03
それは紛れもなく生首だった。懐中電灯の光ただ一つという視界の悪さを差し引いても、生首以外の何物でもなかった。
少女は俺の視線に気付いたのだろう。手に持っている生首をひょいと持ち上げた。
「あぁ、これ?」
何でもない事のように、それにはもう用がないとばかりに、床にそれを棄てた。
人は死んだその瞬間から物と化す。塵になる、そう言ったねは一体誰だったか。
「何かいたから。知り合い?」
「いや、違う」
「そうなの? じゃあいいか」
床に落ちた塵を跨ぐようにして、少女は俺の方に歩いてきた。カツカツと、足音が部屋の中に響く。
「君はさぁ、何の用事があって来たの?」
それは、そう応えるよりも早く、少女は笑った。ニィと口の端を歪めるようにして。
「いいや、理由なんて。とりあえず――」
死んでくれる?
刃が、先程まで俺のいた場所を通過する。殺す事を前提にした動き。咄嗟に一歩引いていなかったら、今頃俺の首は胴体との別れを迎えていただろう。そこまでいかないとしても、深い傷を首に負って出血多量て死んだ事だろう。
首から一滴流れる血を拭い、少女に視線を向けると、あからさまな程に落胆していた。
がっくりと肩を落とし、怨みがましい目で俺を見ている。この場合危うく殺されかけた俺が怨むものではないのだろうか、そんな常識的考えが浮かんだが、相手はいきなり切りかかるような奴だ。常識的に考えるのは間違っているに違いない。
あぁ、ならばやめよう。
俺もまた、常識的な考えを棄てようじゃないか。
「お前が死ね」
呪いの言葉を吐き捨てる。