決戦
13章
対峙する黒山と奏臣。
その2人を少し離れたところから見るメイクの顔はニヤニヤと笑っている顔だった。
「何笑ってるんだお前」
そのメイクに1人の男がそう話しかけてきた。その人物は牙忍。背中に幽美を背負ったままメイクの近くに立
って、明らかに殺気だっている。
怒りの感情が入った声で牙忍はメイクに言う。
「お前の相手は俺だ。さっきの借りを返してやるよ」
その言葉を聞いても奏臣はニヤニヤと笑っている顔を崩さない。
何を考えているんだこいつは。と牙忍が思う。さっき戦っているときも変わらず何を考えているかわからな
い表情をしていた。
するとメイクが両手を上に上げ「降参」と言い放った。
牙忍が間抜けに「は?」と言い、驚きの表情になる。これが普通の反応だ。
戦う理由しか無いというのに戦わないというのは一体どういうことだ?やっぱりこいつの考えてることはわ
からん。
「今ここで私たちが戦っても何も生まない。それとあなたたちは絶対に私に勝てない。それだけのこと」
表情を何も変えずメイクはサラッと言う。メイク自身が自分の力と牙忍たちの力の差を完全に把握している
からこその発言だろう。
「勝てないなんてやらなきゃわからないだろ。それとお前を倒さなきゃこの事件は終わらないんだろ」
「別にそうでもないんだよねー。今は主の気がそれてるから言えるけど正直なところ負け濃厚なんだよね
ー」
負け濃厚?こいつ自身が勝てないって言ってるのにか?会長も操られてるし、咲川も人質に取られて、俺と
幽美は手負い。完全体なのは黒山だけ。こっちが絶望的な状況で負け濃厚って一体どういうことなんだ?
牙忍がわけもわからず呆気にとられているとメイクが
「実はあなたたちの会長とはね昔からの知り合いでね。あの子の実力は結構詳しいことまで知ってるのよ」
と言った。
「は?会長と知り合い?なんだそれ。組織として殺しに行ったら強すぎて殺せなかったってやつか?」
牙忍は半分煽るようにしてメイクに言った。それに対してもメイクは表情を変えなかった。
こいつメンタル鋼かよ。と心のなかで牙忍は思う。
とにかくメイクは白旗を上げた。あとは黒山、お前が会長を救えば全部片付く。俺も加勢できるところは加
勢…。
その言葉の途中で牙忍が見たものは黒山と奏臣が物理的に体を壊しながら超高速の戦闘をしている姿だっ
た。
牙忍は「あれに加勢するのは無理だ」とがっくりしながら呟く。
その牙忍を見てメイクが「ふふっ」と笑ったのは本人以外知らない話。
さすがに早いっ!追いつくので精一杯だ!
黒山は奏臣から至近距離で放つ拳を腹で受けながら奏臣の顔面に拳を放とうとする。だが黒山の拳は空をな
ぎ、既に奏臣は黒山の後ろに回り込んで攻撃を開始している。今度は黒山の背中にとてつもない衝撃が走る。きっと何本か骨は折れてるだろう。だがすぐに再生する。
完全にいたちごっこだった。
戦闘自体は超高速で行われているが、やっていることは奏臣が黒山に重症を負わせそれを黒山が即時に再生
しているということの繰り返し。
超高速の戦闘でお互いの体はもたず一定のペースでお互いの体は壊れている。だがお互いに不死。無制限の
再生回数。
誰かが止めなければこの戦いが一生終わらないだろう。かと言ってこの戦いを止めることができる者など限
られている。
するとしびれを切らした中年男が咲川を黒山に向かって見えるように持ち、咲川の首にナイフを押し付けこ
う言った。
「人質だ。能力を使わないでそのまま死ね。やらなかったらこいつの首を切る」
それに気づき、言葉を聞いた黒山は動きを止めた。
そして躊躇もなく能力の使用をやめた。
奏臣から攻撃を受けて吹き飛ばされる。
身体強化がなくなったため奏臣の攻撃を受けて留まる力がなくなったのだ。
黒山は戦っていた場所から数メートル先で仰向けに倒れ、空を見ながら自分の思考を整理する。整理してい
る間、雲の流れが不自然なほどゆっくりに見えていた。
簡単なことだ。咲川は科学者。ちゃんと世間に貢献している異人。だが俺はどうだ。周りを傷つけるリスク
を背負って、自分しか怪我や死亡を治せなくて、破壊しか生み出さない。
こんな異人と咲川の価値は比べるまでもないだろう。
そんな黒山の様子を見て中年男は満足そうに笑って
「殺せ」と奏臣に命令した。
