6話・修羅場……?
「え……え? 比呂君、どうして陽子ちゃんと……? 二人の接点なんて……」
俺と陽子の姿を見て固まる祐菜。
学校では一切話してないからビックリするのは分かるが、そこまで動揺するか?
「ゆ、祐菜ちゃん……落ち着いて……? まずはゆっくり深呼吸しよ?」
「うっ……うん」
いつもは祐菜の方がフォローに回る事が多い双葉姉妹だが、今回は妹の佐菜が姉を気遣っていた。
美しい姉妹愛に俺がちょっと感動していると……
「あー……やっぱそうなんだ」
「陽子? どうかしたのか?」
陽子は感情の無い目で祐菜を見ていた。
しかしそれはほんの一瞬で、直ぐにいつもの何も考えてなさそうな雰囲気に戻る。
「別にー? それより正義クン、早く続きしよう続き! ボク達の肉欲をぶつけ合おう!」
「双葉姉妹の前でそういう事を言うのはやめろ」
「に、肉欲……!?」
「ほら、お前と違って純粋だから信じちゃうだろ」
祐菜は目を回しながら俺に詰め寄って来る。
「ど、どどどどどういう事なの比呂君!? まさかホントに陽子ちゃんと、その、付き合ってるの!?」
「それは絶対に無いから安心してくれ」
「えー、ボクはいつでもバッチコイだけどなー」
息を吐くように爆弾発言を繰り返す陽子。
こっちの世界に来てから衝撃展開の連続で忘れてたけど、コイツはこういう奴だった。
「イチから説明するから、落ち着いてくれ」
「わ、分かった……」
––––数分後。
「幼馴染み……? 陽子ちゃんと比呂君が……?」
「そうだよ!」
「まあ、不本意ながらな」
俺は祐菜と佐菜に事情を説明していた。
灯火陽子とはギリギリ友人ラインに入ってるだけの、ただの幼馴染みでしかないと。
「なんか……意外……学校で、二人が話してるところ……全然見ないから、かな……?」
「あー、それね。正義クンのお願いで、学校ではただの同級生って事にしてるから。ふっふっふ、ボクは正義クンの言いつけを律儀に守る良い女なのサ」
ドヤ顔で語る陽子。
しかしそこには当然理由がある。
主に彼女の所為だ。
「そりゃお前が中学の時、俺の黒歴史を所構わず暴露して回ってたからだろ」
「あれえ? そうだっけ? 忘れちゃった☆」
「張り倒すぞ」
拳を頭に当てるポーズをしながら言う陽子。
「黒歴史? 昔何かあったの比呂君?」
「お、ゆーちゃん気になる?」
「おい、余計な事は言うなよ」
「えー別にいいじゃーん。そ、れ、に……ボクにとっては正義クンの武勇伝なんだからさ!」
武勇伝と聞き、興味津々になる双葉姉妹。
これは煙に巻く事は出来なさそうだ。
もう隠すのも面倒だし、いいか。
俺が諦めたのを察したのか、陽子はウザいウインクを飛ばしてから饒舌に話し出す。
そう、あれはまだ俺達が小学生だった頃。
「ボクさ、小学生の頃はいじめられてたんだよね。それもけっこうエグいやつ。いやー子供って残酷だよね! 給食に泥入れられた時は泣いちゃったなー」
「え、それホントなの陽子ちゃん?」
「そ……想像出来ない……」
「まーね、今と昔のボクはほぼ別人だし? 髪の色も喋り方も違うから」
祐菜と佐菜の反応は最もだ。
中学に入った時から少しずつ変わり始め、気づいた時にはこのモンスターが誕生していた。
「周りの大人もだーれも助けてくれなくてさ、色々悩んでたんだけど……くくっ、ある日突然、ボクがいじめられてる現場に正義クンが乱入してきたんだよね、ヒーローのコスプレして」
笑いを堪えながら陽子は言う。
「比呂君って、昔からそういう事してたんだね」
「……変わってなくて……安心、した……」
「いやいや! 昔の俺はただの痛い奴だから!」
……昔の俺は今以上にヒーローが好きだった。
だからか、ヒーローそのものになりきって、当時いじめを受けていた陽子を助けようとした。
そこで華麗に彼女を助けられてたら、俺もここまで黒歴史扱いはしていなかっただろう。
けれどいじめっ子は複数で、俺は一人。
「そしたらさ、今度は正義クンも一緒になっていじめられちゃってさ。しかも男の子だからより激しくて、いっつもボコボコに殴られてたよ」
「……そんなにボコボコにされてたか?」
「そりゃもう、期待してたボクが失望するくらいには。でも––––そのおかげで、ボクは変われた」
