戦闘天使ウリ&ガブリ
21章
生徒会合宿が迫る中、それぞれのメンバーは必要なものを買いにあの事件があったショッピングモールに来ていた。
それぞれ配られた紙を見る限りでは生活必需品以外は全員必要なものが違い、それぞれ別のカリキュラムがあることがわかる。
その買い出しにはなぜか奏臣も付いてきていた。
この人は教える側の人間じゃないの?と黒山は思う。これがなぜかという言葉の意味だ。
生徒会メンバーはそれぞれ買い物のために別行動をしている。その中でなぜか黒山1人のところに奏臣は付い
てきていた。
なんで俺のところにいるん?そんなに問題児とでも思われてるの?と会計をしながら黒山は考える。
会計が終わって店を出た時、
「…黒山」と奏臣から声をかけられた。
黒山はそれに気づいて「はい?」と返すと、奏臣は「…いや、やはり何でもない」とごもごもした感じで訂
正した。
珍しいな。と黒山は思う。
普段ならテキパキビシィッって感じで余裕を醸し出しているが今は少し落ち着いているっていうのか?普段
よりビシィッって感じがない。
奏臣は黒山からそっぽを向き、上を見ていた。
すると黒山の肩に手を置いて、「…上だ」とだけ言った。黒山はそれに驚いて敵襲かと思ったが、見ると普
通に櫻木が買い物をしているのか通路を歩いているのが吹き抜けになっているところから見えた。
その櫻木は笑顔だった。
何を思っているかわからないがものすごく笑顔だった。俺と知り合う前には絶対に見せることがなかった笑
顔だ。
知り合う前は愛花のことは同じクラスにいるという事しか知らなかった。いつも1人で何かをしていて彼女が
笑うところなんて見たことがなかった。これも俺の影響なのか。それとも誰かと話せるということが出来る
ようになってうれしいのか本心はわからない。
でも1つだけ自分で改まって決めたことがある。
この笑顔を絶対に守り抜くと。
どんなことがあっても俺は櫻木を守る。そのためには力がいる。
黒山は振り返って奏臣に頼む。
「合宿は絶対に俺をレベルアップできるものにしてください」と。
それを聞いた奏臣は「…もちろんだ」と返した。さらに「…やはりお前をレベルアップに導くのは櫻木の存
在だな」と付け加えて。
その瞬間、黒山の中で何かが熱くなった。
黒山は、これが決意のようなものだろう。と考える。
出会った頃は危なっかしくて頭がおかしいぐらいやばかったけど、今はもう丸くなって彼女は変わった。今
度は俺が彼女に見合う男にならなければならない。
黒山は「おし」と言い、買い物を続行した。
奏臣はそんな黒山の様子を見て悲しそうに「…私もそんな風になれたらな」と小さく呟いた。
そのことに黒山は気づかない。気づけない。
彼が持っているものが彼女の持っていないものだということに。
ところ変わってショッピングモールの服屋。
そこには咲川が居て、彼女は目の前にある服に目を奪われていた。
この服屋にはパジャマを買いに来たつもりだったのに…こんなものに出会うなんて…!と咲川は心の中で絶
叫する。
その彼女が見とれているものは、彼女が密かに見ている日朝アニメ「戦闘天使・ウリ&ガブリ」の劇中衣装
のコスプレセットだ。
「戦闘天使・ウリ&ガブリ」は突如天使に選ばれた普通の女の子と男の子の二人組が戦闘天使に変身して悪
をやっつけるというもの。
普段は実験室にこもりきりだった咲川もこれだけは見逃さないように携帯テレビを使って見るほどはまって
いる。ちなみに持ち前の科学力を生かして戦闘天使変身セットを作ろうと試みているが結構難しくて、難航
しているらしい。
そして咲川がはまっているところはなんといっても変身している少女の中に男の子が混ざっていることだ(以
下略)。
いつかはこのコスプレをあの黒山信二にさせてやろうと企んでいる。
では、ここでそのコスプレに出会うことの何が問題かというとお金の問題だ。
今咲川の手元にはパジャマを買う用のお金、2000円。そしてコスプレセットの値段、ウリとガブリセット
9000円。
単品で5000円ずつ。
買えないということだ。
「くぅ~、財布さえ持ってきてれば~」と咲川は悔やむ。
財布には余るほどお金が入っているが、生憎咲川の能力は知識系なのでここから超速で家に戻って財布を取
ってくるなんてことできるわけがない。
必要なものだけ買いに来たので財布はいいですねと思ってしまったのだ。
