(自称)美少女がおならを我慢するだけの話
高校の全校集会。
周りの同級生たちが寝たり手遊びしたりと思い思いに校長の話を乗り切ろうとする中、五億年に一人の美少女である私はとある衝動と戦っていた。
ーーヤバい、おならでそう。
「まずいわね......」
私のシミひとつない白い肌の上を、アルプスの天然水より高純度な汗が流れ落ちる。
やばい、割とマジでやばい。
こんな静かで密集している中でおならをすれば、まず間違いなくバレる。一年の時に頑張って運動も勉強もできる完璧美少女っていうイメージを作り上げてきたのに、2年の一発目でそんなことをすれば、これから一年間クラスで「屁こき女」とか呼ばれかねない。そんなの絶対イヤ! 完璧美少女で学年のアイドルたるこの私のプライドが許さない。何のために去年の一年間学校でトイレに行かないようにしたと思ってるのよ! 全てはアイドルはトイレになんて行かないっていうイメージを守るためでしょ!
もし今ここでおならしてバレたら、
「私、トイレなんて行かないの」
なんて言っても、
「へー、でも......おならはしてたよね」
ってなるじゃない! そうなったらもう終わりよ!
「えー! 美少女はおならなんてしないと思ってたのに.........ショックでゲスゥ!」
ってなって、
「学校のアイドルも所詮は人の子か......」
ってなって、
「これは新聞部のネタにするしかありません! スクープです、特大のスクープですぅ!」
ってなるに決まってるわ!
あぁ、最悪だわ。完璧美少女で学年のアイドルたるこの私がおならなんてしたら、学校新聞の一面は必然。至る所で噂は広まって、学校中に「似非アイドルの屁こき女」として白い目で見られるんだわ。ううん、学校中だけじゃないわ。生徒が親に話して、その話はママ友ネットワークで広まって、地域中に噂されることになる。
私は残り2年間、皆に嘲笑われながら学校に通うんだわ。
「ーー認めない」
「え? なんか言った?」
「認めないって言ったのよ」
そんな未来、私は絶対に認めない! こうなったらもう、集会が終わるまで意地でも我慢してやるわ!
「ーーで、あるからして」
「ーーで、あるからして」
「ーーで、あるからして」
話長いんだよこのクソボケじじいがああぁぁぁぁあああ!
あ、やばい。今怒ったせいでさらに尻圧が上がった気がする。もう絶望がそこまで来てるわ。具体的には、お尻の穴の3センチ手前位にまで!エマージェンシーエマージェンシー! 頑張れ私のお尻の細胞! なんとか押しとどめるのよ!
ーーてゆーか、尻圧ってなに!?
「以上で、校長先生の話を終わります」
来たあ!
ああ、やったわこれで解放される。あとは教室に戻る途中でなんとか列から離れて、一人になったところでおならをすれば......誰にもバレない! 私はこれからも完璧美少女として生きていける!
「起立!」
うっ、今立つのはちょっとやばいかも。
「礼!」
あ、意外と大丈夫だった。
「着席」
ーーえっ?
「次に、理事長先生からのお話です」
えっ? えっ?
「私からは3点、皆さんにお話ししたいことがあります」
ーーは?
「で、あるからしてーー」
「で、あるからしてーー」
あ、少し意識飛んでた。
でもこれはもう無理ね。我慢できないわ。もうお尻の穴の1センチ手前切ってるもの。私にはわかるの。
「ーーでは、次に2点目」
こ れ が 絶 望 か。
でも、だからといって、諦めるわけには行かない。こうなったら作戦変更だ。
みんなに気づかれないようにおならをする!
結構な博打だけど、もうこの際仕方ないわ。大体、我慢なんて体に悪いし、私の柄じゃないしね。私は完璧美少女! おならだってコントロールしてみせるわ!
私の出すおならは普段2種類。
「音もにおいも出ない」のと「音はするけどにおいは出ない」やつが大体確率半々くらいだ。臭いやつは出ない。なんてったって美少女だもの。フレグランスな匂いがしたっておかしくないわ。
私が狙うのはもちろん、「音もにおいも出ない」方! 普段は五割の確率でランダムなおならを、お尻に入れる力をコントロールして十割で当たりを引きに行く作戦だ。
体育座りのまま、体勢を調整する。
少し前のめりになって、お尻の穴が地面につかないよう、右尻だけ少し浮かせた。左右に揺れたりして、あくまでも自然な感じに。ちょっと肩凝ったわーみたいな感じで。
よし、準備は整った。作戦開始だ。ここから少しずつ、少しずつ空気を抜いていくのだ!
ーーてゆーか、右尻ってなに!?
「え、今度はなに?」
「あ、いや、もしかして口に出てた?」
「うん、みぎしり? がどうのって。さっきもしりあつ? がなにとか呟いてたよね?」
「...............まじ?」
「マジ」
しまったあぁぁああ! 思わず口に出してたあぁぁああ!
あ、やばい。今ので周りからの注目を無駄に集めた。ただでさえ、私は普段から美少女が故に見られているっていうのに。
今失敗したら、間違いなくバレる。むしろこのタイミングでおならの音がして、その犯人は私以外に誰がいると言うのか。いくら美少女補正があったとしても、流石に「右尻」まで言ってて「私じゃないですよ?」とは言えない。現行犯で学校新聞だ。
「ーーで、あるからして」
長い! 殺すぞ、ハゲ!
であるからして何回言うんだよクソボケが! てめーが屁ぇこいて恥かけや!
「ひっ、ひっ、ふーっ、ひっ、ひっ、ふーっ」
「えっと...その、大丈夫?」
ふふふ、ふはは、はははははっ!
「大丈夫よ、佐藤さん」
「鈴木だけど」
「私、決めたわ」
いいだろう、私だって女だ。
そっちがその気なら、私だってやってやる。耐えてみせるわ! この時間をね!
「ひっ、ひっ、ふーっ、ひっ、ひっ、ふーっ」
「......えっと、月城さん? 具合悪いなら、保健室行く?」
「ほ、けん......しつ............ですって?」
え、待って。保健室? 今はみんな体育館にいて、廊下には誰もいなくて、それなら保健室に向かう途中で誰にもみられずにおならできる? それは、だって、そんなの、え......?
ーーそれで全部解決じゃない!?
「......佐藤さん、あなた私の女神だわ」
「鈴木だけどね。じゃあ行こっか」
あ、あなたついてくるのね。
正直邪魔だけど......まぁいいわ。適当なところで「ここからなら一人でも大丈夫」とか言って別れれば。なんならこの女だけ闇に葬り去ればいいし。
ああ、良かった! これで私は明日からも学年のアイドルとして生きていける!
「月城さん、立てる?」
「うん! よいしょっーーあ゛」
あ゛。
評価、感想くださった方には漏れ無く「美少女の右尻」をプレゼント!
追記:ご好評につきこのサービスは終了いたしました。




