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肝試

23章



合宿に来ている生徒会。


その中で黒山と牙忍は既に浮かれ気味で卓球をしていた。


いや、卓球と呼ぶには少し違うものかもしれないが。


ビュオン!とすごい音を立てながら卓球の球が卓球台にクレーターを残しそうな勢いで跳ねる。そして目に

見えないほどの速さの球を黒山は同じように跳ね返す。牙忍も同じように球を跳ね返す。


2人とも能力を使って全力で卓球をしている。


このラリー、実に9680回目。


既に卓球台は何個か小さいくぼみがいくつか出来ていて、球の跳ね方が不規則になりかけている。


その不規則に全て反応した上で2人はラリーを続ける。


2人とも喋っている暇はなくただ黙々と続けるしかない。一言でも喋るとその時点で集中が途切れて球を落と

してしまう可能性がある。


卓球場にパパパパパパパァンというラケットに球が当たる音とカカカカカカッという球が卓球台に当たる音

が絶えず響く。


その音に惹かれて卓球場に奏臣がやってきた。


奏臣は2人の様子を見ると「…楽しそうだな」と言い、壁に寄りかかって試合の行く末を見届ける。


ちなみに奏臣が卓球をするならば時間を止めて球を打ち、その後時間をもとに戻す。


すると時間が止まっているとき物に力を加えたことで反動力が膨れ上がり、今2人が打っている弾の威力の数

百倍速く球を打つことができる。


しかしそれをするとこの建物自体が壊れる可能性があるので実際にやる気はないが。


卓球場は学校の体育館程度の大きさがあり9台の卓球台が置いてある。今黒山たちが卓球をしているのは1番

入り口に近い入口から左手にある卓球台だ。


黒山たちの他にも何人か客が卓球を楽しんでいる。


そのまま数分が経過した。


まだ2人のラリーは続いている。おおよそ13000回はラリーをしているだろう。


奏臣が時間を見るともう夕食の時間になっていた。


そろそろ終わりにさせるか。と奏臣は思う。


この集中力だとただ声をかけただけだと反応はないだろう。と考えた奏臣は右手を黒山たちの方に向ける。


「…加速」


奏臣がそういった瞬間、球が数千倍の速度に加速した。


目に見える見えないの話ではなくもう球が摩擦で燃えかけている。


これが奏臣の能力「無限」のうちの1つ。「絶対遠作」だ。


概要は全ての物体を好きなように動かしたり、さっきのように加速させたり減速させたりすること。手に触

れていなくても発動できる。


その加速に驚いた黒山と牙忍はすぐに速さに対応すべく健闘したがむなしく球は吹き飛んでいった。球はそ

のまま壁に当たって壁に食い込んだ。


すると2人がガクッと膝から崩れ落ちた。


驚いた奏臣は慌てて2人の元へ駆け寄る。すると2人とも「ゼェ…ハァ…シヌ…」「キツイ…アイカミズヲ…」とかすれた声

で言っていた。


どんだけ時間やってたんだ…。と半分呆れる奏臣。


そして夕食の時間が迫っていることを思い出して、2人の襟を掴んで引っ張り、引きずって強制的に食堂へ連

れて行く。


さすがに奏臣といえど男2人を1人で連れて行くのはめんどくさい。


持てなくもないが時間がないので雑な方法で連れて行く。


その間も2人は「ダレ…アイカカ…?」「シヌ…タス…ケテ」と言っていたがいちいち反応するのもめんどくさいので無言

のまま2人を連れて行った。




「遅いね。真二くんと会長」


「一応、牙忍くんもいるのですよ。忘れないでくださいです」


食堂でメインの鍋があったまるまで待っていた櫻木と幽美と咲川はいつまで立っても来ない3人を心配してい

た。


既に6人分の食器が出ていて準備は万端なのに3人が来ないためなかなかくつろげない。


特に信二くんがいないのは私が狂っちゃうほど心配だから速く来てくれないかなぁ…。と櫻木は思う。


すると入り口に1つの影が見えた。


見るとそこには会長が居た。


今食堂にいる女性陣の方から見ると机が邪魔で下にあるものが見えていない状態だ。


「何してたんですか会長。あなたらしくなっ…」


幽美が席を立って会長へ近づきながら言っていたが途中で言葉を詰めた。櫻木は何かあったのかという風に

思って近づいてみると、


「え?信二くん何してるの?」


そこには瀕死状態になった(血は出てない)黒山が奏臣に引きずられる形で倒れていた。


一瞬櫻木は悲鳴を上げそうになったがそれにいち早く気付いた幽美が櫻木の口に手を当てる。


