21話・ギルド
「あの人達、ブラックリストに載ってたよね?」
「そうだな。地下の牢獄に送っておく」
「うん、お願い」
影を操っているのは少年の方らしい。
細い目と黒髪で、神経質そうな雰囲気を感じる。
影の中を自由に出入りする能力か……面白い。
「おーい、リヒト君。大丈夫だったかい?」
「マサルさん。すみません、勝手に飛び出して」
「気にしなくていい、君が行かなかったら私が行っていたからだろうし」
俺と合流したランドさんは、目前の少年少女……特に長い金髪の少女を見て驚いた。
知っている人物なのだろうか?
「ファミリーメイト……そうか、ここは君達が仕切っている町だったね」
「そっちのお兄さんは知っているんだ。あはは、ちょっと照れるかも」
金髪の少女は照れ臭そうに笑う。
謙遜ではなく、本当に照れているようだ。
さっき二人組みと対峙していた時とはまた違う、ある意味年相応の空気を今は纏っている。
「私達はギルド『ファミリーメイト』。そして私は一応ギルドマスターを務めているレギナ、よろしくね観光客さん」
「俺はサブマスターのオンブルだ」
少年と少女はそれぞれ名乗る。
しかし困った事に俺は『ギルド』が何なのか知らない……地球の言葉と同じ意味なら、商人組合等の意味を持っていそうだが、恐らく違う。
するとランドさんが耳打ちしてくれる。
「ギルドは複数の冒険者が集まった組織のことさ。数人の集まりをパーティー、更にそのパーティーが複数集まったのがギルドって言った方が分かりやすいかな? その中でもファミリーメイトは特別で、自警団と協力して町の治安を守っているんだ」
欲しい情報だけを素早く教えてくれた。
冒険者が自警団と協力して町の治安を守る……俺でもそれがどれだけ凄い事なのか分かる。
で、レギナとオンブルはそんなギルド・ファミリーメイトのツートップであると。
……いきなり大物と出会ってしまったな。
「俺はリヒトだ、よろしく」
「私はマサルです。君達が噂に聞くファミリーメイト……本当に若い子ばかりで驚くよ」
「マサルさんだって十分若いじゃないですか」
こちらも礼儀として名乗り返す。
相変わらず偽名なのは良心が痛むけど。
最近は偽名を使うのにも慣れてきた。
「それより……リヒトだったか? さっきの動きは見事だった。なにかのスキルか?」
「まさか、自力で覚えた拙い技術さ」
「スキルに頼らない技術か……ウチのギルドメンバーにも見習わせたいな」
人懐っこい笑顔を浮かべるレギナとは対照的に、オンブルは俺の事を若干警戒していた。
用心深い性格にしても、俺はまだ何もしてない。
「こらオンブル君、また人を疑って。リヒト君は子供を守る為に戦ったんだよ? 危ない人じゃないよ」
「……それが俺の仕事だ。誰であれ、余所者は警戒する。お前は人が良すぎるぞレギナ」
ばつが悪そうにするオンブル。
トップのレギナは底抜けの善人オーラを放っているが、メンバー全員が彼女と同じワケもないか。
中にはオンブルのように警戒心が強い者もいる。
これだけ大きな町を拠点にしているなら尚更か。
人の数が多ければ、比例して悪人の数も多くなる。
「んー、それもそうだけどさ。私は疑うより信じたいな、だってその方が楽だし」
「はぁ……まあいい、お前が信じて俺が疑う。今までずっとそうやってきたからな」
「あはは、いつも悪いね––––それでリヒト君とマサルさんは何をしに来たのかな? 観光目的なら私が案内してあげるよ、本当に観光だったらだけど」
まるで俺達の目的が別にあると言いたげな様子。
さて、どうするか。
彼女が思っている通り、目的は別にある。
まあ観光客ってのも適当に言っただけだからな。
問題はダンジョンに来た事を隠すかどうか。
俺は行きの馬車の中でランドさんと話した、冒険者とダンジョンの関係について思い出した。
◆
「そういえば……冒険者になるにはどうすればいいんですか? ランドさん」