瞬間、奏臣が仰向けに倒れている黒山の目の前に現れ、拳を顔面に突き落とす。
この拳が当たれば床のコンクリートと拳で挟まれ確実に命を落とす。能力は切っているし。これでいいん
だ。咲川さえ生きてくれれば。
黒山は目を閉じて自分の死を受け入れる。
だが拳が黒山に当たる直前に何者かが奏臣の腕を止めた。
いつまでも来ない死に不思議に思った黒山が目を開けてみるとそこには牙忍と目を覚ました愛花が2人で会長
の腕を握り、止めていた。
黒山は最初に「何で」と思った。俺より助けるべきやつはいるはずだろ。だが2人は
「ここは全員で生徒会だからな。仲間を見殺しにはできないんだよ」
「私以外のために信二くんが死ぬのはだめ。私のために死ぬまで信二くんは死なせないんだから」と言っ
た。
牙忍の方は以外だと思った。だが愛花の方は相変わらずだなと黒山は少し笑う。
牙忍と櫻木が2人で黒山の体から奏臣を引き離す。奏臣は少し離れたところに着地した。
だが中年男はそんな2人を許すことはできない。
「てめぇらもだ!次にあいつを殺すのを邪魔したらこいつを殺すぞ!」と言いながら咲川の首に押し当てた
ナイフを少しめり込ませる。
2人はその声を聞いて「くっ」と動きを止める(正確には動き出そうとした櫻木を牙忍が止めた)。
動けなくなった牙忍と櫻木を奏臣が瞬間的に弾き飛ばす。そしてそのまま黒山の首を狙う。
「信二くん!」
宙に打ち上げられながら櫻木は叫ぶ。その声を聞いて黒山は呟く。
「俺に少しでも価値があることに気づけたことでもう十分だ」と。
次の瞬間、黒山の首が飛んだ。
鮮血が舞い、夕日に照らされキラリと光る。
そのまま黒山の首はぼとんと地に落ちた。首から離せられた黒山の体は力を失い、前にがくんと倒れてい
く。
能力が発動しなかったなら。
黒山の意識はバッチリ残っていた。
目が開けられる。そんな事に気づき開けてみても見えるものには何も変わった様子がない。強いて言えば中
年男がイライラしたような顔をしているだけだ。
「おいおいおい、この子が大事じゃないのか?何能力使ってんだよ」
中年男はそう言っているが能力は切っている。再生するわけがない。
もう一度音もなく奏臣が黒山の首を飛ばした。
だが黒山は死なない。能力を切っているはずなのに。
黒山が何回殺されても死なない様子を見て中年男は「はぁ」とため息をつきナイフを握り直す。
「そうかよ。ならお望み通り殺してやるよ」
そう言った中年男は思い切り咲川の首にナイフをめり込ませようとする。
「違う!違うんだ!」と叫んだ黒山の言葉も聞かず、中年男は咲川を殺そうとする手を止めない。
黒山が今いる場所からでは咲川を助けに行こうとしても届かない。
どうしてどうしてどうして能力は切っていたはずなのに死ねない一つの命ぐらい助けられない俺なんてやっ
ぱり最低なやつなんだ。
咲川の首からツーと血が流れたその瞬間。
中年男の体が咲川を置いて数メートル後ろに吹き飛ばされた。
黒山が「は?」と思った瞬間に衝撃波が発生し近くにあった車が少し動いている。動いた車が囲うように
し、その車の中心点に彼女は立っていた。
咲川の体が彼女の手の中に吸い込まれていき、ちょうどお姫様抱っこをするような姿勢で納まった。
咲川を救出し、中年男を吹き飛ばした人物。ここには居たが絶対にこんなことはできないような状況だった
人物。
操られていたはずの我らが生徒会長奏臣真子がそこに立っていた。
そこに居た全員が目を剥き、奏臣を見る。
「…もっと安全に助けられればよかったのだがな。まぁ助けられたのなら問題はないだろう」
「会長…?何で?」
黒山はわけがわからないという表情をしながら奏臣に質問する。
「…私が本気で操られてると思ったのか?そう思っていたのならお前にはがっかりだな」
あっさりと言う奏臣に黒山はますます混乱した。
だって俺殺そうとしてたよね本気で。能力切ってたと思われてたときも。
そんな様子を見て奏臣はため息をつきながら虚空から刀を数本生み出してさっき飛んでいった中年男の方向
めがけて発射しながら言う。
「…私の能力、身体維持は肉体をこの状態に固定する能力。このショッピングモールに向かう途中に言った
だろう。最初の一瞬は操られていたさ。一瞬だけな」
あの時言ってたやつか。それって精神的なものにも干渉できるんだ…。いつも思ってるけどこの人やばすぎ
ない?
