地獄
11章
地獄が始まった。
メイクが右手で何もない空間を一振りするとそこから鞘に入った刀が一本出現し、メイクはそれを左手で掴
む。
そして一歩踏み出したかと思えば幽美との間合いを一瞬で詰め、幽美の首を狙うように刀を滑らせる。
幽美はそれに反応し、頭を水平に移動させながら下にしゃがむ。
幽美の頭があった場所を刀が通過する。
刀を水平に振っているとき、振っている本人は体の構造上無防備になる。その瞬間は絶好のチャンスだ。
黒山はこいつは化け物だと思って、本気を出す。無防備な状態のメイクの左側に回って、その横顔めがけ本
気で殴ろうとする。黒山の拳は的確に狙えていた。そのまま黒山は拳を振り抜く。
だがその拳は虚空をなぎ、メイクに当たることはなかった。
代わりにメイクが黒山の目の前に来ていて、黒山の右肩めがけ刀を振り上げようとしている。
咄嗟に黒山は拳を引き抜こうとするが時すでに遅し。メイクの振り上げた刀は黒山の二の腕あたりにさわっ
と触れ、そのまま食い込んできた。
あっけないほど黒山の右腕はそのままメイクの刀によって切り上げらた。
鮮血と右腕が宙を舞う。
一呼吸遅れて痛みが黒山の神経を伝わって脳に届く。
「アァァァァァァッ!腕がァァァァァッ!」
叫びがショッピングモール内に響き渡る。
黒山が切られた断面を手で抑えるが指の隙間から血は止まらずに流れてくる。
メイクは止まらずに黒山の息の根を止めようと今度は首めがけて刀を振る。
その振られた刀はガキンという音で黒山の首に届く前に静止した。メイクが刀の先を見てみると何かか長い
紙のようなものが黒山の首と刀の隙間に入っていた。その紙は幽美の後ろ側から伸びている。彼女の能力に
よるものだろう。
するとメイクは目標を変え幽美の方へ迫っていく。幽美の元へ辿り着く前に横からの一撃を喰らいメイクは
倒れる。
一撃を放ったのは牙忍だった。キングと戦っていたときのような殺気を発しながら拳を突き出している。
だがメイクは殺気には怯まず、牙忍の方へ方向転換した。牙忍もメイクの方へ向かっていき、ある程度進ん
だとことで二人は衝突した。
その衝撃で周りの壁や床が壊れ、砂埃が舞う。
そこまでの被害を出しておきながらも勝負は一瞬だった。
砂埃の中でメイクが片手で牙忍の首を掴んで持ち上げている。そしてメイクが牙忍を壁に叩きつける。牙忍
を叩きつけたところを中心に壁が更に崩れていく。
牙忍は口から血を吐いてそれがメイクにかかる。メイクは牙忍をもう一度叩きつけようとするために牙忍を
持ち上げる。
持ち上げた瞬間メイクの後ろから人影が飛び出した。
人影は右腕を切り落とされたはずの黒山だった。メイクが牙忍に気を引きつけられていた間に治癒能力を使
って再生させたのだろう。
メイクは黒山の想像を絶する再生スピードに反応しきれなかった。
黒山は周りとは明らかに違う質感をした右腕で拳を握り、振り返ったメイクの左頬を思い切りぶん殴る。
メイクも牙忍と同じように壁に叩きつけられた。
持ち上げられていた牙忍はメイクがいた場所に落とされた。
黒山は思い切り殴ったことによる反動でバランスを崩し、その場で倒れた。
倒れた黒山に牙忍は足を引きずりながら近づいてきた。黒山はゆっくりと立ち上がりメイクの方を見る。
まだ指がピクピク動いているから気絶しているわけではないようだ。
さすがにやばいと黒山は思う。あの拳は黒山自身が出せる最高火力の拳だ。それで気絶しないのはこっちの
打つ手がかなり減ってくる。
するとメイクが口を開き、言葉を発する。
「久しぶりに痛いっていうことを感じましたね…あの人以外で私に痛いって思わせたのはあなた達が初めて
ですよ…でも足りません。もっともっともっともっともっともっと痛めつけないと私は止められませんよ」
あの最高火力以上をやらないと勝てない…。無理だ勝てるわけがない。
黒山はそう思った。
「いやまだ手はある」
だが牙忍が黒山に話しかける。まだ希望はあると。
「あれは黒山単体の最高火力だ。一人でダメなら全員で一撃を食らわす。俺とお前そして幽美の3人で同時に
出せる限りの全力であいつを叩く」
「だけどどうやって3人同時に攻撃するチャンスを作る?あいつは相当な化け物だ。今は手を抜いてるかもし
れないが並大抵のことじゃ気を引くことなんてできないぞ。一瞬で殺されてしまう」
その返答に牙忍は皮肉そうに言った。
「俺たちも化け物だろ。黒山」
牙忍の言いたいことがわかった。
これをやったら俺は死ぬかもしれないが一か八かやるしか無い。
牙忍は作戦を幽美に伝えに行く。
黒山はもう一度メイクの前に立つ。覚悟を決めて。
