31.ミスティア、再び
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「ーーミスティアちゃん、早く食堂に行こう?」
「あ、はいっすマリイ」
本日最終の授業を終えた直後。
教科書をまとめて部屋に戻ろうとしていたミスティアに、友人であるマリイが夕食に誘ってきた。
この学園では魔法科の中でも習熟度レベル別に3つにクラス分けされ、
首席のマリイはもちろんAクラス。
一方独学のミスティアはBクラスだ。
そういう訳でクラスが違うにもかかわらず、こんな風に誘ってくれたりするあたりがマリイの良いところだ。
もちろんそんな彼女の誘いを断るはずもなく、一緒に並んで廊下を歩く。
その途中マリイは、思い出したようにある話をし始めた。
「そういえばミスティアちゃん、聞いた?今日Cクラスの生徒が、スキル科の生徒と戦闘演習したって」
「え、そんなことしてたんすか?」
「うん。というか、この学園では伝統の文化みたいだよ。学園で下位のCクラスの魔法科生に、スキル科と戦わせて自信をつけさせるんだって」
「なんすかそれ…まあいつものやつっすけど」
あまりに露骨すぎるスキル科差別に、ミスティアは怒りを通り越して呆れをあらわにする。
この学園ではスキル科の差別に生徒どころか先生も加担していることは知っているし、今までにも似たようなことはあったが…
「でも、今日はスキル科の生徒が勝ったんだって。この学園に来るとき会ったさ、ほら、あのエイト君?がかなり頑張ったみたいで」
「そうっすか、エイトが…!」
その知らせを聞いて、喜びに瞳を見開くミスティア。
そうだ、竜を屠ったエイトが負けるはずがない。
「でも、頑張りすぎたせいで魔力使い果たして、今は保健室で寝込んでるって噂だよ」
「えっ!?」
「私も知らない仲じゃないし、お見舞いに行きたいんだけどさ…先生が見張りについて、魔法科生が入れないようにしてるんだって」
「魔法科とスキル科の接触を断つ…先生方は、そんなにスキルが憎いんすかね…」
友人、いや戦友の見舞いすら許されない。
そもそも魔法科生とスキル科生が会話しているだけでも、見られれば罰則、周囲からはスキル科の肩を持ったとして嫌悪される。
盗賊に襲われたときにエイトと会ったマリイはスキル科差別を快く思っていないが、もしそんなことを言えば首席の座は剥奪だれるだろう。
(そもそも、魔法科とスキル科の対立を煽ってるのは、校則と先生方のような気がするんすけどね…)
先生をちらと見ながら心の中でそう呟くミスティアだが、実際に言うわけにもいくまい。
そっとその言葉を心の中に留めたまま、マリイと一緒に食堂の席へと腰掛けた。
食堂には生徒と先生の席があり、先生方の席は皆から見えるよう少し高いところに設置されている。
そこから学園長が、食事のあいさつをした後皆手をつけ始めるのだが…
「皆、食事の前に聞いてほしい」
学園長が杯を前に掲げたその時、彼女ははじめてあいさつ以外の言葉を発した。
薄青色の透き通った髪。
すべてを見透かしているかのような蒼眼は、彼女のベールで覆ったかのような感情をさらに読みにくくしている。
そんな不思議に包まれた彼女が何を語るのか。
皆の興味は豪勢な料理から、学園長へと移り変わった。
「今日、魔法科とスキル科とで戦闘演習が行われた。これは伝統ある儀式であり、当たり前だが毎年魔法科の圧勝で終わっている。」
あっさりとそう告げる学園長。
そしてその瞳を少し細めると、
「しかし、残念なことに今年はスキル科が勝ってしまった。しかし恥じることはない。なぜなら、スキル科は重大な反則を犯したのだからね」
「なっ…!」
その学園長の一言に、騒然とする生徒達。
しかしあの場にいたものなら、ほとんどルールの存在しなかったあの勝負で反則が行えないことは知っているはずだ。
だが当然そんな訴えは通らない。
「やっぱり、魔法科が負けるなんておかしいと思ったぜ」
「スキル科の奴ら、卑怯な真似してまで勝ちたいのかよ」
「だっせえ」
口々にスキル科を罵る魔法科生。
Cクラスの生徒も一緒になっているのだから、エイトがそんなことをするはずがないと知っているミスティアは拳を握り席を立とうとする。
が、学園長の隣に立つ人物を見て、ミスティアは凍りついた。
「エイト…!?」
「このものはスキル科生のエイトである。彼こそが反則を犯した重罪人。よってこれより罰を与える。」
学園長の一言に、生徒達は歓喜の声をあげる。
「いいぞ、やれーー!」
「さすが学園長!」
場の空気は一気に処刑ムード。
魔法科に勝つという『あってはならない』行為をしたスキル科への罰を心待ちにしているのだ。
「こんなことって…!」
隣でマリイが戦慄した表情を浮かべる。
しかしこれではっきりした。
この学園の異常なまでのスキル科差別。
それがすべて、学園長によるものだと。
(何のためらいもなく飄々とそんなことを言ってのける。スキルにそんなに恨みがあるんすか、学園長…!)
