日常
最近、奇妙な夢を見るようになった。
毎日ではないが、3日に一回ぐらいだ。
その内容は全部同じだが、夢を見ているときは全くその事に気づけない。
そしてその夢に出てくる人物の顔はすべて黒く塗りつぶされている。
わかっている情報の服装や雰囲気から自分の記憶と照らし合わせても全く誰かわからない。
その夢の内容は自分を含めた四人の人が見知らぬ都市の空を飛んでいるという夢だ。そして空を飛んでいる
最中に都市の景色の中に黒いものが現れるのだ。その瞬間、黒いものから自分に何かが飛んでくるのだ。それを避けることができずに自分は落ちていく。
そこでいつも目が覚める。
起きたときはいつも汗ぐっしょりで布団を濡らしている。
そして頬に感じる熱い感触。汗ではない、それは目から流れ出している。
涙だ。
何故泣いているか、自分でもわからない。落ちたという夢がそんなに怖かったのかのかもしれない。
だけど、何故かその涙は普段感じる痛みやショックの涙と違うものだという感じがあった。
わからない。だけど、非情にも時は過ぎていく。
1章
目が覚めた。
いつもの光景だ。
木でできた部屋、奥に見えるドア、自分の横にちゃぶ台、ドアに着く途中にあるキッチン。
あぁいつものだ。質素で必要最低限の生活をしているいつもの光景だ。
自分的にはそろそろちゃぶ台からは卒業したいと思っているのだが。
だけどいつもの部屋というものは安心する。何も変わることがないから。
ザワ
なぜか安心できない。なぜだろう。この部屋は自分が越してきた高1のときから何も変えていない。期間にして1年とちょっとだ。その間は自分しか出入りしてないはず。そして自分が部屋の模様替えをした記憶もない。なぜか安心できない。
誰かを家に招き寄せた記憶もないのに。
「一回顔洗ってくるか」
ということでキッチン(兼洗面所)へ向かった。
桶に水を貯め、そこに顔をダイブさせる。
ざばーと間抜けに水が流れ出す音が聞こえた。
水から顔を出し目の前にある鏡に見えたのは当然自分の顔。特にイケメンではないがよく女の子っぽいと言われる可愛い寄りの中性的な顔立ち。他の色を許さない漆黒に近い真っ黒な髪。自分自身、黒山信二がそこにいた。
ふと、鏡の中の自分に背後になにかが写って見えたように感じた。
ばっ、と後ろを振り向いても誰もいない。気のせいだったのだろうか。
疲れているのだろう。
昨日は生徒会の仕事があって学校に遅くまで残っていたのだ。生徒会きってのトラブルメーカーが使う書
類を間違えてシュレッターにかけてしまったり、そのデータが入ったUSBを水没させてしまったりで会議が始まるのにも時間がかかってしまったのだ。
結局の所うちの生徒会長が超優秀で、「使う予定だったデータはすべて暗記している」とか人間卒業宣言してそのデータをパソコンに打ち出すとかいうクソめんどくさい作業を一人で行う(そもそも暗記してるのが会長だけだから一人でしかできないけど)という超人的偉業を成し遂げてくれたから半日で終わらせられたん
だ。本当だったらもっと時間がかかってたなんて考えたくない。
まぁそのトラブルメーカーに大事なデータを預けてしまったのは俺だし、仕方ないか。そいつがこの仕事を
やり遂げられたら先生たちにこいつはまだ大丈夫です的なフォローを入れたというのに。
自分も謝ったが会長に「部下の失態は上司の責、この件については私の監督不行届ということにしておく」と言われ、反論しようとしたらめっちゃ睨まれて怖かったなぁ。あの会長、本当に人間なのか怪しくなってくる。
うちの学校の生徒が不良共に絡まれたときに、そこに会長が通りかかって不良共を全員拳のみでKOさせたという伝説がある。
この手の話はいっぱいあって(真偽はともかく)コンビニ強盗を捕まえたとか、包丁持った通り魔を沈静化させたとか、暴走車に轢かれそうになっていた人を暴走車止めて助けたとか色々と。
そんな噂話が立つぐらいうちの生徒会長は人間を超えているのだ。
そういえばあのトラブルメーカーは確かやらかしが50回を超えたから生徒会長と一対一で説教だったっけ、許してくれたのは俺だけだったらしい。どんな感じになって戻ってくるだろうか。めちゃくちゃキッチリした性格になってたりして。
さてのんびりしていたが今日は普通に学校があるんだった。現在時刻は6時半。登校には電車を使って1時間かかる。そしてHR開始は8時半。
まだ余裕はあるな。そう思って携帯を手に取り電話を掛ける。
電話に出たのは、
「ふわぁ、おはよぉ黒山くん。今日ってなにか仕事あったっけー」
その声の主は櫻木愛花、俺の彼女である。同じ生徒会のメンバーでクラスメイト、家にいるとき以外は大体俺のそばにいる。
本当のことを言うがやばいやつだ。サイコパス気質だし、自分のことしか考えなかったやつだ。
過去形なのはこれが治ってきたかなと思うからだ。
出会ってからの彼女からの猛アタックとやばいものをなくした中にあった優しさを発見し付き合うことになっ
た。
「会長から頼まれてるものはあるが俺1人でできそうだからやっとく、仕事じゃなくて目覚ましの電話だぞー、早く起きて支度しなよー」
