12話・逆襲への布石
「終わりましたよ、ランドさん」
「あ、ああ……強かったんだね、君……」
「少し事情がありまして。それより早くこの谷底から脱出しましょう」
キメラは難無く倒せたが、疲労感は覚えている。
常にエネルギーを消耗している感覚があるので、変身状態にも時間制限があるようだ。
もし強制的に変身解除された場合、次にいつフォトンへ変身出来るか分からないのは危険すぎる。
自由に動ける今の内に退散するべきだ。
「勿論だ、でもどうやって……」
「俺の背中に掴まってください」
「わ、分かった……こうでいいかい?」
ランドさんは拒む事なく俺の背中に捕まる。
「しっかり掴んでてくださいよ」
「一体何をするつ––––!?」
俺はランドさん背負ったまま思い切り跳躍した。
目前の景色がぐんぐん塗り替わる。
とは言え似たような岩壁ばかりだけど。
すると背中から焦る声が聞こえてきた。
「ま、マサヨシ君!? これは大丈夫なのか!?」
「ええ。万が一落ちても無事なのは分かってますし、何とかなると思いますよ」
「落ちる前提!? うわあああああああっ!」
絶叫するランドさん。
うーむ、落下してる時は気絶してたのに。
俺が背負っているから、どこか安心しているのか?
流石に気絶しろとは言えないが、騒がれると壁を駆け上がるのに支障が出るかもしれない。
それに口を開けていると彼自身も危ないだろう。
「ランドさん、口を開けていると舌を噛むかもしれません。暫く閉じていてくれませんか?」
「––––ああああああああ! あ、ああ…………」
少しは落ち着いたのか、口を閉じるランドさん。
変身状態を維持している間に壁を登る。
彼には悪いが、これが最善の方法だ。
「さあて、登りますか……!」
限界地点まで跳躍する。
直ぐに片足を壁に張り付け、落ちる前にもう片方の足を壁へ……この動作を高速で繰り返す。
誰もが一度は考えた事があるだろう。
超高速で移動すれば、水面の上を走ったり壁を駆け上がる事が出来るのでは? と。
しかし当然ながら、特殊な道具でも使わない限り人間の身体能力では不可能だ。
だけど、今の俺ならそれが可能かもしれない。
人を超越している、仮面戦士フォトンなら。
「うおおおおおおおおおっ!」
全速力で岩壁を駆け上がる。
凹凸がある自然由来の壁で助かった。
もし平面だったらこんな事は出来ないだろう。
……そして、気を抜かずに登り続ける事数分後。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
俺達は見事魔獣の渓谷から脱出していた。
登り切った直後、変身が解ける。
途端に疲労感が押し寄せ、その場で倒れた。
変身解除までギリギリだったようで安心する。
「あんな方法で生還出来るとは……マサヨシ君、君は本当にイレギュラーの塊だよ」
「俺も結構ギリギリだったんで、次同じ事をやれって言われても難しいですよ?」
「こんな奇跡を何度も起こせるなら、それこそ英雄だよ……とにかくありがとうマサヨシ君」
お礼を言うランド。
そして緩んだ表情を引き締めてから続きを言った。
「それで、一体どんな方法で私の家族を助け出すと言うんだい?」
「簡単ですよ、マーリスをたお––––いや、もう取り繕う必要なんて無いか。これ借りますね?」
言いかけた言葉を一旦飲み込む。
俺はランドさんの腰の鞘に収まっている、自らを殺しかけたナイフを手に取りながら再び言った。
「マーリスを殺します。俺達の手で、奴の心臓にこのナイフを突き立てましょう」
確かに俺はただの迷い人だ。
この世界の人達に、迷い人を保護する義務は無い。
放逐されても文句を言う資格は誰にも無い……だが殺される理由までは一つも無い筈だ。
しかも関係無いランドさんまで巻き込んで。
これがもし本当のヒーローなら、マーリスさえ許して罪を償わせるのかもしれない。
