4.はじめての冒険
ファルさん達の家から、歩くこと1時間。
そこに、大きな木々が生い茂った広大な森はあった。
『魔物の巣窟』とも呼ばれるこの森は、奥に入るほど魔物が強くなっていくため初心者は森の入口で練習するらしい。
ファルさん達は普段は森の少し入ったところで魔物と対峙しているようだが、今日は俺達のために初心者エリアで戦うことになった。
「はあああっ!!」
「ふっ!」
『ギャアアアア!』
セレンさんは積極的に前に出て、ワイルドボアやコボルトといった魔物を長剣で一刀両断にしていく。
ファルさんは妹の身長ほどもある大剣を振り回し、一振りで幾つもの敵を葬った。
「すごい…あの性格からは想像もつかないくらい強いですね、ファルさん」
「…そりゃうちのリーダーっすからね。っていうか、エイトもそこの小物ぐらい倒してくださいよ、さっきあげた短剣は飾りっすか?」
「…あの、やっぱりミスティアさん怒ってます?」
「別にぃ」
そう言いながら、頰を膨らませそっぽを向くミスティアさん。
やっぱり冒険者になるなという忠告を断ったからだろうか。
だが確かに、ファルさん達に任せっきりにするわけにはいかない。
鋭斗は腰につけた短剣を取り出すと、近くにいたコボルトに狙いを定めた。
「はっ!」
まずは一撃目。
しかしこれは素早く避けられた。
まあいい、次当てられれば…
「うおっ!ほっ!」l
続く2撃、3撃。
手ごたえはない。
しかもコボルトはほとんど動いていなかった。
「こらそこ!何やってんすか、どいてください!」
その様子を見かねたミスティアさんが、手に持った杖をコボルトに向け、なにやら唱え始めたかと思うと、
「ヘルファイヤ!」
巨大な炎柱を放ち、コボルトを簡単に焦がし貫いた。
…すごい。これが魔法というものか。
鋭斗が感動していると、ミスティアさんはずかずかとこっちに近づいてきた。
「最弱のコボルト相手に手間取らないでください!見てくださいよ妹さんを!」
そう指差す方を見ると、片手に持った短剣を振りかざし次々と魔物をなぎ倒していく七海の姿が。
とても冒険者初日とは思えない動きだ。
テニスで培った運動神経のおかげだろうか?
「妹さんに負けてるじゃないっすか、エイトは何とも思わないんすか?」
「別にぃ」
「真似しないでくださいよ!」
「冗談ですって。ちゃんとやりますから」
「全く…でもここらへんの魔物はほとんど倒しちゃいましたね。そろそろ場所を変えましょうか」
ミスティアさんは周りを見渡しながら呟くと、魔物を倒し終え遠くから歩いてくる七海、ファルさん、セレンさんを集め、地図を取り出した。
「次はどこがいいっすかね。このぐらいのエリアで別の場所に移動します?」
「いや、もう少し奥に進もう。ナナミの実力なら大丈夫だろう」
「ぷっ、やっぱり兄ちゃんはダメだったんだ。運動神経ないもんねー」
鋭斗を指差し笑う七海。
これに少しイラっとした俺はずっと気になっていたが聞くのをためらっていた質問をすることにした。
「なあ、七海がファルさん達に助けてもらったのってこの森だよな?」
「え、うんそうだけど?」
「…ここらへんトイレないけど、結局間に合っ」
「次その質問したら殺すから」
言い終える前に、低く感情のこもっていない声に遮られた。
怖い。怖いです七海さん。
お願いだからそんなモンスターを見るような目で剣先をこっちに向けないでください。
と、俺達がそんな茶番を繰り広げている間に、ファルさん達はどんどん前へ進んでいったようだ。
急いで追いつこうと鋭斗と七海は走る。
「ふぅー、何で先行くのさファルさ…」
「しっ、静かに」
追いついた七海が皆に話しかけるも、唇に人差し指を立てるファルさんに止められる。
疑問に思った鋭斗と七海だったが、ミスティアさんの指差す方を見て納得した。
そこにいたのは体長3mはあろうという巨大なクモ。
その体格からして、コボルトやワイルドボアとは強さの格が違うだろう。
いくらファルさん達といっても、やはり厳しい相手なのだろうか…
「…あいつって、強いんですか?」
「いや、強くはないよ。でも1匹が信号を出すと何十匹も集まってくるから、一撃目で倒さなきゃいけないんだよ。」
冷静に答えるセレンさんだったが、俺から見れば充分強そうな敵だ。
ファルさん達ってひょっとするとかなり強いんじゃないだろうか。
そう考えていると、セレンさんがいきなりすくっと立ち上がった。
「ここは私に任せて、ファル」
「わかった。やってくれ」
一体何をやるのだろう。
あれだけの巨躯と硬そうな殻を持つ相手を一発で倒すのは難しいはずだ。
それを可能にする策があるのかもしれない。
だが、セレンさんがやったことはただ一つ。
直線上にクモがくるように立ち、剣を振るだけ。
しかしそれだけで、クモは絶命することになる。
『ギョョ!?』
完全に視覚外からの攻撃。
クモの頭は数メートル先に吹っ飛んだ。
それも驚きだが、鋭斗はセレンさんの攻撃がもっと不可解だった。
「今、斬撃が…飛んだ?」
目をこすって確認するが、間違いない。
クモにセレンさんの攻撃が効いた。
本来届かないはずの攻撃が届く。
ありえないことだが、セレンさんは斬撃を飛ばすことによってこれを可能にしたのだ。
目の前の光景に驚きを隠せない鋭斗に、セレンさんは優しく丁寧に説明し始めた。