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剣の王  作者: 今井 蒼月
転入編
6/21

今と昔

今回は世界の設定のようなものになります


 王立魔導学園。ヴェロニカが学園長を務める学園の名前だ。

 その日、学園中では、ある話題で持ちきりだった。

  『転入生が来るかもしれない』

 進級したての彼らにとって、浮いた気持ちをさらに盛り上がらせる内容だった。

 どんな人なのか?性別は?クラスは?イケメンか?美女か?etc

 まだ成長段階の彼らは転入生がやってくるまでの間、様々な議論を繰り広げた。

 また、しばらくたって、その転入生が男であることが分かった。

 女子はさらに歓喜した。男子は興味が多少失せたが、それでも、誰なのかその人物像に注目が集まる。

 しかし、彼らは途端に興味を失うことになる。

 それは彼の入るクラスが第五クラスだからだ。

 この学園では、当然のように序列が存在する。

 それは入学時の最初の検査で、学力、魔力の検査を行い、それに合わせてクラス分けを行う。

 当然学力も魔力も高ければ、最も優秀な第一クラスに入ることができる。

 第五クラスはその逆、いわば落ちこぼれのクラスなのだ。

 ここで、ある一つの疑問が浮かぶ。

 戦闘能力はそれだけでは決まらないのでは?ということだ。

 その理由は追って説明するとしよう。

 つまりは、落ちこぼれクラスに行き奴は当然落ちこぼれなのだから、気にする必要は無い。

 それが第四クラス以上の生徒が思ったことだ。

 だが、その裏には学園長の考えがあった。

 アランが第五クラスに入れられたのにはそれなりの理由があった。

 一つとして、そこの担任がコーネルアだったから。

 二つ目に、彼は現代の知識が著しくないから。

 そして三つ目。これが根本的な理由である。それは...


「あいつは現代の生徒たちと体の構造主に魔力の流れといったものが違うんだ」


 あの後、アランを自分の仮眠室で寝かせると、入学の手続きと、彼についての説明のため、コーネルアは再び学園長室を訪れていた。

 公にはされないが、彼の保護者はヴェロニカである。まさか自分が学園長に保護者手続きを書いてもらう日が来ようとは夢にも思わなかった。


「魔力の流れですか?」

「そうだ。現代のおまえや生徒は、魔力は体の中を循環するがそれと同時に体外に放出もする」

「ええ、一般教養で学びますね」

「しかし、私やアランはそうじゃない」

「そういえば、学園長は魔力を測ったりしませんね」

「ああ、私が測れば、結果はアランと同じになるからな」

「え!?」


 コーネルアは驚いた。しかし無理もない。


「まてまて、決して私に魔力が無いというわけではない」

「そうですよね。っほ」

「そこで上がるのが体のつくりなんだ」

「つまりは...」

「私たちは魔力を体外に放出しない」

「・・・・・っ!?」


 衝撃の事実だった。

 これまでの学術がひっくり返ることになるだろう。


「これは大体、400年以前の人々に見られる体質でね。当時はこっちが一般的だった」

「しかしなぜ?」

「魔王の討伐によって、それほど脅威が少なくなってきたんだ。魔力は一つの防御壁の役割を持ってい

 る。脅威のない今に人々の体は必要ないと判断したのだろう」

「そんな簡単に変わるものですか」

「生物の体の中で、魔力の流れは環境の変化に非常に敏感なんだ。その代表例が、魔物の亜種がそれ

 だろう」


 近年。多くの魔物が様々な形で発見されている。それは同じ種なのに住む環境が全く違う魔物も存在する。

 その理由の一つが魔力流れが違うことだ。


「なるほど」

「人間やエルフ、獣人は奴らのように変化がすぐには出ない。そこにかかる時間がおおよそ300年くらい だ」

「・・・・・・・論文を出してみては?」

「断る。あんな虚実ばかりの集まりのなかで発表などごめん被る」


 「話がずれたな」とヴェロニカはティーカップの中の紅茶を一口飲んだ。


「とまあ、こういった理由で、アランにまるで魔力が無いような流れになったんだ」

「環境の変化となれば、彼の魔力も変化しているのでは」

「人間の魔力の流れといったものは、生まれたときに固定される。魔物のようにひょいひょい変わるもの ではないんだ」

「しかし。それなら彼が魔術を使えば証明されるのでは?」

「ここが肝でね。アランは私のように、魔力はあっても魔術を使えないんだ」

「え、そうなんですか!?」

「一般的なものはね。どうもあいつは私以上に複雑なんだ。あいつの体はホイホイと自分の意志でも簡単 には魔力を出せない構造でな。ある特定のものでしか、魔力を放出できない」

「特定のもの?」

「それはその時に話すが、それでも器用だぞあいつは、体の強化に制限時間はないからな」

「それ、すごいですね」


 魔力を用いた身体の強化は一般的に用いられている。しかしそのほとんどが、長くても数時間で終わってしまう。


「トレーニングの成果といったところだ。それがあったからこそ、魔王の討伐が成功したと言える」

「それなら、そこまですごいなら、第二、三くらいにはいきそうですが...」

「おまえ、この学園がどういう趣旨かわかっているのか?」

「どうって。・・・・・あっ」

「そうだ、身体強化なんて、評価の項目にも入らん。実技もあくまで、どの程度素の状態でこなせるかを見るおまけに過ぎない」

「そうですね。ほとんどは、学力と魔力だけで判断されていますから」

「あとは、親のコネな」

「あ~~~~。確かに」

「本当に腐っているよ。私が変えたくても、国の議会は耳を貸さんし国王もそれに便乗する始末だ」

「学園長がここにいるのって」

「厄介払いだよ。王都からこんなに離れたところに行かせるなんてね」


 現在この街は学園都市となっており、王都からかなり離れている。

 旧王都ということもあってか観光業も盛んにおこなわれている。

 アランにはこのことをまだ言っていない。いずれ知ることになるだろうから、わざと黙っている。

 

「まあ、こんなところか、家の生徒には急には伝えるなよ。ちょっとずつ教えていくんだ」

「はあ、なんでそんな」

「サプライズと言うものさ」

「・・・・・・・・・」


 たまにだが、ヴェロニカはよくわからないことをする。

 これが何を理由にするんかは全く分からないが、ほとんどが唐突な彼女の思い付きだ。


「一週間後、あいつをクラスに入れる。学年は二年でいいだろう」

「何も知らないからこそ、一年生では?」

「ちょっと経てば、大丈夫だ。それに少し困らせたほうがあいつの為にもなる」

「分かりました。では失礼します」


 資料を抱えると、コーネルアは部屋を後にした。

 一人残されたヴェロニカは、カップに残った紅茶を飲み干すと、窓の外に目を向けた。

 まだ、アランガ隠していることはたくさんある。しかし、それは後にでも、むしろ、言わなくてもいいことだ。


「楽しみだ」


 そうつぶやくヴェロニカ。

 窓の外の空には、一際美しく月が輝いていた。


ありがとうございました

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