だがそれを許容出来る程、俺は大人じゃなかった。
この世には息を吸うように悪意をばら撒き、他人に害を与える者もいる。
俺はそんな奴らにまで与える慈悲は持ってない。
マーリスは死ぬべき人間だ。
何があろうと、必ず殺す。
一秒でも早くクラスメイト達を助ける為にも。
「……君の言う通り、それが可能なら手っ取り早い。だけどマーリスは強い。最低でもレベル40は超えてクラスチェンジも済ましているだろう」
「クラスチェンジ?」
「レベルが40に到達すると、より強いクラスへ進化するんだ。私達はその現象をクラスチェンジと呼んでいる」
「そんな事が……」
ますますゲームのような世界だなと思う。
ステータスがある時点で今更か。
兎にも角にも、やはりマーリスは手強いようだ。
「だけど……マサヨシ君なら、もっとレベルを上げて強くなれば、マーリスを倒せるかもしれない。さっきから君の凄さを見せつけられているからね」
ハッキリ言って俺のこの力は異常だ。
スキルが隠されていた理由も分からない。
だけど、そのおかげで誰かを助ける事が出来る。
「私も覚悟を決めよう、マサヨシ君。私の家族に手を出したマーリスに、相応の報いを受けさせると」
「ランドさん……ありがとうございます」
俺と彼は握手を交わす。
マーリスによって脅かされたこの命。
奴への報復心は互いに十分抱いていた。
◆
「まずは拠点を探そう。少し歩くが、この辺りに人口千人前後の小さな町がある筈だ」
ランドさんの一言で、俺達はその町を探す事に。
やるべきは山積みだが、当面の目標はレベル上げ。
だからと言って連日野宿するのは無謀だ。
体を休められる場所を探すのは急務と言える。
「この辺りって、王都からどの程度離れているんですか?」
「かなり離れているよ。馬車を使っても二、三日はかかるだろうね」
「なら、マーリスやその配下がこちらにやって来る可能性は低いですね」
俺達唯一のアドバンテージ。
それはマーリスが俺とランドさんを死んだと思い込んでいること。
「恐らくは。情報漏洩を避ける為、部下にも来させないと思う……でも警戒はしておくべきだ」
最悪、俺の生存がバレてもどうにかなる。
問題なのは家族を人質に取られているランドさん。
生存が発覚すれば、何をされるか分からない。
「そういえば……家族は具体的にはどんな風に人質に? 監でもされているんですか?」
「監禁はされてないが、遠隔操作の魔法を施されている。奴が指を鳴らすだけで妻と娘に仕掛けれた魔法が起動してしまう、その結果は言うまでもない」
事態は思った以上に深刻だった。
監禁されているだけなら秘密裏に救い出せばいいが、魔法を仕掛けられているとなると……
「仕掛けられた魔法を解除する方法は?」
「あるにはある、しかし上位クラス……ウィザードかマスターメイジ、セイクリッドプリースト、あとはパラディンのスキルが必要になる」
難しい顔をしながら彼は言う。
上位クラス……さっき少し話した、クラスチェンジで進化するクラスの事か。
「ランドさんのレベルを上げて、メイジを上位クラスにチェンジさせるというのは?」
「出来なくは無いが、時間がかかりすぎる。それにそろそろ私のレベルは成長限界点に達するから、現実的じゃ無いかな」
「成長限界点?」
クラスチェンジに続き、また知らない概念だ。
「簡単に言うと、才能の壁かな? レベル30が成長限界点の人間はどれだけ努力しても30を超える事は出来ない。一応壁を壊す方法はあるけど、どれも普通じゃないやり方だから説明は省かせてもらうよ」
要するに人それぞれに設定されているカンストか。
どんなに水を注いでもコップ一杯に入る量には限界があるように、どれだけモンスターを倒してもレベルが上がらない可能性があるって事だろう。
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