さらに奏臣は続けて言う。
「…私の能力はこれだけじゃないぞ。さっき刀を生み出したのも物質変換という能力だし、一時的に」
奏臣が話している途中にバーンと大きな音がした。中年男が飛んでいった方向からだ。
周りを見渡すとメイクが居ない。さっきまで少し離れたところに立っていたはずなのに。
「信二くん!」「黒山〜」
後ろから声がしたので振り向くとものすごい勢いで走ってくる牙忍と愛花が居た。
牙忍は良い。問題は鬼みたいな形相で走ってくる愛花だ。
殺されるかもと本気で思う。
だが櫻木が黒山のもとへ到着する前に中年男の方に変化があった。
中年男の方を奏臣と黒山が見ると中年男が立ち上がりこっちを睨んでいる。その斜め後ろにメイクも立って
いるのが見える。
中年男の殺気がやばい。確実に怒っている。
「てめぇらよくもやってくれたな」
中年男が殺気を帯びた低い声で言う。小さい声にも関わらず離れたところにいる黒山たちの耳にもはっきり
と声が聞こえた。
「やれ召使い。お前の力さえあればこいつらを殺すなんて楽勝だろ」
中年男はそうメイクに命令した。だがメイクは何も言わずただ立ち続けた。まるで命令から背くように。
「どうした。さっさとやれよ」
「黙れよ能無し」
百八十度変わった口調でメイクが中年男に言い、胸ぐらをつかんで持ち上げる。
メイクは口調だけでなく顔つきも変わっていた。さっきまでの余裕そうな優しい表情ではなく、汚物を見る
かのような軽蔑した顔つきに変わっている。
「お前さぁ、あの時睨まれた時点で奏臣との力の差を分かれよ。そもそも私が危険視してるんだから私より
強い存在ってこと理解してる?そいつがお前なんかに操れるとでも思ったの?お前がやりたそうにしてたか
ら何も言わなかったけどその後の戦略とかないわけね」
胸ぐらをつかみながらメイクは中年男を上下に振り回す。振り回された衝撃で中年男のポケットから1枚の写
真がはらりと落ちる。
メイクが中年男を投げ捨て、その写真を拾う。
そこに写っていたのは幼い頃の中年男と小学生ぐらいの男の子が2人でピースして写っている写真だった。
メイクはそれを見て、何かに気づいたかのように黒山を見る。
「ふーん、そういうことね」
中年男はその隙に四つん這いのままこの場から離れようとする。
だがメイクがその中年男の体を踏んだ。
そのままメイクが中年男を足で潰そうと一度足を上げ勢いをつけ始める。
「…待て」
奏臣がいつのまにかメイクの後ろに立っていてメイクの肩に手をおいている。
ふたりとも全く同じ容姿のため、はたから見れば双子にも見える。
「なんの用?私はこれから使えなくなった道具を捨てるだけなんだけど」
「…そんなやつでも一応異人だからな。私が守るべき存在なんだよ」
メイクは中年男から足を上げ、奏臣の正面に立つ。中年男は怖さで気絶していたのか足が離れても動かない
様子だ。
「相変わらずだね」
「…貴様もな」
黒山は2人が立っている間になにか線のようなものが見えた気がした。なんの線かはわからないが、2人を繋
ぐ運命の線だと根拠もなく思った。
「とりあえずそこの男にはもう用はないから能力だけ回収する。その後は好きにすればいい」
「…だめだな。洗脳能力は貴様に渡すには危険すぎる」
「意見は求めてないのよ」
その言葉を言い終わるとメイクはてくてくと中年男に近づき、髪の毛を掴んで頭を持ち上げ中年男のかをと
同じ目線にするように屈んで中年男の額にチュッとキスをした。
中年男がキスをされた瞬間、まばゆい光とともに姿形が変わっていき黒山たちが気づいたときにはもう中年
男はただの好青年になっていた。
奏臣はその様子を見て珍しく声を荒げた。
「…その力はそんなことのために使うものじゃないと教えたはずだぞ」
言葉が一つ一つ発せられる度、空気が揺れる。
「そんなこと覚えてないね。私はわたしを殺すために何でもする。そうしないと完璧に戻れないからね」
メイクが言ったことに黒山たちは首をかしげるが奏臣だけは変わらずメイクをにらみ続ける。
この2人の間に何があったかは本人たちしか知らないこと。
「今ここで決着でもつける?」
どさっと好青年を床に落としてメイクは奏臣に喧嘩を売る。
それに対し奏臣はただ首を縦に振るだけだった。
どうもsakuです
とりあえずショッピングモール編完結です
いかがでしたでしょうか
何本か伏線を立てていますが時間があるときにでも探してみてくださいね
会長とメイク2人の関係性についても考察できる程度には明かしています
考えてみると結構面白いですよ
面白ければブックマークや評価を、なにか直すべき所があれば教えて下さい
それでは、また来週




