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私は3冊目のアルバムを閉じた。次のアルバムは裕翔が見ていたもの。これで、祖父と父のアルバムは終わる。そう言えば二人が写っている写真がなかったなと思った。あったのは家族写真だけ。もしかしたら他にもアルバムがあるのだろうか。
そう思いながらアルバムを開こうとしたら、陽菜が話し掛けてきた。
「ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんが子供の頃はどんな曲が流行っていたの」
「曲? ええっと、待ってね」
私が少し考え込んだら、夫が先に答えていた。
「チューリップの神田川、浅田美代子の赤い風船、中村雅俊のふれあい、フィンガー5の恋のダイヤル6700、沢田研二が・・・勝手にしやがれとカサブランカ・ダンディかな。その後もTOKIOや、お前にチェックインを歌っていたよな」
「私はキャンディーズの年下の男の子も、春一番も、暑中お見舞い申し上げますが、好きでしたわ。ピンクレディーもUFOだけでなく、ペッパー警部からSOS、カルメン‘77、渚のシンドバッド、サウスポーなど、どれも覚えたくらい、大好きでしたの」
思い出して頬に手を当ててしまった。
「ねえ、ちびまる子ちゃんで出てくる人たちは? 本当にいたの?」
「ええ、もちろんですよ。マルちゃんが好きな山本リンダさんも山口百恵さんもいたし、お姉ちゃんがファンの西城秀樹さんもすごい人気だったのよ」
「へえ~。本当だったんだ~。ねえ、他の曲は」
「えーとね、歌っていた人といっしょでなければ、出てくると思うのよ。そうねえ、いちご白書をもう一度とか」
「それならサボテンの花、シクラメンのかほり、時代、なごり雪、22才の別れ、眠れぬ夜、辺りはどうだい」
夫の言葉に驚いたように朱美さんが言った。
「サボテンの花は江口洋介さんが出ていたドラマの主題歌ですよね。そんなに古い歌だったのですか」
「ああ、そうだったね。あれで懐かしくて見ていた人もいたのではないかな」
「なごり雪も、誰かカバーしていなかったか」
「名曲はいつの時代でもいいものなんだよ」
夫たちの会話に陽菜の目が輝いた。
「他には~。今の人たちがカバーしている曲でないの?」
「えーと、どうかしら」
「久美子、ルージュの伝言はどうだい。ジブリのアニメに使われただろう」
「ああ、そうでしたね。中央フリーウェイはどうだったかしら」
「それなら、秋桜や、ダンスは上手く踊れない、かな。オリビアを聞きながらは、どうだろう」
「カバーされているかどうかわかりませんが、みずいろの雨、Mr.サマータイム、夢想花、異邦人、さよなら、ポーラー・スター、も好きでしたわ」
「すご~い。おじいちゃんもおばあちゃんも、本当によく覚えているのね」
「それは陽菜にもいえるだろう。今は1回聞けば大体曲と歌詞を覚えられるんじゃないかい」
「そんなことないよう~。陽菜、あんまり覚えられないもの」
「でもね、陽菜、あの頃は本当に娯楽と言ったら、テレビを見るくらいだったのよ。今みたいにゲーム機なんてなかったの」
「え~、本当に~」
「ああ、そうだよ。ファミリーコンピュータが出たのが昭和58年だから、私達が高校生の頃だったんだよ」
陽菜だけでなく、息子たちまで目を大きく見開いている。
「本当にね、そういう時代だったのよ」
「そうか~。でも、おばあちゃんたちが子供の頃は子供向け番組もあって、少しは今に近くなっているんだよね。おばあちゃんたちが小学校を卒業したのは何年なの」
「昭和55年よ」
「じゃあ、昭和は後9年なんだね」
「違うよ、陽菜。昭和64年は7日しかなかったからね」
「じゃあ、後8年なんだ~。あれ? もしかしておじいちゃんとおばあちゃんって、昭和より平成を生きている方が長いの?」
陽菜の言葉にそういえばと頷きながら、夫と目を合わせる。夫も私と同じように頷いていた。
「じゃあさ、平成の曲のほうが覚えているの?」
「陽菜、それを聞いたら、お義母さん達の恋バナに辿りつかなくなるわよ」
陽菜の言葉に朱美さんが冷静にツッコミを入れた。
「あっ! そうだった。じゃあ~、おばあちゃん。次のアルバムにいこうよ~」
その言葉と共に私が手を添えていたアルバムの表紙をめくった。
最初の写真は家の前で私の家族と、夫の家族とが並んで写っていた。服装は夫は詰襟の学生服。私はブレザーにボックスプリーツのスカート、胸元には臙脂色のリボンを結んでいた。
これは入学式の朝に撮ったもの。
小学校と中学校は家からは真逆の方向にあった。今までは学校から一番離れたところだったけど、今度は小学校より近くなる。
他に夫と二人だけの写真もあった。この時学生服姿の夫に慣れなくて、目を合わせることが出来なかったことを覚えている。
懐かしく思い出していたら、ニンマリと笑った陽菜が訊いてきた。
「ねえ、おばあちゃん。学生服姿のおじいちゃんに、惚れ直したんじゃないの」
「惚れ直したって・・・どちらかというと違和感が大きかったのだけど」
「え~! 信じらんな~い。そこは小学生と違ってカッコよくなったとか、あるんじゃないの~?」
陽菜が不満そうに言うけど、本当にそう思ったのだもの。
「じゃあ、おじいちゃんは? おばあちゃんの制服姿にドキドキしなかったの?」
「あー・・・その、なあ~。陽菜の期待を裏切るようで悪いんだが、おじいちゃんも同じような感想だったんだよ」
「え~、なんで~。信じらんな~い! 萌えは? ドキドキは~?」
陽菜が口を尖らせながらそう言ってきた。でもねえ~・・・。
「陽菜、それは仕方がないと思うわ」
朱美さんが陽菜を宥めるように言って来た。口元には苦笑が浮かんでいるから、何か心当りがあるのだろう。
「なんで~、お母さん」
「だってね、制服は将来の成長を見越して、大き目の物を用意するのよ。人によってはかなりブカブカな物を着たと思うの。只でさえ今までと違う格好なのに、それじゃあ違和感が大きいわよ。それに見て。この時代は男の子は坊主にしているじゃない。小学校までは長かった髪が無くなっているのよ。これのどこに萌え要素があるの。坊主が好きなんて、枯れ専じゃないの」
朱美さんの言葉に陽菜はもう一度写真をよくみた。小さくてわかりにくいけど、夫が坊主頭なのはわかったようだ。
「でも、おじいちゃんは?」
「ああ、それはな、髪型だよ」
と、夫が答えたのでした。




