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異世界マンガ家のハーレム冒険譚  作者: くあwせ
はじまる新天地編
10/53

10.遠征


遠征当日。

準備を十分にしてきたファル達は、朝早くから馬車に揺られ現在遠くの森の奥まで来ている。

と、ずっと外の景色を眺めていた七海が、急に俺の方を向いた。


「なんかこういうのって久しぶりだよね兄ちゃん?」


「まあそうだな。遠出したの高校の卒業旅行以来だから5年振りくらいだし」


「…あれ、エイト君達って最近遠くから来たんじゃなかったっけ?」


「いや、それは…はは」


思わぬところで嘘がバレそうになり、適当に取り繕う鋭斗。

セレンは特に気にする様子はなかったが、妹は俺を咎めるようにこちらを睨みつけてきた。


「ところで、皆準備は大丈夫かい?ここから馬車を降りて森の中を進むけど」


「大丈夫だよファルー、あ、止めてください」


馬車の運転手に声をかけ、一同は森の中に降り立った。

それぞれ必要な荷物を持ち、早速洞窟を目指すため草をかき分けて進んでいく。

そして、五分程歩いた頃だった。


「なにかいる」


先頭を行っていたファルが、右手で皆を止めミスティアに視線を送った。

ミスティアは無言で頷き、杖を前に差し出し小さく「サーチ」と唱えたかと思うと、


「…そこですね!」


後ろに振り向き、杖から光の矢を放った。

矢は木の密集地に直撃し、『キィッ!?』という虚をつかれたかのような声とともに、一匹の魔物が落ちてきた。


「これは…妖猿鬼でしたっけ?」


確認する七海に、ファルはこくりと頷く。


「スキルや時には魔法まで使うことのできる中級モンスターだ。洞窟内にもこういう魔物はうじゃうじゃいるから、気をつけて」


ファルの一言に、皆改めて顔を引き締める。

その緊張はファルのリーダーシップもあるだろうが、4人は普段とは段違いのフィールドに警戒しているのだろう。

しかし用心するに越したことはないとは言え、気配を察知し瞬殺できたファル達のパーティの強さは洞窟でも少し余裕を持てるであろうレベルだと思う。

特に、ミスティアの活躍ぶりは飛び抜けていた。


「ミスティア、さっきは凄かったな。モンスターを探知できるのか?」


「ええ、これでもパーティの支援、回復、攻撃を全て任せられている魔術師っすから。戦闘で役に立たないエイトの分頑張らないと」


「役に立たないって…確かにそうだけど、そこまではっきり言わなくても良くない?」


「いやさすがに弱すぎるっすよ。この前スライムに負けそうになったときは驚きましたもん」


「うっ…」


ミスティアに痛いところを突かれ、言葉に詰まる鋭斗。

いや、正直あれは自分でもびっくりした。

遠征の前の肩慣らしとして森に行ったときのこと。

コボルトに苦戦していた俺はセレンの勧めでスライムと戦うことになったのだが、結局スライムに顔を塞がれ息ができずに気絶寸前にまでなってしまったのだ。

あのときミスティアに助けてもらっていなければ俺は死んでいただろう。


ちなみにスライムは犬や猫と同列の魔物と言えるかすら怪しいレベルのモンスターらしい。

なんだろう、すごく情けなくなってきた。


「まあスライム相手に死にかけたエイトは洞窟に入れられないんで、私と一緒に外で待つっすよ」


「…ん、ミスティアは洞窟に入らないのか?別に待つくらいなら一人でも」


「いやそうではなく…その…洞窟とか暗いところ、苦手なんすよ…」


言いにくそうに髪をくるくると指でいじりながら答えるミスティア。

お前、普段俺を散々役立たずだのなんだの言っておいて…

でもちょっと可愛いと思ってしまった。

なんか負けた気分だ。

そんなミスティアの意外な一面を発見したところで、どうやらその洞窟が見えてきたようだ。

ファルはそこで一回止まり、最低限の荷物を持つと残りを俺とミスティアに預けた。

ナナミとセレンも同じく荷物を預ける。


「じゃあ練習通り先頭は僕、後衛はセレンとナナミが担当してくれ。行くよ!」


ファルの号令で、一斉に三人は洞窟の中へ突入する。

それを確認した俺とミスティアは、荷物の中からテントを取り出し組み立てることにした。

ミスティアは慣れているのかそんなに時間はかからず、火起こしもミスティアの魔法で手早く済ませられた。

ここで鋭斗はふとあることに気づく。

…あれ、俺まだ役に立ってなくね?

