16話・骨王領域
するとクラッシュが数人の自警団員を連れながら俺とランドさんの元にやって来る。
聞けば自警団の主要メンバーだとか。
彼らは戸惑いながらもクラッシュに従っている。
町長が言っていた通り、クラッシュが積み重ねた信頼
はちょっとやそっとじゃ崩れないようだ。
しかし元々余所者が自警団の代表にまで上り詰めるって凄いことだな。
小さい町に加え武力がモノを言う世界にしてもだ。
まあ流石に町長達も最初から彼を信用していたワケじゃないと思うけど、色々あったんだろうなと思わず邪推してしまうくらいには興味がある。
「俺も準備万端ですよ」
「そりゃ良い、期待してるぜ? それからオレ相手にかしこまる必要ねーぞ? これから互いに命賭けて戦うかもしれねーんだ、気軽にいこうぜ!」
「はは……そういう事なら、今日はよろしくクラッシュ。俺もこっちの方がやりやすい」
「私はこのままでいいかな? つまらない大人の悪い癖だと思ってくれ」
クラッシュの提案は素直に受け取る。
元々十七歳の高校生がずっと敬語を使うのは色々と疲れるから、正直助かった。
ランドさんは今のままの方が楽らしい。
この辺は年齢の差だろうか?
見た目クラッシュとランドさんは同年代っぽいが。
「ま、オレ相手には好きにしてくれって意味だ……んで悪いが、自警団としてはそろそろ始めたい。昨日は夜中まで馬鹿騒ぎしてた連中が多いから、まだ目覚める奴は少ねえと思うけどよ」
今回の作戦は秘密裏に行われる。
住民達に無用な心配をさせない為だ。
作戦とは言っても、やる事はシンプルだが。
まず、俺が変身してスケルトンキングに挑む。
その間スケルトンソルジャーが町を襲わない確証も無い為、自警団と少数の冒険者が森の近辺……つまり今俺達が陣取っている場所で待機。
「……作戦って呼べる代物じゃねえなこれ」
「言うなリヒト、オレは馬鹿だから簡単な方が寧ろ好都合ってもんだ。まあ全部オマエに任せるのは情けねえが、流石に上位種モンスター相手となるとな」
言い淀むクラッシュ。
通常種と上位種の強さは別格のようで、昨日のスケルトンソルジャー軍団よりもスケルトンキング一匹の方が遥かに強いらしい。
だから自警団員や冒険者も、俺が単騎で突撃するバカみたいな作戦に納得している。
誰もそんなバケモノと戦いたくないからだ。
「リヒト君、スケルトンキングに動きは無い。ただソルジャーの方が少しずつ集まって来ている……やはりまた町を狙うつもりのようだ」
「チッ、亡霊モンスターが……さっさとくたばりやがれってんだ全く」
ランドさんの一報を聞いた者達全員が気を引き締めるかのように自らの武器を握る。
昨日からの戦いは、まだ続いていた。
「そろそろ行きます、道中遭遇したスケルトンソルジャーもなるべく倒しておきます」
「おうよリヒト! けどオマエの相手はあくまで雑兵じゃなくて王の首だ! こっちの事は気にしないで遠慮なく暴れて来い!」
「リヒト君、私も出来る限り皆のサポートをするから安心してくれ」
頼もしい言葉を浴びながら、俺は森へと進む。
「じゃあ、行って来ます……変身!」
仮面戦士へと変身した俺は、文字通り光と化して森の最奥を目指して駆ける。
ここから先は、時間との勝負でもあった。
「……多いな」
森に入って数分後。
枝や葉を無視して突っ切っているが、視界に映るスケルトンソルジャーの数が多いこと。
出会い頭に光の斬撃を飛ばして倒してはいるが、奴らに集中していたらいつまでもキングに辿り着けない……少し心配だけど、クラッシュ達に任せよう。
思考を切り替え、スケルトンキングを探す。
すると案外早く標的を見つけた。
正確には、見つけさせられた、だけど。
ソイツはスケルトンソルジャーを巧みに配置し、自らの領域へ俺を誘き出すようにしていた。
企みは分かっていたが時短の為あえて誘いに乗る。
「……キサマカ、我ガ配下ヲ一掃シタノワ」
「おいおい、喋るのかよ」
誘い込まれたのはとある遺跡の前。
遺跡が建つ周辺だけは一切草木が生えてない。
真上から森を見たら、この部分だけぽっかり穴が空いているように見えるだろう。
その遺跡の前に君臨しているのは、巨大な骸骨。
体長は目視でおよそ五、六メートル。
頭部には二本のツノが生え、ボロボロだが妙な威圧感を放つ漆黒色のマントを羽織っている。
間違いない、奴がスケルトンキングだ。
しかも人語を話すとは恐れ入る。
話すというより、骨を媒介に音波を発して……それを俺の耳が受信している感じ。
どちらかと言えばテレパシーに近い。
脳内で受け取るか耳で受け取るかの違いだろう。
まあ不気味なのは変わらないけど。
スケルトンキングは悠々と話し続ける。
「ワレハ灼熱ノ魔王サマヨリ、叡智ヲ授カッタモンスターデアル。タダノホネクズ達ト一緒ニスルナ」
「灼熱の魔王……」
まさかこんなところでその名前を聞くとは。
確かレッドデイが長時間続くと降臨する、世界を赤色に染めて滅ぼす者だっけ?