ふと気になっていた事をランドさんに質問する。
俺の中では荒くれ者のイメージが強い冒険者。
しかしゼルンの町で出会った冒険者達は比較的大人しく、誰もが最低限の常識を持っていた。
「簡単だよ、冒険者協会に登録の申請を出せばいい。そして審査が通ったらもう冒険者だ」
「へぇ」
「ただし確かな身元がある者しか申請は出来ない」
まさかの落とし穴が用意されていた。
ライトノベル等でよく見る冒険者制度は、大概身元不明でも簡単に登録出来るものだったけど……
「じゃあ、迷い人の俺は申請出来ないんですか?」
「抜け道はあるよ、冒険者協会と繋がりのある人物から推薦状を貰えばいい……ただまあ、そんな人は滅多に居ないし会えもしないんだけど」
異世界でもコネは最強らしい。
ステータスがあるゲームのような世界なのに、変なところで現実感を出されると微妙な気分になる。
「冒険者の主な役割は、その名の通り未開の地を冒険して成果を持って帰ること。この未開の地は時代によって変わっていったけど、今の冒険者の主戦場はダンジョンだね。あとはレッドデイも頻発してるし、純粋なモンスター退治がメインかな」
冒険者はゼルンの町にも訪れている。
一応小さいながら冒険者協会の支部があるらしく、冒険者はそこで依頼を受けて仕事をしているとか。
依頼内容の殆どはモンスター退治。
残念ながら、ゼルンの町周辺にダンジョンが発生した事はまだ無い。
そしてダンジョンは冒険者協会が管理しているようで、非冒険者が入る事は許されてないようだ。
「冒険者になる為の申請がある意味で厳しいのは、実はダンジョンに寄るところが大きい。内部は危険だけど、その分倒したモンスターの素材は価値が高いし、特殊な鉱石が採掘できる所もある」
「つまり、多大な利益を生む場所を好き勝手に荒らさせない為って事ですか?」
「その認識で合っているよ」
誰だって金のなる木は手放したくない。
ダンジョンは完全な異空間に存在し、所有権は誰にも無いが原則として国家の管理下に入る。
冒険者協会は国営なので国の上層部が認識したダンジョンは自動的に協会へも知らされ、然るべき人員と物資が現地に届けられる仕組みだ。
と、ここで俺は一つの疑問を抱く。
「……あれ? 冒険者じゃなきゃダンジョンには入れないって事は……俺、ダメじゃないですか」
「うん、そうだね」
「そんな……」
俺の不安をあっさりと肯定するランドさん。
どうしてもっと早く教えてくれないんだ……と思ったが、既に彼の中では解決されていた問題だった。
「大丈夫。ダンジョンへは1パーティーに一人だけ、サポーターを連れて行けるんだけど、そのサポーターは冒険者資格が無くてもいいんだ。そして私が冒険者資格を持っているから安心していい」
「良かった……もう、びっくりさせないでくださいよランドさん」
「はは、ごめんごめん。言い忘れていたんだ」
◆
……まあ、こんな感じの一幕があった。
名目上、俺はランドさんのサポーター。
あまり出しゃばるのはよくない気がする。
そんな俺の思惑を汲み取ったのか、俺ではなくランドさんがレギナの質問に答えた。
「私は冒険者でね、この町のダンジョンに来たんだ。彼は私のサポーターだよ」
下手に隠してバレた時の事を考えたのか、偽りはせず素直にダンジョン目的だと答えるランドさん。
サポーターと一緒にダンジョンへ挑む。
何もおかしい事は無い。
「……あの実力でサポーター? 面白い冗談だな」
「疑うのは構わないが、そろそろ行っていいか?」
「あはは、なんか引き止めちゃってごめんね? ダンジョンに挑むならまた会うかもしれないし、その時はよろしく、それじゃ!」
レギナはオンブル含む仲間達を引き連れ、やや強引に会話を打ち切った。
これ以上は迷惑しかかけないと思ったのだろう。
オンブルの方は不服そうだったけど。
疑り深い奴を相手にするのは疲れるな……
暫く休載します。




