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17話・骨王の鎧/盾

 

 ––––数日後。


 ゼルンの町には緩やかな空気が流れていた。

 突然のモンスター強襲事件も、自警団と冒険者、そして通りすがりの旅人によって解決されている。


 心配されていた町の防衛だが、大量に手に入ったスケルトンソルジャーから鎧や盾の防具を生産、自警団に支給する事で何とか持ち堪えていた。


 俺とランドさんが町に滞在している間は自主的に町周辺をパトロールしているので、キメラや喋るスケルトンキングが群れで現れない限り平和は守られる。


 そうそう……スケルトンキングが喋った事実をランドさんに話したところ、彼もそんな事例は聞いた事が無いと驚いていたっけ。


 対峙した俺だから分かるけど、明らかに魔獣の渓谷で遭遇したキメラより強かった。

 あんな個体が他にも居たらいよいよ世界は終わる。


 異世界に来てまだ一週間と少し……世界そのものに愛着は無いが、個人規模なら仲良くなった知り合いも居るので終わってほしくは無い。


 帰還方法を調べると共に、レッドデイを完全に終わらせる方法も探さなくてはいけないな。

 簡単に見つかるとは思えないけど。


 ……つまり、今の俺には三つの目的がある。

 一つ目はマーリスの企みを阻止すること。

 これは最優先事項だ。


 二つ目が元の世界へ帰ること。

 家族や友人、各々の大切な人を残して異世界に永住だなんて、とてもじゃないが考えられない。


 そして三つ目がレッドデイの鎮静化。

 出来る事なら二度と起きないようにしたい。

 ただコレは最悪、叶えたい目的から排する。


 全ての人を救えるほど、俺の手は広くない。

 この世界とクラスメイト達だったら、俺は迷わず後者の手を取る覚悟は出来ている。


 例えその行いが、罪になるとしても。

 とは言え今から考える事でもない。

 今やれる事をやる、それだけで何かが変わる筈だ。


「……それにしても、今日は良い天気だなあ」


 町中を歩きながら思う。

 単なる青空では無く、良い具合に雲が浮いている。

 青と白のコントラストが絵画のように整っていた。


 心地良い風を浴びながら、俺は目的地へ辿り着く。


「へいらっしゃい! って、リヒトの兄ちゃんか」

「そろそろ防具が完成する頃かと思って」

「おうよ、今持ってくるから待ってな!」


 筋骨隆々の店主は笑いながら店の奥へ引っ込む。

 今日訪れたのは武器や防具を売っている装備店だ。

 店内には所狭しと剣や槍、盾が置かれている。


 実はこの店主にオーダーメイドである物を注文していた……と言うより、町を救ってくれたお礼に何か作らせろと彼の方から言ってきた。


 素材はあのスケルトンキングの骨。


 通常のスケルトンソルジャーは全て譲ったが、キングの方は俺も装備が欲しかったので使う部分だけ頂き、残りは売却して金に変えた。


 因みに店主も自警団の一員で、俺がフォトンに変身してスケルトンソルジャーを一掃した瞬間をバッチリ見ていたので俺の事を知っている。


 現在、ゼルンの町を救った謎の戦士の正体について知っているのは、現場に居た自警団員と冒険者だけ。

 町長に頼んで緘口令を出してもらった。


 正体がバレると色々と面倒だし、俺とランドさんに関わる情報の流出は出来るだけ避けたかった。

 ま、いつかはバレるだろうけど。


 何もしないよりかは幾分マシだ。


「おらよ、コイツが俺の自信作『骨王の鎧』と『骨王の盾』だ!」


 店主が運んできたのは鎧一式と盾。

 鎧の方は骨を一旦砕いてから再構成したのか、見た目はただの白い鎧だ。


 しかし独特の模様……髑髏を連想させるマークと、恐らくそのまま結合させたであろうスケルトンキングの骨格によってかなり尖ったフォルムになっている。


 盾の方は装飾の少ない、至ってシンプルな物だから余計に悪目立ちしていた。

 ……え? 俺これからコレ着て戦うの?


 どうしよう、普通に嫌だ。


 頼んだ側の俺が予めビジュアルを指示してなかったのが悪いけど、流石にこれは……店主のセンスが前衛的すぎて転んでしまいそうになる。


「はは、カッコいいだろ? 装備は突き詰めれば性能優先になっちまうが、良い素材があれば装飾も立派なパーツの一部になるんだぜ?」

「へ、へえ、そうですか」


 嬉しそうに語る店主。

 カッコいいか、これ?