「イチオウオレモイルンダガナ…」と死にそうな声と顔で言う牙忍。


それに櫻木は「あなたは知らない」とバッサリ切り捨てる。


「フッ…ヒデェゼ」そう言い残して牙忍は意識を失った。幽美が小声で「私はちゃんと心配してますからね」と

言っていたが櫻木には関係ない。


「信二くんに何があったんですか?」と奏臣に聞いた。


それに奏臣は2人をバサリと床に落としながら「…ただの能力の使いすぎだ」と言った。


床に落ちた瞬間「ガフッ」と2人から声にならない声が発せられた。


「…ほら起きろ。夕食だぞ」


奏臣は2人の頭を小突く。


すると黒山はまだくらくらしていて危なっかしいがすんなり立ち上がって「…ん?どこだここ」とちゃんと

した言葉を話したが、牙忍はまだ手を床について「タテナイ…ダレカオコシテ…」と助けを求めていた。


やれやれといった感じで幽美が牙忍に手を貸す。


黒山が完全に立ち上がったと同時に櫻木が黒山の腕にくっついた。


騒がしい生徒会の部下たちを見ながら奏臣は「…鍋ができてるぞさっさと座れ」と言い、1人席につく。


それに続いて生徒会メンバーも座り始めた。もちろん黒山と櫻木は隣同士。


奏臣は全員が席についたことを確認すると喋り始めた。


「…さて、今回の合宿は主にお前たちの学力と能力値上昇のために来ている。確実に疲労することが予想で

きるからご飯はかならず食べること。この後から合宿のカリキュラムは入っているから忘れないように」


そこまで話し、奏臣は飲み物を軽く上に上げて乾杯の準備をする。


黒山たちも飲み物を上に上げる。


「…それと、休息はしっかりと楽しむように」


そんなことを奏臣が言ってから一拍置いて、


「「「「「「乾杯!」」」」」」


と全員で言った。


そこからは飲めや食えやの軽い宴会。


6人で鍋をつつき、雑談をし、飲み物を飲む。ちなみに奏臣以外はソフトドリンクだったが、奏臣も一応体は

未成年のはずなのにジョッキでビールを飲んでいた。


途中、奏臣への質問会みたいなものが始まって聞きたいことを全部聞いてしまえってなっていた。


「…私の好きな食べ物か、飲み物でいいなら紅茶だ」


「…趣味は異人のデータを見直すことだ。最新の情報にしておかないと問題が発生するからな」


「…能力を教えてほしい?多すぎるから話しきれない。私だって自分の能力を全て把握してるわけじゃない

んだ」


「…何歳かか。わからないな。長生きしてると記憶も曖昧になっていくものなんだ。今の記憶を大事にして

おけ」


とこんなふう様々。


黒山は一瞬過去のことを聞こうかと考えたがメイクの話を思い出して「今ここで話すことじゃないな」と思

い諦めた。楽しい雰囲気を壊すのは良くない。


鍋の具材がなくなる頃にはみんなお腹が充分に膨れ、話の勢いも落ちていった。


すると奏臣が立ち上がって


「…そろそろ時間だ。行くぞ」といつもと変わらない口調で言った。


それに「少し待ってください…。お腹が一杯で動けません…」「私もです…」と生徒会メンバーたちは言い

始めた。


夕食食べた直後はまずかったか。と奏臣は思った。


普段奏臣はご飯というものを殆ど食べないため感覚が狂っていたようだ。ちなみにこのスケジュールは奏臣

が決めているためいくつか常人には不可能なカリキュラムが入っているがそこにはまだ気づかない。


「…大丈夫だ。これから行うのは軽いレクリエーションのようなものだしな」


そう言って奏臣は虚空から懐中電灯を生み出して電気をつけた。


何をしているのか黒山は謎に思っていたが、察しがいい咲川はガクガクと震えていた。


そして奏臣は懐中電灯で顎のあたりから顔を照らしながら


「…今から肝試しを行う」と言った。




奏臣に連れてこられたのは旅館から出てすぐ後ろの森の入り口だった。


秋ということもあって割と過ごしやすい気温だが風が吹くと少し寒く感じる。


海の向こうはまだ薄くオレンジ色になっているが森の入口は既に暗黒で目を凝らさないと何があるか見えな

いほどだ。


「…えー、順路はこの入口を真っすぐ行って私特製の御札を取って帰ってくる。それだけだ。特に曲がり道

などはないから迷う心配もない」


奏臣が説明しているのを黒山たちはしっかり聞く。櫻木だけは黒山の腕をぎっしり掴んで目を閉じながらほ

っぺすりすりしているが。


「…特にペア決めなどをすることはない。このメンバー5人で行ってもらう」


「え?会長は来ないんですか?」


黒山は奏臣に聞く。それに奏臣は「…私が居るとお前たちは安心してしまうだろ。そしたら肝試しにならな

