炎黒
39章
奏臣は遠く離れた地でそれを感じ取った。
「…先に…逝ってしまったか」
そう呟いて拳を握る。
助けることが出来なかった。
まただ。なんで私はこんなにも非力なのだろうか。大切な仲間、友達1人守れない。
全能なんて幻想だ。
私の力は壊すことしか出来ないんだ。
「…だが私は生きなくてはいけないんだ。それが私に繋がれた呪いなのだから」
主が居なくなった部屋は消え、元の真っ暗な部屋に咲川は戻ってきた。
シーラーも一緒に。
「次は君だよ」
シーラーはそう言って咲川を指差す。
それを見ると咲川は急いで部屋を出る。
外にはみんなが居た。幽美以外の。
黒山は3人で話す傍らこっちを見ていて咲川に気づいている。
しかしその後ろの
「はーまず1人か…」というシーラーの声を聞くとすぐに態度が切り変わった。
残りの2人も黒山の感じを見てただ事ではないと感じ取ったのか、警戒する。
咲川はそんな3人の元へ駆け寄って泣きながら黒山に縋る。
「聖奈さんがっ!聖奈さんがっ!えぐっひぐっ」
そんな咲川の必死さを見て
「幽美がどうした?」と背中を擦りながら聞く。
しかしそれに答えたのは咲川に続いて扉から出てきたシーラーだった。
「あの子なら殺したよ。そこの子をかばって死んだんだから面白かったね『後は任せます』ってさ。まじう
ける」
それを聞くと黒山がぴくっと反応する。
「殺しただと?お前がか?」
低いゆったりとした声で黒山は聞く。
それに対しシーラーは
「そうだよ。だって異人だし」と当たり前のことですがとばかりに返す。
そこで黒山はブチギレた。
なんで異人ということだけで殺されないといけないのか、そしてなんで幽美が侮辱されないといけないの
か。
フランマの意識を取り込む。フランマが「それは駄目だ!死ぬぞ!」と忠告していたが関係ない。
あいつだけは絶対に殺す。
「何を犠牲にしたとしても」
瞬間に黒山の周囲が発光し、黒山が見えなくなる。
櫻木が黒山に呼びかけていたがその声は届かない。
光の中で黒山は走馬灯を見ていた。家族と楽しく過ごしていた自分。そして生徒会で過ごしていた自分。
だがそこで知らない思い出を見た。
家族が全員殺されていた。自分以外の。
だけどそんなこともうどうでも良かった。
「どうせ無になるんだからな」
光が晴れるとそこには黒山であって黒山でない存在が立っていた。
姿は薄く暗い光で包まれていて、右目はいつも通り黒い目をしているが、左目はフランマが入っているとき
のような赤い色に。服はところどころ燃えて焦げている。
そして背中には
鳥のような天使の翼があった。
「信二くん…」
一歩離れたところから櫻木が呟く。
そして黒山のようなものは己の目的を視認する。
「そんなんになったって私には勝てないよ。そもそも攻撃すら通らないからね」
と禍々しい様子の黒山を見ても全く動揺しないシーラー。
しかしそんなことは黒山のようなものにとっていちいち考えることではない。
右手をシーラーに向ける。
その直後、シーラーの足元に魔法陣が現れる。
シーラーはその異質さに気づいたのかその場所からすぐに離れようとする。
だが
バチィ!という電気的な音とともに弾かれ、出ることが出来なかった。
結界だ。とすぐに理解したが、既に遅かった。
魔法陣が輝き出し、放出の準備を始める。
瞬間にやばいと悟ったシーラーが結界をバンバン叩いて「ちょ待って!助けて!殺すのは流石にやりすぎだ
って!謝るからさ!」とシーラーの声が聞こえてきたが、相手にするものは居なかった。
シーラーは泣きながら体を丸めてなるべくダメージを受けないように構える。
そんなことしたところでダメージは計り知れない。無限から小数点を引くようなものだった。
炎どころかほとんどマグマと化したどすぐろいものがシーラーを襲う。
秘術で強化しているとはいえ。、耐えられるわけがなかった。
数分間マグマは展開され、熱量をシーラーが襲う。だが最初の数秒でシーラーはこと切れていた。
魔法陣が消えると同時にマグマもどこかへ消えてしまってそれと同じ様にシーラーも消えてしまっていた。
跡形もなく溶けている。
それを見た生徒会メンバーは息を呑む。
黒山が人を殺した…。と全員恐怖していた。
さらに
ぐるんと黒山のようなものが櫻木たちの方へ振り向く。
そして櫻木に向かって炎槍を生み出し、構える。
「待て黒山!そいつは敵じゃない!」と牙忍が止めようと声をかけるも反応はない。
しかし武器を構えられた櫻木は一瞬驚いたがすぐに笑顔になって
「信二くんに殺されるなら本望だよ」と言い放った。
牙忍はそこで「そういえばこいつ異常だったな!」と思った。
櫻木が黒山のような物に向かって手を大きく開き、運命を受け入れようとする。
構えられた炎槍から炎が吹き出た。
炎は櫻木を燃やし尽くす。
だが櫻木の能力によってすぐに再生し、絶対に死ぬことはない。そして燃やされるが再生する。絶対に勝敗
が付かない。
しかし攻撃をしている黒山に向かって牙忍が突撃する。
黒山はそれに対し関心を抱かない。
後ろから羽交い締めにし、武器を地面に落とす。武器が落ちたことで炎は止み、櫻木が開放された。
牙忍は体に熱を感じたが。
「もう敵は居ないぞ!目を覚ませ!」
