創造と破壊
36章
当事者しかいない学校内に壁が衝撃で破壊される音が響く。
黒山たちもその衝撃に巻き込まれ、破壊された壁の向こうへ飛んでいく。壁の向こうは校庭。足場なんて無
い。
能力も使えない状況で落下していく。
またもや絶対絶命だった。
「まーた落下かよ!これで死ぬの今日で2回目だぞ!?」
だがしかしそんなこと言っている場合ではない。声に出しても何も変わらない。
黒山と櫻木の能力は全て追人によって実質的に能力を消し去られ、黒山の中に宿るフランマもつながりを絶
たれ能力を行使することができない。
故に今2人は普通の人間ということ。
落下すれば確実に死ぬ。
「あ!」
櫻木が落下しながら唐突に声を上げた。
黒山が「どうした?」と聞く。
それに櫻木は「もしかしたら使えるかもしれない」と言ってポケットから何かを取り出す。
それは青色のきれいな石だった。
「なんだこれ?」と黒山が聞くが
「わからないけど、昔の私がくれた。何かヒントが…!」と櫻木は藁にも縋る思いでその石を叩いたりす
る。だがしかし反応はない。
「ちょっと貸してみろ!」と黒山がその石を強奪する。
すると
黒山がその石を持った瞬間に石が青から赤色に変色して見たことがある形状に削られた。
前の試練で使った物。
「これは…熾天使の鏡!」
そう言った直後に2人は地に落下した。
血が舞って体は傷だらけに。頭から落下していたため死は免れない。
「あっぶねぇ…一瞬遅かったら死んでたぜ…」
だが生きている。傷1つない体に再生し、万全の状態。
落ちる瞬間、
熾天使の鏡を櫻木に発動し、「身体蘇生」を神格能力「身体神癒」に引き上げてロストの能力を超越したの
だ。
それは能力の強さでロストの能力が影響できる範囲が変わっているということだった。
上から黒山たちが死んでいないことを確認するとメイクは
「えーしぶといなぁー。ロスト、もう一回消すよ」と言って自身も下に降りて行った。ロストも命令を聞く
と同じように降りていく。
メイクはふわっと着地したが、ロストはドガーンと音を立てて落ちる。ただ衝撃は無く、落下時の衝撃をす
べて消し去った。
学校の校庭で4人は対峙する。
「追人!どうしてそんな奴の味方をするんだよ!」
黒山はメイク側についている追人に向かって叫んだ。だが返事はない。
それに代わってメイクが答える。
「私の能力『異能支配』。この能力を使うと他の異人の能力を格段に強化することができるの。ショッピン
グモールでも使ったでしょ。そしてこれは異人の意識も操ることができる。それがどういう意味か分か
る?」
「くっ…」と黒山は舌を噛む。
ロストは茫然と立ち、黒山を光がなくなった眼で見つめる。
メイクはそんなロストの肩をポンと叩いて
「やりなさい」と言った。
それに呼応するようにロストの目が怪しく光って黒山たちを貫く。だが能力が消えるということはなかっ
た。
困惑するメイクに櫻木が
「身体神癒は自分にとってデメリットとなりうる能力を無効化できるの。だからその能力消去も通用しない
よ!」と言った。
黒山は「そんな効果あったのか…」と知らなかったが、メイクもロストも同じ立場だ。
メイクはうっすらと笑い
「概念放出!」と叫んだ。
すると周りに異様な雰囲気をまとうものが現れた感じがした。感じがするというのは肝心なそれが見えない
からだ。
だがわかる。この異様な雰囲気はライの使っていた破壊の概念に似ている。
ということは今ここにあるのは概念だ!。と黒山は考えた。
概念は異人でさえも耐えることができないエネルギーを誇る危険物。そして最初は耐えられるかもしれない
が熾天使の鏡が切れればそこでエネルギーを受けるか追人かメイクに殺されて死ぬ。早期決着をつけように
も櫻木の能力しか強化できていないため決定打に欠ける。
結構な積みゲーでは?と黒山は結論を導き出した。
「創造。敵を貫く無数の矢」
メイクがそう呟き戦いが始まった。
メイクが扱うのは破壊の概念ではなく創造の概念。それはどんなものでも創造できる万能の概念だ。
まずは概念があったらしきところから無数の矢が現れ黒山たちに高速で襲ってくる。
それを2人は避けようとするも目視したときには体を突き抜けている。だがそれもただの擦り傷。痛みも無く
