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異世界マンガ家のハーレム冒険譚  作者: くあwせ
はじまる新天地編
7/53

7.ギルド


「ここが…ギルド…」


大通りに面したひときわ大きな建物の前で、鋭斗はその雰囲気に圧倒されていた。

建物の中に入らずとも、中の剣呑な空気がここから感じ取れる。

一瞬入るのをやめてしまおうかとも思ったが、ファルさん達が何のためらいもなく扉を開けたので鋭斗も警戒しながらそれに続いた。

内側に入るとすぐ受付があり、ファルさんは受付との仕切り代わりである木製のテーブルにひじをついた。


「こんにちは、新規のパーティメンバーの登録をしたいのですが」


「ああどうもファルさん、新規冒険者の登録ですか?まあ既存パーティへの加入なら時間はかかりませんのでご安心を…」


親しげに職員さんと話すファルさんが登録している間、鋭斗はギルド内部を見渡した。

意外と人はまばらで、他の受付や待ち人用の木製ベンチが並んでいる。

そしてこの建物の左側は武器や防具を売っていて、軽食もあるのかスパイスと肉の匂いがこちらまで漂ってきていた。

七海もその香りに反応したのか、くんくんと鼻を動かしては物欲しそうな顔で店を見つめている。

そんな妹を半ば呆れながら見ている内に、手続きはもう終了したそうで、ファルさんの「何か食べていこうか」という一言に七海は目を輝かせ皆素早く注文を済ませた。


どうやらこの店で売っているのはハンバーガーに近い品のようだ。

肉の挟まれたバンズを受け取り、近くのテーブルに腰かける。

そして全員でパンにぱくついたところで、いつもは食事に夢中のセレンさんが珍しく話し始めた。


「ところでエイト君さ、もうパーティの仲間なんだからそろそろ敬語やめない?」


「え?」


「このパーティのルールでね、パーティ内の上下関係はあってはならないことになってるんだ。もちろん非常時はリーダーに従うけど、変に差をつけると連携に支障が出る。だから、エイト君にはタメ口を使ってほしいんだ。」


「いやでも…ファルさんやセレンさんは俺の命の恩人ですし、いくらなんでもタメ口って訳には」


「エイト、このパーティのルールなんだ。パーティに入ったからにはルールに従ってもらう。もちろんナナミもだよ?」


「はーい、わかりました…じゃなくてわかった!」


七海は右手を挙げて元気よく返事し、ファルさんもそれを確認すると鋭斗の方に向き直った。


「まあというのは半ば建前でね。本当は敬語なんか使わず、エイトともっと仲良くなりたいんだ。どうだろう?」


「…わかった、じゃあ今後敬語は一切使わない。よろしくな…ファル。」


鋭斗はためらいながらもファルの提案に首肯する。

こうして、鋭斗と七海は正式にパーティへ加入することになった。


♦︎♦︎♦︎ーーーーー♢♢♢ーーーーー♦︎♦︎♦︎


最後の一口を食べ終え席を離れた鋭斗達は、ギルドの2階に来ていた。

2階には個室がいくつもあり、中からは話し合うような声が聞こえる。

鋭斗は1階とは違った雰囲気に首をかしげる。


「ファル、一体ここは?」


「冒険譚を出版、販売する出版所さ。冒険者はここに持ち込みをして、編集者に認められてからでないと本を出せないんだ。」


なるほど、仕組みはだいたい日本の出版社と同じらしい。

鋭斗はきちんとした制度に感心しつつ、通路に沿って奥まで進む。

するとそこには下と同じような受付があり、メガネをかけた職員が一人で書類を整理していた。

そこへ向かい、ファルさんは何やら持ち込みの打ち合わせを始める。


「ファルディープのパーティですが、今日は持ち込みに来ました。今リゼさんはいらっしゃいますか?」


「はい、少々お待ちください」


用件を聞き、受付の職員さんは奥の部屋へ消えていった。

そして数分後、髪をヘアゴムでまとめ制服を着こなした女性が現れた。


「おー、ファル君か。で、今日は持ち込みだって?今回はちゃんとしたの書けてるんでしょうねー?」


「ははは…」


ひじでファルさんの脇腹をつつくその女の人は、ひとしきりファルさんと会話した後鋭斗の方を見て不思議そうな表情を見せた。


「あれ…なんか人増えたね?ファル君、この子新メンバー?」


「はい、ちなみに今日持ち込んだのは僕ではなく彼です。」


「ふーん。君、冒険譚書けるの?」


「はい、一応前の仕事は物書きだったので」


「そっか。じゃあ早速原稿を見せてもらおうかな。こっちにおいで」


そう言うとその人は、鋭斗を空いていた個室に案内する。

さすがにパーティの全員で入るわけにもいかず、俺と担当さんの二人で打ち合わせをすることになった。


「そういえば名前言ってなかったね。私はリゼ。よろしくね?」


「俺は真瀬 鋭斗です。よろしくお願いします。」


「エイト君か。お、そのリュックに入っているのは原稿かい?」


「ああ、はいそうです。」


何十枚もの原稿が入っていたためパンパンになったリュックを指でさされ、そのまま原稿を取り出しリゼさんに手渡す。

受け取ったリゼさんは慣れた手つきで原稿をパラパラとめくっていった。


しかし最初の数ページで手が止まり、やがて何かおかしなものでも見るような目で凝視しはじめた。

やはり初めてマンガを見るときはこうなるのだろうか?セレンに見せたときも全く同じ反応だったけど…

そんなことを考えているうちに、リゼさんはさっさと読み終えてしまっていた。

鋭斗は恐る恐る感想を尋ねる。


「あの、どうでした?」


「…やられた、って感じだよ。まさかこんな方法があったなんて…」


右手で頬杖をつきながらため息をつくリゼさんは、鋭斗をまっすぐな目で見つめながら原稿を机に置いた。


「多分、この原稿は1ヵ月以内には本になると思う。じゃあその時の君の受け取り金について話をしようか。」


そこから夜まで書籍化を念頭に置いた具体的な打ち合わせが続き、後は本になって売れた際に話をすることになった。

リゼさんに礼をしてから、個室を出てギルドを出ようと扉に手をかける。


すると、肩にぽんと手を置かれた。

振り返るとそこには…


「セレンさん!?」


なめらかな肢体を防具に包まれた美しい女性が、にこっとピースを作り笑っていた。


「こんな時間まで待っててくれたんですか…?」


「こら、敬語になってるよエイト君。」


「あ…すみません」


「ほらまた敬語ー!」


ぷうと頰を膨らませるセレンに、鋭斗は思わず噴き出してしまった。


「…そうだな。ありがとう、セレン。」


「ん。よろしい」


満足げに胸を反らすセレン。

そんなセレンと俺は、買い食いをしながら家に帰った。



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