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18話・間引き作業

 

 その日、俺は酒場で情報収集に勤しんでいた。

 酒の席では誰もが口を緩める。

 一杯奢れば質問くらいには答えてくれた。


「……で? 坊主は何が知りてえんだ?」


 俺が奢ったビールを口元に運びながら、戦士風の装いである冒険者が言った。

 冒険者は仕事の性質上、各地を転々とする。


 転移の魔法道具があるものの、個人間の情報伝達手段にまだまだ疎いこの世界の情報源は噂だ。

 しかし所詮は風の噂、信用出来ない。


 だから大勢から情報を集めて裏を取る。

 日頃からスマホを眺めているだけで欲しい情報が手に入っていた日本とは大違いの環境だ。


「迷い人についてです」

「迷い人?」

「はい、風の噂で聞いたんですが……どうやら最近、国が大量の迷い人を抱えているとか。しかも自分くらいの年齢って聞いたので、興味が湧いたんです」


 俺が知りたいのはクラスメイト達の動向。

 皆んなは今、何をしているのだろうか。

 願う事なら一人も欠けてほしくない。


「んだよ、殆ど知ってんじゃねえか。確かに最近、俺達冒険者の間でも噂になってんよ」

「へえ、本当だったんですね」

「まあな、実際見た事あるって連中も多いし、国も別段隠してるワケじゃ無さそーだ」


 当たり前だが、細かい事までは分からない。

 とは言えクラスメイトを隠すつもりは無いのか。

 俺は最初から存在してない事になってそうだ。


 あーでも、皆んなは俺が追放されただけで死んだとまでは思ってない……けどマーリスだけは俺が死んだと考えている、実際は生きてるけどさ。


 何だかとても複雑になっている気がした。


「でもよ、それに加えてもう一つある」

「まだ何か?」

「ああ、何でも迷い人連中はとんでもなく成長するのが早いんだとよ。オマケに殆どが最初から上位クラスらしいぜ? はっ、将来有望な事で」


 皮肉げに男性は笑う。

 最初から上位クラスなんてのもあるのか。

 やっぱり俺達はこの世界の人と違うのだろう。


「こっちは五年近く活動して、ようやく上位クラスが見え始めた頃だってのに……クソが」


 彼はグイッと一気に酒を流し込む。

 これ以上の情報は聞き出せないな。

 俺は机にもう一杯分の酒代を置いてから立つ。


「お、気前が良いな」

「有益なお話しでしたから。ありがとうございます、またいつかご縁があったら」

「おう、次なんか仕入れたらタダで話してやるよ」

「楽しみに待ってます」


 か細い糸だが、かろうじて繋がりは残せた。

 フー……慣れない事はするもんじゃないな。

 男性から離れた席に座りながらため息を吐く。


 これで聞いたのは七人目……全員同じ事を話していたので、俺が嵌められてもなければ彼らの情報はそれなりの信憑性があると思っていい。


 けどまあ、得られた情報そのものは僅かだ。

 もっと知りたければ、それこそ直接王都に出向く必要があるが……流石にリスキーすぎる。


 今の段階ではまだ早い。

 もっと力をつけてからじゃないと。

 どんな理不尽も跳ね除けられるくらいの。


「……流石に欲張りすぎか」

「おーい、リヒトー!」


 一人で黄昏ていると名前を呼ばれた。

 振り向くとそこには三人の男達が。

 その内の一人はクラッシュだった。


「クラッシュ、何か用か?」

「いや、酒場に来たらオマエの姿が見えたからよ。丁度良いから一緒に飲まないか?」

「別にいいけど、後ろの二人はいいのか?」


 クラッシュの友人らしき二人の男性。

 多分自警団員だ、見たことがある。

 彼らは口を揃えて言った。


「勿論、あんたとは一度話したかったんだ」

「先日はどうもありがとうございました。貴方には感謝してもしきれません」


 そこで簡単に自己紹介をされる。

 坊主頭に日焼けした肌が眩しいスキド。

 長髪で細身、礼儀正しい雰囲気のロンリー。


 予想通り自警団の一員で、普段は別の仕事をしているが有事の際には集まるらしい。

 あの装備店の店主も自警団員だとか。


「つーわけだ、今日は飲むぜえ!」

「いよっしゃあー!」

「明日も仕事があるので、程々に頼みますよ」

「はは、今夜は賑やかになりそうだ」


 クラッシュの一言で突発的に始まった飲み会は、ロンリーの忠告虚しく明け方まで続いた。

 もう二度と酒は飲みたくない……




 ◆




「リヒト! 一匹そっちいったぞ!」

「任せろ!」


 二日酔いが直って数日後。

 俺は自警団に頼まれて、モンスターの間引き作業を手伝っていた。


 レッドデイに関係無く、モンスターは現れる。

