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奏憎

12章



 「ふぅ、こんなものかな」


そう言ったメイクの周りは半壊していた。


壁や床の所々がすすれていて、一部の壁に至っては崩れて別の店と合体している。たくさんの瓦礫が床を覆

い尽くしていて、立つのにはとても苦労するだろう。そこにメイクが一人立っている。


足元の瓦礫には血が点々とついているがそれは彼女の血ではない。


「あんまり手応えなかったねー。やっぱり脳筋は楽でいいよ」


少し離れたところに櫻木愛花が倒れていた。戦闘中は気づかなかったがあの3人、戦う場所を徐々にずらして

いたらしい。それにメイクはまんまと引っかかていたようだ。そして櫻木の周りだけぽつんと何もなかった

ように瓦礫がない。


推測でしか無いがあの幽美とかいう女が能力で守っていたのだろうか。


まぁ敵の無力化には成功したわけだし、放置でもいいかな。とメイクは考える。


「それにここで殺さないほうが今後、奏臣の足枷になってくれるからね」メイクは笑う。


メイクが背伸びし、「んー」と声を出していると後ろからなにかの声が聞こえてきた。


メイクが振り向くとそこには主の操っている人間が数人こっちに向かってきているのが見えた。


戦いの大きな音を聞きつけてこっちに寄ってきたのかとメイクは考える。


「めんどくさいわね。主のやつ無差別に襲うようにしやがって。まぁ用は済んだことだしここは逃げときま

すか」


メイクはそう言ってポケットから紙とペンを取り出して紙に何かを書き込むとそこら辺にポイと投げ捨て、

戦場だった場所を去っていった。




 黒山は瓦礫の中からメイクがどこかへ行くのを確認してから、瓦礫を持ち上げて瓦礫から脱出する。


メイクの放った最後の爆発によって骨折していたり、大怪我を負っていたが櫻木の能力で事なきを得た。櫻

木には感謝しか無い。なんとか櫻木を巻き込まずに戦いを終わらせることができたが、牙忍と幽美の消耗が

激しい。


そういえば二人の姿が全く見えない。と思っていたが、目の前の瓦礫の中から「う…」という呻き声が聞こ

えてきた。


近づいて隙間から覗いてみると体を瓦礫に挟まれて動けなくなっていた幽美がいた。幸いなことに意識はあ

るらしい。


黒山はすぐに瓦礫を持ち上げる。


幽美は瓦礫から出ても、ぐったりした様子で座り込んでいる。相当疲れたのだろう。


黒山は足元に何かを見つけた。それはメイクが落としていったメモだった。そこには『RF、会長と主』と書

いてあった。メイクはあの男を主と呼んでいたからそういうことだろう。


あいつの意図がどういうものかはわからないが、


「屋上に会長と黒幕が居るってことか。これが囮の可能性もあるが行くしかなさそうだ」


ふむふむ、と、黒山がここからの作戦を考えていると、


「私の能力はね…」


突然、細い声で幽美が話し始めた。


それは自分の能力についての話だった。


「霊能力が元になってるのよ。…それと異人の力を組み合わせた混合技。自分の領域に設定した場所にいる

自我のない魂なんかを使ってるのよ。…そのせいでかなり精神力が削られてね。使い続けるのは困難なの

よ」


「だからもう疲れた。ということなんだな」


黒山が確認するように聞く。それに幽美はコクリと頷き、


「私はいいから操られている人たちを早く助けてあげて頂戴。異人より人間を助けたほうが世間的には嬉し

いでしょ…」


「ここに居るのは危険だ。せめてここから離れないと」


「そんなことしてる間にもあの中年男はきっと何か始めてるわ。そのメモの場所に牙忍と向かいなさい。櫻

木さんは私が守るわ」


幽美は本気の目だ。だが、今の状態の幽美をここに残しておくのは危険だ。それに言いたくはないがこの状

態の幽美に櫻木を預けられない。一応俺の彼女だ。彼氏である俺はこいつを守らなければならない。


幽美と櫻木を守りながら黒幕の場所に向かい戦う。それが最高だがそのためには一体どうすれば良いのか。


この間にも時間は過ぎていく。


