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大丈夫かな? それともアウトかな?
つい昔の遊びの話で盛り上がってしまった。私は改めてアルバムのページをめくった。次の写真は七五三の写真だろう。羽織袴姿の夫と並んで写っていた。
「えっ、えっ? これってお義父さんとお義母さんですか~。カッコかわいいじゃないですか~」
朱美さんが弾んだ声をだした。確かに夫はキリッとした顔をしてカッコよく写っている。
「おばあちゃん。このお着物って、陽菜も七五三で着たものでしょ」
「そうよ。ちゃんと仕立て直しをしていただいたから、このまま傷まなければ陽菜ちゃんの子供の時にも、着せることが出来るわよ」
「おばあちゃん、その前に妹が着るよ」
陽菜は朱美さんのお腹を見ながらそう言った。朱美さんは今、妊娠5カ月で、お腹の膨らみも分かるようになってきたところだった。
「あら、陽菜は女の子だと思っているの。男の子かもしれないのに」
「ううん、絶対妹だよ。陽菜にはわかるの。それでね、名前も陽菜がつけてあげるの」
「陽菜、出来ればお父さんがつけたいんだけど」
「だ~め。お父さんはセンスがないんだから。ここは陽菜にまかせて」
胸を叩いて言う陽菜に、息子は情けない顔をしていた。
「それよりも、陽菜。お願いだから混ぜっ返さないでくれないかしら。これじゃあ、いつまでたっても、お二人の馴れ初めが聞けないわ」
朱美さんが陽菜にそう言ったら、陽菜は不満そうな顔をした。
「まぜっかえしてないもん。なんでお母さんはそんなに、おじいちゃんとおばあちゃんのことを知りたがるの?」
「あら~、恋バナはいくつになっても、聞きたいでしょう」
「恋バナ? 陽菜も聞きた~い」
恋バナと聞いた陽菜の目が輝いた。息子はとたんに呆れた目線を妻と娘に向けたが、二人から冷たい視線を返されて視線を外していた。
「それで、どうなんですか」
目を輝かせた朱美さんが訊いてきた。
「そんな聞かせられるような話はないのよ」
私がそう言ったら、朱美さんは質問を変えてきた。
「それではお義母さんの初恋はいつですか」
「初恋・・・えーと、小学校1年の時かしら」
「おじいちゃんはいつなの?」
「あー、その・・・小学1年の時だったような」
陽菜に聞かれて夫もしどろもどろに答えている。私達の答えに朱美さんと陽菜は顔を見合わせてニッコリと笑いあった。
「じゃあ小学校の時っておじいちゃんとおばあちゃんは、どういうおつき合いをしたの?」
「陽菜、私達はつき合ってはいなかったのよ」
私がそう言ったら陽菜は意味ありげに笑ってきた。
「やだなー、おばあちゃん。おつき合いってそういう意味じゃないってば。幼なじみなんでしょ。家が近かったのなら、一緒に遊んだりしたんでしょ、ってことよ」
しれっとそういう陽菜のことを、睨んだものかどうしたものかと思いながらも、苦笑が浮かんできた。
「ええ、遊んだわよ。おじいちゃんの家は両親とも働いていたから、両親が帰って来るまでうちに居たのよ。だから一緒に宿題をしたり、テレビを見たりしたわね」
「テレビ? その頃はどんな番組をやっていたの? というか箱にしまっていたんじゃないの?」
「おばあちゃんたちが小学校の頃は、もうテレビもカラーになっていたし、子供向けの番組がいくつも放送されていたの。学校から帰ると、その番組を見るのが楽しみだったのよ」
「それじゃあ、どんな番組があったの?」
「そうねえ、バビル2世、ミクロイドS、新造人間キャシャーン、ドロロンえん魔くん、ゲッターロボ、宇宙戦艦ヤマト、グレートマジンガーかしら。このあと、夕方にロボットアニメを放送していたわよね」
「ああ、そうだったねぇ。UFOロボグレンダイザーや、勇者ライディーン、コンバトラーV、ボルテス5、ザンボット3、ダイターン3辺りかな。一緒に見ていたのは」
「そうですねぇ。・・・ふふっ」
私が思い出して笑ったら夫が訊いてきた。
「どうしたんだい。急に笑い出したりして」
「いえね、そのアニメの主題歌を思い出したのよね」
ふふふっと笑ったら、夫がにこりと笑って言ってきた。
「何のアニメを思い出したんだい」
「じゃあ、解ります? フフフ フ~ンフフ~♪」
「ああ、ダイターン3だね」
「では、ル~ルルール ルルル~♪」
「バビル2世だろ」
「これはどうかしら? ラララ ラララ ララララ ラララ~♪」
「ダイモスだろう」
「まあ、当たりですわ。じゃあ、ルララ ルラルララ~♪」
「ちょっと待ってくれ、ここまで出かかっているのだが・・・」
夫は腕を組んで考えだした。そうしたら陽菜がつまらなそうに声をだした。
「おじいちゃんもおばあちゃんも、二人でずるい。私にもわかるものにしてよ」
「ああ、ごめんな、陽菜。久美子、降参だ」
「母を訪ねて三千里ですわ」
「ああ、そうだった。名作劇場だ。他にもハイジや赤毛のアンもやっていただろう」
「ハイジってアルプスの少女ハイジなんでしょ。そんな昔にやっていたの」
夫が言った言葉に陽菜が食いついてきた。
「そうだよ。確かヤマトと一緒の年だったのじゃないか」
「そうかもしれませんね」
「でも、さっき言っていたのって、男の子のアニメでしょ。女の子のアニメはなかったの」
「もちろんあったわよ。エースをねらえ、キューティーハニー、キャンディキャンディ、はいからさんが通る。魔女っ子もので、魔法使いサリーちゃん、ひみつのアッコちゃん、魔女っ子メグちゃん、魔法のマコちゃん、魔女っ娘チックルかしら」
「うわ~、そんなにあったの」
「ええ。この流れがセーラームーンやプリキュアに繋がっていくのよ」
「えー、どこが~?」
「変身アイテムよ。魔女っ子たちは魔法を使うのにステッキなどを使っていたの」
「すごいねえ~。そんな前からアイテムがあったんだ~」
陽菜がしきりに感心していた。あの頃は男の子はロボットアニメの超合金ロボを欲しがり、女の子は魔法使いたちのアイテムを欲しがった物だった。あいにく私はリカちゃん人形のほうがよくて、魔法のアイテムは持っていなかったのだけど。
「ねえねえ、おじいちゃん。かめんライダーやジュウオウジャーみたいなのはなかったの」
今度は裕翔が訊いてきた。
「もちろんあったとも。仮面ライダー1号2号、V3、仮面ライダーX、アマゾン、ストロンガーだな。スーパー戦隊シリーズは秘密戦隊ゴレンジャー、ジャッカー電撃隊、バトルフィーバーJ、電子戦隊デンジマンかな。見てはいなかったけど、サンバルカンとゴーグルファイブ、ダイナマンがあったのは知っていたけどなぁ~」
夫が思い出してうんうんと頷きながら言った。それに陽菜が不思議そうに訊いてきた。
「なんで見ていないのに知っているの?」
「おじいちゃんの弟たちが見ていたから、話しだけは訊いていたんだよ」