開始
22章
ブロロロロロ…。
1つのワゴン車が人気のない道を走っていく。その道は自然がまだ生きているような道で舗装はされているが
苔や蔦が生えており誰も使っていない山道のような道だ。
その1つのワゴン車の中には
「どこまで行くのー。疲れたー」
「少しは静かにしてくれ愛花…。俺は昨日寝れなかったんだ…」
いつもの生徒会一行が乗っていた。
一応メンバーを説明しておくと黒山、櫻木、咲川、牙忍、幽美、奏臣の6人。ちなみに車を運転しているのは
いつもの奏臣だ。
出発する前…
学校に止まったワゴン車に気づき、「え?車で行くんですか」と黒山が聞く。
それに奏臣は「…車でしか行けないからな」と返す。
黒山は「誰が運転するんですか?」と半分答えがわかりつつも奏臣に聞いた。
奏臣はきょとんとした顔になって「…私が運転するが?」と普通のことだろうと言わんばかりの声で黒山た
ちに言った。
そしていつも通り「やっぱりこの人おかしい」と黒山たちは思った。
心配になりつつ、出発してみるとものすごく運転がうまかった。
同乗者にほとんど負担がかからない走り方をしていてスピードも速すぎず遅すぎずのいいペース。
車の運転について詳しくは知らないがうまい運転ということはわかった。
そしてそのまま走り続けて数時間の今に至る。
地味に結構な時間走っている。
「うう…腰が痛ぇ…」と黒山は愚痴をこぼす。
それを聞いたのか奏臣が
「…まぁ頑張れ後少しでつくぞ」と言った。
それを聞くだけでも痛みが和らぐ。…こいつさえ居なければ。と黒山は横にいる櫻木を見る。
櫻木は黒山にベッタリとくっついてぺちゃくちゃ喋り続けている。どこで息継ぎをしているのかわからない
ぐらいのマシンガントークだ。
最初に言ったとおり黒山はこの合宿が地味に楽しみで眠れなかった。本人も子供っぽいと思っていたが、寝
れなかったものは仕方ないと割り切っている。最悪電車(黒山たちは最初電車かと思っていた)の中で寝れば
いいかと思っていたが櫻木の存在ですべてが狂った。
「寝れない…」思わず呟いたが、櫻木はまだ喋り続けている。後ろも後ろで幽美と咲川がヒソヒソと内緒話
をしている。
あいつらも買い出し終わりに採寸とかしてきたからな。絶対なにか企んでる。そう黒山は出発する前からず
っと警戒している。
すると
「…到着だ」
と奏臣が言った。
黒山たちが窓を開けて外を見てみるとそこは
「え?海?」
「…その通り。ここは日本の端だ」
一面の砂浜と海、その反対側には自然が生い茂った森。ここは日本なのか?と疑問を抱くような場所だっ
た。そしてその海と森の境目にちょうど立っている大きい建物。あの奏臣特製パンフレットに書いてあった
のと同じ外観。そして何より目を引かれるのは看板。
この旅館の名前は「ラファエ」。名前はともかくその下に小さく予約限定と書いてあるのまでは普通だが、
その看板がでかい。建物の入り口半分ぐらいを使って看板がバーンと書かれている。
「ほえ…すご…」
全員それしか言えなくなっている。
すると、旅館の中から男がが出てきた。
男はスーツをぴしりと着て歩き方も一歩一歩コツコツと音がなるようにキビキビと歩いている。
容姿や歩き方からどっちかというとホテルの従業員かと黒山は考えた(ここは和風旅館っぽいところだが)。
そして男は黒山たちの目の前まで来ると
「ようこそいらっしゃいました。まずはチェックインから行いましょう。ではこちらへ」
とお腹の前で手を組み、「ではこちらへ」の瞬間に片手を旅館入口に向け笑顔のまま礼儀正しく挨拶を行っ
た。
やっぱり訓練してる人は違うんだなぁ。と黒山が考えていると。
「…かたっ苦しいのはやめろ天川。お前がその口調なのは違和感がある」と奏臣が従業員に言った。
すると従業員は一瞬ピキッとこめかみを鳴らして笑顔を崩し、奏臣を睨みつけた。
え?と黒山たちが混乱していると天川と呼ばれた従業員は、
「一応、仕事何でね。知り合いとは言え接客態度を変えるわけには行かないんだよ乳コン」と最後によくわ
からない略語を使って言った。
その言葉を聞いて奏臣がブチギレし、瞬間的に天川を殴りに行った。
ドーン、と強い衝撃波が辺りに広がる。
