5
私は自分のアルバムをめくるのを止めて、3冊目のアルバムに戻りページをめくった。そちらも幼稚園の卒園式の写真と小学校の入学式の写真が並んでいた。
昭和49年4月8日月曜日。この日が小学校の入学式だった。幼稚園の入園式と同じように母たちと一緒に写った写真と、夫と二人で写った写真があった。
次の写真は外で遊んでいる写真だった。学校に近い所の空き地で友達数人と遊んでいた。
石蹴りをしている写真。地面には丸く円が書かれていて、一つずつの丸は片足で、二つ並んだところは両足で、石が入った所は飛ばしていく遊びだった。
「おばあちゃん、これなあに」
陽菜に訊かれたので、いま思い出した遊び方を教えた。それでもよく分からなかったのか首を捻っていた。
「おばあちゃん、この丸の並びに意味ってあるの」
「意味というかね、これをとんでいく時に、ケンケンパッ、ケンケンパッ、ケンパッ、ケンパッ、ケンケンパッ、とね、渡っていったのよ」
「へえ~」
私が声に合わせて右手の人差し指と中指で、トントンタッ、トントンタッ、トンタッ、トンタッ、トントンタッと動かしたら、陽菜は立ち上がり少し離れて、片足でトントン、両足でパッ、片足でトントン、両足でパッと飛び跳ねた。
一度やってから陽菜はニンマリと笑った。
「これ、学校ではやらせるから」
「ええ~。こんな古い遊びをするの」
「おばあちゃん、遊びに古いも新しいもないよ。それに逆に新しいよ、これ。だって他の誰も知らないよ、きっと」
ニコニコと笑っていう陽菜に、そういうものなのかと思った。確かにけん玉だって今も人気だし、ヨーヨーも進化していると聞いたもの。
「ねえ、他にはどんな遊びをしたの」
「そうねえ・・・」
陽菜の言葉に考えながらページをめくってみた。
「おばあちゃん、陽菜、これ、知ってるよ。竹馬でしょ。それから、ケイドロでしょ」
「陽菜ちゃん、おばあちゃんの頃はドロケイと言ったのよ」
「どっちでも同じじゃない」
陽菜が言うようにどちらでも同じだろう。でも気持ち的に違うのだ。それに前のページの写真もそうだけど、現在と変わらない遊びも写っていた。縄跳びなんかはその最たるものだろう。部屋の中でする遊びなら折り紙なども今もしていることだろう。
「でもおばあちゃん、この丸い紙を持ってかまえているのってなに」
陽菜が見ているのはメンコの写真。隣にはベーゴマの写真もある。でも、私はやったことがないから分からなくて夫の顔を見つめた。夫は私に頷くと陽菜に説明をしてくれた。
「これはメンコというものなんだよ。この子は今からメンコを投げて相手のメンコを裏返すかこの枠の外に出そうとしているところなんだ」
「へえ~、そういう遊びなんだ~。じゃあ、この絵は? なんかいろいろ書かれているよね」
陽菜が指さしたのはメンコの絵柄を撮った写真。鉄腕アトムに8マン、鉄人28号に月光仮面の絵柄があった。他にものらくろや巨人の星、天才バカボン、タイガーマスク、怪物くん、スーパージェッター。それから・・・どろろだったかしら。忍びのような服装の男の子の絵。マジンガーZに赤堂鈴之助、よく分からない歌舞伎の絵や人気時代劇の人の絵まであった。
「この頃の人気番組の絵なんだよ。いかに相手からメンコをとるか頭を使ったものだったな」
「おじいちゃん、勝つと相手のメンコをもらえたの」
「ああ、そういう遊びだったからな」
「じゃあ、こっちは」
次にベーゴマの方を指さした。
「これって『こま』じゃないの」
「これはベーゴマと言うのだが、おじいちゃんは遊んだことはなかったんだ」
「じゃあ、おばあちゃんは」
「おばあちゃんもないわね」
「えー、じゃあ、なんで写真があるの~?」
「そうねえ、残しておきたかったのかしらね」
「だけどな、陽菜。今もベーゴマは変化して残っているんだぞ」
「本当?」
「ああ、ベイブレードと言えばわかるかな」
「ベイブレード! それってブレードをぶつけ合うって、男の子が夢中になっている物じゃない。でも、あれも『こま』だったよね」
陽菜はうんうんと頷いて一人納得をしていたの。
他の写真で分かりにくかったけど、ビー玉とおはじきで遊んでいるようなものもあった。陽菜はそれには興味を示さずにページをめくっていった。
「・・・これってなに? 空き缶を守っているの」
それは缶蹴りの写真だった。缶のそばに見つかった子だろう。数人おとなしく座っている。鬼の子が缶に片足を乗せて何か言っているようだ。近寄ってきていた子が「あ~あ」というような表情をしていた。
夫が陽菜に遊び方を説明していたけど、分からないのか陽菜は顔をしかめていた。何度かやり取りをして分かったようで、表情がぱあ~と明るくなった。
「昔の遊びって体を使ったのね」
わかったような口を利く陽菜に私達は笑った。
「そうよ。今みたいにゲーム機なんてなかったし、トランプでさえ持っている家はめずらしかったのよ」
「トランプもなかったの? うわ~、本当になんにもなかったんだ~」
「何もなかったわけじゃないのよ。無いからこそ工夫をしたのだもの」
私がそう言ったら陽菜は眉間にしわを寄せるようにして訊いてきた。
「何をしたの?」
「そうねえ、ゴム跳びとか、長馬跳びとか。ああ、缶ぽっくりもやったわ」
「かんぽっくり? なにそれ~、おばあちゃん」
「えーと、昔の缶詰の缶は丈夫だったのよね。それに穴をあけて紐を通して、手で持てるくらいの長さにしたのよ。そして缶の上に乗って紐を引きながら歩くというやつで、歩くとポクポクいうから、缶ぽっくりと言ったのね」
「それって今もできるの?」
「同じ缶を二つ用意すればできると思うけど」
「じゃあ、やってみたい~。おじいちゃん、作って~」
夫は目を白黒させていた。それに嫁の朱美さんが言った。
「陽菜、我儘を言うものではないわ。それにそれくらいならお父さんでも作れます」
「俺が作るの?」
突然話を振られた息子は素っ頓狂な声をあげていた。
「あら、それくらいできないでどうするのよ。お義母さんの話でも、缶に穴をあけて紐を通すだけなんでしょう。簡単じゃない」
「まあ、確かに簡単そうだけど・・・。陽菜、本当に遊ぶんだろうな」
「うん」
「わかった。じゃあ、今度な」
「絶対だよ。約束だからね」
「ああ、空き缶が手に入ったらな」
「それなら、フルーツの缶詰がいいわよ。同じ物を二つね」
「わ~い。おばあちゃん、大好き」
私が陽菜にウインクしながら言ったら、陽菜は大喜びをした。陽菜はパイナップルが大好きだ。それも生の物より、缶詰の物が。なので、私のウインクの意味を正しく理解した見たいだった。