停止
19章
「やっと開放されたー…」
レキが倒され牢獄から開放された黒山は思い切り体を伸ばしている。
結構な時間牢獄にとらわれていたので体が悲鳴を上げていた。メキメキメキと聞こえたような気もするがた
ぶん幻聴だろう。
「いや…幻聴じゃない!愛花!掴む力強い!絶対能力使ってるだろお前!」
音の正体は開放された黒山を後ろからがっちりと掴む櫻木のものすごい力で骨が折れかけてる音だった。
櫻木はその話を聞かずに掴み続ける。
その後ろで目が覚めた牙忍が咲川に状況を説明してもらい、「俺の見せ場ねぇじゃん」と凹んでいるのか、
うつむいている。
レキを倒した張本人の幽美はというと、レキが触っていたタブレットを拾い上げて中身を確認しているよう
だ。
しかし、ロックが外せないらしく顔がすごいことになっている。
一通り牙忍に説明を終えた咲川が電話を取り出した。
「なにするんだ?」とまだ櫻木に掴まれながら黒山が聞く。それに咲川は「会長に連絡を取るんですよー」
と返す。会長と分かれたときに約束していたのですよ、とも付け加えながら。
「そういえば会長って今どうしてるんですかねー。分かれる前は幹部6人に追いかけられてましたけど」
「ちょっとまてそれってどういう状況だ」
思わず黒山は話を遮って咲川にツッコんだ。
そこでここに来るまでの経緯や約束の内容などを黒山に説明する。
黒山はその話を最後まで聞き終えると、申し訳無さそうな顔になって咲川たちに謝罪した。
「俺の力不足のせいだ。本当にごめん」
それに櫻木がまず
「信二くんは悪くないよ!悪いのは組織の人たち!」と返す。
その後に咲川がコクリと頷いて
「そうですよ。私は非戦闘員なのであんまり言えませんけど幹部2人相手はさすがに辛いと思うです」と言
い、その後に幽美も「私は仇を倒せたから逆に都合が良かった」と言った。
黒山と牙忍は2人で顔を見合わせくすっと笑う。
久しぶりに楽しい気持ちを感じた。それだけで十分だ。と2人は思う。
「さてと帰りましょう。あのタブレットは多分開けないので諦めます。会長からの返事は?」
幽美が咲川に聞くが、咲川は首を横にふる。
幽美はため息をついて電話を貸すように咲川に言う。
それに応じて咲川は電話を幽美に渡す。
そして慣れた手付きで奏臣の番号を入力し、発信ボタンを押して電話を耳に当てる。
電話が繋がったのか電話から小さく「もしもしー?」と言った会長の声が黒山にも聞こえた。その声の後ろ
でカカカカキンと金属がぶつかり合う音と共に…。
幽美はそんなことお構いなしに奏臣に話す。
「こちら終わりました。これから脱出します」
それだけ言うと幽美は電話を切った。
そして幽美は電話を咲川に返す。
「さて脱出です。さっさと帰りましょう」
「え?会長は?」
黒山が「?」と言った感じで幽美に聞く。幽美は「あの人だったら1人でも帰れますよ」と言い切った。
それに黒山は「まぁ…そっか」と納得する。
そして4人は建物からの脱出を始める。
奏臣は電話が切られたことを確認するとポケットにしまう。
「なによそ見してんだおらぁぁぁぁぁ!」
キングが叫びながら奏臣に槍を突き立てようと突進する。
既にスモッグは倒れてキングとメイクだけが残っている。奏臣の戦いについて来れるだけ、キングが執念深
いことがわかる。
「…ここらでいいか」
キングの槍が届く数秒前に奏臣は呟く。
そして能力を発動し、同時に目を見開く。
「停止」
送信がそう言った瞬間、奏臣以外の全てが止まった。
メイクもキングも時間も空気も全て。例外なくすべて止まっている。
奏臣の能力名「無限」。
そしてその中でもトップクラスの能力を誇るもの。それがこの「時間停止」。
昔はもう少し融通がきいた能力だったが、弱体化してしまったなと止まった時の中で1人思う。
その時間の中で奏臣が行ったのはただ部屋を出ることだけ。閉ざされた部屋の氷を破壊し、ドアを開けて部
屋の外に出る。
てくてくと止まった時の中を歩きながら過去を振り返る。
人間というのはどこまで愚かなのだろうか。
他人のためという自分のエゴを貫き通し、自分の欲求を達成させるには何でもする。
私は甘すぎるのかもしれない。
当の私も死んだ友人のためと言って、それを原動力に動く自分に酔っていた。
今は自分を含めた全ての異人のため。酔っているだけではない。実績を残せばそれは酔うことではない。だ
からそれを実現するために私は動く。
私という天使がどこまで羽ばたけるかは私にかかっている。
そしてある程度部屋から離れたところで時間はまた動き出す。
その瞬間、奏臣が歩いた道筋を辿って暴風が吹き荒れ部屋の中が荒れる。さらに奏臣が触れたもの、ドアが
木っ端微塵に砕けて部屋の中に散乱する。
その衝撃を受けて部屋の中に居たもの全て吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。
キングも気絶してしまい、残ったのはメイク1人だけになった。
そのメイクは特に何も感じていないようで奏臣がいた場所をずっと見ている。
部屋はもうさっきまでの面影は薄まっていてまるで別の空間にいるようだ。
