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2話・レッドデイ

 

 当たり前だが、骸骨は骨だけの体で発声器官なんてモノは既に存在してない。

 なのに耳障りな音を発している。


 骨同士を擦り合わせて放音しているのか……?

 いや、今はそんな事どうでもいい。

 問題なのは武装した骸骨が歩いている事実。


 もし、あの剣が俺たちに向けられたら––––


「はっ、あんなの化学室に置いてある人体模型と同じじゃねえか。ビビる必要ねえよ」


 そんな時、クラスでも不良として通っている男子生徒の荒川が一人前に出る。

 教師が止めるも、彼は無視して骸骨に近づく。


「この剣、本物か? 丁度良い、それ貰うぜ……消えろほねほね野郎! オラあっ!」


 どうしてそんな物を持ち歩いているのか……荒川は懐から取り出したメリケンサックを右手に装着し、骸骨の頭を思い切り殴った。


 ガン! と無機質な音が響く。

 骸骨は僅かに仰け反った。

 それを好機と捉えたのか、荒川は殴り続ける。


「んだよコイツ、ビビらせやがって! 何も出来ねえサンドバッグ……ボーンバッグじゃねえか! ギャハハ、オラオラやり返してみろよ!」


 狂気的な笑みを浮かべながら骸骨を殴る荒川。

 彼の言う通り骸骨は何もしてこない。

 しかし、それが続くとも限らないだろう。


「荒川! もうやめろ!」


 教師でさえも恐怖に負けて動けず、誰も荒川の奇行を止めようとしない。

 嫌な予感がする俺は、仕方なしに彼を止めに動く。


「ひ、比呂君? 危ないからやめようよ……!」

「佐菜もそう思う……!」

「大丈夫、荒川を止めるだけだ」


 心配してくれる二人にそう言ってから荒川の元へ。

 彼は未だに骸骨を殴り続けている。

 だが、その時点で奇妙だった。


 確かに骸骨は仰け反ってはいるが、それだけ。


 決して倒れず、傷付きもしない。

 荒川は元々格闘技を習っていたらしく、腕力だけなら大人にだって負けないと噂されていた。


 その彼が攻撃を続けてビクともしない武装骸骨。

 これはまずい、直ぐにでもやめさせないと。

 俺は多少強引だが、直接荒川の右腕を掴んだ。


「聴こえてないのか? もうやめるんだ」

「ああっ!? うるせえぞ! つか誰だお前!」

「比呂正義だ、クラスメイトの顔と名前くらい覚えとけ。それより早くこっちへ来い……この骸骨、普通じゃない。早く逃げるんだ」

「普通じゃねえ事くらい見りゃ分かるだろボケ! 双葉と仲良いからって調子乗るんじゃねえ!」


 しかし荒川はこちらの話に聞く耳を持たず、何故か祐菜と佐菜の名前を出しながら激昂した。

 何だよ、俺のこと知ってるじゃねえか。


「逃げてえならお前一人で逃げろ!」


 荒川は骸骨に向けていた拳を今度は俺に向ける。

 格闘技経験者の一撃……普通の学生なら避けられないが、俺はある経験から体と反射神経を鍛えていた。


 拳を引きつけ、当たる直前に避ける。


 俺が拳を避けた事にギョッとする荒川。

 直後に左手も交えた連続殴打に切り替えたが、その全てを危なげなく回避し続けた。


 このままじゃラチがあかない……許せよ荒川。

 彼が繰り出した拳をまたも避けた直後、腕を絡め取って後方に投げ飛ばした。


「ぐあっ……!? 比呂、テメェ……!」

「ちょっとは頭冷やせ」

「は、離せ!」


 そのまま彼の腕を掴み、ズルズルと引きずる。

 こうでもしないと連れ戻せそうになかった。

 荒川も消耗しているのか、されるがままである。


「先生、ここは危険です。移動しましょう」

「あ、ああ、そうだな。よし! あの変な骸骨がいない所に避難するぞ! 荷物は各自忘れずに!」


 教師に進言すると、直ぐに移動が始まる。

 荷物と言うのはスクールバッグの事だ。

 机や椅子もあったが、持ち出す意味が無い。


 そして流石に一人だけ残されるのは嫌なのか、全員が移動を始めると荒川も渋々付いてくる。

 全く、頑固な奴だ。


