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接近

26章



「またあなたは…。この場所は壊す用の場所じゃないんですよ。本気出し過ぎじゃないですか?」


天川が卓球場を修理しながら言う。


修理といっても宙に浮いて鉄骨をはめ直したり、超高速で傷がついたところや穴が空いたところを修復して

いるので常人には絶対にできない修理だ。


「…すまんな。少しやりすぎてしまったようだ。まぁまだ全然本気というわけではないが」


奏臣が腕を組みながら言う。


それが人に仕事をさせている時の態度か。と天川は思ったが一応サービス業に努めているもの、そんなこと

をお客様に言うわけにはいかない。と考えつき作業を続行する。


「そういえばあの子たちはどこです?」


周囲に居ない黒山たちを不思議に思って天川は聞いた。


それに奏臣は「…今は勉学に励んでもらっているため別の場所にいる」とだけ返した。


そうですか、と天川はそっけない返事をする。


「そういえばお前は物覚えが悪くて何度もあの方に怒られてましたね。懐かしい」


天川が昔のことを思い出しながら言う。


それに奏臣は「はぁ」とため息をついて明らかにテンションが落ちる。


「…昔の話だ。今はもうお前より上の存在になったからな。結果は出した。そんなことをほじくりかえすん

じゃない」と返す。


天川はそんなことおかまいなしに「そういえばあの黒山っていう子、昔のお前に似てますね」と唐突に言っ

た。


それに奏臣は無言で反応をしない。


「最初に会ったときから思ってたんですよ。温厚で押しに弱いお人好し、更に聞く話によるとあの子も不死

の能力をもってるんじゃないですか。完全に同じですよね」


と壁を修理し終わって地面に降りてきながら天川は言った。


壁は新品同然に光っており、光を大量に反射している。


その光の反射を直で受け、手で顔を抑えた奏臣はニヤと笑う。


「…だからこそ私はあいつに私と同じ道を歩んでほしくないと奮闘しているんだ。何も守れなかった私と同

じ道をな」


そう言った奏臣は空間を捻じ曲げて一緒に光を曲げる。


その様子は光の屈折が空中で起きているようなものだった。その光の中に薄っすらと平坦になった場所が映

る。


それを見て天川は


「まだそんなことを悔やんでるんですか。過ぎたことは仕方ないでしょう。それとあの事件はすべて仕組ま

れていたことだって前に教えましたよね。だからお前のせいではないと」と落ち着いた口調で言った。


しかし奏臣はニヤニヤと何を考えてるか全くわからない様子のまま


「…仕組まれていたとしても私がやったのは事実だ。それは変わらない」と返した。


天川はため息を付いて


「哀れですねぇ」と最後に言って鉄骨の修理を再開した。




集会所兼奏臣の宿泊部屋。菊の間。


今その部屋で黒山たちが奏臣から指導を受けていた。奏臣とはいっても正確に言えばさきほど黒山たちと戦

った。量産型奏臣だが。


オリジナル奏臣よりスペックが落ちているとはいえ常人の数十倍以上は能力がある。


もちろん頭の良さもだ。


「…この文章。筆者が何を伝えたいか、いやそんなことはどうでもいい。そもそもこれは読んで楽しむ。い

わゆる娯楽のようなものだ。ということでその娯楽としてどんな技法が使われているかそこを確認していこ

う」


こう量産型奏臣は言っているが黒山たちが今読んでいるのは量産型奏臣が言うようにそんな生易しいもので

はない。


1つで10ページほどある物語がなんと100個も入っている。いわゆる傑作集のような「聖天使」という名前の

本だ。ちなみにこの物語をすべてこの合宿中に終わらせるらしい。


現在10個目。


今まで読んだ内容は大体妄想か現実かわからない天使たちが起こしてきた逸話をまとめたようなもの。


聖書といったほうがいいかもしれない。


「…さて今回の話は聖天使ウリエルが他の下位天使たちの悪行に気づきそれを断罪する話。その断罪に使わ