そしてメイクは
「異人は先天的。秘術は後天的。どちらが強いかなんてわかりきってること。でもあなたとあの2人は違う。そして天使はどこまで堕ちていくのか…。ふふっ私たちにもわからないですね」
それだけつぶやき、すぅっと眠りについた。
時は変わって一週間後。
完全に季節が変わって秋。校庭の木に紅葉が付いて学校全体を金色に彩っている。
そしてそんな学校の生徒会室で一週間ぶりに生徒会が収集されていた。生徒会室には既に全員が集まってい
る。
この間一週間。ちゃんと黒山たちは学校に来ていた。しかしまた奏臣が来ていなくて生徒会室の中には入れ
なかったのだ。
生徒会室には重苦しい空気が漂っている。
いつもどおりに向かい2つのソファに黒山たちが座り、その奥の机に奏臣が座っている。
重苦しい空気の原因は奏臣だ。
なぜだかわからないがオーラが怒っている。完全に怒っている。こころなしか顔が普段も険しいが、それよ
りギロリとした顔つきになっている。
「あれー俺たちなにかしたかなー?」と黒山は心のなかで思う。
心当たり…組織の奴らに捕まったこと?それともこの一週間でなにかしでかした?会長の携帯に何本も電話
したことはあるけど…。
そんなことを考えていると奏臣が咳払いをした。
その一瞬で全員の背筋がピンとなる。
奏臣は「あー」とまず喉の調子を確認すると、手を軽く上に上げた。
その手の中に数枚の紙が出現した。
そしてそれを黒山たち全員にに投げる。不思議なことに投げた紙は一定の軌道を描いて全員に1枚ずつ行き渡
る。
その紙にはどこかの旅館についての軽い説明が書いてあった。
その紙を見た黒山は奏臣に「これは…」と聞く。
それに奏臣は
「…合宿だ」と答えた。
続けて「…今回の件でわかった。お前たち、特に黒山と牙忍と櫻木。能力を使いこなせていない。よって自
分の身は自分で守れるようになれ。ということで泊まり込み合宿をすることにした」と言う。
黒山たちはぽかんとしている。
さらに奏臣は「…今回の合宿では能力だけじゃない学力もテストする。全て私の監督だ」と言った。
今度は黒山が「まじかよ…」と肩を落とす。
確かに最近色々トラブルあって勉強疎かになってたけどさぁ…。めんどくさぁ…。
すると咲川が「じゃあ一週間居なくなってたのはこの合宿についてのやつなんですか?」と奏臣に聞く。
それに奏臣は首を縦に振って「…日程や旅館選び金額交渉などなど諸々行っていたら時間がかかってしまっ
たんだ。何も言わなくてすまなかった」と謝罪した。
すまなかったとは言っても、紙に書かれている旅館は明らかにきれいなものだし、施設一覧にプールや体育
館さらには研究室など到底旅館にあるわけがないものが揃っている。こんな旅館を一週間で取れるほうがす
ごいと黒山は思う。
「…そういうことだから準備を忘れるな。必要なものは持ち物欄に全て書いてある。別に必要のないものも
持ってきていいぞ」
「あの1つ良いですか?」
幽美がおずおずと手を上げた。奏臣は「なんだ?」と聞く。
「部屋はもちろん…?」
「男女別だ」
その瞬間女子勢全員跳ね上がる。
まぁさすがにそうだろ。逆に俺らが気まずくなるしな。と牙忍は思う。
「…学校側にも資金は全て私持ちということで承諾をもらっている。存分に楽し…いやいや、びしばし鍛え
るからな」
「え?そんなにお金あるんですか会長」
黒山が思わず聞く。
「…当たり前だ。私の体は研究対象に丁度いいだろ?実験体としていくつもの医療機器メーカーや研究所と
秘密裏に契約してるんだ。他にも収入源はあるがな。ちなみにお前らに払ってる生徒会の給料は全て私のポ
ケットマネーから出ている。ほんとは給料制度なんてないからありがたく思え」
奏臣はあっさりと答えた。
やっぱりうちの生徒会長は頭おかしい…。褒め言葉だけど。ほんとにこの人は完璧超人なんじゃないか?…
胸以外は。
黒山は会長を尊敬する。するとなぜか
「…誰が永遠の貧乳じゃクソガキ。お前だけカリキュラムを100倍にするぞ」
心の中を読まれた。
「え!?声に出てませんよね!?」
「…私を舐めるな。普段はプライバシーの保護のため念話を切ってるが、私への悪意が入った言葉は自動的
に入ってくるぞ」
「いやそれってプライバシーの保護とは言いませんよね!?」
「…言い訳無用。べ…別に…胸が大きい方がいいとかそそそそんなものではないし…。ただ育たないだけだ
しな…」
なぜか最後の方奏臣の普段の口調から崩れていた。
さらにたれた髪の毛で顔が見えなくなっている。
黒山は「この人胸にこだわりすぎだろ…」と思わず頭で思ってしまったが心が読めるはずの会長からはすぐ
には何も反応がなかった。
奏臣は一呼吸置いて髪の毛を手で直す。そして
「…黒山。貴様には特別メニューを付けてやる。覚悟しておけ」と言い放った。
「いやこれ全部俺が悪いんですか!?」
黒山はそう奏臣に言うと「…冗談だ」と返された。
全くこの人は…。
そこで黒山はメイクから聞かされたことを思い出した。
もしかしたら会長は俺たちを悲しませないためにやってるのか?
