげましょう」


黒山的には悲しさをこらえて言ったつもりだったが、本当は泣いているのをこらえきれずに鼻声になってい

た。


それに会長はゆっくりと振り向き、


「…なぜ埋葬する必要がある?」


と目をパチクリさせて言った。


馬鹿なのかもしかして天然だったのかこの人は。


「いやいや、いやいやいやいや牙忍のことですよ。死んだあとぐらいは安らかにしてあげましょうって(黒

山)」


「そうですよ、そこまで常識がなかったんですか?(幽美)」


「さすがに私もここままの状態というのはひどいと思うのですが…(咲川)」


全員から叩かれる会長。


会長がむー、と少しほっぺを膨らませ「怒った」というような表情をすると、よく意味のわからない事を言

いだした。


「…みんなちょっと後ろ向いてて」


え、えぇ。あ、はい。と返事をして言われるがまま全員後ろへ向く。


まさか蘇生でもする気じゃないだろうかと三人小声で話している。


「あの人ならありえなくもない」と割と肯定派の幽美さん。


「でもそんな能力ってチートだと思うのです、科学的にもありえません。一応、異人といっても身体能力強

化とかあくまで物理的なものしかできないはずです!」と否定派の咲川。


俺は…あってほしいとも思うが、少し怖い部分もある。あいつをもう一度見てまた同じように接することが

できるか。正直あの戦っていた時の牙忍は怖かった。


あの殺気をもしかしたら自分に向けられる日が来るかもしれない。そう思うと少し怖くなってくる。


心のなかで葛藤している間にも、後ろで何かをやっていく会長。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、


「…黒山」


自分に会長が話しかけてきた。


別に話とかしてもいいのかよ、集中してる系とかじゃないってことか。


とりあえず「なんですか」と返事をした。


「…人の内面は本人しか知らない。下手をすれば本人すら知らないこともある。そして人の内面を知ると周

り、本人含めて不安が現れることがある。今お前が考えているようなことや、本人の場合だとこんな自分は

嫌われていないだろうか。などな。どっちにしても同じこと『同じように接したい』だ。人によって個人差

はあるが大雑把に捉えるとこうなるだろう」


「何が言いたいんですか」


「…牙忍は友達がいて先輩がいて家族がいて、人間関係がちゃんとできている。そんなやつは大体私がさっ

き言ったようなことを思うだろう。だから大丈夫だ。あとはお前は自分がやるべきことをちゃんと理解する

ことだ。…私には足りなかったことをな」


やっぱりそうだよな。悩むのは俺じゃない。俺は悩まずに自分がやるべきことをやるだけだ。


そのやり取りから少し時間が経ち、いいよ、と言われ振り向くとそこには、


大きな釘のようなものから開放され、傷一つなく立っている牙忍の姿があった。


もちろん全員硬直した(牙忍を含め)。


牙忍は慌て混乱しながら刺された腹のところをまじまじと見て頭の上に?が4つぐらい浮かんでいる。


幽美はただただびっくりして硬直していたが、咲川がいままさに浮かんだ疑問を解消したいという目をし

て、手を閉じたり開いたりしている。


会長が俺に目配せをした。


そうだ。俺にはやることがある。


俺は、そのまま牙忍に抱きついていた。涙を流しながら。その涙は恐怖ではなく安心の涙だった。


牙忍は一瞬びっくりしたが、そのまま黒山を抱きしめ返した。


生きている。温かい。もう、話せないかと思った。悲しいと思った。その瞼は開くことがないんじゃないか

と思った。大事な人をまた目の前で殺させてしまうところだった。


 俺たちが感傷に浸っているとふと思い出したように幽美が会長に言った。


「ていうか会長。もう何も驚きませんが、校舎内に入ろうとしたあの組織の幹部の部下を成敗したのもあな

たですよね」


そういえばそんなやつらもいたような気がする。


そうだ。校内にいる異人を駆除してこいっていわれてた記憶がある。だけどもう窓の外も部屋の雰囲気もも

とに戻った今、学校がパニックになっているという状況にはなっていない。また会長か…。この人蘇生もで

きるし何でもできるんじゃないの?


「…厳密には私ではないが、私がきっかけを作ったということは間違いない」


???一体どういうことだろう。きっかけってこの襲撃のきっかけとかか?


「…まったく、ここであの隠し玉を見せることになるとは…」


隠し玉?まだ隠してた能力があるってこと?この人いったい何個能力持ってんだ。会ったときから今に至る

までにまだ全部の能力見せてもらってないんだよな。


「…いや、私の能力の話ではあるのだが。実際にやったのは違うやつだ」


「じゃあ、学校内にいる異人に助けを求めたってこ


と?と言い終わる前にドアが「バァン!」と勢いよく開いて誰かが入ってきた。


見るとそれは櫻木だった。


「信二くん!!!」


「おうぅ!?愛花なぜここにぃゲフッ!!?というか!出会ってそうそう俺の腹にタックルかましてんじゃ

ねぇ!普通にいてぇわ!」


突進してきた愛花を払おうとする、しかし愛花は離そうとしない。その顔は笑顔だった。


「だって信二くんが何かを隠してたの知ってたもん。それを知れたし、一緒にできるなんてさいっっっっっ

っっっっこー!の気分だよ!」


え?知れた?


「キングの部下が消えた」「それは間接的には会長がやった」隠し玉」「櫻木が知った」


俺はそこで全てを察した。


会長が「あー」と上の空を見ながら、


「…緊急事態だったので櫻木さんの能力を覚醒させました、一応他の子でも行けないか考えたんだけど、今

この学校で制御できてるの私達と櫻木さんしかいないし、それにあの部下たちもそれなりには強かったです

し…結果、隠し玉を投入するしかなかったという訳です。ごめんね黒山」


だよね知ってた。


緊急事態とはいえ…仕方ないとは言えるが…予想する。多分このあとめっちゃやばいことになる。会長が覚

醒させたって言ってるからこいつも生徒会に入ることになるだろう。


今までより目が離せない。怖い。


「ということで改めて自己紹介します!」


俺の気持ちを知らずに俺の彼女は生徒会のメンバーに向かって挨拶をする。


「2年5組の13番!好きなことは信二くんと何かをすること!異人で、能力はまだよくわかってないです!櫻

木愛花よろしくおねがいします!」


これから不安だ…。

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