はーい。という声とともに電話が切れた。実はこいつ、もんのすごく時間にルーズなのだ。
遅刻のことを先生から注意しとけと言われ注意すると「可愛い彼氏から朝にラブコールが来れば起きれる」というふざけたことを言ったがやってみると遅刻はしなくなった。
どうなってんだと思うが、まぁ遅刻しなくなるのはいいことだと思う(朝起きるのめんどくさいが)。ていうか可愛いってなんだよ。と学校に行く準備をしながら心のなかでツッコミをする。
支度が終わり、いつでも行ける準備ができている。
ぴろん、と携帯がなった。見てみると愛花が家を出たことをメッセージで教えてくれたようだ。
「さてと、俺もぼちぼち出るか」
そしてドアを開け外の世界へと飛び出していく。
「あー楽しみだなー、信二くんと会うの」
電車の中で携帯でニュースを見ながら小声で言う。今見ているニュースは「全国で行方不明者続出・狙われた高校生」という記事だ。
信二くんとは高校のときに知り合った。高1でクラスが一緒だった。彼と初めて会ったとき、何か温かいも
のを感じた。
私は生まれつき常人とは考えていることが違った。幼少期にみんなが見ていたあのヒーロー物も「何で絶対に正義が勝つんだろう」とか、小学校低学年の学校の道徳の授業のときに人に優しくするのは何で当たり前なのかなんて発言していたり、中学校ではただ話しかけて来てくれた女生徒を殺しかけてしまった。
こんな自分に嫌気が差していた。高校に入っても私は変わらなかった。周りが怖くて、話したくもなくて、
頼れる人がいなくて。だから、
もうやめよう、と思った。
最後にみんなに迷惑をかけてしまおうと思い、学食の麺類に粉末状の毒を仕込もうとした。もちろんこんなことすれば死人が出るかもしれないこともわかってる。でもやりたくなったからやってしまった。
でもみんなが食べる前に生徒会の臨時食物調査で毒がバレてしまった。でも誰がやったかはわからないは
ず、そう私は思っていた。
次の日、彼が黒山信二が私の家に訪ねてきた。
最初は何で来たのかわからなかったけど話を出されてようやく私が犯人だとバレたということに気づいた。
「もう終わりだ」そう直感的に思った私は、玄関にあった殺虫スプレーを彼に向かって吹き付けた。ためらいはなかった。
でも、なぜか彼は殺虫スプレーを浴びてもなお私と話そうとしてきた。スプレーが口に入るのをためらう様子もなく。
そしてそこからの記憶は曖昧だ。覚えているのは私がこれまで感じてきたこと、体験したことを叫んでいたことぐらいだ。
あなたに何がわかる、という決まり文句とこらえきれなくなった涙付きで。でも次の彼の言葉ははっきりと覚えている。
「その程度で泣いてんじゃねぇ」
確かにそう言っていた。
その後、私は生徒会長のところまで連れて行かれ、今回の件を謝罪した。謝っても退学にはなるだろうし、最悪少年院に連れて行かれる、それ相応のことをしでかした。
そう思っていたが、生徒会長は「今回の事件に関しては口外をしないこと、いま事件の犯人を知っているのは生徒会の人間だけだ。生徒会の人間にも念を押したし、大丈夫だろう。君はこれまで通り日常を過ごせ。以上だ」
は?と、
そう思ったが反論する暇もなく生徒会室を追い出された。一体なぜ私はお咎めなしなのだろう。謎だった。
その帰り道、校門に黒山が立っていた。
彼は、何も動揺せず、私を見つけるとにっこり笑って
「一緒に帰ろうぜ」
と言ってきた。その瞬間、自分は泣き崩れた。
いろいろな意味の涙だった。私はその時から何かが一枚破けたように新しくなった気がした。
今まで悲しかったし苦しかった。何度も折れかけ、最終的には折れ、何回も人を殺しかけた。でもたったそれだけなのだ。彼の過去に何があったかは知らないがあの言葉から私よりひどい人生を送ってることがわかる。もちろんあれが嘘ではないこともわかる。そして生徒会長のあの発言は私が予想できなかったことだ。自分の知識に全て置き換え判断していた。
世界をすべて知った気になっていた。だけどそれだけが全てじゃなかった。自分が知らないことはまだたくさんあるのだ。だからまずはこの心に芽生えた気持ちを育ててみよう。そうしたらまた何かがわかるはずだ。
自分の知らないことが。
カンカンカンカン
踏切の音が聞こえて、その音はどんどん小さくなっていく。
朝という時間帯もあって混んでいる電車内、その電車のドアのすぐ横の座席に座り、携帯をしまってぼーっとしていた彼女の耳にその音は届いた。
その音でハッと我に返った彼女は駅の確認をする。電車の案内TVを見てみると今は目的の駅の一個前の駅と
その前の駅の区間だった。
あと少しで着くなー。と黒山に会えることを楽しみにし幸せオーラを溢れさせ、ニコニコと笑っている櫻木。
そのルンルン加減を見ていた電車の乗客も影響され、幸せな気持ちになる。終いには櫻木と同じようにニコニコ笑ってしまう者もいるくらいだ。どのくらい彼女の周りが明るくなっているかわかるだろう。
だが、その姿を見て気に食わなくなる者もいる。
それは本人の知らないところで増殖し、そのうち爆発する。爆発しなくともそれは貯まり別の物へと変化していく。




