第8話 少女の仲間
【8】
何がスイッチになるか分からない。もし“間違い”を答えてしまったら、この家ごと何かが爆発する。
そんな気配を感じた。
「おっ、俺は……お」
「たらいや~」
何かを答えようとしたその瞬間、バンッ、という大きな音を立て家の扉が開かれ、陽気な声が家の中に響いた。
全員が一斉に開かれた扉に視線を注いだ。
「ん? 皆どしたん?」
この一ヶ月で聞き慣れた綺麗な声が緊張で固まった家を優しく溶かす。
椅子に座ったまま俺を睨んでいた五人は扉を開けたのがミズキだと分かるとしかめていた顔を崩し、笑顔を浮かべた。
「お帰りなさいですわ、ヒメ」
「おう!」
同じ顔をした二人の内の少女の方がミズキに向かって、“ヒメ”と呼びかける。
ミズキも特に気にした風はなく答える。まるでそれが自分の呼び名だとでもいうように―――
「ただいま、カライ。そっちは問題なかったか?」
カライと呼ばれた同じ顔をした二人の内の少女の方がニコリと笑い、答えた。
「ええ、何も。ワトの案内が良くて敵に遭遇したり、見つかったりすることもなく帰れましたわ」
カライはウサギの人形を片手に隣に座っている幼女の頭を撫でた。
「そうかそうか、さっすがワト!」
ミズキはそんな二人の元に近づき、ウサギの人形を抱いている幼女を抱きかかえながら嬉しそうに言った。心なしか幼女も嬉しそうだ。
ミズキはそのまま幼女を、よしよし、と撫でながら、未だ俺を睨んでいた真っ赤な髪をした失礼な少女に向き直る。
「城の方はどげだ、アスター?」
アスターと呼ばれた真っ赤な髪をした失礼な少女は、ようやく俺を睨むのを止め、笑顔でミズキに向き直った。
「特に動き無し。ヒメの言っていた通り、あの城トロイわ」
「そげか」
ミズキも笑顔を返す。
アスターは俺の元に来たときと同じようにツカツカと靴を鳴らして倒れたままになっていた椅子を起こし座った。
ミズキは幼女を元々座っていた椅子に座り直させると、ゆっくりと俺の元に歩み寄り、しゃがんで、
「大丈夫か、レイン?」
そう、問いかけてきた。
その瞬間溶けたはずの緊張が再び家の中を支配する。
それに気付いていないのか、それとも敢えて無視をしているのかミズキはニコニコ笑いながら俺に話し掛け続ける。
「イヤー、しっかし驚いたよ。サニー王子が捕まった言うけん助けに行ったら、そこにいるのがレインなんだもんなぁ」
クスクスと笑うミズキ。冷ややかな目を向けてくる六人。
相対する二つの様子に顔が引きつるのを感じた。
「ああ、そうだ。こいつ等の紹介まだだったよな?」
そんな様子に全く気付くことなく、ミズキは、ポンッ、と手を叩き、どこか嬉しそうに一人一人示しながら紹介していった。
「まず初めにアビス」
ミズキが俺を担ぎ上げた巨漢の男を示す。
「この中で一番の年長だ。十八歳。アスプレニウム・アビスから名前をとった。仲間想いであり、花言葉通り“雄々しい”奴だ」
……とった?
ミズキは俺の不思議そうな様子を無視して次に移る。
次はあの気の弱そうな少年だ。
「こいつはポピー。十七歳。アイスランドポピーからとったんだよ。花言葉の“癒す”の通り、医療系を得意としている。どんな怪我や病気も治せるぞ?」
すごいだろ、とミズキはまるで自分のことのように胸を張っている。
次はあの真っ赤な髪をした失礼なアスターという少女だ。
「この子はアスター。十六歳。アスターの花はまんまアスターって言うんだ。色によって花言葉は違うがウチとしてはピンク色の花からとったんだ。“信じる心”って言う花言葉。ちょっと雑な性格だけど優しい子だよ」
ミズキのそんな紹介に、アスターの顔がほんのりと赤くなる。
次はかなり不思議な光景の同じ顔をした二人組だ。
「こっちの女の子の方が姉のカライ。男の子の方が弟のソウ。十四歳。二人は見てのとおりこの国には珍しい一卵性双生児だ。カライトソウって言う植物から名前をとったんだけど、超ギャグだよねぇ。でもね、二人とも花言葉通り“あたたかい心”を持ってるんだよ? 後ね、銃器の扱いがとても得意なんだ」
ギャグのような名前に不満でもあるのか二人の頬は心なしか膨れてはいるが、ミズキの言葉が嬉しかったようで二人揃ってそっぽを向いている。
そうだよな……カライトソウ、だなんて……
ギャグのような名前に笑っている暇も無く、最後の一人の紹介が始まる。
「そしてこの子がワトソニア」
ミズキはそっと幼女の頭を撫でた。
「この中では最年少の七歳。ワトソニアの花言葉は“知性”……とても頭の回る子だよ」
何故かミズキの顔が少し曇る。幼女、いや、ワトソニアが心配そうにミズキの顔色をうかがう。
「この子はちょっと訳ありでね、声が出せないんだ」
「えっ?」
サニーはミズキが家に現れてから初めて声を出した。
「いや、ワトだけじゃない。ここにいる全員が訳ありなんだ」
ミズキ、アビス、ポピー、アスター、カライ、ソウ、そしてワトソニア、全員の顔に影が差すのを俺は見た。
「ここにいるみんなは……元少年兵なんよ」
「少年……兵?」
聞き慣れない言葉に戸惑いを覚える。
「そう、少年兵。だから、皆名前がなかったんよ……初めて会ったときは驚いたよ。ナンバーが自分の名前だと皆思い込んでいたけん……」
ミズキは痛みを堪えるように顔をしかめた。そして、フッ、と顔を上げると照れ笑いしながら六人を見渡した。




