炎精
25章
合宿二日目の清々しい朝。
自然がたっぷりな太陽光の光を窓から浴び、小鳥のさえずりを耳にし、電子的な光もなくとても平和。
ドアから聞こえてくる大音量のノック音以外は。
「…さっさと起きろ野郎共!今何時だと思ってるんだ!」
ノック音に混じって奏臣の怒った声が聞こえてくる。
既に起床し、私服に着替えた牙忍が「やれやれ」と玄関に向かいながら言う。
一方黒山は寝坊していた。
清々しい顔で布団にくるまりながらゆったりと寝ている。
夜ふかしをしたというわけではない。ただ昨日のフランマとのやり取りで寝る時間が遅くなってしまっただ
けなのだ。それと大量の疲労。
黒山の中でフランマも「相棒ー。起きろー。朝だぞー」と精神に直接話しかけているが全く起きる気配がな
い。
扉の外で牙忍と奏臣が「…黒山はどうした?」「寝坊みたいですね。あいつにしては珍しく」と言った感じ
で話していた。
フランマが「私のせいでもありますし仕方ないですね」とため息をつく。
すると
ムクリと黒山が突然起きた。
起きた黒山は布団から出て瞬間的に私服に着替え終わり、歯磨きをしながら予定表を確認し始める。
ただその目が薄っすらと赤くなっている。
充血的なものではない。瞳の色自体が変わっている。
歯磨きを終えると顔を洗い、身だしなみを整えすぐに玄関に向かって歩き始める。
そしてドアを開ける。
「お、起きたみたいですね」
牙忍がそう言っているのが一番最初に聞こえた。
ドアの前には黒山以外の生徒会全員が居て、全員が眠そうにしている。
奏臣が「…遅いぞ、体調管理はしっかりしておけ。さっさと朝ごはんに行くぞ」と言い、通路を歩き始めか
けた。
突然「…ん?」と奏臣は声を出して黒山の方に振り返る。
そして
「…お前黒山じゃないな誰だ」
と黒山に向けて言った。
その発言の意図が読み取れず、他の生徒会メンバーは「へ?」と間抜けな声を出しているが、当の本人黒山
はピクッとだけ反応した。
奏臣は黒山を睨みつけ、とてつもない殺気を出す。
すると黒山が「さすがですね会長様。私の憑依術をすぐに見破るなんて」と腰に右手を当て、左手を上に軽
く掲げながらながら言った。
そう今黒山の体を動かしているのはフランマだった。
フランマは今黒山の体と一心同体になっている状態。そしてこの状態なら主人格の許可さえ取れれば自由に
体を使うことができるのだ。
黒山もといフランマは「いやーこいつかなりのねぼすけでしてね。私が代わりに起きようか?と言ったら即
OKしてくれたんですよ」と笑いながら言った。
櫻木たちはぽかんとしているが奏臣は呆れたような顔になって
「…そういうのは本人の堕落につながるからやめてくれ。それとさっさと黒山を起こして呼び戻してこい」
と一喝した。
フランマはそれに「あなたの言う事ならそう致しましょう」とあっさり承諾して、黒山を呼び起こそうとす
る。
すると櫻木が、
「ちょっと待って待って。会長はなんかスムーズに話してるけどこの人だれなの?信二くんじゃないの?」
とわたわたしながらフランマに聞く。
それにフランマは「私はただの力です。力が意思を持って黒山…いや、相棒に宿っただけですよ」と櫻木に
は全く意味がわからない回答をする。
続けて、「私には相棒を含めた異人に危害を加えることは絶対に致しません。なので安心してもらって結構
ですよ」と言う。
わけがわからないという風に頭を回転させる櫻木たち。
ただ奏臣だけは全てわかっているようで「…力が自我を持つなんてことはよくある話だ。実際私にも自我を
持った力があるしな」と地味に衝撃発言をする。
「えぇ!?」と4人が驚愕した。そして4人でわちゃわちゃ何かを話していると。
そこで
「あ、今起きましたね。変わりますよ」とフランマが言って、カクンと黒山の体が力なく首を下に曲げる。
すると、「あぇ。おはようございます…。フワァ…」
と声は変わらなかったが瞳の色が元に戻った黒山信二がそこに居た。
その直後、
スパァン!