歯をくいしばり、壇上を睨むミスティア。
学園長はそれを気にも留めず、粛々と言葉を紡ぎ続ける。
「しかしそれだけではあまりに可哀想だ。よって、少しだけ温情を与えよう。ーーエイト君にはこれより、我が魔法科の先生方に戦ってもらう」
そう言って学園長が呼び寄せたのは3人の先生。
それぞれAクラス、Bクラス、Cクラスの担任である。
「この3人を相手して勝てたのならエイト君の処罰は大目に見よう。しかしもし負ければ退学とする。」
「そんな…!」
魔力切れで倒れたエイトが、まだ万全な状態であるはずがない。
まして先生との3対1の勝負だ。
勝てる方法なんて、あるはずが…!
「もし本当に魔法科生を蹴散らしたのなら、この程度のことは余裕であろう?」
まさに、悪魔。
スキル科の力を許さず、さらなる見せしめを行う。
そして案の定ふらついたまま先生に引っ張られて出てきたエイトは、壇上で無理やり立たされた。
「それでは早速行おう。先生方、準備を」
学園長の指示に従って、先生はテーブルを片ずけ即席のリングを作り上げる。
そうして壇上では、エイトと先生3人が睨み合った。
「ではーーー始め」
淡々としたまま開始を告げる学園長。
すると即座に。
「「「炎の弾」」」
先生方3人による速攻。
詠唱は短いながらも、威力は凶悪だ。
「ぐあっ…!」
当然満身創痍のエイトが対処できるわけもなく。
炎弾の直撃を食らったエイトは、為すすべなく後ろに倒れ込んだ。
「ひどい…」
思わず漏れた一言。
しかしこれでは万に一つもエイトに勝ち目はない。
このままでは…!
「エイト…!」
ミスティアの心配の声も届かず。
先生方は、とどめを刺すべく特大の魔法を撃ち始める。
「いくぞ!」
「「「断罪の電撃剣」」」
剣の形を纏った電撃。
瀕死の相手に打つべきでない一撃が、エイトに向けられる。
「これじゃエイト君死んじゃうよ!」
「こうなったら…!」
マリイが明らかに動揺し、ミスティアが杖を握りしめる。
ここで取るべきは魔法の行使。
たとえ退学になっても、エイトを…!
そして、必殺の一撃が下るその時。
「ーーー下らぬ」
壇上に現れた影が、その魔法を打ち消した。
「「「は…?」」」
魔法を撃った先生。
それを興奮して見守る生徒達。
その全員が、そんな気の抜けた声をあげた。
「エイトとやらがどんな戦いをするのかと来てみれば、なんだこの茶番は。
勝負に対する冒涜。
到底許せるものではない。
貴様ら、覚悟せよ。」
「ひいっ…!」
壇上に一瞬で現れた人物の眼差しに、悲鳴をあげる先生方。
して、その人物とは。
「我が名は白虎。行くぞエイトよ」
長い肢体を闘気で覆い。
構えた白虎は、その口元をわずかに緩めた。