れた力はなんというか。はい黒山」


量産型奏臣が黒山に話を振った。


黒山が席を立って文章を読み直す。


「えーと、ウリエルは天使たちを断罪の炎にかけ燃やし尽くした。と書いてるのでこの断罪の炎です」


言い終わるとすぐに席につき直す黒山。


量産型奏臣は「…正解」と言ってモニターに何かを映し出す。


映されたのは簡単なパワーポイントだった。


「…この物語は簡単に言って悪い行いをすればいつか断罪のときが来る。ということを示している」


パワーポイントを1つ動かす。


映されたのは昔の処刑画。


何者かが体を固定されて、首をギロチンで切り落とされている。


「…これは中世ヨーロッパで行われた処刑の絵。文献によればこの男、殺人を犯したのにも関わらず数年間

逃走をしたそう。男の逃走がやっと落ち着いてきたところで警備隊が彼を捕まえ、公開処刑をした。罪から

は逃げられないというやつだ」


その文献は一体どこからもってきたんだ。


黒山はついついそう思ってしまう量産型奏臣は淡々と話し続ける。


「…しかしこの男は不可解なものが多々あって、彼が殺人を犯した直後彼の家がすべて火事で全焼し家がな

くなった。そのせいで彼の立てていたプランがすべておじゃんになって結局捕まってしまっとたと。彼の作

戦がどんなものだったかは知らないが、彼の人生を狂わせたことの1つだろう」


めっちゃ不運じゃんそいつ。と黒山は思った。


そんな予測外のことがあってもなお数年は逃げられたってことは綿密に立てた計画はとんでもないものだっ

たはずだろう。


殺人は許せないが少しは同情できるな。と黒山は少しだけ男に同情する。


量産型奏臣は「…次のページに行くぞ」と言ってパワーポイントをまた1つ動かす。


まだまだ授業は終わらない。




組織本部。


少し前に生徒会に襲撃され甚大な被害を受けた組織はかけた人員の補充と施設の修理に追われていた。


その仕事は幹部以外の下位メンバーと組織長が主にその仕事をしている。


しかしその下位メンバーの上司である幹部たちはというと会議室で談笑をしていた。


「え。今あいつら合宿なんてしてんの?異人のくせに生意気だなー」


シーラーがネイルをつけながらキングから聞いた話をリピートする。


ネイルをつける手が一瞬ぶれて、少しイライラし始めているが。


「確かな情報だ。メイクがその現場に忍び込んでる。情報も逐一教えてもらえるからどんなことをしてるか

はすぐに分かる」


キングがメイクから送られてきた資料をシーラーに見せながら言う。


シーラーは立地を入念に見て


「あ、ここ海あるじゃん。じゃあ私の秘術が光るね。あとで襲撃してこようかな」とぱっと思いついたよう

に言った。


それにキングが


「まだ出発許可出てないだろ。俺たちは待機だ。ルールにも書いてあるだろ」とシーラーを抑えつける。


ちぇーとシーラーはネイルに集中する。


するとそこに1人に老人がポッと現れた。


完全に気配を絶っていた。そこの2人は全く気付けない。


その老人は「ほっほっほっ。やっと仕事が終わりましわい。やはり儂の秘術はとどめを刺すのに時間がかか

りますなぁ」と呟いた。


その声で2人は老人に気づいて振り向く。


「マニアルじゃねぇか。お疲れ様だぜ」


キングがそう言うとマニアルはキングのすぐ右側に座ってどこからかお茶を出現させ、すーと飲んでいく。


ネイルを綺麗につけ終わったシーラーがネイルセットをしまって今度はポケットからスマホを取り出し、ネ

イルを写真に撮っていた。


そしてその写真をSNSに投稿してまたスマホをポケットにしまう。


シーラーがふと右を見るとキングがじーっとシーラーの様子を見ていた。


「何?」とシーラーが聞くと「あ、わりぃ」とキングが謝る。


実はキングはスマホを持っていない。


親も殺され、残った金も全て自身の学費などに使ってスマホという娯楽に回す金はなかった。今はガラケー