「仲間は戦わないんですね。あなた一人で私に勝てるとでも?」
「勝てるとは思ってないけど…時間稼ぎなら俺が一番適任だと思ったからだ」
「時間稼ぎとは…。どんなことを仕掛けてくるかはわかりませんが、その思惑にハマってあげましょう」
完全になめてやがる。その顔ぐちゃぐちゃに崩してやるぜ。
最初に動いたのは黒山だった。
高速でメイクの目の前に移動し顔面に拳を叩きつけようとする。
メイクは何も言わず殴ってきた黒山の拳を手首から刀でそのまま切り落とす。
腕を切られても表情を変えない黒山の動きを見てメイクは驚いたような顔をした。切られた腕でそのままメ
イクを殴ろうとしてきたからだ。
そんな腕で殴ったらあなたのほうが先に壊れてしまう。そう思ったメイクだったが次の瞬間とんでもないこ
とが起きた。
黒山の腕が再生したのだ。
「なっ!?」
メイクは慌てて避けようとするが時既に遅し。黒山の拳がメイクの顔面に突き刺さった。
が、メイクは少しのけぞっただけでそれ以外に反応はなかった。
「よくもやってくれましたね?」
メイクはそう言い、そして瞬間的に動いた。
キン
その音はメイクが刀を鞘にしまう音だった。
ただ閉まっただけ?何がしたいんだ?
黒山はそう思ったが、すぐに知ることになる。
ツー、と黒山の体から少量の血が至るところから流れてきた。そしてそれだけでは済まされなかった。
右腕と左足がざくりと切断されていた。
とてつもない激痛が黒山を襲うが、声を上げるのを耐えメイクを睨みつける。
直ぐに黒山の切断された部位が再生する。
メイクが怪訝そうな顔を浮かべ、言う。
「そんなに早く再生するのは想定外ね。ほんとあの人とつながってる人はみんな面倒くさいわ。類友ってや
つかしらね」
あの人。さっきからメイクが言っているが誰のことだろう。一番可能性が高そうなのはこの事件の犯人の中
年男だが俺がつながっているわけではない。おっと今はそんな事を考えているじゃないか。
黒山はもう一度メイクの顔面を殴りに行くべく、メイクの間合いに入っていく。
間合いに入った途端、体が何回にも渡って切断されていき血があふれる。
そして切られた瞬間にまた再生していく。その瞬間にまた切断されていく。そして再生。切断。再生。切
断。再生。切。再。切。その繰り返しだ。
もう黒山の感覚はほとんど麻痺していた。痛いということを感じる間もなく、超速で再生する体。再生させ
るなんてことを考えているわけではない。すべて自動で再生している。
徐々に黒山がメイクとの距離を詰めていく。
距離を離そうとメイクの刀が勢いを増して黒山の体を切断していく。
その切断された箇所も即座に再生する。
メイクはもうほかのことに気をかけていられなくなった。全身全霊をかけてこいつを排除する。そう方針を
転換した。
1秒で1箇所〜無限に黒山の体を切り落としてもそれをどうともせず再生する黒山の体。これを止める方法は
死ぬほど学んでいる。この能力はあの人と似ているからだ。
「秘術ッ!」
メイクが叫ぶと黒山の首に光る輪が、さらに黒山の頭上にギロチンが1つ出現した。
これは…。と黒山は思い、輪に触れるがその輪は黒山の手を切断した。だがまた再生してくる。
「痛みなき処刑!」
瞬間、黒山の体が何か見えないものに寄って拘束され、横たわるような状態になった。
黒山が能力を使っても抜け出せない。多分この材質はこの世界のものではないだろう。
「はぁはぁ…。本当ならギロチンを落として首を斬るんだけど、あんたはそっちのほうが都合が良い」
息を切らしながらメイクが言う。
メイクは黒山を拘束して、ホッとしてしまった。まだ敵は二人もいるのに。
シュルルル、とメイクの背後から紙のようなものが何本も飛んできた。
メイクが急いで振り返ると、幽美が何本もの紙のようなものを使役してこちらに攻撃しようとしている。
メイクの背後から飛んできた紙のようなものは黒山の体に巻き付くと、一気に締まった。
黒山の体が豆腐のように細切れになる。
だが黒山は豆腐のように細切れになった破片の内の1つから体すべてを再生した。
「しまった!」そう、メイクが声を上げた。
「今だ!」
黒山が叫ぶとどこからか牙忍が出てきた。牙忍は手にライターを持っている。
幽美は紙のようなものドリルのように変形させながら「準備はできてますよ!」と言った。
一気に全員で攻撃する。
牙忍と黒山が一瞬でメイクとの距離を詰める。メイクは何が起きているかの処理が追いついておらずパニッ
クになって黒山と牙忍の対処が遅れた。
その瞬間に二人の拳はメイクの顔面に突き刺さった。
メイクがあまりの衝撃で白目を剥く。
