一心同体
32章
2人の力が激突する。
熾天使の鏡を覚醒させた黒山。最悪の能力と最強の秘術を持ち合わせたライ。
黒山が攻め、それをライが打ち消す。
ライが攻め、それを黒山が受けるがすぐに再生する。
いたちごっこが続いていた。
熾天使の鏡を覚醒させた黒山は神格能力「身体神化」を得た。ライの破壊の能力と同等の力を持つ。ゆえ
に相殺される。
まだ足りない。
倒すのに決定的な一打が。
戦いはまだ続いている。終わりが見えない。
「そんな都合のいい研究結果があってたまるか!それなら俺は一体何のために秘術を研究してきたん
だ!」
ライが破壊の概念を黒山に放ち、叫ぶ。
ライの人生は大半を秘術に費やしたといっても過言ではない。すべては異人を負の連鎖から救うため。す
べての苦しみから解放させるため。…奏臣を殺すため。
彼女と話しているときに気づいた。
生きるということは苦であるということに。
異人が悪いわけではない。人間が悪いわけではない。
生ということ。それが悪なのだ。
だが目の前の相手はそんなことをする必要がないと言った。
絶対に異人と人間すべてが笑って過ごせる世界が来ると。
それはライの人生のすべてを否定したといっても過言ではない。
「知らねぇよ!」
黒山は一蹴する。
「お前が何のために作ったのか。そんなことはお前にしかわからねぇ!結果が出ないならこじつけでもい
い!何か誇れる理由を作ってみろよ!」
拳が刺さる。
しかし、その威力すら破壊しダメージは無い。
何を1人考える。
すべてを否定された自分の中で。
ふっと頭の中に顔が浮かんできた。
キング、シーラー、マニアル、メイク、リンシャ、レキ、スモッグ。下位メンバーたち。
こいつらとは利害関係で手を組んでいる。
異人を殺しつくすという目的。
…仲間?
『お前の人柄に部下は集まってきたんじゃないのか!?』
天川の言葉がフラッシュバックする。
わからない。
わかった気になっていた。仲間というものが何なのかを。標的無くして成立する友情関係というものを。
自分は何をしたい?
何を救いたい?
「う…あ…」
回転する思考。しかし答えはわからない。
獣のように標的を定めることしか考えていなかった彼にはまだ早かったのかもしれない。
破壊の概念が彼を捉える。
そして、暴走が始まった。
破壊の概念がさっきまでの比にならないほど大量に放出される。
黒山ごと病院はその概念を受けて、病院は倒壊する。
黒山は「おいまじか!?」と床が崩れて出現した穴に落ちながら叫ぶ。
このままだと…いや別に落ちても「身体神化」で死なないから大丈夫じゃね?
そう思った黒山は受け身だけ取ろうと思い態勢だけ整える。
しかし、
「k,br,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d,d」
訳の分からない言語が聞こえてきた。
黒山は落ちながら上を向く。
そこには黒山と同じように落ちているライがいた。だがその姿は概念に飲まれて漆黒に染まっている。
その言語を聞き取り終わった瞬間に
「ん?なっ!?」
黒山は最初に違和感を感じてすぐ後にその違和感に気づいた。
能力が消えている。
体が元に戻った感じがしたのだ。
やばいやばいやばいやばいやばいやばい、とテンパる黒山。
こうしている間にもどんどん底は近づいてきている。
何をやったかは分からないが、能力をあいつに消し去られたらしい。…神格能力が?
そこでわかった。
ライも神格能力を使っているということを。
「そんなことが分かっても今の俺には何もできないけどねー!」
そして
ドーンという巨大な音と共に黒山は落下し、底に打ち付けられた。
しかも底は瓦礫がたっぷりとたまっており、平面ではなくがくがくの地形に。
確実に死んだ。
鮮血があたりに広がる。
死体は原型を留めず、見るも無残な姿に。
主が居なくなった部屋はざざざとノイズを発し始めた。
ライはそれでも暴走を止めない。
ノイズが完璧に消えて、部屋が元の次元につながればこの世のすべてを破壊せんと、外の世界に出る。
暴走を止められる存在は居ない。
奏臣でも止めることは難しい。それほどこの概念という存在は恐れられている。
「仕方ないですね」
だがそんな存在の前に立ちふさがるものがいる。
凛々しい顔立ち、白い装束、赤い髪。
そして天使の羽。
「私が出ましょう」
黒山の中に宿っていた存在。それがなぜか現実に現れた。
名をフランマ。
彼の炎は概念すらも燃やす尽くす。
「意思無き哀れな異人ですか。一体なにをもってそんな風になってしまったのでしょうか」
フランマは言う。
届くはずがないライの深淵に語りかける。
破壊。
ライの体からまた破壊の概念が放出された。
「断罪の炎」
フランマはつぶやく。
ゆっくり優しく、万物を愛でるかのように。
しかし現れた炎は罪を燃やす尽くす。炎は何も言わずに語る。愛でるのは罪なき命だけだと。
破壊の概念は炎に触れると消滅し、破壊は起こらない。
今度はライが近接戦闘に持ち込む。
意思がないにしては賢明な判断だなとフランマは思う。
そしてライが拳を一発撃ちこむ。
だがそれはフランマの体を突き抜け手ごたえなんてものはなかった。
「炎幻だよ」
フランマは後ろにいた。
さっきと変わらない姿勢で。
