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悔いなき日々を  作者: 今野小次郎
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~出会いは唐突に~

 玄関を出ると青空が広がっていた。今日は良い洗濯日和だなと思いつつ、今日の洗濯はセシルに任せていることを思い出す。


 セシルは「本来私の役目ですから何も気にしないでください」と、笑って言っていたが、後でお詫びにケーキでも焼こうと心に決めつつ庭の方向へと向かう。


 8年前のあの日、このままではダメだと考えた私は、セシルに家事を教えてほしいと頼みこんだ。始めは「家事はわたしやダースの仕事ですのでユーナ様はやらなくても良いのですよ?」と、難色を示していたセシルだったが、私の鬼気迫る様子に何かを感じたのか、私の両親、セシルにとっては雇い主への確認後、教えて貰えることになった。


 教えるからには、全力でとのことで、炊事、掃除、洗濯、買い物、メイドとしての何たるかを叩き込まれた。前世では一人暮らしであった為、一通りの家事は経験してはいるのだが、男の一人暮らしであったので察してほしい。料理だけは多少自信があったが、普段作るセシルの料理と比べるとお粗末なものである。最後のメイドの心得は不要な知識であったが、いつもより真剣な表情で語るセシルの言葉を止めることは、私にはできなかった。


 何故家事なんて覚えるのかだって? そんなのは決まっている。モテる為だ。


 『家事ができる男がいいなぁ』


 『見た目は華奢で女の子みたいな男(所謂細マッチョ)でしょやっぱり』


 『教養は必須。丁寧な言葉使いがモテる秘訣だ』


 『下心は隠しておけ、気持ち悪いぞ』


 全て確かな情報筋からの情報だ。前世の記憶は最大限に生かしていく。


 教養に関しては、本を読み漁ればどうにかなるが家事に関しては、それが難しい。そこで、メイドであるセシルに頼んだわけだ。ダースでもよかったのだが、文字を教えて貰った時のことを思うと自然に候補から外れていた。ダースが悪いわけではないのだが、こちらを細めた目で見ながらハァハァ言うのはやめてほしい。


 基本的には順調に、モテ道を歩んでいたのだが、家事を覚える際に障害がいくつかあった。魔法である。魔法の習得よりもモテることを優先した私であったが、家事をするにしても基本的な初級魔法は、扱えたほうが良いとのことだ。


 料理をするにしても火の魔法。掃除、洗濯するにしても水の魔法や風の魔法を使うらしい。


 魔法を使う場合、魔方陣を通さず属性そのまま発動する方法と、魔力を魔方陣に流すことで起動する方法がある。魔方陣には、あらかじめ魔力が流れる箇所を掘っておく魔方陣と、魔力で直接魔方陣を描く方法があり、生活で使う魔法は基本的に前者である。生活魔方陣は魔力を流すだけで自動で火を起こしてくれたり、服を洗ってくれたりする。なんとも便利なものだ。


 しかし人の魔力には種類があるそうで、魔力の種類によっては、満足いく反応が帰ってこないことがある。これは、魔力を注ぎ込んだ人の魔力が魔方陣の効果と相性が悪い時に起こるらしく、火を起こすための魔方陣であるならば、火力が低い、調節がうまくいかない、そもそも点かないこともあるそうだ。


 私はこれに該当するみたいで、水属性の魔法以外がほとんど使えないことが判明した。つまり、備え付けの魔方陣はほとんど使えないことになる。このようなことは珍しいそうで、ほとんどの人は生活魔法程度であれば全属性使えるのが普通だそうだ。


 仕方がないので、私は水属性魔法を工夫して家事を行っている。一番苦手な火をつけるときは、一定の空間の水分量を減らし、火が点きやすい状態にしてから、火花を散らすオリジナル魔方陣を起動させて点ける。家の掃除をするときは、手の表面に魔力を纏わせて水道の蛇口の代わりにし、手をホースのように丸め汚れを落とす。風魔法は再現できなかったので素直に箒もどきを作った。

 生活魔方陣を使って行うよりも魔力、体力消費は激しいが、不便はしていない。


 そんなこんなで、自分を磨くことに全力を注いでいた私は、これまで戦闘訓練は一切していない。しかし、私も13歳になった。13歳といえば、スライン王国にあるスライン魔法学校への試験資格が得られる歳であり、私は今か今かと、この機会を待ちわびていた。学校、それは恋をするのに最も適した場所だ。ありとあらゆるムフフイベントが目白押しのはずだ。


 前世の私は、ひたすら勉強に打ち込んでいたが、今回は……違う!


 そんなことを考えながら、庭へとやってきた私は、周りを見渡すが誰もいない。「ちょっと早すぎたかな。」と、つぶやくと白い息が出る。この付近は、まだまだ気温が低く、特に朝は冷える。「”身体でも動かして待っていようか……”」と、考えていた矢先、森のほうから何やら物音が聞こえてくる。ガサッガサッと、木や草を掻き分けて何かがこちらへ向かってくるようだ。


「足音は2つ……片方は小柄な人間、もう片方は、クマ? このままだと追いつかれそう……」


 前世で鍛えた音を聞き分ける力は、まだ衰えていないらしい。


 色々と思うことはあるが、人助けのほうが先だろうと考えることを後にし、足に身体強化の魔方陣を展開、魔力を流し込むと森の中へと足を踏み込み、銀色の残像が残るほど素早く森の中を駆ける。


「会敵まであと5秒……4秒……3秒……」



 カウントダウンが0になる直前、追いかけられている女の子がユーナの視界に入ってくる。


 金色の髪、赤い目、陶器のように白い肌、驚いた表情……が、視界の後ろに流れて行くのを見送り。


 女の子の背後へと迫っていたクマ型の生物にそのままの勢いで蹴りを入れた。




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