いじゃないか」と言った。


まぁそうか。と黒山は納得する。


奏臣は最後にメンバー全員を見て「…それでは闇の世界を楽しんでくれ」と言い、シュンと虚空に消えてい

った。


奏臣が立っていたところに懐中電灯がコロンと転がる。


黒山はそれを拾って指でくるくるともてあそぶ。


「肝試しか。いつ以来だ?」と牙忍が懐かしいように言った。それに咲川が「私は初めてですね。もともと

実験室に籠りきりの生活だったものですし」と返した。


黒山自身は初めてだが、「死ぬっていうことを経験してるから大抵のことは怖くなくなったんだよなぁ」と

思っていた。


実はショッピングモール事件の後に何個か心霊番組を見たのだが昔より怖がらなくなってしまったのだ。


だけど少し怖いのもある。なんだろう得体のしれないこの気持ちは。


「とりあえず行きましょう。時間制限があるみたいですので」


幽美はそういいながら懐中電灯の光る方と反対部分のところを指さした。


黒山が見るとそこには「残り、58:01」と書いてあった。


「もう始まってんのか。あの人せっかちすぎじゃね?まぁ行くか」


「信二くんと一緒になにかできるだけでもう幸せ…。あわよくば闇に引きずり込んで…」


そんなふうなことを言っていた櫻木の頭をパシンとはたき、「お前の思い通りにはさせないからな。俺がお

前に引き離されないようにお前を俺が絶対離さずに歩くぞ」と言った。


その言葉に櫻木が弾け「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああ」と発狂して

危うく倒れかけそうになった。


倒れかけた櫻木は黒山が責任を持ってキャッチしました。


そのおかげで櫻木は今黒山にお姫様抱っこをされ、興奮しすぎて顔を真赤にしている状態なのだが、


「このままでいいか。行くぞ」


と黒山が言ったことでさらに興奮し、カクンと気絶してしまった。


黒山は半分めんどくさいなと思いつつも、人に好かれるのは悪くないと思い。そのまま闇の森の中に入って

いった。


その後に「ひゅー、ラブラブ見せつけてくれちゃって〜」と牙忍。「あれはラブラブと言うよりかは櫻木が1

人で発狂してるだけじゃないか?」と幽美。最後に「あぁ…尊い」と咲川が言いながら闇の森の中に入って

いった。




しばらくその場に静寂が漂う。


黒山たちが完全に森の中に入った後、元いた場所に奏臣がまたシュンと現れた。


手に古典的なこんにゃく釣り竿を持って。


「ほんとにお前は昔から部下には恵まれてるよなぁ。羨ましいぜ」


奏臣の後ろからそんな事を言いながら天川がてくてくと歩いてきた。左手には吸いかけのタバコを持ってい

る。


頭に乗っているものだけが朝会ったときと違って、頭に黒色のハットを被っている。


「…そういうお前も私の部下だったんだがな。その言葉は一種の自画自賛じゃないか?」


と最後の一文だけ煽るように言った。


しかしそれを聞いても天川はタバコを口にくわえるだけで何も言わなかった。


この様子から見て精神年齢は天川のほうが高いと予想できる。


「ところで…」


天川がタバコを離し、煙を吹きながら聞く。


「この森、結構な超常現象が起きるって聞いてるが大丈夫なのか?」


奏臣はそれを聞いてピクリと動きを止めた。


構わず天川は話し続ける。


「なんか写真取ったらオーブが出たり、霊がいっぱいうろついてたり、しかもその霊が襲ってくるっていう

のを客から聞いたぜ?」


さらに奏臣は固まった。


またその場に静寂が漂う。その少し後に、


「この旅館自体も異人っていう超常現象を受け入れてるところだから霊が出てきても不思議じゃないしな」


と天川はのんきな声で言い、またタバコを口にくわえた。


奏臣はというと、ここがそんな心霊スポットだということを知らずにこんな計画を立ててしまったものだか

ら罪悪感が出てきていた。


その様子を見て天川がまたゆっくりとタバコを口から離して、煙を吹きながら


「ま、お前の部下なら大丈夫だろ。話を聞く限り霊能力を持ってる…幽美だっけ?そいつがいるなら問題な

いだろ」


「…それもそうだな」と奏臣は胸をなでおろす。


それに「いや開き直んじゃねぇよ乳コン」と天川は奏臣に指摘する。


闇の森はその会話すらも飲み込んでいく。


怒った奏臣の攻撃音すらも。

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