そこに、
「あれ、咲川さんじゃないですか」
と咲川に声をかけるもの1人。
咲川が振り向くとそこには幽美がマイバックを2つ持ちながら立っていた。
幽美はまず咲川を見て、その後「ウリガブリ(略称)」のコスプレセットを見る。すると幽美は「あーこれ知
ってますよ」と言った。
それに咲川がピクリと反応する。
そしてそのまま幽美は話し続ける。
「朝よく見るんですよね。これを見てるとまた一週間頑張ろうっていう気持ちになれるんです。あとこのア
ニメの男の子の方が若干黒山さんに似てると思うんですよ」
同志がいた。
この期を逃してはダメだと直感的に思って、咲川は幽美に自分もそのアニメを見ていて、このコスプレセッ
トがほしいと言う旨を話した。
それを聞くと幽美は「あー」と呟いた後「確かにこのコスプレセットって結構レアですよね。欲しくなるの
もわかります」と言った。それに咲川はうなだれながらうんうんとうなずく。
すると少し考えた後、幽美は「そうだ」となにかを思いついたように声を出す。
「じゃあ、このコスプレセット私が買いますよ」と幽美は言った。
それに咲川は驚いて「え!?幽美さんが買ってしまうんですか…」とさらにうなだれ落ち込んでいる声を出
すが、幽美は首を横に振って咲川に耳打ちする。
「きっと咲川さんには着させたい人がいるんでしょう?私も同じですし、それが見れたら私は満足なのでそ
の後は咲川さんにあげますよ」
咲川は「…いいんですか?」と半分泣きそうな目で幽美を見つめる。それに幽美は指でOKサインを作って返
す。
その瞬間、咲川が幽美に飛びついた。
咲川が飛びついた勢いで幽美はそのまま後ろに倒れる。
咲川は泣きながら飛びついた幽美の胸の中で「ありがとうございます…!」と何回も言い続けている。
それを見て幽美は「この人もこんな風に泣くんだな」と思い、そのまま咲川の頭を撫でる。…倒れながら。
もちろん何の騒ぎかわからない野次馬たちはなんだなんだと言いながらその2人の周りを取り囲む。
その中には奏臣の姿もあった。
顔はいつも通り冷静だが、頭の中では…。
「…なんでこの2人は抱き合ったまま倒れ込んでるんだ!?さらに日朝子供向けアニメのコスプレセットの前
で!?」と大混乱していて、彼女にしては珍しい思考の回転率だった。
そして
「…うむ、この2人には後で事情聴取を行う必要があるようだ」といつもと変わらない冷静、よく通る声で呟
き、その場を後にした。
その間にも件の2人は倒れながらまるで親子みたいなショーを繰り出しているのだった。
少し前。
「くしゅん!」
「どうしたの信二くん?風邪?」
なぜだか急に出たくしゃみと悪寒に黒山は肩を震わせる。
「なんだろう。ものすごく嫌な予感がする」と顔色を悪くしながら言う。
ちなみにこの瞬間に咲川は幽美に飛びついている。
黒山はあの時上にいた櫻木と合流してテキトーに店をブラブラしている。その途中でふっと奏臣は何処かへ
行ってしまった。
「なにか温かいものでも買ってく?」
櫻木が黒山を心配して提案する。昔の、人のことを考えないところからここまで変わるのは紛れもなく黒山
のおかげだろう。
それに黒山は「いや、いいよ。多分風邪じゃないし早くねることだけしとく」と返した。
「また夜中にゲームしてるの?」
櫻木は黒山に聞く。
昔、櫻木は黒山から「このゲームおもしろいぞ」と誘われたことがあったのだ。
黒山は首を縦に振り、「いやさ、面白すぎてさやりこみ具合がハンパじゃないんだよ」と言った。
櫻木はそれを聞いて「ハァ」とため息をつく。
そして「それで体調崩したら元も子もないんだよ?」と正論をぶちまかす。
黒山はたじろぎ、小さくしぼんだ。
まったくもう…。でもそんなダメなところも可愛いいだんよね〜♡♡♡と黒山に聞かれた5発ぐらいビンタさ
れそうなことを櫻木は思う。
すると後ろから誰かにぽんと肩を叩かれた。
振り向くとどこかに消えてった奏臣がそこに居た。奏臣は黒山を見るなり「…達者でな」と言い放った。
黒山は頭に?を浮かべながら「どういうことですか?」と聞くが、それに奏臣は答えない。
代わりに奏臣は何かをせがむように手のひらを上にする。
2人とも「?」という感じで混乱していると
ポン、と手のひらのなにもない空間からアイスが2つ現れた。
一瞬驚いて2人はビクッと体を震わせた。