「ちょっと待て黒山」


後ろからいつの間にか瓦礫から出てきていた牙忍に声をかけられた。何だ?と牙忍に向かって返答する。


「ここは俺に任せろ。幽美も櫻木も俺が守ってやる」


正気を疑った。


牙忍も相当な怪我を負っているし、俺みたいな治癒能力を持っているわけではない。まともに戦える状態で

はないというのに。


「実は最後の攻撃を受けたの以外は全部演技だったんだ。ここで全部の力を使ってしまったら黒幕戦に使う

体力が残されてないからな。黒山、特にお前には申し訳ないと思った。お前は彼女を守るために本気で戦っ

ているのにその戦いの中で仲間が手を抜いて負けたらきっと俺のことを恨むだろう。しかも現に負けてい

る。幸いに櫻木は無事だったがそれは幽美が最後の爆発から守ってくれたからだ。俺は何もしていない。俺

は恨まれても仕方ない」


牙忍が申し訳無さそうな顔をして二人に言った。


「ふざけんな」


黒山はそう言いながら拳を強く握りしめた。握った手から血が滴り落ちてくる。


「そんなことで親友を恨むと思ってんのかこの俺が」


だが牙忍の想定していた答えとは違う答えが帰ってきた。


牙忍は驚くがそれを無視して黒山は話し続ける。


「お前のせいじゃない。あいつは格が違ったんだ。お前が本気を出しても勝てる相手じゃなかった。そんな

ことお前もわかってただろ。それに最後の攻撃から櫻木を守ったのは幽美だってお前も言っただろ」


黒山はそこで一旦言葉を切った。自分への怒りが抑えきれない様子でゆっくりと先を話す。


「…俺は櫻木を守れなかった。最初だって俺が櫻木のことを注意深く見ていればこんなことにはならなかっ

た。俺は彼氏失格だよ」


全員が黙る。


その沈黙の中で各々が何を考えていたのかは本人たち以外にはわからない。だが牙忍と黒山の2人は覚悟が決

まったような顔をしていたことだけがわかった。


もう操られている人たちはすぐそこまで迫ってきている。時間はない。


「やるぞ黒山。最初の課題は2人で負傷者を背負ってここから脱出することだ。やれるな?」


「応、ちゃんとしたあいつにふさわしい彼氏になってやるよ」


やるべきことは決まった。


2人は1人づつ負傷者を背負い、操られている人の集団へ突っ込んでいく。


ここから先は生徒会のターンだ。




ここは屋上階の駐車場。普段どおり車は何台も停めてあって一瞬で日常から異常へ変化したのがよくわか

る。


車が何台も停まっているため迷路のようになっており、足音を消されてしまえば近くから来る影にも気づけ

ない。


夏日ということもあって屋上は熱気に包まれているが、そこに涼しげな顔をした者たちが3人。


内1人は体を拘束されていて動けなくなっている。内1人は片手に小さな女の子の手を掴んでおり、その女の

子は気を失っている。内1人は何もせずただ拘束されている1人を見ているだけだ。


拘束されているのを見ている人物が拘束されている人物に向かって話しかける。


「あなたのかわいい部下たちは全員身動き取れないようにしました。負傷者をかばいながらではここに到達

するのは不可能です。諦めて私達のところに来てください」


そう言うと懐から1枚の紙を取り出し、拘束されている人物の目の前に押し付ける。その紙には「誓約書」と

書いてある。その紙を見て拘束されている人物は首を横に振り、


「…ふん、身動きを取れなくしたところであいつらが動かないとは思わん」と言った。


ちっ、と見ている人物メイクは舌打ちをする。すると中年男がいきなり拘束されている人物奏臣に向かって

手をかざした。




中年男はもとはは中年などではなかった。


小学生時代、彼は周りに異人であることを自慢していた。そのころの能力はせいぜい人1人をある程度意のま

まに操るぐらいだった(歩くぐらい)。最初はみんなから一目置かれクラスの人気者になっていた。親からは

なぜか「黙っておきなさい」と言われたが、人気者なるためにはこれしかなかった。


だがある事件をきっかけに彼の人生は大きく変わっていく。