すぐに再生する。
だが細かい箇所が多いため、再生している間はその場を動くことができない。
時間を稼がれた。と黒山は思う。
矢を受け切った後はロストが黒山たちをじーっと見ている。
すると
「が…っ」
黒山たち周辺の空気が無くなった。苦しさのあまり気絶しそうになるがすぐに何かしらの再生が行われ苦し
さはなくなる。
自身で酸素を生成することでもしたのだろうか。
それでも少しは時間を稼がれ、強化時間が減っていく。
「その能力ほんとに私たちに似てきましたね」
メイクがそんなことを言った。
黒山は時間稼ぎのための虚言だと思ったがメイクはそんな風でもなさそうだ。
「だからと言って生かす理由にはならないけどね!」
そしてメイクが叫ぶ。
「時間停滞!」
瞬間、すべてが止まった。
それを黒山たちには認識できないがすべての物体、物質が停止している。それが事実。その中ではメイクが
動くことができる。
本来ならばこの時間の中で好きなようなことができる。だがメイクの能力は奏臣の下位互換。時間を止めた
としても数歩しか歩くことができず、攻撃も通りにくくなる。
しかしそれでも十分だ。
時間を止めるということは世界の理を壊すこと。できること自体、奇跡。
「それじゃ、これで」
メイクは虚空から西洋銃を生み出した。
時間停止後に生成されたものは時間停止の影響を受けないが、この時間停止には停止時に動いた物体、物質
は元の時間に戻った時、動いた分莫大なエネルギーを受け大抵のものは跡形もなく壊れるというものがあっ
た。
そして引き金を引く。
数歩しか移動できないなら移動しなければいい。
球が発射された。
この球には細工が仕組んである。
球が敵にヒットしたとき、神経系をすべて麻痺させる効果。それだけならば身体神癒で直されてしまうが、
それにつけ足して、ロストが使う消去の概念を詰める。
リソースを割かなければいけなくなり対処を遅らせ、時間を稼ぐ。
それが狙いだった。
だが
「よっ、と。そんなもの当たらないぜ!」
玉が当たる直前に黒山と櫻木がすっと二手に分かれて球を避けた。止まっている時間の中で。
メイクは混乱した。
その隙に黒山は間合いを詰める。
一応、運動はできるほうであった黒山はそこそこの足で詰めていく。
そしてそれにメイクが気付いたのはすでに間合いに入られてしまった時点だった。
とっさ虚空から壁を作る。がしかし黒山の後ろから炎が噴射され、壁を燃やし尽くす。これでメイクを守る
ものはない。
「やっちゃってー!信二くーん!」
櫻木が後方から声をかける。
その声を聴きながら黒山は
「デバフ効果は俺達たちには効かねぇんだよ!」
と叫び、顔に右から拳をぶつける。
特に能力などは入っていない拳だったがそれでも威力は高い。
メイクは吹き飛び、地面を転がる。
そして時間停止が止み、元の時間に戻った。
その瞬間に黒山と櫻木の体に時間停止時の莫大なエネルギーがかかり、体を物理的に壊しに来る。
だが身体神癒が今の黒山たちにはある。
そんな傷はすぐに修復され、元の姿に戻った。
メイクが地面の上でもぞもぞと動く。
そして黒山は後ろにいる奴に言う。
「で、なんでお前がここに出てこれたんだ?フランマ」
フランマはわざとらしく照れくさそうにすると炎を右手で遊ばせながら言った。
「私は神格能力と同等のエネルギーを持ってるので能力自体は消されませんよ。消されたのはあくまでも相
棒が私の力を使うことができる繋がりだけということだけです」
それを早く言ってほしかったぜと黒山は思う。
そこでメイクがゆっくりと立ち上がったのが見えた。それに気づいた黒山たちはメイクを見る。
ロストが1回飛びメイクのもとへ着地する。
メイクは笑って
「一本取られたね」と言った。
するとロストに何かを耳打ちした。何を言ったのかは黒山には分らない。だがロストが聞きながらこっちを
見ている。
耳打ちをするとメイクはバタリと倒れた。
一瞬混乱したがフランマが見に行くと完全に気絶している。と言われた。
しかし
気が付くとロストが黒山の目の前にまで来ていて、拳をぶつけようとしてきた。それを黒山は横に回避して
カウンターで顎めがけてアッパーを当てようとする。