そして二人はそれぞれ逆の方向に避難をする。
その別れた真ん中から幽美が突進してくる。
そのまま幽美はドリルの形に変形させた紙のようなものをメイクの腹に突き刺す。そしてそのドリルはギャ
リギャリと回り始め、どんどんメイクの奥深くに刺さっていく。
そこに牙忍は火を点けたライターをドリルに落とす。
瞬間、メイクの体ごとドリルは勢いよく燃え始めた。
メイクは気絶しているようで声を出さない。
そのまま炎の中でメイクの体は燃えて灰になっていくのが見えた。骨すらも、残らなかった。
炎が完全に消えてから3人は現場の惨状を見る。
炎が燃えていた場所には焼け跡がくっきりと残っている。壁は崩壊しているところが多々あり、店が合体し
ているところもあった。床も無事なところはほとんどなくヒビが入っていたりしているのがほとんどだ。
黒山がぼーっと焼け跡を見ていると幽美が顔を赤くしながらトントンと肩をつついてきた。感覚がおかしな
ことになっているのか何故か服越しではなく生で幽美の指の暖かさを感じた。
そして幽美が言う。
「とりあえず早く服を着ましょう…」
え?と思い自分の体を見てみると見事に全裸だった。隠すところも隠せていない。
「あっあのときかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう、メイクの秘術で囚われ、そこから脱出したとき一旦体を細切れにした。その時に服はもうおさらばし
ていたのだ。再生するのはあくまで体だけで付属品であった服は再生しないということだった。
急いで近くの倒れていたマネキンから適当な服をかっぱらい(後でお金は払います)服を着る。
「うう…なんか最近俺の運が最悪なんだが…」
「それは知りませんよ。ただ最近黒山くんのこと以外でも良くないことが立て続けに起きてるのは明らかで
すね。世界規模で見て」
「それはどういうことだ?」
「今回の件を含めて異人が大きなテロを起こしているのは連続で3回目です。そして組織の活発化も最近です
し、なにか裏があるのは間違いないですね」
ふむふむ、と黒山は頷きながら聞く。
今は組織についての情報が少なすぎるからな…考えられるものが少ない。
「今はその話はしている暇はない。今すぐ会長と咲川のところに行くぞ2人共」
牙忍が2人を急かす。
牙忍の言う通りだな。特に咲川が危なさそうだ。気を失っていたし、乱暴な扱いを受けていた。すぐに探し
に行かないと。
3人が倒れている櫻木の元へ向かおうとし、焼け跡に背を向けた。
3人が見ている方向では焼け跡で起こっていることは見えない。何故か灰がもぞもぞと動いて一箇所に集まっ
ていることに。
瞬間、幽美と牙忍の体がそれぞれ2方向に吹き飛ばされ壁に激突した。壁に激突した2人は少し間が空いて床
にドスンと落ちていった。2人は気絶している。
黒山が後ろを振り返ると、そこには五体満足で立っているメイクの姿があった。
「は?なんで生き返って…」
黒山は驚きを隠しきれない。
メイクは灰になって死んだはずだ。灰もこの目で見た。なのに、なぜ。
「いや、一回は死にましたよ。だけど生憎私はある能力を持っているので死ぬに死ねないんですよね」
殺せない。ということを黒山は悟った。
こいつは次元が違う。俺たちが勝てる相手じゃない。
黒山がそう思ったとき、メイクが秘術を発動し、さっきと同じように黒山は拘束された。だがさっきと違っ
て一緒に戦ってくれる仲間は居ない。ここから黒山は脱出できない。
「いやびっくりしましたよ。あなたが私の秘術からバラバラに引き裂かれることによって脱出するなんて。
そしてそれを躊躇なく実行したあの子もすごいとは思うね」
あの子というのは幽美のことだろう。だがその幽美も気絶していて黒山を助けることはできない。
打つ手がもう無い。完全に詰みの状態だ。
「あ、そうだ最後に1つ」とメイクが思い出したように黒山に言う。
「あなたの不死の能力。便利だけど私たちと同じ道を辿ることになるだろうね。まぁせいぜい苦しみなさ
い」
瞬間、黒山たちが居たところを中心点にしてメイクがショッピングモール内で爆発と似たような大音量を響
かせた。
どうもsakuです
メイクとのバトルシーンですね
これを読んでいるということは読み終わっているということなので言いますが読んでいない人にはネタバレ注意
最初から黒山たちには勝たせる気はありませんでした
メイクの強さをここで知ってもらおうというわけです
特に主人公が成長うんぬんかんぬんではないです
強さアピールです
面白ければブックマークや評価を、なにか直すべき所があれば教えて下さい
それでは、また来週