フランマは最初から後ろにいた。さっきまで「断罪の炎」を出していた。それはフランマの「炎幻」によ
る
残像。
念には念を、それがフランマのポリシーだった。
するとライがフランマに向けて破壊の概念をもう一度放つ。
馬鹿の一つ覚えかとさっきの賢明な判断という評価を取り消す。意思無き化け物にはそんな知性などある
わけないか。とフランマは思った。
「断罪の炎」
さっきと同じように燃やし尽くして終わり。
そう思っていた。
炎が破壊の概念に触れた瞬間。
炎がボッと消えた。破壊の概念を消し去ることなく。
驚くフランマを尻目に破壊の概念はフランマを覆う。
これは…心無き執行者!?破壊の概念に無効化能力を乗せたのか!?フランマは推測する。
侮っていた。
このライという存在を。
フランマは破壊の概念を直で受けた。
とてつもないエネルギーがフランマを襲う。
そのエネルギーによってフランマの体が失われていく。人体では絶対にありえないひび割れていくように
壊れていく。
これが破壊の概念。
触れたものをすべて破壊するもの。
フランマでさえもこれは無傷では済まない。
そう無傷では。
破壊の概念がフランマから晴れるとそこには体の半分程度を失ったフランマが居た。
人体の一部ずつを失っているわけではない。まるで人体のパズルが崩れたように体がところどころ欠けて
いるのだ。逆に痛々しく見える。
だが耐えた。
威力は申し分ない。
概念というものは世界を壊すほどの力を持っている。
それに耐えた。
フランマは胸を押さえて弱っているような姿勢をとっている。
「さすがに概念は…受けるのがきついですね…」
ライはそんな化け物なフランマを見ても何も反応を見せなかった。
そして追い打ちのようにまた破壊の概念をフランマに向かって飛ばす。心無き執行者を乗せて。
フランマは思うように動けず、反撃しようにも心無き執行者が邪魔をして迎撃できない。
破壊の概念はフランマに襲い掛かる。
その瞬間
光のようなものがフランマを包んで横へ抜け、破壊の概念からフランマを救った。
その光は人だった。
「なんでお前が出てきてるんだ?俺の中にいたんじゃねぇの?」
黒山がフランマを抱きかかえて破壊の概念の圏内から脱出したのだ。
抱きかかえられながらフランマはぽかんとしながら言う。
「なんでお姫様抱っこなんですか。恥ずかしいですよ」
「黙れい、お前を俺が普通に持てると思ってんのか。ていうかもっと聞くべきことあるだろ」
黒山がフランマを見下ろして言う。
「あとから会長様に蘇らせてもらおうとしてたのに何で生きてるんですか?」とフランマは満を持して聞
いた。
「そんな風に考えてたんだな別にいいけど。説明すると無効化された能力って俺の能力だけだったんだ
よ」
言っている意味がよくわからなかった。
フランマははてなといった感じで首をかしげる。
「だから無効化されたのは俺の能力だけだったから共有してる能力は無効化されなかったってことだよ」
あぁとフランマは理解した。
彼女の能力はまだ生きていた。だから黒山も生き返ったということか。と。
生き返った黒山を前にしてもライは何も反応を示さない。
「やっぱり意識がもう無いみたいだな」と黒山が言う。
「しかしそれならまだ倒す余地がありますよ」とフランマも言う。そして取り出したのは鉱石。黒山も見
たことがあるものだ。
「これは熾天使の鏡か?」と指をさしながら聞く。
「そうです。実は私も一つ持っているんですよ。これを使えばあなたの能力をもう一度強化できます」
フランマは黒山に手渡して言う。
黒山は会長がくれたのと全く同じ形状だなと熾天使の鏡を見ながら思う。
しかしそんな悠長な話をしてる場合じゃなさそうだ。
ライが動き出した。
黒い破壊の概念に囚われたライはただ目の前の敵を排除するためだけに動き出す。
黒山が生きている今黒山が試練を終わらせるか黒山を殺さない限り、この部屋は壊れない。
今のライ、いや破壊の概念が考えるのは主たるライの望み異人を抹殺することそのためにはここから出な
いといけない。
そのためにも黒山は絶対に殺すべき対象。絶対に逃がしてはいけない。
右手を黒山たちにかざす。
概念が放出された。
さっきとは比べ物にならないほど世界をすべて覆うぐらいの破壊の概念が黒山たちを襲う。しかもそのす
べてに心無き執行者が乗っている。
普通ならば避けることは不可能。死は免れない。
しかしこの2人は違う。
会ってそこまで時間は経っていないが、この2人はその名の通り一心同体。
「最初に会った時お前の力を借りないなんて言ったが無理そうだ。行くぜ。フランマ」
「はぁ…。そこだけはかっこいいと思ったんですけどね。仰せのままに」
その声でフランマはまた黒山に宿った。そして黒山は熾天使の鏡を覚醒させる。
この覚醒は本人にしか効果はない。
しかし憑依しているものなら話は別だ。それは本人という定義になる。
「断罪の炎!」
黒山は叫ぶ。
フランマの時と同じように炎が出現する。
だが量が違う。勢いも。
炎は本来燃やせないはずの破壊の概念を燃やし尽くす。
これが神格能力。
「不思議とお前とは最近出会った気がしないぜフランマ」
「奇遇ですね。私もそう思ってたところですよ」
最強のコンビが今ここに誕生した。