その事件は異人が街を1つ滅ぼした事件だ。


その事件が起き、世間が異人を危険なものだと定義してから彼はいじめを受け始めた。人気者だった彼を囲

んでいたメンバーによって、だ。


「おまえあぶない」「はなれろ」「どっかいけ」「異人はここにくるな」そんな言葉と暴力が彼を襲った。

もちろん助けを求めた。先生、他の友達、親など。


だが全員彼の助けの手を振りほどいてしまった。


「異人の言うことなんて嘘だ」「いやだよ、異人の味方をしたら僕もいじめられちゃう」「私の注意を聞か

ず、周りに言いふらした罰です」誰も助けてはくれなかった。


結局、彼が異人だということが近所に広まり嫌がらせを受け続けた彼の家族は遠くへ引っ越していった。


彼は遠くに行ってもいじめのトラウマが抜けず、その後の学校生活はひっそりと過ごしていった。そして彼

は中学に上がり、中学でもまたひっそりと過ごしていくだろうと思っていた。だが


「なーお前って異人なんだろ?」


クラスの目立つやつが彼に話しかけてきた。その言葉で彼は凍りついたように動けなくなった。


その後は分かる通りまたいじめを受け始めた。


そして彼はまた不登校になった。親も彼に怒りを覚えていたがもうそれを超えて呆れていた。その後家族は

彼を置いてどこかへ消えていった。


彼はすべてを失った。


友達も学校も家も家族もすべて。


彼は追い詰められ自殺を図ろうとした。が、彼が自殺をしようとするとそこに1人の女が現れた。


彼女は「あなたがそうなった原因を作ったやつを知っている」と言い彼を復讐の道へ誘った。


彼はその話に乗った。


どうせ死ぬなら俺と同じ異人のためになることをやって死のう。彼はそう思ったのだ。もう二度と自分と同

じ道を誰にも歩かせないように。


彼が自分のやるべきことを再確認した。




奏臣はそんな中年男の様子を見ながらメイクに言った。


「…この男はお前が引っ張ってきたんだな」


メイクはコクリと頷いて、「そうだけど、急に何?褒めたらここから出してもらえると思った?」と返す。


奏臣は首を横に振り「いや」と続けてこう言った。


「…別に、私たちと同じで哀れだなと思っただけだ」


奏臣がそう言った直後、中年男は奏臣の顔を思い切り何回も蹴り始めた。蹴りながら奏臣に向かって叫ぶ。


「お前に!俺の気持ちなんて!わからないだろ!」


メイクはその場面を見ながらひゅうと口笛を吹く。


蹴られながら奏臣は笑って中年男を睨みつける。


その睨みを受けて中年男はたじろぎ蹴るのをやめた。とてつもない量の殺気が出ている。


そして奏臣が一言。


「…終わりだ」


瞬間、屋上の柵を飛び超えて2つの影が屋上に入ってきた。


影は1人ずつ人を背負っている。


片方の影は屋上に立つともう片方の影に向かって声をかけた。


「会長発見。よし、それじゃあ作戦開始だぜ黒山」


声をかけられた方の影黒山は櫻木を下ろし、中年男と対峙する。


黒山は中年男に掴まれている咲川とメイクの秘術に拘束されている会長を見て怒りを感じる。仲間を傷つけ

られたからだ。


中年男はため息をついて奏臣の方へ振り返り、また手をかざす。


すると中年男の手と奏臣の間で紫の電流が走って、奏臣の意識が無くなり、くたりと倒れる。メイクが拘束

を解いたが奏臣は起きる気配がない。


そして動かない奏臣に中年男が一言「あいつを殺せ」と命令すると奏臣の口から「承」という冷たい声が発

せられ、奏臣がふらりと立ち上がった。


「お前の相手はこいつだ」と中年男が黒山に向かって言う。


黒山は操られている奏臣を見て中年男に向かって叫ぶ。


「いいぜ相手になってやる。お前程度の能力じゃ会長を操っても俺に勝てないってことを証明してやる

よ!」


黒山の体が能力によって強化される。操られている奏臣は機械のように黒山を見つめる。


2人共、奏臣は操られているとはいえ異人という枠に入り切らない異人たち。


その2人の規格外の戦いが始まる。

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