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20話・新たな町

 

 ダンジョンへ挑むことを決めた数日後。

 鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに、俺達は現在ダンジョンが確認されている町を訪れていた。


「ここが『ファウンテン』……ゼルンと比べ物にならないくらい大きいなあ……」

「人口一万人を余裕で超えているからね。オマケにダンジョンもあるから冒険者の出入りも激しいから、人口以上に発展している町だよ」


 俺とランドさんが訪れた町の名はファウンテン。

 ポーションの材料が沢山採れる地域であり、状態以上を治す不思議な泉があるとか無いとか。


 町並みそのものは中世ヨーロッパ風のゼルンと変わらないが、店舗の大きさや人の出入りはこちらの方が数段上と言わざるを得ない。


 なんていうか、活気が違う。

 これで町のレベルとしては中堅程度だから驚きだ。

 王都はどれだけ賑わっているのやら。


 転移で直接王城に行ったから、王都の雰囲気はまるで知らないんだよな。

 まあ近い将来、嫌でも見る事になりそうだけど。


「とりあえず宿を取ろうか」

「はい、正直馬車酔いが酷くて……休みたいです」


 ゼルンからファウンテンまでは馬車で数時間ほど。

 初めて乗る馬車に最初はかなり興奮していたが、数分後には激しい揺れの洗礼を浴びてやられていた。


 サスペンションは本当に偉大な発明だと思う。

 似たような魔法道具があるにはあるらしいが、貴族や大商人御用達の高級馬車にしか搭載されてない。


 だからひたすら耐えるしかなかった。


「慣れればどうって事ないよ」

「うーん、出来ればそんな日は迎えたくない……」

「だけど全く不快な揺れを感じない乗り物か……魔法も無いのに、マサヨシ君が住んでいた世界は凄いんだね、まるでお伽話を聞いているみたいだ」


 文化の違いに驚くランドさん。

 現代日本がお伽話とは恐れ入る。

 俺からしたら、この世界こそお伽話そのものだ。


 そんな感じに異文化交流? をしつつ、良さそうな宿を探している最中。

 突然罵声と悲鳴が同時に聴こえてきた。


 何事かと声が聴こえた方向へ振り向く。

 そこには二人組みの厳つい男と、犬のような動物を抱えながら震える小さな男の子が居た。


 どう見ても穏やかな雰囲気ではない。


「と、突然何するんだよ!」

「ああ? 町の中にモンスターが居たからなあ、退治してやったんだよ」

「くくっ、感謝しろよなあ坊主……?」


 あの犬がモンスター……?

 目を凝らしてよく見てみる。

 しかし日本の柴犬によく似た犬にしか見えない。


「そ、そんなワケあるか! 誰がどう見てもただの犬だろ……! なのに突然蹴り上げるなんて!」


 見れば男の子が抱える犬はぐったりしていた。

 本当に攻撃されたのか、苦しそうにしている。

 だが二人組みの男達はニヤニヤと笑うだけ。


「はっ、オレ達が歩く道を譲らねえからそうなる」

「そうだぜ、俺らは前回のレッドデイを戦い抜いた英雄だぞ……? この町の連中を守ってやったんだ、もっと敬えやクソガキ」


 次第に野次馬の数が多くなる。

 だが誰も男の子を助けようとしない。

 無理もない、相手はヤバそうな男二人。


 けれど自分の愛犬を傷付けられた少年は、恐怖に身を震わせながらも雄々しく立ち向かう。

 自分より遥かに強い、強大なモノを相手にして。


「ふざけるな! そんなの関係無いだろ! それに町を守ってくれてるのはお前らみたいなゴロツキじゃなくて『ファミリーメイト』の人達だ!」

「あ……? ガキ、今なんつった」

「ぐあ……」


 男はニヤついた笑みを消し、男の子の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 男の子は苦しそうに足をバタバタ動かしていた。