 あとでランドさんに聞いてみよう。


「スケルトンキングの骨は若い頃に一度だけ触れた事があったけどよ、その時に比べて遥かに良い素材だったな。その分加工の難易度も上がってたが」


 やはり俺が戦った人語を解するあのスケルトンキングは、通常とは違うらしい。

 その違いが素材にも現れていた、と。


「この鎧と盾、性能としてどんな感じです?」

「自分の目で視た方が早いぞ? 貸してやる」


 手渡されたのは虫眼鏡によく似た道具。

 コレで防具を見ろって事だよな?

 多分、なにかの魔法道具だと思うけど。


 早速レンズ越しに鎧と盾を観察した。



 ・骨王の鎧

 ☆☆☆ランク

 付与技能 魔法耐性アップ 物理耐性アップ オートヒーリング(体力) オートヒーリング(魔力) 骨王領域(弱)


 ・骨王の盾

 ☆☆☆ランク

 付与技能 魔法耐性アップ 物理耐性アップ 闇属性攻撃反射(低確率) 呪術系反射(低確率)



「なんか凄そうですね」

「実際凄え防具だぜ? 中の上くらいだが、あの姿になって戦う前の兄ちゃんには丁度良い」


 デザインは明後日の方向に飛んでしまっていたが、一番の要望にはしっかり応えてくれた店主だった。

 俺の弱点は言うまでもなく、変身前の状態。


 戦う時、いつもフォトンの姿に変身出来るのが理想だが、不測の事態で変身不能に陥る可能性がある。

 そんな時に少しも戦えないのはダメだ。


 フォトンの秘めたる力が凄いのは、先日のスケルトンキング戦で十分に分かっている。

 次に目指すべきは変身前の俺を磨くこと。


 変身スキル無しでも普通に戦えるようになりたい。

 しかし俺の所持スキルは殆どが変身後ありきのものばかりな上、武器生成すら素の状態で使えなかった。


 これから先に通常時でも使えるスキルを覚えるかもしれないが、何だか嫌な予感がする。

 俺は恐らく変身後に使えるスキルしか覚えない。


 それが【ヒーロー】クラスの特性だと思われる。


 そうなると残された強化方法は二つ。

 一つは単純にレベル上げ。

 そしてもう一つが装備の充実だ。


 骨王の鎧や盾のように、モンスター由来の素材を使った装備には『付与技能』と呼ばれる、スキルに似た効果を与えるモノがある。


 それらで全身を覆えば、多少はマシになる筈。


「ありがとうございます、店主さん」

「いいってことよ! あー、それとだな……」

「……どうかしましたか?」

「一つ、扱いに困ってるもんがあってよ」


 浮かない顔をする店主が取り出したのは黒い布。

 どこかで見た事あるような……


「スケルトンキングが羽織っていたボロ布なんだろ? その布を切り出して旅用のマントにした」

「ああ、そんなのもありましたね」

「最初はただの布かと思ったんだがよ、これまたヤバイ代物でな……正直俺には扱えねえ」


 一体どんな物だと言うのか。

 俺はレンズ越しに黒マントを見て……思わず仰向けに倒れそうになったが、何とか堪えた。


「何だ、コレ……」



 ・魔王に祝福された黒衣

 ?ランク

 付与技能 鑑定不可



 ランクは不明、付与技能も不明。

 しかも名称が『魔王に祝福された』黒衣。

 その祝福、呪いの間違えでは?


「奇妙な布ですね……」

「全くだ。悪いが布は返却させてもらうぜ、魔王なんぞに関わりたくねえからな。一応マントは二人分作っといたから、気でも向いたら着てくれ」

「はい、ありがとうございます」


 どうやら魔王は実在するようだ。

 この布は勿体無いけど黒マントを除いて捨てよう。

 厄介そうなネタに巻き込まれそうだ。


「おう。それからお前さんはもう町の一員だ! 困った事があったら遠慮なく言えよ?」

「その時はお互い様で、助け合いましょう」

「はは、やっぱ良い奴だな兄ちゃんは!」


 最後は店主と笑い合いながら退店する。

 後日回収した黒衣はランドさんの魔法で、スケルトンキングが居た遺跡の地中深くに埋めておいた。


 念の為聖職者系クラスの人に呪いの有無を確認したけど、何も無いらしいから大丈夫……だと思いたい。

 余談だが、黒マントの着心地は案外良かった。

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