それから陽子は優しく微笑んだ。
彼女の語りを、双葉姉妹は真剣に聞いている。
俺は恥ずかしくて今にも逃げ出したかった。
「ボクがいじめられている限り、この子も辛い思いをするんだろうなーって思ったらさ、何とかしなくちゃって思って。どうにかいじめられないように、色々勉強して工夫したの、見た目とか話し方とかさ」
そういえばそうだったな。
陽子はまず他クラスに仲間を作り、休み時間等は出来る限りその子たちと一緒に行動した。
流石に複数人、それも他クラス相手に手を出すのは戸惑ったのか、その時点でいじめは激減したっけ。
代わりに俺へのいじめが加速したけど。
だが、俺は決して屈しなかった。
目には目を、歯には歯を。
筆箱を隠されたら俺も相手の筆箱を隠し、殴られたら容赦なく殴り返した。
当然相手は複数なので、負けるのは決まって俺。
しかし俺は毎回必ず一人だけを狙い、どれだけ嫌がらせを受けても執拗に責め続けた。
次第にその一人は俺に攻撃したら全て自分に返ってくると理解し、いじめを辞める。
そうしたらまた次のいじめっ子を集中的に叩く。
以上の事を繰り返し、俺はいじめを跳ね除けた。
その頃には陽子も自分の身を守る術を獲得し、クラスは平和な空気を取り戻していたとさ。
「二人とも、凄い小学校生活だったんだね……後々問題とかにはならなかったの?」
「いじめっ子の親が文句言ってきたけど、事件が明るみになったら困るのは同じだろって事で闇に葬り去られたな」
「……じ、事実は小説より奇なり……だね」
全てを聴き終えた祐菜と佐菜は生唾を飲み込む。
とまあ、これが俺と祐菜の出会いだ。
幼稚園も同じだったけど、ほぼ他人だったからな。
「そんなワケでボクはこの通りイメチェンに成功し、正義クンとは将来を誓い合う仲になったのさ」
「勝手に過去を改変するな」
「はは、照れなくていいって。あ、おっぱい揉む? 正義クンならいつでもオッケーだよ!」
頰を赤く染め、息を切らしながら戯言を吐く陽子。
だが待ってほしい、果たして彼女には男の欲望を満たすだけの果実は実っているだろうか? いや無い。
「お前、揉めるほどねーだろ」
「はああああっ!? ありますけど! 着痩せしてるだけでありますけど!? その目と手で確認すればいいじゃんヘタレ! それにキミの趣味は全部把握してるし! 性癖バラされたくなきゃ今すぐ揉め!」
「とりあえず一発殴らせろ」
拳を握ると流石に身の危険を感じたのか、姑息にも祐菜と佐菜の背後に隠れてブーブー文句を垂れる。
「DVだ! 家庭内暴力反対!」
「お前と家庭を築いた覚えはない」
「あはは……うん、二人がとっても仲良しなのは、よく分かったかな」
俺と陽子のやり取りを見て苦笑いを浮かべる祐菜。
「祐菜ちゃん……! 祐菜ちゃんも攻めないと、取られちゃうよ……!」
「へ? べ、別に祐菜は……」
「むー……えいっ」
「ひゃっ!?」
何を考えていたのか、突然佐菜が祐菜の背中を押して俺の方に押し付けてきた。
ぐらっと祐菜が態勢を崩し、倒れそうになる。
危ない……と思う前に体が動き彼女を支えていた。
「うおっ……と、大丈夫か?」
「ぁ……う、うん」
祐菜はぼーっとした様子で俺を見上げる。
あ、つい手を貸しちゃったけど、いいのかな。
女の子の体を勝手に触るのはマナー違反だろう。
「おっとお? ラブラブ数値のメーターが振り切ってますねコレは! ボクも混ぜろ!」
「……じゃあ、佐菜も」
そこで突如陽子が俺の左腕に抱きつき、更に佐菜も右腕に自分の体を押し付け始めた。
両手に花どころか上半身に花だなこれ。
「さ、三人とも落ち着けって!?」
「おやおや〜? 今度は本当に照れてるね正義クン〜?」
「––––はっ! 何この状況!」
「祐菜ちゃん気づくの遅い……でも、楽しいかも……うへへ……」
それから俺たちは異世界に来た不安をかき消すように、バカな事をしたり話したりして騒いだ。
この先、何が起こるか分からない。
けどきっと、今日という日は忘れないだろう。
数少ない仲間たちと過ごした時間を。
例え、死の淵に立ったとしても––––
感想、ブクマ、ポイント評価お願いします!
ポイント評価はログイン後に↓の☆マークを押す事で評価を付ける事が出来ます。