その様子を見て奏臣は満足そうにニコニコ笑うと「…買ってきてやったぞ。ありがたく受け取れ」と言っ
た。
そのにこにこ顔に黒山は「買ってきたって本当ですか?」と疑問を投げかける。
それに奏臣はアイスを黒山に強引に渡して、ポケットから猫柄の財布を取り出す。
その中からレシートを1枚取り出して2人に見せる。
そこには今日の日付とついさっきの時間とアイスを買ったことがちゃんと書かれていた。
奏臣はさらに「…私は何でも作れるが戦闘時または緊急時以外で使うものはちゃんと買う主義なんだ。私だ
けがお金を必要としないなんて不平等だろう?」と言った。
黒山はそれを聞いたり見たりしても信用できなく、「じゃあなんで虚空からアイスが出てきたんですか?」
と聞いた。
それに奏臣は「…冷蔵だ」とだけ答えた。
いや、全くわからねー。やっぱりこの人の考えてることが全くわからねー。と心のなかで叫んでいると櫻木
が「もう、信二くんは細かいところばっかり気にするんだから。早く食べないと溶けちゃうよ」といつもの
明るい声で言った。
それに便乗して奏臣が「…そうだー」と言っていたがそれを黒山は「あなたは何も言わないでください」と
一蹴する。
仕方なく、黒山は奏臣の手からアイスを1つ受け取る。
ペロリと一口舐めると口の中に食べたことがない味が広がった。なんというかまずい。
「ごふっ!?何だこの味!?くっそまずい!」
思わず買ってきてくれた奏臣の目の前で黒山は言ってしまった。慌てて口を抑えるが時既に遅し。
奏臣は興味深そうなものを見るような目で黒山を見る。
正確にはアイスの方を。
そしてこう言った。
「…ふむ、やはり車味はまずいのか」と。
「いや、なんてもん食べさせてるんですか!聞いただけでわかるでしょう!これがまずいってことぐら
い!」
黒山は奏臣の言葉を聞くなりぎゃあぎゃあと騒いだ。
ちなみにその横で同じ車味のアイスを喜んで食べている櫻木の姿があることには気付いていない。
「…他にもあったぞ。電気味、海味、動物味、酸素味、釘味、刀味。あと最後に無味があったな」
「酸素味と無味って絶対に何も味しませんよね!?あと味のチョイスが絶望的!そのアイス屋狂ってるんじゃないですか!?」
「…まぁ確かに狂ってるぞ。私の知り合いだからな」
「あなたの知り合いが全部狂ってるみたいなこと言わないでくださいよ!それじゃあ俺も狂ってるみたいじ
ゃないですか!ていうかアイス屋知り合いだったんですね!?」と怒涛の勢いで奏臣に突っ込んでいく。
それに「…何処に間違いがある?」と奏臣はポケっとした表情で答える。
黒山は「ダメだ…。この人もやばいぐらい狂ってる…」と奏臣の評価を改めるのであった。
そしてその後ろで車味のアイスをぺろりと食べ終わり、満足そうな顔をした櫻木が居た。
さらにその後ろで柱に寄りかかったアイス屋の制服を着た人がこちらを見ていた。顔は制服の帽子を深く被
ってるため見えない。
その一連のやり取りを確認すると業務に戻ったのか、居なくなってしまった。
そのことに全く気づかない黒山たち。
ここまで気づかないとなるとさすがに心配になってくる。
2人の人影が黒山たちに近づいてきていることにも気づけないのだから…。
その2人は黒山を捕捉すると、
一瞬で黒山を持ち上げ何処かへ連れて行った。
櫻木は突然のことで慌てふためき「え信二くんが連れてかれちゃったどうしよどうしよおいかける?おいか
けるおいかけよう」と混乱している言葉を放つ。
しかし奏臣はそんな状態の櫻木を抑えながら、ため息だけをつく。
「…もう逃げられないな」とだけ言うと櫻木を連れてそのショッピングモールから立ち去ろうとする。
途中、携帯を開いた奏臣の中のメールフォルダには一件の新着メールがあった。
開いてみると「サイズを調べるので黒山くんを借ります」といった文が咲川から送られていた。
多分あいつはこれからもいじられ続けられるだろう。と奏臣は1人思う。
それはそれで楽しそうだ、とも。
どうもsakuです
日常回パート2となります
今回でゆったり休みが終わりです
次回からちゃんと合宿編に入ります
「ウリガブリ」は完全にフィクションなので安心してください
現実にそんなものはありません
あと個人的に一番気に入っているのは咲川です(唐突)
面白ければブックマークや評価を、なにか直すべき所があれば教えて下さい
それでは、また来週