という音とともに…いや音が遅れて、奏臣の全力ビンタが黒山の頭に直撃する。
黒山は一瞬首がもげかけたがすぐに戻して「何するんですか!?」と奏臣に向かって叫ぶ。
奏臣はものすごく怒っているようで顔を真っ黒に染めながら
「…生徒会に所属していながら他人任せか黒山。その根性この合宿で叩き直してやるから覚悟しておけ」と
どすがかかった声で言った。
その殺気は異常で櫻木たちも震えるほどだった。
どすぐろい殺気で廊下の先が見えない。
その中で黒山は
「終わった」
と心のなかで思う。そして呆れ声を出すフランマの声を聞きながら思った。
白い空間の中で「死なないから大丈夫でしょう」とフランマがのんきに言ったのに黒山は「そうじゃない。
あの人は絶対に精神的にやってくる」と一蹴する。
そしてその殺気のまま、奏臣は食堂に向かい始め、それに付いていく黒山たちだった。
朝ごはんは普通の白いご飯と鮭と味噌汁と野菜の漬物だった。
特に昨日の夜のような衝撃はなく、淡々と朝ごはんを食べる生徒会。
しかし、
「会長、なんで俺のご飯はこんなに大盛りなんですか」
ただ1人黒山のご飯だけは櫻木たちの数十倍盛り付けられていた。
「…それは知らないな。旅館側の配慮だろう」と奏臣は言った。
黒山は自分のご飯と奏臣の近くに置いてある炊飯器を交互に見て「いや盛り付けたのあんたでしょう」と返
した。
奏臣は「…黙って食せ。あと食べ終わった後はこれを飲め」と黒山に一錠の錠剤を投げた。
錠剤は宙を待って黒山が既に完食した漬物皿にコツンと入った。
黒山はその錠剤を見て「なんですかこれ」と聞いたが、奏臣は「…死にはしないから黙って飲め」と言って
黒山の聞きたいことを話さない。
すげぇ怖いと思ったが、さすがに会長が毒とか飲ませないか。と考えついて高速でご飯を食べ進める。
もともと黒山は割と大食いで結構な量食べられるため問題はなかった。
そしてあっという間に全てを完食。
黒山はまだお腹に余裕はあったがこの後が訓練なのでやめておこうと思って食終わりにそのまま錠剤を水と
ともに飲んだ。
周りを見るとまだ全員食べ終わっていないようだったのでナプキンで紙飛行機を作って遊んでいた。
そして全員が食べ終わると奏臣が立ち上がり「…行くぞ」と言ってそのまま出口に向かって行ってしまう。
慌てて奏臣に付いていく生徒会メンバー。
しばらく生徒会で話しながら館内を奏臣に付いていって歩いていると「…ここだ」と言ってドアの前に立
つ。
そしてドアを開ける。
ドアの向こうは広い空間だった。
その部屋の位置と内装に黒山と牙忍は見覚えがあった。
卓球場だ。
今は卓球台など何もなく体育館のようになっているがあの卓球場と同じ景色だった。
そして
「…よし、それじゃあ始めるぞ」
と言って奏臣は指をぱちんと鳴らした。すると
「…出番ですね」と言いながら奏臣がもう1人、黒山たちの後方にある黒山たちがたった今入ってきた扉から
入ってきた。
またなにかしたな。と黒山が思っていると奏臣が「…最初はこいつと戦ってもらう」ともう1人の奏臣の肩を
叩きながら言った。
続けて「…こいつは私の複製体だ。複製体とはいっても能力自体は私より格段に劣っている。これならいい
練習になるだろう」と言った。
今度は複製体か…。量産型会長とかやなんだけど。と黒山は心のなかで思う。
その量産型会長は見たままそのまま奏臣の姿をしていてその双子っぽさからメイクのことがいやでも頭によ
ぎってくる。
そして本物の奏臣が軽くジャンプをして数十メートル後方に下がる。
すると今度は量産型会長が「…全員でかかってこい」と言って拳法のような構え方をする。
「じゃあ遠慮なく」
そう言ったのは幽美だった。
すぐにこの場所を自身の領域だと確定させる。
そして「刺突」と呟くと卓球場の屋根からすごい音を立てながら鉄骨が落下し、量産型奏臣に突き刺さる。
