8話・追放の刻
……この状況は一体何だ?
俺は自身を取り巻く環境に困惑していた。
自分の周囲に集うのは、六人の女子生徒。
しかも全員ハイレベルな容姿の持ち主。
彼女達に顔の作りで対抗出来そうなのは、昨日ヒステリックに叫んでいた溝口と他数名くらいだろう。
溝口も言動はアレだが見た目だけなら美少女枠だ。
つまり見方によっては俺は今、クラスで人気のある女子を独り占めしている事になる。
勿論、そんな邪な気持ちは少しも抱いてない。
しかし他の男子生徒達からすれば、美少女六人を侍らすクソ野郎としか思われないだろう。
さっきから物凄い敵意を向けられている気がする。
「……はぁ」
「ん? どったのヒーロー君?」
ため息を吐く場面を萌絵に見られてしまった。
「いや、さ」
「……大体分かった、男子も大変だねえ」
「分かってるならもう少し離れてもらってもいいか? 別に俺が居る意味無いだろ、これ」
祐菜、佐菜、陽子、氷柱、萌絵、そして器。
彼女達全員俺に用があるワケもなく、それぞれ相手を見つけて好き勝手に話している。
「いやいや〜、ヒーロー君がいたから、私達も普段あんまり話さない子と接点持ててるんだよ?」
「そうなのか?」
「うん、祐菜ちゃんとか和水ちゃんとか。そりゃクラスメイトだし偶には話すけど、こうやってしっかりお喋りするのは初めてだし」
意外だった……女子同士ってなんか、独自のネットワークを形成してるイメージがあったから、誰とでもそれなりに仲が良いと思っていた。
それを萌絵へ伝えると。
「いやー、ナイナイ。誰とでも仲良いとか……まあ陽子はモンスター枠だから除外するけど、普通はマジであり得ないから。寧ろ派閥作ってバチバチ?」
どうやら女子なりの苦労があるらしい。
ま、そりゃそうだよな。
性別に関係なく、誰しも悩みは抱えている。
「なーに二人でコソコソ話してるのー? もしかして正義クン、黒髪ツインテ眼鏡っ娘が好きなの? だったらボクも明日からそうするけど」
「あはは、陽子ちゃんが言うとマジっぽいから怖いねー。でも大丈夫、別に何もないよ、ね?」
「ああ、萌絵の言う通りだ」
ヌルッと這い出た陽子がまた戯言を吐く。
しかしそこは流石友達付き合いが長そうな萌絵。
華麗にスルーして彼女の口撃を避けている。
「フーン、ならいいや。それより正義クン、ボク達の子どもの名前はいつ決める?」
「お前は何を言っているんだ?」
「あらあら〜? お二人はご結婚する予定なんですか〜? おめでとうございます〜」
「……器、お前ワザとだろ」
祐菜と佐菜の友人らしい器和水が笑いながら言う。
しかしなんていうかな……その笑顔は貼り付けたような笑みで、分かりやすく言うと作り笑い?
「あれ〜? 何のことでしょうか〜?」
「これまた濃いキャラと知り合っちまったな」
「それから〜、私の事は和水と呼び捨てて構いませんよ〜? ヒーローさん〜」
何故か萌絵のあだ名が彼女に電波していた。
女子グループの交流会は既に一定の成果を上げているようだ、恐ろしい……
まあ冗談はさておき、もう名前くらいで一々反応する程子供でもない。
罵詈雑言じゃない限りは許容しよう。
「分かった。これからよろしくな、和水」
「はい〜、こちらこそ〜」
ニッコリと微笑む和水。
ここに来て猛烈なスピードで知り合いが増えている……しかも全員女子生徒。
明日、槍や剣でも空から降るんじゃないか?
……レッドデイで空が赤く染まる世界なら、何が起こっても不思議じゃないな。
縁起でもない事を考えるのはよそう。
「むむ……比呂君、なんかとっても人気だね」
すると祐菜が何故か不機嫌そうに言う。
俺が人気で不満?
別に人気者になったつもりは無いが……
あれか? 今までぼっちだった奴が調子に乗るなコラ! って事か?