それを見るとロストは顔を後ろに下げてアッパーを避ける。
アッパーを外した黒山は一度退いて自己流のどこか歪な構えをとり、言う。
「近接戦闘に移行したってことか?受けて立ってやるぜ!」
それにロストは反応しなかったが、黒山とどこか歪な構えをとる。
黒山はなんで構えをまねするかわからなかったが、一歩踏み込んで拳をあてに行く。
拳はロストの肩上虚空を通過する。ロストがしゃがんで拳を避けたからだ。
そしてそのままの姿勢で胸の辺りを狙い拳を放つロスト。
黒山はその拳を右手で捕らえる。勢いがすべて黒山の手にあたりパチンという音が鳴った。
そしてその掴んだ手を持って後方にロストを投げ飛ばした。
そのまま自分も勢いに乗って飛んでいく。
ロストが壁にぶつかると黒山は足を槍状にし、勢いのまま突撃する。
「もらったぁ!」
当たると確信し声を出す黒山。
しかし「消去」とロストが言うことで話が変わってきた。
ドガーンと大きな音を立てて黒山の両足が刺さる。一回当てるとバランスを保てなくなり黒山はゆっくり床
に降りる。
そして気づいた。
黒山の一撃は確かにロストにあたった。が、かすり傷1つついていない。衝撃を受けて顔をゆがませるような
こともしていなかった。
困惑する黒山を前にロストは壁から脱出する。
そして黒山の胸元をつかんで完全に持ち上げる。能力でも使ってなけば難しい芸当だ。
その後黒山を櫻木に向かって投げる。
とてつもない力で黒山は勢いよく飛ばされ、制御ができない。
抵抗できずに飛んでくる黒山に反応が遅れて、櫻木は黒山と衝突する。このときに櫻木が「ご褒美…」と思
ったのは内緒である。
勢いのまま2人は地面を滑っていく。滑る前に黒山は櫻木を守るため覆いかぶさっていたため傷は少なかった
が、櫻木が受けるはずだった傷をすべて黒山が受けていた。
櫻木がすぐに起き上がって黒山を揺さぶる。
意識はあるようだ。
黒山も起き上がろうとするがそこで気づく。
痛いということ。
痛いということは普段黒山たちが一瞬だけ感じるもの、少しの時間でも持続するのはおかしい。
わかったのは「時間制限が来ている」ということだった。
このままでは死ぬ。
そう思った黒山は必死に何かを探す。逆転の一手を。
メイクは気絶しているから起きない限りは問題ない。起きたとしてもフランマが監視しているためある程度
は持ちこたえられる。問題はロストだ。
能力を強化したとメイクは言った。それが正しいなら神格能力以外は無効化される。そして様子を見るに身
体能力も強化されているかもしれない。
黒山たちの能力は身体神癒。とフランマのみ。その本人はメイクを監視していてこっちには参戦できない。
しかも神格能力を持っているが本人がロストの放出された能力を打ち返すぐらいしかできないと言ってい
た。
攻撃手段は少ない。勝つためには…。
歩いてくるロストを見ながら頭をフル回転させる。
そして
ロストが走り出し黒山に突進する。その周りには黒い球体が数個舞っている。
その突進に合わせて球体は軍隊のように指揮を取ってロストより早く突撃してくる。
黒山の予想は概念の塊。能力が弱体化しているため当たれば即死だ。
だが
「それを待ってたんだよ!」と黒山は笑いながら言う。
するとその声に呼応して黒山の後ろについさっきまでメイクを監視していたフランマが現れた。
櫻木も驚いた様子でフランマを見る。その後、さっきまでフランマがいたところも見ると、そこにもフラン
マがいた。
フランマが2人!?と混乱する。
黒山の背後にいるフランマは叫ぶ。
「断罪の炎!」
数本の炎剣が向かってくる球体を迎え撃つように構え、それを切る。
しかし打ち消せずに球体と炎剣は弾かれ合う。
だがそれが狙い。
打ち返された球体は数倍の速さになり、元の道を戻っていく。
その道にはもちろんロストが。
ロストは1球目を横に避ける。2球目はジャンプをして。しかしそこからは繋がらなかった。
3球目が腕に当たり、球体が爆発する。それに続けて球体は次々とロストに当たり、小さな爆発を集め最終的
にはロストの顔面に当たり、ロストは地面に倒れて気絶した。
そしてその後動き出すことは無い。
完全なる気絶だった。