を使っている。


一応、少しずつ貯金はしているけどな。とキングは思う。


その後、3人が他愛もないことを長いこと喋っていると、


「お前らお疲れ様だな」


また誰かが会議室に入ってきた。


そいつは黒いジャンパーを羽織ってジーパン。少しくたびれたような姿をしていて眼鏡をつけていてひげが

ポツポツ。その背丈と雰囲気から誰かの父親のような感じがする。そして手には紙袋を2つ引っさげている。


この男こそ組織の長。


最強の秘術師。


「ライさんこそお疲れ様です。その手に持ってるのはなんですか?」


シーラーがまず組織長ライに聞いた。


その問いにライは「これか?」と紙袋を上に上げながらニヤニヤしながら首を傾げる。


ライはキングたちの目の前にある机に近づいてその紙袋を机の上にドサッと置いた。


「みんな頑張ってるからな。差し入れとしてもってきたんだ」


そして1つの紙袋から箱を2つ取り出して内1つの箱の蓋を開ける。


するとそこにはケーキが4つ入っていた。


いちごが宝石のように輝くショートケーキ。スポンジの茶色と生クリームの白色がうまく重なっているチョ

コケーキ。栗の輝きが普通の数倍高く見えるモンブラン。そして最後のは色とりどりのフルーツが乗っかっ

たフルーツケーキが入っていた。


「ほぉ…。これはさぞうまそうなものじゃ」


それを見たマニアルが白いあごひげをこすりながら感嘆の声を漏らす。


「わぁ写真映えしそう〜」


シーラーはすぐにスマホを取り出してケーキの写真を取る。


パシャパシャとシャッター音が響く中、キングは久しぶりに見たケーキに心奪われていた。


「ちゃんと下位メンバーのやつらにも配ってきたから遠慮なく食べてくれ。お茶でも沸かそう」


そう言ったライは給油ポットがある方に歩いていった。それにマニアルが「お茶持ちとしてついていきます

わい」とついていった。


久しぶりに見た。こんなもの。とキングは思う。


最後に食べたのはいつだっけ。もう十数年前になるか。


キングは家族と一度だけ食べたケーキのことを思い出した。


誕生日のとき、両親が殺されたあの日。あのときだけだった。


「キングは何がいい?やっぱりショートケーキ?」


皿を何枚か用意したシーラーがキングにそう聞いた。


一瞬その声がキングには母親の声のように聞こえた。


はっと我に戻って「じゃあショートケーキにするか」と言って、それを聞いたシーラーがお皿にショートケ

ーキを取り分けてフォークとともにキングに渡す。


シーラーが「私はフルーツケーキー♪」と口笛を吹きながらお皿に取り分けている横でキングは恐る恐るフ

ォークを手に持ってケーキを一口、口に入れる。


「うまい…」


その一言だけだった。


それ以上は表現できない最上の美味しさ。


その瞬間あの時の記憶が蘇ってきた。


賑やかな食卓。幸せなひととき。そこに忍び込む1つの影。変わり果てた両親の姿。迫りくる影。そこに現れ

た組織長ライ。


これは1種のトラウマのようなものだろうか。


しかし彼にはもう彼を支える1つの柱がある。


そしてキングはショートケーキを完食した。


キングはこの上ない満足感に浸っていた。


「どうだ、うまかったろ?これは知り合いが経営してるスイーツ専門店のものなんだ。絶品だろう」


ライがキングの目の前に紙コップに入ったお茶を置きがてら言った。


そしてライはそのままキングたちとは反対側に座った。


3人はそれに気づくとケーキを食べる手とお茶を飲む手を止めて改めて姿勢良く座る。


これはライがなにか話がある時のサインだった。


ライは3人が聞く姿勢になったのを確認すると浅く息を吸い、


「殺しに行くぞ」


とだけ言って机の上においてあった紙を指差す。


静寂が流れる。


3人が確認するとそれは「ラファエ」という名前の旅館の紙だった。

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