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異世界マンガ家のハーレム冒険譚  作者: くあwせ
はじまる新天地編
9/53

9.遠征前


「そろそろ遠征に行こうと思う」


ファルのお墓参りに付き添った日の夕方。

皆で夕食をとっている時に、ファルはそう話を切り出した。

その突然の一言に七海は首をかしげる。


「ファルさん、その遠征って?」


「ナナミ、あとエイトも初めてか。遠征っていうのは、ここから数十キロ離れたところにある洞窟に向かうことさ。そこで貴重な魔物を倒したりするんだ。」


ナナミの質問に次々答えていくファル。

なんでも依頼人が貴重な魔物が1匹必要らしく、それを狩りにいくという。

こういうことは年に1、2回あり、その度にファル達はその洞窟へ向かうそうだ。


「そもそも冒険者ってのは未知を求めて旅をするものだからね。こういうことがむしろ本職なんだ。」


「そうなんだー、楽しそうだし私も行きたいな。で、いつ行くんですか?」


「だいたい…1週間後かな」


「わっかりました、準備してきます!」


夕食を終えた七海はビシッと敬礼し食器を片づけると、すぐ部屋に戻った。

1週間後っていう話を聞いていたのか…?と心配する鋭斗に、ミスティアがちょんちょんと肩を突いてきた。


「エイト、明日暇っすか?良ければ付き合ってほしいんすけど」


「ああ、別にいいよ」


「じゃあ朝出発するっす。準備しておくっすよ?」


最後にそう忠告し部屋に戻っていくミスティアを見ながら、俺は状況を確認する。

えーと、明日ミスティアと出掛けるのか。

ちゃんと朝起きないと…

…。

…ん?ひょっとしてこれって、デートなんじゃ…。


「…ええええええ!?」


「ど、どうしたのエイト君!?」


あまりにも唐突すぎる誘いに、エイトは時間差で動揺するのだった。


♦︎♦︎♦︎ーーーーー♢♢♢ーーーーー♦︎♦︎♦︎


翌朝。

いつもより早く起きた鋭斗は、朝食を手早く済ませ入念に歯を磨いた。

その後は自室に戻り、タンスを開け放ち中から服をすべて取り出す。

そして何着か試着した後、俺はがっくりとうな垂れ嘆息した。


「俺、服持ってなさ過ぎだろ…」


手元の服を見れば、どれもパジャマや近くのコンビニへ行く程度の品しかなく、どこか遠くへ行くとなると心もとないものばかりだ。

服を買っておかなかったことを今更ながら悔やむが、もうどうしようもない。

鋭斗は仕方なく普段着で外へ出ることにした。


「あ、やっと来たっすか。遅いっすよエイト?」


「ごめん、準備に時間かかって」


「まあいいっすけど。それじゃ早速行くっすよ」


迷いなくきびきびと道を進んでいくミスティア。

鋭斗はそれに続き、道に迷わないようぴったりとミスティアの隣についた。

まあ服はともかく、せっかくのデートだ。

楽しめることは楽しまなくては。

そう心に決め、雑談すること数時間。


「ぜえ…ぜえ…」


「エイト、早く来るっす!限定50品なんだからすぐ無くなっちゃうっすよ!」


鋭斗はようやく、自分が荷物持ちとして呼ばれたことを自覚した。

すでに俺の両手は荷物で埋まり、あらゆる店に連れ回されたせいでもう足がくたくただ。

多分今日で一生分の一人1つ限定商品をとったと思う。


「最初からおかしいと思ってたんだよ、なんで俺なんだって…利用しやすかっただけかよ…!」


こうなってくると、服一つで何十分も悩んでいた自分がどうしようもなく恥ずかしく思えてくる。

くっ、朝の自分の目を覚ましてやりたい…!と歯をくいしばっているうちに、ミスティアは今しがた買って来たのか新たな荷物を俺の肩へかけた。


「なあ、この買い物いつまで続くんだ…?」


「安心してください、もう終わりっすから。そこに屋台があるんで、ちょっと休憩してから戻りましょう」


ミスティアが指差すその先には、肉が焼ける香ばしい匂いと音を放つ出店があり、ちょうどベンチも用意されていた。

ひとまず重い荷物をベンチに預け、屋台で焼き串を2本購入する。

2人でそれを食べながら、鋭斗はミスティアに話しかけた。


「ミスティア、そういえば昨日なんで突然買い物に行こうなんて言い出したんだ?」


「ファルが遠征に行くって言ってたじゃないっすか。遠征には必要な道具や食料、水なんかと馬車の予約なんかも必要っすから、それを今日済ませたんす。」


「ああ、なるほど…」


「っていうかエイト、あの程度の荷物で息切れしているようじゃこの先生き残れないっすよ?エイトは戦えないんすから、せめてサポーターとしてくらい役に立ってください」


「ぐっ…」


それを言われると鋭斗は言い訳もできない。

言葉に詰まり悶々とする俺に、ミスティアさんは多くの荷物の中からラッピングされた何かを取り出した。


「…まあ死なれても困るんで、これあげます。なので、せいぜい頑張ってください」


「これは…?」


不思議に思いながら手渡された物の包装紙を破ると、中からは黒のジーンズに白のラガーシャツ、羽織れるジャケットが出てきた。

驚きを隠せない俺に、ミスティアは串を咥えながら言った。


「防御性能の高い服っす。高かったんすからね?」


「えと、もらっていいのか?」


「…しょうがない人っすね、別に見せびらかすために渡したわけじゃありませんよ。最近頑張ってくれてたんで、そのお礼もかねて…みたいな」


「…ありがとう、大切にするよ」


「ん、そうするっす」


ぴん、と指で串を弾いたミスティアは、なんだか少し、大人びて見えた。

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