せめて戦闘以外では頑張らないとと思っていたが、今のところ鋭斗がしたことと言えばテントを張るのを手伝ったくらいだ。


これから何かをしようにももう忙しくはない。

というかむしろ暇だ。

さっきまでスケッチブックに資料用としてファルやセレンの戦う姿を描いたりしていたが、もう終わってしまった。

何をしようかと仰向けに寝転んだとき、ふとあることを思い出した。


「そういえば俺って、スキル持ってたんだよな…」


よっと起き上がり、自分の両手を見つめる。

確かミスティアが言うには、『絵』とか『具現化』とかのスキルだったはずだ。

結局原稿に追われ忘れていた俺は試しに持っていたスケッチブックにファルの大剣を描いてみる。

さて、ここからどうするかだが…


「ふっ…!んんん…!」


絵を両手で持ち踏ん張ってみるも、特に変化はない。

その後いくら念じても効果はなかった。


「はあ…何もしてねえのに無駄に疲れたな…」


再び地面に寝っころがり、少し休憩する鋭斗。

そんな鋭斗を、真上から覗き込むようにしてミスティアが現れた。


「何してるんすか?ここ森なんで、あんま気ぃ抜くと死にますよ」


「ああ悪い。ところでミスティア、質問なんだがスキルってどう使うんだ?」


そう問いかけた鋭斗に、ミスティアはあごに手をあてて唸る。


「私はスキル持ってないんで分かりませんけど…魔力の使い方なら分かるっすよ。まずは目を瞑って、心臓の鼓動に耳を傾けるっす」


言われた通りに、鋭斗は目を閉じ胸に手を当て鼓動を感じる。

しかし、よく分からない。

頭を抱える俺の様子を見かねたミスティアは、いきなり自分の腕を差し出したかと思うと、そこに俺の右手を重ねた。


「ちょ、え、何!?」


「今ここに魔力を流してます。これで流れは分かると思いますよ?」


内心ドキドキしながらも、右手に意識を集中する。

すると、何かが流れ込んでくるような感覚が鋭斗の右手を刺激した。


「今エイトが感じてるのが魔力っす。その魔力を消費してスキルや魔法を使うんすけど…」


ミスティアの話によれば、魔力とは人体のエネルギーらしい。

人間の身体は常時熱を放出していなければならないほど大量の無駄なエネルギー、いわばロスがあり、そのエネルギーを利用することで魔法やスキルを使うのだとか。


「多分エイトのスキルは絵に魔力を送り込んで具現化するものっす。だからその絵を自分の体の一部だと思って、魔力を流し込んでみてください」


ミスティアに従い、左手の魔力を絵に込めるイメージをする。

すると徐々に魔力が絵に流れこんでゆき、光を放ったかと思うといきなり大剣が顕現した。


「うおっ!…っと」


突然左手にかかった重力に鋭斗は体のバランスを崩すが、剣を手放すことでなんとか体勢を立て直しもちこたえる。


「危ねえ、怪我するところだった…」


「これは…ファルの大剣っすね。まるで本物みたいっす」


ミスティアはスキルによって現れた大剣をまじまじと見つめながらそう言った。

確かに、ファルのものが寸分違わず再現されたかのようだ。


「うーん、このスキルは結構当たりなんじゃないっすか?食料も水も、武器だって現わせるんすよね?」


ミスティアの問いを聞き、鋭斗は適当に絵を描き魔力を込める。

すぐさま、一個のりんごが現れた。


「おお、やっぱり。どれどれ…お、ちゃんと味するっすよ!」


「まじか…でもあんまり食いたくないな。原材料がめっちゃ不安だ」


少々不気味に思った鋭斗は、続けて武器の具現化に取り掛かる。

しかし結果から言うと、それは実現しなかった。

鋭斗が描いたのはいたってシンプルな拳銃。

やはりこの世界にないものは現せないのだろうか?

そう考えたが、次に描いたペットボトル入りのジュースは具現化できた。

おそらく、このスキルは『一度見たものでないと具現化できない』のだろう。

そう納得し、俺はそのジュースを飲み干す。

…うん、ちゃんとコーラだ。


懐かしい味に少し安心する鋭斗。

だが、次の瞬間その安堵は緊張へと変わった。


「きゃあああああああ!」


「これは…七海の声!」


突然響いた悲鳴は、洞窟から聞こえてきた。

つまり、ファルのパーティに何かあったということだ。


「まずい、早く行かないと…ミスティア、行くぞ!」


「…ぁ、でも…!」


「…ミスティア?」


ミスティアの右腕を掴み連れて行こうとしたとき、鋭斗は彼女の手が震えていることに気がついた。


「ごめんなさい、洞窟には入れないっす…本当に、すみません…!」


「わかってる、お前が暗いところ苦手だっていうのは。でも今は…!」


「違うんです!私は、迷宮に入ると…魔法が、使えなくなるんです…」


震えるミスティアは、自らの過去について話し始めた。


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