これは拳をもろに食らった音だ。奏臣の拳は強すぎて受けるのは黒山たちには不可能で避けることしか出来
ない。
しかし、
「おいおい。まだ貧乳コンプレックス治ってないのか?諦めろってそれがお前の運命さ」
天川は奏臣の拳を開いた手で受け止めていた。
力んで受け止めたわけでもなく、ただ手を拳の通り道においただけのような感じだった。
奏臣は舌打ちをして拳を戻す。
「…やはりお前は面倒だ。2番目にな」
「それの基準はお前が勝てるか勝てないかの話だろ?判断基準が狂ってるんじゃないのか?」
天川は手のひらをタオルで拭きながら言う。
そして拭き終わるとさっきと同じ営業スマイルに戻って、
「それではご案内いたします。私についてきてください」と言いそのまま歩き始めた。
黒山たちはポカンとして一連の流れを見ていた。
それに奏臣が「…行くぞ」と言って全員正気に戻り、旅館の中に入っていくのだった。
旅館受付前で生徒会はチェックインを待っていた。
特に問題なく進んでいることでこの生徒会長がどんだけ用意周到なのかわかるだろう。
ちなみに今チェック員を作業を行っているのは天川ではなく普通の従業員らしい女の人だった。
周りにあの天川が居ないことを確認すると黒山は小声で奏臣に声をかけた。
「あの人と会長ってどういう関係なんですか?」
それに奏臣は特に表情を変えず、
「…腐れ縁のようなものだ。かなり昔からあいつとは知り合いでな。この旅館のオーナーはあいつなんだ
が、この旅館を建てるという話をしたときに資金を貸し出せるぐらいの仲だ」
え?それって結構な額じゃ…。と黒山はさり気なく出てきた奏臣の所持金の多さにドン引きする。
それとそんなに大金を貸し出せるぐらい仲がいいっていうことはやっぱり天川も異人?
さっきの一瞬で奏臣と渡り合っていた。明らかに黒山たちより強い。
「お待たせいたしました」
黒山がそう考えていたときに従業員が鍵を3つカウンターに出しながら言った。
奏臣はその鍵を取って「…ありがとう」とだけ言い受付を離れる。
それに生徒会メンバーも付いていく。
しかし黒山は奏臣を見習って従業員に「あ…ありがとうございます」と言って奏臣に付いていった。従業員
はニコリと笑って「ごゆっくり」と返してくれた。
速歩きで奏臣たちに追いつくと櫻木が振り向いて黒山に話しかけた。
「ねぇ…今従業員さんにありがとうって言った?」
黒山は櫻木がどういう意図かわからず「あぁそうだけど。なにかあったか?」とだけ返した。櫻木は「ん
ん…別に」とだけ言って向いていた方向を戻した。
なんなんだ?と黒山が思っているとコキーンといった電子音がなってエレベーターの扉が開いた。
中に人はおらず奏臣たちはわらわらと中に入っていった。
エレベーターに乗って奏臣は5のボタンを押す。
そしてドアが閉まりエレベーターが動き出す。
エレベーター特有の軽く押しつぶされるような感覚を感じながらさっきの櫻木について黒山は考えた。
なんだろう。俺が櫻木以外の女性と話してるのに怒ってるのかな。でも怒ってるとしたら俺を迷わずグーパ
ンしてくるだろうし。気分が乗らなかったとかかなぁ。
コキーン
エレベーターが5階に着いた。
ドアが開くと広間に出た。広間には絵が何個か飾ってあって突き当り両端に通路が続いている。右の方にか
けてあるプレートには「501〜510、菊の間」と書いてあり反対側のプレートには「511〜520、食堂」とそこ
にある部屋番号と施設が書かれていた。
奏臣はそんな2つの通路のうち右側に向かっていった。
黒山たちもそれについていくが、ふと振り返った黒山は「?1階にエレベーターなんか2つもあったか?」と
呟いた。
だが奏臣たちは止まらず行ってしまうので黒山は「見落としてたけど1階にもあったんだな」ということにし
てまた奏臣についていく。
廊下の途中で奏臣がピタッと止まった。そして手にある鍵を止まった眼の前にある部屋の鍵穴にさして回
す。ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
部屋番号は「506」、そして奏臣は鍵を抜いて黒山に手渡した。
「…ここがお前らの部屋だ。そして女子はこの1つ隣だ。行くぞ」と言って隣の部屋に向かっていった。