と黒山に語りかける。
だが反応はまた無い。
一方開放された櫻木は少し残念そうな顔をしていて咲川は少し引いていた。
そこでまた動きがある。
「何だ。偉そうに説教したくせに自分も我を失って暴れてるのか。人のことを言えたものじゃないな」
そんな声が聞こえた。
その声は黒山が入っていたはずのドアから聞こえてくる。
主は部屋の中でイレギュラーだった存在。
組織長、ライだ。
「だけど好都合といえば好都合だな。まとめて殺してしまおう」
ライはそう言うと心無き執行者を発動する。
しかしさっきとは全く違う方法。
今櫻木たちがいるエリアをすっぽりと覆うほどのフィールド展開された。その効果は心無き執行者と同等の
効果。
つまりはこのフィールド内では異人が普通の人間に戻ってしまうということだった。
「名付けて執行者の処刑場ってところか。初めて使ったがまぶしいなこりゃ」
秘術によって身体能力が上昇しているライはこのフィールド内では最強。
一捻りすれば勝負の結果がわかるはずだった。
ライはまず牙忍を狙う。
高速で後ろを取って咲川が反応する前に首根っこを掴む。
そして驚異的な力で咲川を軽く持ち上げ、勢いよく振り下ろす。フィールドの影響で能力が使えず、感覚や
計算能力が落ちている咲川に抵抗することなど出来ず。
そのまま床に叩きつけられた。
叩きつけられた咲川を中心に床にヒビが入り、中心の咲川の生死がわからない状況に陥った。
ライは咲川から手を離し、また周りを見渡す。
「次は誰にするか」
指で指しながら残りを数える。
残っているのは黒山のようなものとそれを羽交い締めにしている牙忍、それと一歩後ろに下がっている櫻木
だった。
牙忍は黒山のようなものを抑えるのに必死で抵抗なんて出来ない。だが羽交い締めされている黒山のような
ものはまだ暴れていて潰すのに時間がかかるか。ライはそう考えた。
そして櫻木はノーマークだった。
「じゃあお前だな」
櫻木を指さして言った。
櫻木は「私?」と疑問の声を出すと嫌悪の表情に切り替わる。
「あなたに殺されるなんて死んでも嫌。私を殺すのは信二くんじゃないと駄目」と言った。
そんなことライには関係ない。最初はそう思った。
自分の目的は奏臣を殺すこと。
ライは立場が逆転しているだけで似たような願いだなと考えてしまい、動きが止まった。
「今!」
後ろから新たな声が聞こえてきた。
そして後ろから紙で作られた槍が飛んでくる。
それがライの右肩に突き刺さった。槍は貫通すると、元の場所に戻るようにシュルシュルと引き戻されてい
った。
その槍に櫻木たちには見覚えがあった。
巻き戻った槍はドアの方向へ向かい、倒れ込む人物の背中へくっついた。
槍の主は幽美聖奈。
部屋の中でシーラーに殺されたはずの人物だった。
だが幽美はドアから完全に体が出ておらず、ドア縁を通して横たわっている。しかもその見えている体もボ
ロボロで服も半分破れている。
「聖奈さん!無事だったんですか!?」と咲川が驚きの声を上げる。
それに幽美は「無事ではないけど生きています…」と力なく返事をする。
あのとき、咲川を助けて幽美は死ぬ予定だった。だが威力が思ったより無かったのと幽美を元から覆ってい
た紙の膜でなんとか耐えることが出来ていた。
その後は気絶していてわからなかったが、気がついたときには暗い部屋の中に居て外に出てみたらこの状態
だったというわけだ。
「なんでお前は能力を使える?執行者の処刑場がある間は能力を使えないはずだぜ?」とライが右肩をもう
片方の腕で抑えながら言う。
なぜフィールド内なのに能力が使えたのか。
それに幽美は答える。
「それは私の能力はあくまで強化させるだけの能力だから。能力自体が規制されてもある程度は霊能力で戦
えるってこと」
幽美の能力は霊能力を使用して周りの霊的物質を操ること。
しかしそれは幽美のもともとの霊能力を強化してるだけ。いくつもの物を操れるのは能力のおかげだが、覆
っていた紙の膜さえなくなってしまえば一個のものぐらいは動かせるということだった。
あくまで心無き執行者が打ち消せるのは異人の能力だけ。異人の能力ではない生まれつきの霊能力は対象外
だった。
そしてそれを聞いて咲川はこう思った。
ライの秘術は打ち消すだけ。身体能力は上昇しているがまだ常識の範囲内。もしかしたら幽美の霊能力があ
れば勝てるのではないか?と。
だがそんなに世の中は甘くなかった。
「霊能力か。それは異人の能力に入らないのか。初めて知ったぜ」
特に慌てもしないライが手をたたきながら言う。怪我をした腕をなんとも思わないように。
「でもその程度じゃ俺には届かないぜ?」
希望を潰す言葉。
ライはそう言うと左手を掲げる。
するとそこに小さい黒い粒子がどんどんと集まり始めているのが見えた。
「確かにそういう心無き執行者から抜け出す裏技みたいなものもあるが」
掲げながらライは言う。
そして集まる量が増えるごとに戦場の雰囲気が暗くなっていく。
櫻木にはこれに見覚えがある。
「裏技を術者である俺が1つも知らないなんてことはないだろう」
破壊の概念。
これはすべてを破戒し尽くす。悪魔のような存在。
そして純度の高い概念は心無き執行者すら貫通する。
答えは終わりだった。