 どれだけ討伐しても自然発生するようで、放置しているとあっという間に手が付けられなくなる。


 だからそうなる前に騎士や兵士が常駐してない辺境の村や町は、自警団を使ったり冒険者を雇ったりして定期的にモンスターを間引く。


 少しでも怠れば、待っているのは全滅という悲劇。

 そしてモンスターによる被害は年々上昇傾向らしく、近年は毎年必ず村や町が壊滅している有様だった。


 レッドデイの活性化により、空から降り注ぐ赤い光が通常のモンスターにも影響を与えている……と、現状は考えられているが詳細は分からない。


「援護します」

「助かるっ」


 ロンリーの言葉を背に受けながら剣を構える。

 今の俺は骨王の鎧を纏い、左手には骨王の盾を。

 武器は装備店で買った普通のショートソード。


 剣の扱いは素人なので、まずは刃が短めの剣を選んで振り回すのに慣れようと思った。

 身に付けて始めて実感したが、武器や防具は重い。


 レベルによる恩恵があるから身軽に動けているが、それが無い昔の地球人はよく戦えたな。

 素の肉体を鍛え続ければ可能なのか?


 なんて事を考えつつ、俺はモンスターの攻撃……スラッシュベアーの爪撃を盾で受け止める。

 重い一撃だが、焦らずに押し返して弾いた。


「ブオオオオオオオッ!」


 吠えるスラッシュベアー。

 スラッシュベアーはその名の通り熊のモンスターだが、両手の爪が剣のように鋭利に尖っている。


 地球の熊の時点で十分人間じゃ太刀打ち出来ないモンスターだったが、異世界の熊はそれ以上に凶暴で強いモンスターと化していた。


「削れ、ウィンドカッター!」

「ブモオオオオオオッ……!」


 俺が盾で弾いた直後、ロンリーが唱えた風の魔法がスラッシュベアーの全身を切り刻む。

 だが致命傷には至らず、未だ堂々と立っている。


「流石スラッシュベアー、硬いですね……」

「アイツって強いのか?」


 一旦下がってロンリーに強さを聞く。

 今日間引きを担当しているのは俺、クラッシュ、スキド、ロンリーの四人だ。


 奇しくも明け方まで続いた、あの地獄の酒飲み会のメンバーである。

 クラッシュとスキドは別モンスターと戦っていた。


「単純な数字の話なら、レベル10超えが二人もいれば勝てます。しかし爪の一撃は20超えの前衛職でもまともに入れば致命傷、メイジの私が受ければひとたまりもありません」

「やっぱレベルが高けりゃ楽勝ってほど、世の中は甘く無いか」

「その通りです、リヒトさんもお気をつけて」


 再びスラッシュベアーが迫って来る。

 会話を打ち切った俺達は散開してスラッシュベアーの注意力を分散させ、隙を生み出す。


「アクアジャベリン!」


 ロンリーが唱えたのは槍の形をした水。

 真っ直ぐスラッシュベアーに飛んでいくが、奴は白刃どりのように水槍を捕らえて防いだ。


 恐るべき膂力と反射神経。

 しかしおかげで更なる隙を作り出せた。

 素早く移動し、懐に潜り込む。


「両手が塞がってちゃ、自慢の爪も意味ねえな!」

「ブモッ!」

「遅い!」


 ショートソードをスラッシュベアーの首に刺し、勢いよく斜めに斬り裂いた。

 ドパッと流れる鮮血。


「ブ、ブモ……」


 スラッシュベアーは力無く倒れ、絶命した。


「はっはあー! こっちも終わったぜ!」

「トドメは俺の一撃だからな!」


 丁度同じ時、クラッシュとスキドが大剣と斧を頭上に掲げながら勝利宣言をした。

 向こうも無事に終わったらしい。


「すみません、自警団の仕事に付き合わせてしまって。報酬は相場通りに支払いますので」

「俺もこの町に住んでるからな、気にしなくていいぞ? それにレベル上げも出来るしな」

「それは良かった。ところで……その鎧と盾はご自分の趣味ですか?」


 微妙な表情を浮かべながらロンリーが言う。

 うわ、やっぱこれ変だよな。

 でも性能は良いんだよな、着心地も良いし。


「いや、装備屋に頼んだらこうなった」

「ああやっぱり、そうだと思いました。あの人、腕は確かなんですがセンスの方は……」


 彼は苦笑いを浮かべながら言う。

 装備屋が悪趣味なのは皆知っているようだった。


「よし、ドンドン行くぞ!」


 で、この日は休憩を挟みつつ一日中間引きをした。

 終わってから確認したが、倒したモンスターは大量だったのにレベルは1だけしか上がってない。


 キメラやスケルトンキングで一気に上がってしまったから、もうこの町周辺のモンスターでは経験値効率が釣り合ってないと考えた。


 現在のレベルは25、新スキルの取得は無し。

 とりあえずはレベル40を目標にしているが、そこに至る方法も考える必要がありそうだ。

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