「アノ町ハワガ軍ノ根城二スル予定ダッタ……シカシキサマガ邪魔ヲシタ。ソノ罪、死ヲモッテ償ッテモラウゾ、人間」
スケルトンキングが魔力を発する。
どうやらこの場で俺と戦うようだ。
キメラより格下と聞いていたが……このプレッシャーから考えるに、間違いなくキメラより強い。
「クク……! 『骨王領域』……!」
俺が身構えていると、スケルトンキングは何らかのスキルを発動したようだ。
瞬間、周辺の地形が一変する。
剥き出しの地面は黒い大地に変化し、謎の遺跡は消え去り代わりに何匹ものスケルトンソルジャーが俺の周りを囲むように現れた。
これは一体……
「クク、死ネエ!」
「断る! シャイニングバースト!」
超光を発し、有象無象のソルジャー達を殲滅する。
だがソルジャー達の砕け散った骨が繋ぎ合わさり、再びスケルトンソルジャーと化して復活した。
成る程、何度倒しても蘇る能力か。
「フハハハ! コレゾ我ノ力! 思イ知ッタカ!」
「楽しそうにしているところ悪いが––––」
ピカピカリバーを握り直し、剣に光を注ぐ。
今まで、俺は意図的に力をセーブしていた。
周りには常に守るべき人がいて、その人達を巻き込んで怪我でもさせたら本末転倒だったから。
けど、今は違う。
本気を出しても被害を受けるのはモンスターだけ。
遠慮する必要は、無い。
「今のはただの準備運動だぞ?」
「何ダト?」
「時間はかけられない、さっさと終わらせる……シャイニング・バーストブレイド!」
ピカピカリバーを全方位に向けて振り抜く。
刃に乗った光は斬撃を超えて熱線と化し、スケルトンソルジャー達を一匹残らず蒸発させた。
文字通り、塵も残さず。
「これでもう、再生は出来ない」
「バ、バカナ……! アリエナイ!」
「じゃあ、次はお前だ」
「ッ!」
剣の切っ先をスケルトンキングに向けながら言う。
「マ、マテ! ワカッタ! アノ町ニハ金輪際手ヲ出サナイ、ダカラ……!」
「脳味噌詰まってねえからアホなのか? 好き勝手に暴れ回ったお前の言葉なんて、誰も信じねーよ。悪党の役割は派手に死んで視聴者をスッキリさせるまでがワンセットだ」
「イ、イミノ分カラヌ事ヲ……!」
「分からなくていい、消えろ」
「ヌ、ヌオオオオオオッ!」
捨て身とばかりに突進してくるスケルトンキング。
その攻撃をジャンプして避け、奴の頭上から必殺キックを叩き込んだ。
「超光蹴撃!」
「グアアアアアアアアアアッ!?」
頭蓋骨が割れると同時に、スケルトンキングを構成する全ての骨格がバラバラに崩れ落ちた。
妙な地形変化も無くなり、遺跡も元に戻る。
「ま、こんなもんか」
依頼を達成した俺は、足早に町へ戻って行った。