残された黒山たちは「506」のドアを開く。
中は電気が付いていなく薄手のカーテンがかかっているため少し暗い。
黒山は中に入ってまず電気をパチリとつける。
明かりが部屋全体を明るくして見えたのは和室だった。
黒山が通ってきた玄関を抜けると広い畳の空間があり、真ん中に机、その四隅に座布団椅子が4つ。
机の向こう側はまた別のスペースで小さい机と椅子が2つ。奥にカーテンがかかっている。障子で見えなくな
っている両端を見ると右側には冷蔵庫。左側には物干し網棚が置いてあった。このスペースは障子で仕切る
ことができるらしく秘密基地的なこともできそうだ。
右側の壁には襖があって開けると中には布団がぎっしり詰まっている。
黒山たちはここでやっと「合宿に来てる…」ということを実感した。
早速、部屋に持ち物を入れたバッグをぽいっと置いて座布団椅子に座る。さらに机の上にはお菓子があった
ので2人仲良く1個ずついただく。
「うっま!」黒山はあまりの美味しさに感嘆の声を漏らす。一方、牙忍は最後まで無言で食べ終わると空き
袋を手に取り商品名を見る。
「聞いたことないなこんなお菓子」
牙忍は神妙な顔をしてそう言った。
黒山は「でもこんなに美味しいなら売店とかに売ってるよな。帰り買っていこう」と牙忍の発言を全く気に
せず散財宣言をする。
黒山自身「ホテルのよく置いてあるお菓子ってだいたいそういうもんだろ」としか思っていなかった。
するとドアがコンコンと2回ノックされる。
そして黒山たちが返事をする前にドアがガチャリと開いた。
入ってきたのは奏臣だった。
「何か御用ですか会長」
牙忍が座りながら言う。奏臣は2人のくつろぎ具合を見てホッとしたように胸を撫でおろした。
「…これからの予定についてだ。全部この紙に書いてあるから読み込んでおけ。以上だ」
そう言うと紙を1枚ずつ2人に渡してまた部屋を出ていった。
奏臣が出ていった後、2人は紙を詳しく見る。
「げっ夜ご飯食べ終わったらもう予定入ってるよ」と黒山はめんどくさそうに言う。
それに続いて
「だが、これは…卓球特訓?なんだこれなにが特訓なんだ?」と牙忍はわけがわからないという風に言う。
確かにこの旅館には卓球場があったがそれと戦いに何の関係があるんだ?
すると牙忍が
「まっ、夜ご飯までは自由なんだしなにかしようぜー」と言った。
それに黒山は「そうだなー。よし卓球特訓にでも備えて卓球でもするか?」と返し、牙忍は「初っ端から疲
れる気満々だなぁ。相手になってやるよ」と挑戦を受けて立てる。
2人はすぐさま立ち上がり、卓球場へ足早に向かうのだった。
「改めて久しぶりだね、奏臣。結構ご無沙汰だったじゃないか、えーとざっと20年位ぶりかな?」
「…年数なんてどうでもいいだろう。私たちは時間の流れ方が違うからな。どんだけ年数が経ってようが生
きている限りいつでも会えるだろう」
「そうですよ、こうやって集まれるのもいつでもできますし久しぶりなんて使わなくてもいいですよ。結構
年数が経ってしまったのは事実ですけど」
旅館「ラファエ」の管理人室。
その部屋に3人の異人が集まっていた。
「それはともかく、あの2人が行方不明になったあいつらっていうことでいいんだな?」
「おっしゃるとおり。私は初めて会ったときあの2人から懐かしいオーラを感じました」
男の異人は座っている管理人用椅子に座って頭の後ろで手を組みながら聞いた。
それに片方の女の異人が答える。
「…だがまだ完全な目覚めさせ方がわからないんだ」
もう片方の女の異人が紅茶を飲みながら言う。
「ほう、それを今回の合宿で見つけ出そうと」
「その通り」
女の異人はコクリと頷く。
3人の話はまだ終わる気配がない。
この合宿が平和に終わるなんてことはない。既に組織の侵入情報も出ている。
どんな波乱が起きるか。
それだけは誰にも…いや、奏臣以外はわからない。
すべてが彼女の手の平の上。
どうもsakuです
今回から合宿編が始まります
合宿編はかなり重要なものになります
何があったかは忘れないようにしてください
面白ければブックマークや評価を、なにか直すべき所があれば教えて下さい
それでは、また来週