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「それにしても陽菜はよく分かったな」

「名ふだの名前がおじいちゃんと同じ名前だったんだもん」


見て見ると私と夫は、花の形をしたネームバッジをつけていた。私のはチューリップの形で夫のはひまわりだろうか。辛うじて私のは赤い色で、夫のは黄色い色をしているのが見て取れた。でも、書いてある文字は小さすぎて読めそうになかった。


「昭和47年って何があったんだろうな」


息子が日付を見ながらそう言った。


「そうねえ、あなたわかるかしら」

「オリンピックが終わった後だったよね。それなら大阪万国博覧会じゃないかな」

「それは昭和45年よ」

「そうだったか。じゃあグループサウンズブームは」

「それも47年より前じゃなかったかしら」

「そう言えばお義母さん。リカちゃん人形が50年って言ってませんでした」

「ああ、そうよ。私が産まれた年にリカちゃん人形が発売されたのよ」

「おばあちゃん、リカちゃんって、洋服が着せ替えられたり、お店屋さんがある、あのリカちゃんのことなの」

「ええ、そうよ。おばあちゃんも小学校の頃に買ってもらって、リカちゃんを持っていたのよ」

「おばあちゃんもお人形遊びしたんだね」

「私の持っていましたわ、お義母さん」

「まあ、朱美さんも」

「はい。私はママとリカちゃんの家を買ってもらいました」

「いつの時代もリカちゃんはお友だちね」


私がそういったら、朱美さんも陽菜もにこりと笑ったの。


「リカちゃん人形は昭和42年生まれか・・・。43年は・・・。ああ。あの事件があったな」

「じけんってなに~、おじいちゃん」


夫が呟くように言った言葉が、裕翔に聞こえたようで訊いてきた。


「三億円事件というのがあったんだよ」

「三億円事件って、去年ドラマになったものだよな、父さん」

「ああ、そうだ。いまだにそのお金がどうなったのか、誰も知らないんだ」

「な~に、その事件?」

「確か現在の東芝の従業員のボーナスを奪われた事件だったと思うぞ」

「そうよ。白バイ隊員に扮した犯人が奪ったのよね」

「劇場型犯罪とかいっていたよな」


陽菜の問いかけに息子と嫁が答えている。ドラマからの知識とはいえ、よく知っているなと思いながら、私はアルバムのページをめくった。


「あら」


私の声にみんなの視線がアルバムに集中した。


「これってな~に」

「宇宙船?」

「もしかしてこれは月に着陸したものか」

「そうだな。年からアポロ14号じゃないのかな」


夫がアルバムを見つめながらそういった。確かに1971年1月31日とその写真の下に書かれていた。だけど、私が見ていたのは、その写真ではなかった。それも写真というよりもブロマイド見たいだったのだけど。なにかのおまけについていたものかもしれないと思ったの・・・。


「ふふっ」


つい笑い声が漏れた。


「母さん、別にこの写真は笑うような物じゃないだろう」


息子がそう言ってきた。私は隣のページを指さしながらいった。


「見ていたのはこっちよ。なんか懐かしくて・・・」


その写真は幼稚園の運動会の写真だった。ちょうどかけっこをするところみたいで、6人の子供が並んでいた。その下はお遊戯をしているのか手を上にあげている写真だ。


「ああ、こっちだったのか」


息子が納得したように言った。


「この頃も万国旗ってあったんだな」

「どんな競技があったのですかね」

「今とそんな変わらないんじゃないか」

「そうね、変わらないわね」


私はまたアルバムをめくった。次は発表会の写真だった。冠にマントをつけた男の子。ドレス姿の女の子。家来なのか槍を持ち紙で出来た鎧を着ている子達。それからアヒル、いいえ、ガチョウを抱えている男の子と、その子の腰を掴んで後ろに何人か繋がっていた。これの話は金のガチョウの話を演じたのかもしれない。


次のページはまた体操服姿。サツマイモのつるを持っていた。その下の写真は、園服でおもちを頬張っているものだった。そしてまた運動会、発表会、それから卒園式。


このアルバムは私の物ではなかったから、私の幼稚園の写真はこんなものだった。なので、私は息子が見ていたアルバムを手に取り開いた。そのアルバムは私の成長記録が収められたもの。


「こちらはお義母さんのアルバムなんですね」

「ええ。そちらと同じものがあるわね。父が撮ったものだったのね」


こちらはお宮参りの写真から始まっていた。初節句の写真も3枚も収められていた。七五三の写真は泣いている写真があった。母から聞いた話では、疲れてぐずったと言っていたから、これがそうなのだろう。自分では覚えていないことでも、こうやって聞いた話を思い出せるものなんだなと思ったりした。


幼稚園の写真も入園式や運動会、発表会の写真が3枚ずつあった。きっとまだどこかにアルバムに納まりきらない分が、あるのではないかと思う。それも片付けていれば出てくるのだろう。


「ところでお義母さん。お義父さんとの出会いはいつなんですか」


朱美さんの問いかけに夫と顔を見合わせた。


「幼稚園に入る少し前だったかしら」

「多分そうだろう。引っ越してきてこの家に挨拶に来た時に顔を合わせたのだったよな」


夫が懐かしむように目を細めながら言った。


「そうでしたね。祖父同士が知り合いで、それでこちらにいらっしゃったのですよね」


私は夫に笑いかけた。夫も何かを思い出すように見つめてきた。


「そこからのお付き合いなんですね。もしかして許婚だったりしました」

「そんなどこぞの旧家の家みたいことはありませんでしたよ」

「そうです。私達は恋愛結婚ですから」


夫の力強い言葉に頬に熱が集まってきました。


「おばあちゃん、顔が赤いよ」

「陽菜ちゃん。言わんといて」

「でも、お義父さんは婿入りなさったんですよね。出来ればそこら辺の話を聞いてみたいですわ」


朱美さんの言葉に私は俯いてアルバムのページをめくった。次は小学校の入学式の看板の横に夫と並んで立っている写真だった。


「あら」


朱美さんが楽しそうな声を出した。でも、そんなに楽しいことはなかったのだけど。


私と夫は学区の中でも外れのほうに住んでいた。近くに他に年が近い子がいなかったから、自然と学校の行き帰りは一緒になることが多かった。


ただ、それだけと言いたいけど、実は私の初恋は夫だったりするのだ。そんなことを言うと、お手軽と思われてしまうのだろうか。


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