家族や友達を失くし、人間の悪意にさらされて自らの手を汚してしまった自分みたいにならないようにしよ
うとしてくれているのではないか?
そう考えると今までの会長の行動もわかるところがある。
人間を傷つけてはいけないという決まりは会長自身がやってしまったことを俺たちにさせないために…?
「…どうした黒山」
そこで奏臣に声をかけられはっと我に返る。
「いやなんでもないです」と返したが、奏臣の目は黒山をジーと見つめていたままだった。
すると今日は大人しかった櫻木が奏臣に「夜這いはありですか?」と唐突に聞いた。黒山は驚きすぎて櫻木
の顔を見たがその顔は至って真剣だった。
奏臣は黒山の顔から目を逸らし、櫻木を見る。
奏臣の顔はなんだか呆れているかのような顔だった。
そして「…なしだ。そもそもの話、私が両部屋の出入り口を監視しているから異性が中に入るのも許さん
ぞ。男女団らんは別の部屋を取ってあるからそこでしろ。その部屋には多分私がずっといる」と返した。
それに櫻木は本当にショックといった感じで頭を抱える。
黒山はさすがにドン引いた。「俺なんでこんなやつと付き合ってるんだろう」と思うほどに。
でも…こんなやつだからこそ守ってやりたいっていう思いが強くなるんだよな。
もしかしたらそのうち俺も愛花みたいにメンヘラ気質になったりして。そんなことを黒山は思う。
「…それじゃあ今日はもう解散。日程は来週からだからゆっくりと準備を進めてくれ。以上だ」
そう奏臣は言うと椅子を立ち、生徒会室から出ていった。
奏臣がいなくなってから幽美は「1つ言いたいんだけど」と言った。
なんだなんだと3人で騒ぐ。
そして幽美は
「こんな旅館どこにあるんだろうね」
確かにと黒山はうなずく。
実は渡された紙に住所は一切書いていない。ただ紙に風景と旅館の全体などが書いてあるだけだった。実際
の住所は一切書かれていない。
「言われてみれば、広い施設取るのに結構な敷地面積が要るな。山とか?」
「私は真二くんと一緒にお出かけできるならそれでいいよ!」
「私はずっと研究室にこもってても良いんでしょうか…」
「咲川さんは非戦闘員だからいいんじゃない?」
「勉強めんどくせー」
5者5様。色んな意見が飛び交っているが全員、合宿は楽しみにしているようだ。
俺も結構楽しみだ。
会長の過去の話は忘れてしまおう。どんな会長でも俺は変わらずについていくしな。
「…もしもし」
生徒会室を出て、校長室の椅子に座りながら奏臣は誰かに電話をしていた。
もちろんこの学校の校長は別にいる。しかし、権限的には奏臣のほうが上だ。別の校長はあくまでも表向き
でしかない。
「会長様が直々に何の御用で」
「…合宿の件だ。貴様にやってほしいことがある」
電話の相手は本を読んでいるのかかすかに紙と紙をすり合わせるような音が電話の向こう側から聞こえてく
る。
そしてゆっくりと
「そんなにあの子たちが大事なんですね」と言った。
その言葉に奏臣はためらいなく「あぁ、そうだ」と返す。
「それじゃ、合宿の日に」
そう言うと電話の相手は一方的に電話を切った。
奏臣は電話を机に置き、「ふぅ」と息を吐く。
「…懐かしいな。あいつと会うのは数十年ぶりだろうか」
そう言うとポケットから写真を取り出した。
その写真には男と女が2人ずつ、仲が良さそうにニコニコしている様子が写っている。
「…天川。…士木。…伝使」
どうもsakuです
今回は急いでるのでこれで失礼します
それでは