どうしよう、そんな風に思われていたら泣くぞ。
「祐菜……大丈夫、俺はちゃんと自制心というか、身の程は弁えてるつもりだから……」
「なんか噛み合ってないような気が……」
そんな感じで女子達と楽しく話していたら。
「いやー、ごめんごめん! ちょっと準備に手間取ってしまってさ!」
ようやくマーリスがやって来る。
部下と思われる人間を数名引き連れて。
重役出勤もいいところだ。
しかし本人はまるで気にしてない。
「んじゃ、こっちに集まってくれるかな? 配るものがあるからさー」
言われた通りにマーリスの側へ集まる。
なんか、昨日以上にフランクになっているな。
溝口を脅した事を気にしているのか?
少しでも悪いイメージを払拭しようと、友達のような距離感を取ろうとしている感じだ。
ただ、正直言って違和感しかない。
それを口にする愚か者は流石に居なかった。
「皆んなに配るのは、コレ」
目元まで隠れるフードを被った人物がマーリスの横に並び立ち、抱えている箱の蓋を開けた。
マーリスは箱に手を突っ込み、ある物を取り出す。
それは真っ白な腕輪。
青い宝石が埋め込まれていて、その周りには銀色の立体感のある模様が描かれていた。
「今から一人ずつ渡すから、全員これを身に付けてほしい。付ける人によって大きさが変わるから、絶対に装着出来る筈だ」
フードの人物に腕輪を手渡される。
大きさを変えるって、地味に凄いな。
魔法的なアイテムだろうか?
「へぇ、デザインは中々良いじゃない」
氷柱が腕輪を見ながら呟く。
オシャレに無頓着な俺でも、良い物なのは分かる。
とは言えこれは何に使うのだろうか?
ただのアクセサリーというワケでも無いだろうし。
なんて考えていると、マーリスは自ら腕輪を付けて使い方を実演してみせた。
「コレは特殊な腕輪でね、身に付けた者の潜在能力を数値化して確認することができるんだ。その数値化したモノを、私達はステータスと呼んでいる」
言いながらマーリスが腕輪の装飾である青い宝石に触れると……まるでホログラムのように文字と数字が浮かび上がった。
その人物の力を測るのには便利だと思う。
同時に能力が分かりやすく数値化されるというのは、中々に残酷なシステムではないだろうか?
優秀なら自分の力を誇示できるが、逆に劣っているならお前は能無しだと決めつけられる。
数字とはそういうものだ。
「私が知りたいのは『クラス』と『スキル」かな。詳しい説明はあとでするけど、とにかくその二つの項目を重視して判断するつもりだよ。さ、全員ステータスを表示させるんだ」
それまでの浮ついていた空気が静まる。
全員、神妙な顔つきで腕輪に触れる。
勿論俺も自らのステータスを確認するべく触れた。
だが……
「え……?」
比呂正義
Lv1
クラス
スキル
一番最初に目に入ったのはこれ。
あとは筋力とか敏捷とかの細かい数値も表示されているが、割愛する。
Lvが1なのは同然だろう。
しかし、クラスやスキルの欄は空白。
何も書かれてなかった。
デフォルトだと何も書かれてないのが普通なのか?
いや、マーリスの言い方だと、必ず何か記されていると考えるのが妥当だ。
これは……まずいんじゃないか?
「私、ウィザードだって」
「俺はファイターだ」
「なんかスキルが沢山ある、ソードマスタリー?」
クラスメイト達の声を聞いても、やはりクラスやスキルには何かしら記されているようだ。
どうする……? 誤魔化せるものでも無いし。
そうこうしてる内にマーリスは二年二組のステータスを一人ずつ見て回り始めた。
俺の方に来るのも時間の問題だろう。
「比呂君? 顔色悪いけど、大丈夫?」
「クラスがお笑い芸人とかだった? だったらボクとコンビ組んで笑いの天下とろうよ!」
「ちょい待ち陽子ちゃん。なんかヒーロー君、真面目にヤバそうな雰囲気っぽいよ?」
「……」
その後、俺は微かな希望に縋って祐菜や陽子達のステータスを見させてもらうが……分かったのは、やはり俺は異端という事だけだった。
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