いつものように魔石狩り
「あるじぃ。起きてよ〜」
気だるい声と共に光が射す。目を開ければ、黒い一つ目野郎のギースが俺の腹部をドスドスと一つ足で叩いていた。
「・・・もうちょっと優しい起こし方で頼む」
「それは無理な相談ですぜ。こっちとてあるじの手で握り潰されたくないんで」
ジト目で睨まれた。
ーーー
「今日も天気が良いな」
俺、市川純平は今日もユーメラから出た森で魔石集めをする。
魔石集めと言っても、ゴブリンやキラーラビットを倒すだけの作業である。
「おっ、あるじ。あっちからキラーラビットの匂いがしますぜ」
肩に乗ってるギースは森の奥を目で指してアピールしている。
「本当だろうな?」
「なーに疑ってるんすか。このギースが今まであるじに嘘をついたことがありますかい?」
「息をするように嘘を吐くからな」
「・・・どんだけ俺の信頼度低いんすか」
ギースが嘘をついたこと自体はそれほど無いのだ。ただ、伝達忘れがありすぎる。
森に仕掛けてある罠を教えてくれないのだ。
この森は比較的魔物も強くなく、あまり戦闘力の無い一般人でも狩りをしたりすることがある。そして、落とし穴や檻や木の籠など、たくさんの仕掛け罠で溢れているのだ。そこを素人の俺が通ると、見事に引っかかってしまう。
「おまえ、どうせ俺が今日は何に引っかかるのか楽しみなんだろう?」
「いえいえ、俺が楽しみなのは今日の夕飯のキラーラビットの煮付けだけですぜ?」
「どうだかな」
ギースの澄ました顔を見ているのも腹が立つので前に進むことにした。
「あるじ、女の匂いもしますぜ」
「おまえが言うと意味深だわ」
「あるじは女の子に興味は無いんですかい?」
「後ろから刺されたくないんでね」
「どういう意味です?」
「ユーメラのギルドの受付嬢見てればわかる」
そう、受付嬢のエリーさんは17歳で、冒険者にめちゃくちゃモテるのだ。当然狙ってるやつもたくさんいる。
そして、エリーさんの取り合いはエスカレートし、エリーさんをデートに誘ったやつが同じ冒険者に殺された。
俺がユーメラに初めて着いた日に殺人事件が発生したらしく、余所者の俺が疑われまくったのだ。結局犯人が見つかって疑いは晴れたが、なんとも恐ろしい事件だった。
「あるじ、でも今度の女は大丈夫そうですぜ?」
「その言い方だと俺が女たらしみたいだな」
「まぁまぁ、そこの穴を覗いてみなさいな」
「穴?」
木の茂みをかき分けところに落とし穴がある。
「魔物が引っかかったか?」
俺がその穴をおそるおそる覗いてみると、女の子が泣きながらこちらを見上げていたのだ。
「はうう。おねがいしますぅ。奴隷だけはやめてくださぃぃ」
「ぐへへへ。可愛い女の子ですねぇあるじぃ」
なんか気持ち悪いこと言ってるやつがいるので、鷲掴みして穴に放り投げた。
「ああああああああ!!!」
下にいた女の子はギースを両手でポンっと受け止める。
「おい、その女の子助けてやれよ」
「扱い雑っすよぉあるじぃ・・・」
ギースは黒い翼を広げると、女の子の両手に収まったまま羽ばたき始めた。