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第9話 その少年の名は

【9】

「六人の名前はウチが付けたんよ。さっき一人一人説明したように、それぞれにあった花言葉のある花の名前から取って付けたんだ」

 ああ、それで……とった、になるんだ。

 何となく感じていた違和感の正体がわかり、俺は深く頷いた。

 それからミズキは少しためらうように口を開いた。

「あんただって、少しこいつ等とは違うがそげだろ? 名前が無く、ナンバーで呼ばれる。詳しく自分のことを話さんところを見ると、レインは直接戦場に行くんじゃのーて……その、兵達の慰み者として扱われてたんだろ?」

 ミズキの哀れみの瞳がサニーを捉える。

 ナンバー……慰み者……

 ミズキのその言葉で何となく目をそらして過ごしていた様々なものの記憶が甦る。

 廊下ですれ違う高官達が首輪をつけた少女を連れ歩く様。夜になると薄着の少年が兵舎に向かう様。時折聞こえる叫び声。

 俺も十六の男だ。その意味するところは理解できる。理解できるがそれらから無理やり目をそらしていた俺は、今更ながらに罪悪感を覚えた。

 図星を指され、答えに窮していると思ったのだろう。ミズキは気遣う様に言葉を続けた。

「まあ、そのなんだ、お前達が脱出した後取り敢えず倉庫を全て確認したがサニー王子らしき人影はなかった。しかも、城の動きがないとすると……言い方が悪いがレイン、お前、完全に捨て駒にされたんじゃないか?」

 俺を気遣うようなミズキの声が優しく響く。

 違う。違うんだ、ミズキ。俺はむしろその当事者であるかもしれないんだ! 少年兵という言葉……大人の兵が多く城に残っているのに多くの戦死者報告、そして戦争勝利の報告を受けた……気付く機会はたくさんあった。なのに、俺は!

 思わず頭を抱えた俺を気遣うようにミズキは肩に手を添えて優しく抱いた。

「大丈夫、大丈夫。もう城には帰らんでもええけん、ここに居ればええけん」

「え?」

 ミズキの言葉に抱えていた頭を上げた。ミズキは俺の瞳を真直ぐ見据え、再度言葉を紡ぐ。

「ここで一緒に暮らそう。みんなでレインを守っちゃーけん」

 それもいいかもしれない。もう王子なんか辞めて、ここでミズキと……

「その事なんだけど!」

 まるでサニーの考えを遮るように、今までずっと黙って事の成り行きを見守っていたアスターが、バンッ、と机を叩いて立ち上がり、声を上げた。

「どうした、アスター? レインがこの家に暮らすことに何か問題があるんか?」

 そんなミズキの言葉に残りの五人も立ち上がる。

「ヒメ……そいつは本当にヒメの言っていた、レイン?」

 ソウが悲しそうにそう問いかける。

「ああ、紛れもなくレインだ。流石に三日会ってないだけで顔を忘れたりはせんよ」

 ミズキが傷ついたというように肩をすくめた。

 それを見て今度はカライが、それならば、と口を開く。

「レインに質問ですわ。あなたの本当のお名前は?」

「おっ、おい。何言ってんだ?」

 流石のミズキもこの質問には顔が引きつる。

「前にも話したろ、こいつは元々名前がなくてウチが……」

「……ヒメ、少し黙れ」

 アビスの小さくも良く響く低い声がミズキを無理やり黙らせる。

「もう一度だけ聞きますわ……あなたのお名前は?」

 誰も口を挟まない。再度あの緊張感が家の中を支配する。

 もう逃げ場はない。俺も自覚している。

「俺の……」

 俯き、床の一点を見つめる。そして意を決して顔をゆっくり上げ、はっきりと全員に聞こえる様に告げた。

「俺の名前は、サニー・アルフォード」

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