「比呂君! け、怪我とかしてない!? だっ大丈夫なの……?」


 常日頃から持ち歩いているのか、祐菜は慌てながら絆創膏を取り出す。

 恐らく佐菜の為に常備しているのだろう。


「あのくらいなら平気だよ」

「ほ、ホントに……? なら良いけど……でも祐菜も佐菜ちゃんも凄くビックリしたんだよ? 突然喧嘩みたいなの始めちゃうし……」

「ごめん、ああするしか無かったんだ」


 祐菜の顔色はさっきから悪い。

 この異常事態に加え、俺と荒川の暴力沙汰。

 余計な心労を与えてしまったようだ、反省しよう。


「で、でも……さっきの比呂くん……スプラッシュアーマーのフォトンみたいで、ちょっとカッコ良かった……!」


 目をキラキラ輝かせながら佐菜は言う。

 スプラッシュアーマーとは、仮面戦士フォトンの形態変化アーマーチェンジ先の一つだ。


 能力で生成した水と拳法を組み合わせた『流水ハイドロ拳』は柔術がモチーフで、素手ながら数多の怪人を倒している。


 因みにフォトンの初期形態は剣術を得意とするナイトアーマーで、扱う武術は『閃光シャイン剣』。

 必殺技は《フルオーバーフラッシュ斬》だ!


「俺がフォトンか……はは、嬉しいな」

「佐菜もそう思う……ふへへ!」

「……祐菜はなるべく、危ない事はしてほしくないなー、なんて……ま、まあ、確かにちょっとだけカッコ良かったかも? だけど……」


 ごにょごにょと何かを言う祐菜。

 声が小さくて上手く聞き取れない。

 そんな姉を、妹は生暖かい目で見る。


「祐菜ちゃん……しっかり言わないと伝わらないよ? とくに比呂くんみたいなタイプは……」

「うぇっ!? なっ何の話かなー? あはは!」

「誤魔化すの……下手……」


 顔を赤くしたと思ったら、突然笑い出す祐菜。

 何を話しているかは見当もつかないが、双葉姉妹の仲は今日も良いようだ。




 ◆




 それから歩いて約一時間後。

 いつの間にか森を抜け、見通しの良い草原のような所へ二年二組は辿り着いていた。


 だが……


「な、何あれ……」


 祐菜が絶望したかのように呟く。

 彼女の視線の先にあるのは、戦場だった。

 無数の怪物達と戦う武装した人間達。


 怪物の中にはさっき遭遇した骸骨も混じっている。

 骸骨は剣を振るい、容赦なく人間を斬り殺す。

 それを見て荒川は身震いしていた。


 ようやく自分が何をしたか自覚したらしい。

 さっきの骸骨が俺達に攻撃をしてこなかった理由は不明だが、決して舐めていい相手では無かった。


 悲鳴と怒号が至る所で轟き、血を流す人々。

 あまりにもリアリティが無さすぎる光景。

 しかし、感じる空気や匂いは現実そのもの。


 誰も映画の撮影やドッキリだなんて言い出さない。

 目前の凄惨さにただただ飲み込まれていた。

 ワケが分からない……こんなのどうすれば……


「そこのアナタ達! どうしてこんな所に!? ここはもう戦場よ、早く避難して!」


 暫く呆然としていると、魔法使い風の格好をした若い女性がやって来た。


 これが先程までなら「貴女は誰ですか?」「ここは何処ですか?」等のやり取りが出来たが、今はもう違う……教師が最低限の言葉だけ交わすと、女性に指示された避難場所へ皆が我先にと駆け出す。


 俺も祐菜と佐菜と共に精一杯走った。

 途中佐菜が転びそうになったが、最終的に俺が背負って避難場所とやらまで駆け抜ける。


 避難所と言っても、木製の柵が置かれただけで……まるでRPGに出てくるような中世ヨーロッパ風の村の中央に二年二組は集められた。


「ここなら一応安全よ、私達が負けない限りね。アナタ達の事情は何となく察せるけど、今は私達も余裕が無いの。今日の『レッドデイ』が終わったら、お互いキチンと話しましょう?」


 女性は早口で言い切り、戦場へ戻っていった。

 何もかもが分からないが、分かることが一つだけ。

 彼女が言った『レッドデイ』。


 それは恐らく、赤い空と怪物に関係する事だろう。

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