「あんなガキの集団が町を守っているだあ? どいつもこいつも勘違いしてやがる、本当に町を守っているのはオレ達だってのによお!」

「……ふ、ふざけんな……!」

「ウー……ワンワンッ!」


 男の子の犬が主人を守ろうと吠える。


「うるせえモンスターだな。おい、こいつ殺せ」

「いいぜ、さっき武器を新調したばかりだからな。試し斬りに丁度良い」


 男の子を掴んで無い方の男が鞘から剣を抜くと、周囲から小さく無い悲鳴が生まれる。

 俺はもう我慢出来ずに走り出していた。


 不用意に目立つのは、俺やランドさんの立場上得策では無いが……最早そんな事は言ってられない。


「や、やめろ! やめてよ!……逃げろワンダフルウウウウウウッ!」

「ワ、ワオン……!」

「はっはあー! 死ねモンスター!」


 男の子が愛犬の名を叫ぶ。

 直後に振り下ろされた凶刃を俺は男の手首を掴む形で防ぎ、そのまま腹部を蹴り上げた。


「がはっ……!」

「っ!? お前なん––––がっ……!」


 更に続けて男の子を掴んでいる男の腕に向かって手刀を浴びせ、手を離した隙に顔面へ拳を叩き込んで大きく仰け反らせた。


「え……に、兄ちゃん、誰?」

「ただの通りすがりの……観光客さ。こっちは俺が何とかするから、行っていいぞ?」


 視線で逃げろと伝える。

 男の子は愛犬を抱え走り出す……前に一瞬だけ止まり、眩しい笑顔を見せながら言った。


「誰だか分からないけど、ありがとな!」

「ワオン!」


 逃げ足は早いのか、あっという間に姿を消した。

 さて、とりあえずはこれで一件落着……に成る程、現実は甘くない。


 二人組みの男は鬼の形相で起き上がる。


「おいこらガキ……何すんだよ」

「悪い、あまりにもブサイクな顔してたから、ついモンスターと間違えて攻撃しちまった。許してくれ」


 瞬間、野次馬達から失笑が漏れる。

 まあちょっとした意趣返しだ。

 人に言われて嫌なことは自分も口にするなよ?


 だが既に成人した男達には無駄だったようだ。


「覚悟出来てんだろうな、ガキ」

「ここまでコケにされたのは久しぶりだぜ、楽に死ねると––––」

「はーい、そこまで!」


 パン!

 険悪なムードに似合わない声と音が響く。

 すると野次馬の中から数人の少年少女が現れた。


「町での暴力事件はご法度だよ? 三人ともその辺にした方がいいと私は思うな。あ、そっちの二人にはあとで自警団の本部に来てもらうからね?」


 俺と二人組みの間に割って入る金髪の少女。

 腰まで届く長い髪に青色の瞳、色白の肌。

 美少女とはこうだ! と表現している少女である。


 しかも初対面の女性にこういう事を思うのは大変失礼だが、胸部が驚く程に大きい。

 着ている衣服が不自然に出っ張ってしまう程に。


「ファミリーメイトのギルドマスターだ!」

「レギナちゃんだー! 今日も可愛いー!」

「あの人達が来たならもう安心だな」


 彼女達が現れた途端、野次馬達は口々に「もう安心だ」と言って去っていく。

 結果、残ったのは俺と二人組みと彼女達だけ。


「君、あの子を助けてくれてありがとうね?」

「ああ、うん。それより君達は何者?」


 ファミリーメイトという組織のようだが。


「あはは、それはあとでもいいかな? まずは……そこで殺気を隠そうともしない人達の相手をしないといけないからさ」


 くるりと俺に背を向け、二人組みと相対する少女。


「またお前か! 邪魔すんじゃねえぞ!」

「ガキのお遊びは家でしてな!」

「うーん、私達は町長さんからも正式に依頼されているから、そうもいかないんです」


 乱暴な言葉に対しても物腰を崩さない。

 男達は怒りで引っ込みがつかないのか、少女の言葉を聞いた直後に武器を振り抜こうとする。


「大人の怖さを教えてやらあ!」

「ついでにその体にもなあ、ぎへへっ!」

「……オンブル君」

「ああ、分かっている」


 少女が呟く。


 突然、男達の影の中から一人の少年が現れる。

 完全に虚を突かれた二人組みはまるで対応できず、少年にあっさりと組み伏せられた。


 そしてそのまま影に沈んでしまう。

 何だ、今のは……?

 スキルによる力なのは間違いなさそうだが。

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