思わず黒山は「それは流石にやばいんじゃないのか!?卓球場壊れるぞ!?」と叫ぶ。
それに答えたのは本物の奏臣。
「…大丈夫だ。どれだけ壊そうがこの建物自体が壊れることはない」と言った。
しかも「…そんな程度じゃ『私』は倒せないぞ」と忠告をした。
その忠告通り、鉄骨を完全に砕く音が響き渡り、煙の中から無傷の量産型奏臣が現れた。
幽美は「まぁそんな程度で死ぬんじゃ訓練の意味がありませんよね」とこのことも予想通りだと言った感じ
で言う。
鉄骨を破壊した量産型奏臣は無言のまま手を黒山たちの方に向ける。
そしてその瞬間、奏臣の背後に無数の氷のつぶてが現れ、そのまま黒山たちに向かって飛んできた。
「これは死ぬって!やばいやばい!」
牙忍が後ろでてんやわんやしている。
確かに俺と櫻木は死なないが、他は対処できない。
あの鋭さだったら幽美の紙盾も貫通するだろう。
「どうすれば…」と黒山が考えていると、「えぇい!じれったいぞ!」と頭の中にフランマの声が聞こえて
きた。
「どけ!私がやる!」とフランマが言い、それに黒山は慌てて了承する。
黒山の目の色が変わった。人格がフランマに移り変わり、周りに火の玉が現れる。
「炎盾」
フランマがそう言ったと思うと全員の目の前に炎の壁が現れた。
炎の壁にぶつかった氷のつぶてはジュワァと一瞬で蒸発し、全員が無傷だった。
その光景を見て黒山本人は「やっぱりこいつはすげぇ」と改めて思った。力を借りないと豪語したのにも関
わらず借りてしまった自分にも呆れながら。
すると「一気に行きますよ!」とフランマが言い量産型奏臣に向かっていったが黒山は「え?ちょまて」と
止めようとした。
しかしフランマは聞かずに「炎剣」と言い、炎の剣を生み出す。
それに対し、量産型奏臣は虚空から刀を生み出して構える。
後ろに続いて牙忍たちも援護に来ていた。
だがそれをフランマは見ていない。
炎剣と刀がぶつかる。
その瞬間、刀が溶けて炎の剣が量産型奏臣をそのまま貫いた。
そして
「塵すらも残さない」とフランマが言った。
その体制は黒山を燃やし尽くした術の姿勢。
まさかここで俺にやった技をやるつもりか!?と黒山はフランマを止めようとする。
ここでやったらまず間違いなくすぐ後ろまで来ている牙忍たちにも被害が出る。それは流石にまずい!
頑張ってフランマの意識を操作人格から追い出そうとする。
しかしその前に
「…物質変換。空間圧縮。…砕けろナロクオリジン」
奏臣本人がそう呟くと卓球場の中心に芯のようなものが現れた。
芯は現れたと同時に周囲の空間を巻き込み竜巻のように回転し始める。
その回転になぜか黒山とフランマだけが吸い込まれていった。
牙忍たちはぽかんとしてその光景を見つめている。
「なんで私だけ〜」とフランマが叫んでそのままシューッと中心に吸い込まれた。
「いや俺はばっちり何だけど!?」黒山の体の中で黒山は叫ぶ。
黒山とフランマはその後1時間ぐらい竜巻の中に巻き込まれて奏臣から徹底的な指導を受けた。
途中で「…他人任せにした罰だ。そこでゆっくりと反省しろ」と奏臣の声が聞こえてきた。
それに黒山は「いややっぱりこれって俺悪いの!?誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と反論していた。
「…あいつ、まさか自分の意志で戻ってきたのか。やっぱり面白いやつだな」
1人ニヤニヤしながら奏臣はそう言って竜巻の勢いを強くするのだった。
どうもsakuです
今回は初回訓練と言った感じでしたがやっぱり進みが早いですね
このままだと結構早めに完結してしまいそうです
そうならないようになるべく長く書いていきたいと思っております面白ければブックマークや評価を、なにか直すべき所があれば教えて下さい
それでは、また来週




